エアロゾルと環境・材料

エアロゾル学の体系1

エアロゾルとは

エアロゾルとは,本来的には気体(通常は空気)中に固体や液体の微粒子が浮遊し分散した状態(分散系)のことをいうが,微粒子そのものを表す用語として用いられることが多い。対象となる大きさの範囲は1nm~100μmであり,形状,化学組成などその性状は多岐にわたり,時空間的に変動する。なお、大気中に存在するエアロゾルは,大気エアロゾルと呼ばれることがある。

左のスライドは,エアロゾル学の体系化に係わる要素から関連分野さらには社会との繋がりへの拡がりを表したものであり,2枚目のスライドではエアロゾルの関連分野について具体的に示している。エアロゾルはPM₂․₅やウイルス,花粉などに代表される環境・健康影響だけではなく,薬剤吸入や高機能材料生成など善悪両面の顔を有している。

エアロゾルの環境影響

エアロゾルの環境影響評価にあたっては,その発生源と性状特性,大気中での輸送・変質過程(ガスからの2次粒子生成や不均一反応など),放射影響(直接効果・間接効果),除去(乾性・湿性沈着)の動態に係わるプロセスの理解が必要である。下図は,ガス状物質も含めてこれら一連のプロセスを示したものである。特に,エアロゾルの性状特性は健康・大気環境への影響等を評価する上で不可欠な基本情報となる。

近年の主な研究課題は以下のようである。

ガスおよびエアロゾルの発生と大気中における動態及び影響

1.大気エアロゾルの性状特性,変質過程の解明と発生源推定ならびに計測法の開発

シアノアクリレートを用いた霧や雨滴の固定化と,放射光(SR)マイクロビームを用いたXRF分析やマイクロPIXEによる個別水滴の大気汚染物質取り込み過程の評価および黄砂の個別粒子分析【科研費特定領域研究;SR-XRFは広島大学・早川慎二郎教授,マイクロPIXEは日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所との共同研究】

複合薄膜法による個別粒子混合状態および,粒径別半バルク試料のSR-XAFS法による粒子深度別化学状態の解明【SR-XAFSは京都大学・河合 潤教授との共同研究】

標準黄砂粒子及び黄砂時に丹後半島で観測された粒子(インパクタ2段, D₅₀=5.2μm)の基準元素(Fe, Ca)に対する3つの重金属元素(Ni, Cu, Zn)質量比の比較(SPring-8 BL37XUにおける個別粒子XRF分析結果,東野 達,早川慎二郎;科研費特定領域研究による)

東京ダイレック(株)と共同開発した硝酸塩粒子計測装置

NH₄NO₃と,NaNOなどの不均一反応により生成する硝酸塩粒子の質量濃度を熱分解温度の違いから分別し,半同時的に連続計測する。(特許第6313609号)

主な関連論文

主な関連著書

受賞

2.植物からの生物起源揮発性有機化合物のフラックス評価と2次有機粒子生成 

ローカルからグローバルな影響まで関わる二次生成物質(オゾン,二次粒子など)生成量の正確な評価には,人為起源に加えて,植物から放出される生物起源揮発性有機化合物(BVOC)発生量の実測データが不可欠である.以下の課題について観測と解析を行った。
新学術領域研究

関連論文

エアロゾルロセスを利用した超微粒子材料の創製

エアロゾルは,破砕・飛散・噴霧などの機械的プロセスと,大気環境中でも起こっている核生成・凝縮などのガスー粒子転換プロセスにより生成するが,こうしたエアロゾルプロセスはナノ~ミリサイズまで連続的に不純物が少ない粒子を生み出すことが可能であり,機能性超微粒子生成や粒子沈着による成膜など,エネルギー・環境材料創製への応用が進められている

主な研究課題は以下のようである。

ナノ粒子の有する量子サイズ効果等による特異物性は,多量の粒子が隣接すると急速に凝集・融合し消失する。そこで,減圧下でのガス中蒸発法で生成させた金属等のナノ粒子をガスを連続的に吹き込んで有機溶媒マトリックス中にトラップし(ガスフローコールドトラップ法),界面活性剤添加処理によってコロイド溶液濃縮さらには乾燥後も各粒子の非凝集状態が維持されることを確認し,EXAFSなどによる局所構造解析を行った。

静電噴霧熱分解法は,常圧下で発生する液滴径を必要に応じて数nmからmmオーダーと広範囲に制御可能で,かつ発生液滴は全て同極性に帯電しているため凝集が少なく,生成した粒子は基板に効率よく沈着するまた,レイリー分裂によって発生する液滴は単分散性が高いそこで,シングルノズルによる静電噴霧熱分解法を用いて光触媒TiO₂粒子を作成し,水素生成能さらには,資源採取から水素製造までのエネルギー消費とCO₂排出量のライフサイクル評価を行ったただし,この方法では壁面への粒子沈着による低回収率が問題となるため,TALH (Titanium(IV) bis(ammonium lactato)dihydroxide) 溶液と純水を用いたダブルノズル静電噴霧熱分解法を用いることで収率の大幅向上が可能となったまた,酢酸銅(II)一水和物を原料に,D(+)グルコースを還元剤として静電噴霧法によるCu₂O薄膜を生成させ,特異なリング状の2次元ネットワーク構造を示した下記受賞

ヘキサン中に捕集したAg超微粒子の濃縮後のTEM写真.界面活性剤にはg-C28TAC (0.02wt%)を使用.
濃縮率:(a) 原液 (b) 50倍 (c) 100倍 (d) 200倍(東野,1994) 

関連論文

受賞

The American Ceramic Society, Ceramographic Exhibit Award (Optical Microscopy Category): First Place (Y. Suzuki, H. Itoh, T. Sekino, J.-C. Valmalette and S. Tohno, 2013, Cu₂O Thin Film by Electrospray Deposition)