新学術領域研究

文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究4003(平成20~24年度)

「東アジアにおけるエアロゾルの植物・人間系へのインパクト」

MEXT Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas 4003 (FY2008-2012) 

Aerosols in East Asia and Their Impacts on Plants and Human Health

研究項目A01 エアロゾルの生成と排出源の評価 

A01-P04:社会経済活動のグローバル化を考慮したエアロゾル排出源と影響の評価

Research Item A01: Evaluation of aerosol formation and the emission sources

A01-P04: Evaluation of aerosol emission sources and their impact potential 

with consideration of globalized socio-economic activities


研究代表者:東野 達

研究分担者:大原利眞(国立環境研究所),谷 晃(静岡県立大学),南齋規介(国立環境研究所)

連携研究者:小南裕志(森林総合研究所),山本浩平(京都大学)

研究概要

本研究(A01-P04)では,アジアの種々の発生源によるエアロゾルや前駆体の自国内及び越境汚染に伴って生じる自国とわが国への健康・植物影響などを化学輸送モデルに基づいて評価し,発生源と影響のソース・リセプター関係を自然科学的視点から定量化する。その成果をアジア国際産業連関表の各経済部門に一元的に導入することで,自国内汚染と他国が日本に及ぼす越境汚染とそのインパクト,あるいは他国へわが国の経済活動や消費が誘発する効果(環境リーケージ)を定量的に明らかにすることを目的としている。なお,化学輸送モデルによる評価では発生源インベントリの精度が重要であるが,オゾンや有機二次粒子生成の前駆体として重要な役割を果たす植物起源VOC(BVOC)フラックスのアジアにおけるデータは,欧米での基礎放出速度データに基づくものが多く,アジア固有の樹種や環境条件での計測例は極めて少なく,わが国においても信頼に足るインベントリマップは存在しない。また,BVOCからの二次有機エアロゾル(SOA)生成機構や性状に関する知見も乏しい。そこで個葉や森林でのBVOCフラックス計測を実施し,インベントリマップを構築すること,SOA性状特性の解明も目的としている。

研究項目A01の概要図

研究項目A01では、エアロゾル及びその前駆体の人為及び植物起源の発生源特性、大気中での反応と二次粒子生成機構の解明に主眼をおくが、各計画研究の成果を相互に共有して新規な展開を図り、他研究項目にある異分野の成果も反映させ、発生源評価に社会経済的視点を導入することで新たな学術領域の創生を目指す。

1.わが国における植物起源BVOCフラックス計測とSOA生成

2.化学輸送モデルを用いた東・東南アジアにおける粒子状物質のソース・リセプター解析

3.産業連関分析法によるエアロゾル排出源の環境負荷・健康影響評価

研究成果の概要

わが国の森林サイトやチャンバーを用いてBVOCフラックスの放出特性を明らかにし,近畿地方のBVOC年間放出量マップを構築した。東・東南アジア地域を対象に,数値モデルにより発生源からの排出量とPM2.5含炭素1次粒子による早期死亡数とのソース・リセプター関係を定量化した。その成果をアジア国際産業連関表に導入し,各国の最終需要が誘発する国内のBC,OC一次粒子吸入による早期死亡者数を明らかにした。また,他国消費が日本に誘発するBCの早期死亡者数を,国内発生源由来と他国の発生源に由来する越境汚染に伴う早期死亡者数を推計し、国内の寄与率が80%程度であることが分かった。

We determined the BVOC emission characteristics and fluxes from the major forest plant species in Japan by laboratory and field  measurements. Density map of annual BVOC emissions was created in Kinki district. Source-receptor relationships (SRR) between premature  mortality and PM2.5  emissions in East and Southeast Asia were quantified by numerical simulations using meteorological and chemical  transport models with emission inventories. Induced health impacts of BC or OC exposures by the final demand of each country was determined  in combination with the Asian international I-O tables and the damage factors in the Asian countries determined by the SRR. The I-O analysis showed that premature mortality exposure to BC in Japan induced by the final demand of other countries was comprised of about 80% of domestic pollution (from induced emission sources in Japan) and 20% of transboundary pollution  (from induced emission sources outside of Japan) .

関西地方における松枯れを考慮した
イソプレン放出量マップ

環境制御型チャンバーを用いた3種類の針葉樹の
モノテルペン放出特性

アジア9ヶ国の消費が誘発する含炭素1次粒子(BC+OC)排出量および自国・越境汚染による早期死亡者数(インパクト)の総量に対する国別割合。家計部門からの排出は直接量を加算。国名の後の括弧内数値は国別寄与率のインパクトと排出量の比を示す。

ドライバー国(地域) の国内最終需要が誘発する含炭素1次粒子(BC+OC)排出に伴う健康影響(早期死亡者数) を受けるレセプター国別の構成(Takahashi, et al., 2014)
中国,タイ,インドネシアでは自国の消費による寄与が90%以上であるが、シンガポール,マレーシアでは他国の寄与が70%を超える。

関連論文

研究課題1の関連論文は,Aerosolのページに掲載

主な学会発表

関連図書