1. 歌舞伎の物語生成研究とは何か?
本研究、「歌舞伎の物語生成」 [”The Narrative Generation of Kabuki”]は、「物語生成」 [”narrative generation”]という観点から歌舞伎にアプローチする。これは、物語生成のモデルやシステムの構築、という方向を見据えて、諸要素が有機的に結び付き合った総合的な物語のシステムとして歌舞伎を捉える、ということを意味する。その際、次の二つの重要なポイントがある。一つ目のポイントは「多重性」[”Multiplicity”]である。これは単純化して言えば、歌舞伎に関連する多くの要素はその中に複数の意味を同時に持つということを意味する。多重性という一貫した視点を通じて、歌舞伎の構成要素を組織的・体系的且つ包括的に調査・分析することが、本研究の基本的方針の一つである。二つ目のポイントは「芸能情報システム」 [”Geino Information System (GIS)”]である。これはAIの技術や認知科学の方法を援用した物語生成システムの大きな枠組みであり、その中に「統合物語生成システム」 [”Integrated Narrative Generation System (INGS)”]と呼ばれるシステムが内蔵される。INGSは単一の物語を生成する物語生成システムであり、GISはその反復的使用により多数の物語を生成するシステムである。歌舞伎の物語生成システム研究は、これらのシステムの開発と同期を取って進められている。Multiplicityを基軸とした歌舞伎の総合的で体系的な調査・研究は、GIS (with INGS)の枠組みを通じてより精緻にモデル化され、さらにシステム化される。このような基本的方法に基づく本研究は、過去から蓄積された歌舞伎の伝統を保存すると共に、それを未来の歌舞伎の革新につなげるための、一つの試行でもある。
2. 如何にして歌舞伎の物語生成研究を発想したか?
私は横浜にある中学校と高等学校、東京の早稲田大学 [Waseda University]1)で学んでいた期間、日本の近代文学や現代文学、そしてヨーロッパやアメリカの近現代文学の多くの本(特に小説や詩)を読んだ。中でも川端康成 [Yasunari Kawabata]2)や三島由紀夫 [Yukio Mishima]3)の影響から、万葉集 [Man’yoshu]4)や源氏物語 [Genji Monogatari]5)など日本の古典文学も多数読んだ。能や人形浄瑠璃や歌舞伎などの芸能 [Japanese performing arts]もその中に含まれており、能や歌舞伎や日本舞踊などの芸能は舞台でも観るようになった。私と前世代から同世代にかけての日本の特に文学系の研究者や批評家や小説家の多くと同じように、1970年のYukio Mishimaの死から受けたショックも、私が文学や芸能に強い興味を持つようになったきっかけの一つとして作用した。上記のような読書や芸能鑑賞を通じて、私は物語が持つ人間への影響の大きさを考えるようになった。私は、大学では社会学や政治学などの社会科学を学び、就職した横浜や東京の企業ではsystem engineerやprogrammerとして働き、そのうち4~5年程度はAIの調査・研究や開発の仕事を担当した。このように、私は一旦文学・芸能の世界から直接は離れたが、その間も東京で茶道 [Sado]6)を習いながら、心の中では、上記のような知識をどのように仕事や研究の中に生かすかを考え続け、大体の結論を得て、東京の筑波大学 [University of Tsukuba]の大学院(東京キャンパス)7)に入学した。そこでは、AI8)、認知科学 [cognitive science]9)、物語論 [narratology]10)、さらに社会科学も部分的に融合する「物語生成システム」を研究の主テーマに決め、以上のような知識や知見の蓄積を利用できる研究枠組みを獲得することができた。東京大学 [The University of Tokyo]の大学院(先端科学技術研究センター)11)で博士号を取った後、国立山梨大学 [Yamanashi University]12)の工学部の助教授に着任し、物語生成システム研究を本格的に開始した。歌舞伎の物語生成研究は、その延長上に構想され、実践されているが、特に、2009年頃から東京の歌舞伎座 [Kabukiza]13)や新橋演舞場 [Shinbashi Enbujo]14)や明治座 [Meijiza]15)、京都の南座 [Minamiza]16)などでの歌舞伎の観劇の習慣を取り戻したことが、歌舞伎の物語生成研究に直接の刺激を与えた。
また、物語生成システム、さらに歌舞伎の物語生成の研究を行うに当たっては1980年代から1990年代当時の日本のAIやcognitive scienceの研究者の世界が持っていた、非常に自由で、極めて学際的な姿勢に大いに助けられたことを付言しておきたい。その(2000年以降の日本では多分失われてしまった)伸び伸びとした学界の雰囲気や、AIや認知科学の「懐の広い」姿勢は、若い頃からの私の文学や物語、さらに歌舞伎などに対する興味を取り込む器として、大きく役立った。
1) https://en.wikipedia.org/wiki/Waseda_University
2) https://en.wikipedia.org/wiki/Yasunari_Kawabata
3) https://en.wikipedia.org/wiki/Yukio_Mishima
4) https://en.wikipedia.org/wiki/Man%27y%C5%8Dsh%C5%AB
5) https://en.wikipedia.org/wiki/The_Tale_of_Genji
6) https://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_tea_ceremony
7) https://en.wikipedia.org/wiki/University_of_Tsukuba
http://www.office.otsuka.tsukuba.ac.jp/en/
8) https://en.wikipedia.org/wiki/Artificial_intelligence
9) https://en.wikipedia.org/wiki/Cognitive_science
10) https://en.wikipedia.org/wiki/Narratology
11) https://en.wikipedia.org/wiki/University_of_Tokyo
https://www.u-tokyo.ac.jp/en/index.html
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/en/index.html
12) https://en.wikipedia.org/wiki/University_of_Yamanashi https://www.yamanashi.ac.jp/en/
13) https://en.wikipedia.org/wiki/Kabuki-za https://www.kabukiweb.net/theatres/kabukiza/information/index.html
14) https://www.shinbashi-enbujo.co.jp/
15) https://www.meijiza.co.jp/english/
16) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E5%BA%A7
https://www.shochiku.co.jp/play/theater/minamiza/
3. 岩手県立大学での研究
私が所属する岩手県立大学ソフトウェア情報学部 [Department of Software and Information Science, Iwate Prefectural University]17)は、データ・数理科学 [Data science]、コンピュータ工学 [Computer engineering]、人工知能 [AI]、社会システムデザイン [Social system design]の4つのコースから構成されている。その教育・研究は、information scienceやinformation technologies関連の数多くの領域をカバーしている。情報と関連する私自身の専門分野はAIやcognitive scienceであるが、私の研究はnarratologyなどの人文科学や経営学、広告論などの社会科学との学際領域に展開される。また私は、大学では哲学や科学技術倫理の授業も受け持っている。このような学際性や他分野との融合という側面をより追及するために、私はsocial system design courseに所属している。Social system design courseには、私以外にも、人文・社会科学との学際領域に研究活動を展開している研究者が複数存在する。
また、Iwate Prefectural University18)には、ソフトウェア情報学部の他、看護学部、社会福祉学部、総合政策学部があり、その他人文科学を主体とする短期大学があり、人文科学、社会科学、看護学、医学など、幅広い範囲の研究者が所属している。私は、精神医学を専門とする大学内の研究者及び後述の青森大学 [Aomori University]の研究者と共に、「Autism spectrum disorderの人の物語生成システムモデル」に関する研究も行っている。
以上のように、Department of Software and Information Science, Iwate Prefectural Universityは、「情報」を中核として、人文科学や社会科学の多様な領域との学際的研究を実施可能な研究・教育環境である。
17) http://www.soft.iwate-pu.ac.jp/
18) https://www.iwate-pu.ac.jp/en/
4. 歌舞伎とは何か?
歌舞伎19)は、西暦1600年前後(江戸時代の初め)に、出雲阿国 [Izumo no Okuni]20)と呼ばれる女性芸能者によって、京都の四条河原において、創始された芸能の一ジャンルである。最初は女性だけの劇団によって上演されたが(「女歌舞伎」 [On’na kabuki: Women’s kabuki]21))、後に江戸幕府による弾圧の影響から、成人男性だけで演じられる芸能ないし演劇(=野郎歌舞伎 [Yaro kabuki]22))となり、その伝統が現在まで続いている。歌舞伎の一つの特徴は、その総合性・包括性である。すなわち、歌舞伎は芸能、演劇、舞踊、音楽(演奏、歌、語り)の混じった、総合芸術の一種であり、歌舞伎において演じられる物語は、従来の日本における数多くの物語、文学、歴史、人物などを下敷きや素材として摂取している。歌舞伎と同じように、日本における芸能を象徴する(代表する)ジャンルである能は、その演技の様式において、雑然たる要素を取り除き、純粋化に向けて洗練されて来たと考えられ、その種の純粋化と洗練は、日本の文化における一つの特徴と考えられている。しかし、歌舞伎におけるベクトルはそれとは逆である。歌舞伎は純粋化ではなく不純化―複雑化、包括化・総合化、無差別的摂取(取り込み)―を特徴とする。歌舞伎は芸能や文学や物語における日本の様々な文化ジャンルの一種の「ごった煮」を成す、と言える。制度的・社会的にも歌舞伎は顕著な特徴を持っている。すなわち、歌舞伎は草創期以来、常に国家的庇護を受けず(寧ろ反対に抑圧、弾圧され)、その中で民間の立場を堅持しながら、発展し続けて来た。歌舞伎は、能や人形浄瑠璃などと並んで普通「伝統芸能」と呼ばれるが、歌舞伎の場合は、上述のような歴史的経緯とも関連して、現在でも、保存すべき対象として無変化の形骸となっているわけではない(能 [Noh]23)や人形浄瑠璃 [Ningyo joruri: Japanese puppet show]24)も、今でも上演され続け、人々に新しい影響を与えているが、しかし、歌舞伎のように、毎年新作が書かれ、上演される、という現象は、それらの芸能の場合見られない)。このように、歌舞伎は近代以降も現在も変化し続けており、伝統芸能の枠を超えて、常に伝統の保存と革新が両立したものとして存在するのである。
歌舞伎の物語生成研究は、以上のような歌舞伎そのものの特徴の認識に立っている。すなわち、それは歌舞伎を、総合的な物語のシステムとして捉える。それは、歌舞伎の伝統文化としての側面の保存につながる。しかし本研究は、それだけではなく、その結果をモデルやシステムにつなげようとする。それは、歌舞伎の未来の革新という側面と密接に結び付いている。
19) https://en.wikipedia.org/wiki/Kabuki
20) https://en.wikipedia.org/wiki/Izumo_no_Okuni
21) https://kotobank.jp/word/%E5%A5%B3%E6%AD%8C%E8%88%9E%E4%BC%8E-42004
22) https://kotobank.jp/word/%E9%87%8E%E9%83%8E%E6%AD%8C%E8%88%9E%E4%BC%8E-144443
23) https://en.m.wikipedia.org/wiki/Noh
24) https://en.wikipedia.org/wiki/Bunraku
5. 従来の歌舞伎研究との違いは何か?
従来の伝統的な歌舞伎観は、舞台上での特徴的な様式(スタイル)の美や、それを演じる役者(俳優)を中心としたものであった。歌舞伎観劇において、多くの人は第一に特定の役者を観に行くのであり、また歌舞伎の研究や批評も、役者やその演技を中心としたものが大勢を占めていた。このような、役者中心、演技中心という観点が、我々が歌舞伎を観たり、研究し批評したりする際の、基本であった。
私も舞台上での役者や演技を、歌舞伎にアプローチする際の基本的立脚点としていることには変わりない。しかしながら、総合的な物語のシステムとして歌舞伎を見る時、役者やその演技は数々ある物語の構成要素の中の、本質的に重要ではあるが、一つの要素である。多様な要素を含む物語の総合的なシステムとして歌舞伎を見るという本研究のアイディアの提示とその発展は、伝統を保持しながらそれを変革して行くために、多様な視野から歌舞伎に接近することを可能とする方向へと、人々の意識と実践を開放するだろう。例えば、「物語」あるいは「物語生成」方式の特徴の認識への視野の拡大により、従来の研究や批評においてはあまりさかんではなかった歌舞伎の脚本分析、歌舞伎の物語の構造的分析などを活性化することができる。現在実際に上演されている歌舞伎作品のレパートリーは限定されている。それは歴史の中を乗り超えて来たという意味で優れた作品が残され上演され続けて来たということをももちろん意味し、また国立劇場 [The National Thatre of Japan]25)では従来から組織的に、現在上演されていない作品の発掘と再上演という作業が継続されて来た。それに加えて、必ずしも上演を直接のあるいは必須の目的とはしない歌舞伎脚本の分析や歌舞伎の物語の分析は、歌舞伎の物語の新解釈や、歌舞伎の物語をより一般的・普遍的に捉えることは、重要な作業となるだろう。この種の、脚本のような言葉としての蓄積物を対象とした調査や分析や批評を含め、総合的な物語として見られた歌舞伎の研究は、歌舞伎の諸要素を、より包括的な視野から見渡すことに貢献する。
25) https://en.wikipedia.org/wiki/National_Theatre_of_Japan https://www.ntj.jac.go.jp/english.html
6. 歌舞伎の物語生成研究のインパクト
前の5と重なるが(あるいは5の継続となるが)、旧来の役者とその演技(の様式=styleや型=form)中心の歌舞伎研究や歌舞伎観劇のあり方に対して、本研究は、全体的・包括的アプローチ、モデリング及びシステム構築的アプローチを提唱・確立することを目標とする。その際の中核概念が、multiplicityやGISである。それにより、(1) 歌舞伎の研究者や批評家に対して研究や批評のための広い視野、新しい方法を、(2) 情報サイドの研究者に対しては、新たな研究・開発対象を、提供する。さらに、(3) ゲームその他の物語型のコンテンツ制作者に対しても、新しい知見を与える。実際、私(岩手県立大学)は2017年9月以来、日本におけるテレビ広告のほぼ半数を制作している広告映像制作会社である株式会社AOI TYO Holdings26)と、物語として見られたテレビ広告に関する共同研究を行って来た(AOI TYO Holdingsは2018年度カンヌグランプリを受賞した映画『万引き家族』27)のプロデュース企業としても知られている)。このプロジェクトの歌舞伎との関わりは間接的であるが、歌舞伎にも使用される様々な物語に関する知識や知見を、私の側は広告映像作品の分析や生成のために提供している。
なお、特に情報サイドの研究への貢献に関しては、認知科学 [cognitive science]という学問分野の特徴と関連付けて考えられる。認知科学の一つの特徴は、従来の学問分野の区別を超えて、対象に対して学際的(従来の分野分割を基準として見れば)に接近しようとすることである。認知科学を理論的基盤とするAIも、その性格を受け継ぎ極めて分野横断的な学問であり技術である。本研究は、このような流れを汲む。すなわち、現状での歌舞伎の研究者の多くが、役者やその演技を中心として、歌舞伎に関連した要素のうち何れかを取り上げて深く掘り下げて研究するという、個別的アプローチを取っているが、私の歌舞伎の物語生成研究は、認知科学やAIの方法を基盤に据え、歌舞伎に対して総合的・モデル構築的にアプローチする。このような意味では、本研究は、認知科学やAIに対してはその守備範囲を拡張し、歌舞伎研究に対しては従来なかった新しい方法を提供するという意味で、学問の革新にも貢献している。
26) http://aoityo.com/en/index.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/AOI_TYO_Holdings
https://www.aoi-pro.com/en/
https://group.tyo.jp/en/
27) https://en.wikipedia.org/wiki/Shoplifters_(film)
7. 歌舞伎の物語生成研究の主要内容
歌舞伎の物語生成研究は、次の3つの主要な研究内容を含んでいる―
(A) フィールドワーク:歌舞伎の物語生成研究は、「言葉としての歌舞伎」(批評や研究など)の存在を強調するが、しかしそれにしても歌舞伎は現場すなわち舞台上で見られることを除外してはその真の価値を認識し得ない。本研究も、すべては舞台と役者を実際に見ることから始まる、という歌舞伎に対する伝統的な価値観を保持している。従ってここでのフィールドワークとは、劇場で歌舞伎を実際に観ることを中心に構成される。劇場で歌舞伎を観るということの周辺には、客席に座って舞台上の芝居を観る(聴く)、ということだけではなく、例えば劇場の建物そのものを観る、劇場の中の様々な仕組み(売店やロビーなど)を観る、また劇場の中の観客やその他の人々を観る、など非常に広い意味での観る行為・経験が含まれる。(さらに歴史を遡り、かつて―例えば江戸時代の中期に、人々がどのようにして歌舞伎を観ていたのか、その頃の歌舞伎の劇場の形態は如何なるものであったのか、といった問題にも広がるが、その種のことはBの調査・分析の中に吸収されて行くであろう。)歌舞伎のフィールドワークで具体的に行いたいことは、観劇をはじめとする歌舞伎の現場での経験を言葉(及びその他の媒体で)記録化し、これをBの調査・分析に架橋することである。
(B) 調査・分析:Aのフィールドワークの成果としての記録自体がこの調査・分析の対象・資料となるが、その他主要なものとして、「文献の調査・分析」と「ビデオ資料の調査・分析」が含まれる。歌舞伎に関連する文献の中には、脚本(歌舞伎に実際的に関連する人形浄瑠璃や能や狂言 [Kyogen]28)などの脚本も含む)、批評(現代の批評の他江戸時代から続く膨大な量の批評のテキスト―「役者年代記」 [“Yakusha Nendaiki”]などと呼ばれる―を含む)、研究などが主要なものとして含まれる。ビデオ資料の主要なものは、特定の役者の舞台上演の記録であるが、それに関連する様々な種類の映像(対談や解説など)も含まれる。映画もその中に含める(歌舞伎の舞台上演の記録やその編集の映像の他、何らかの形で歌舞伎を題材とした映画やテレビドラマもある)。これらの調査・分析を通じて、本研究は主に、multiplicityを基軸概念として、その具体的な細部(story、character、「~尽し」や綯交ぜなどの歌舞伎のrhetoric)を分析する。
(C) モデリング/システム化:本研究は、上記の結果をGISのモデルとしてより形式化・詳細化し、さらに一種の静態的モデルから動態的モデルに向けて発展させようとする。具体的には、GISのデザインと部分的実装を進めながら、上記AやBで獲得された個々の知識や知見の中から選ばれたものを、部分的なコンピュータプログラムとして開発・実験し、その成果をGISの中に取り込む、というサイクルを繰り返す。これまで、綯交ぜや~尽しの分析結果をもとに実験プログラムを数種作成し、歌舞伎舞踊 [kabuki dance]の中で最も有名な作品である『京鹿子娘道成寺 [Kyoganoko Musume Dojoji』29)の舞台上演構造を、坂東玉三郎([Bando Tamasaburo]30)。現在最も有名な女形 [On’nagata]31))主演による映像ビデオを詳細に分析し、その構造をCG+音楽+詞章(歌詞)で表現するシステムの開発も行っている。
以上のように、上記AとBを通じて、歌舞伎の多重的構成要素及び重要なレトリックの調査・分析が体系的にまとめられ、それらの成果がCのシステムデザイン及びシステム開発に架橋される。
28) https://en.wikipedia.org/wiki/Ky%C5%8Dgen
29) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A8%98%E9%81%93%E6%88%90%E5%AF%BA
30) https://en.wikipedia.org/wiki/Band%C5%8D_Tamasabur%C5%8D_V
https://www.tamasaburo-bando.com/
31) https://en.wikipedia.org/wiki/Onnagata
8. 歌舞伎の物語生成研究のアプローチ、特に物語の多重性
7で述べたA、B、Cすべてにとっての中核的な概念もしくは観点が、多重性[multiplicity]である。これは、本研究における中核概念であると同時に、歌舞伎における一大特徴でもある。歌舞伎の多重性とは、歌舞伎においては、ある一つの要素がその他の要素との関係において常に存在している、ということを単純には意味するが、それだけでは殊更強調するようなことではない。歌舞伎以外のどんな対象でも、ある要素は、それを見る人の視点や立場に応じて、その様相を変える。しかしながら歌舞伎の場合、多重化は単なる視点の違いに応じた見え方の違いを意味するのではなく、もっと積極的な意味を持っている。歌舞伎の場合、ある要素は、同時に、複数のものの多重化として存在している。視点の違いに応じて見え方が変わるという以上に、ある要素は同時に複数の見え方を―時に矛盾する見え方を―共存させている、と言った方が適切である。ある要素を複数のものの多重化として見る視点そのものもまた歌舞伎を観る楽しみ(さらに歌舞伎を研究する楽しみ)に含まれている。作り手側も同様に、複数のものの多重化を、歌舞伎の制作戦略として積極的に活用しているように見える。
歌舞伎における役者の多重性を示す談話が、最近のNHKテレビの歌舞伎放送の中にあった。その放送において、現代の著名な歌舞伎俳優である中村梅玉 [Nakamura Baigyoku]32)は、昭和時代最も有名な女形であった、梅玉の義父でもある中村歌右衛門 [Nakamura Utaemon]33)が、「歌舞伎の演技においては、役者そのものを見せなければならない」という意味のことを語ったことを紹介している。これは、ある歌舞伎の物語の登場人物である役者は、その登場人物を観客に見せるのであるが、それ以上に、役者そのものの存在を見せることが求められる、という歌舞伎役者としての心構えを息子の梅玉に語ったものであった。また現代の劇作家で批評家の山崎正和 [Masakazu Yamazaki]34)は、演劇は、観客が存在するという点で、現実とは異なるもう一つの世界であり、物語の登場人物は単に登場人物として存在する以上に、俳優そのもののとしても存在している(べきである)、ということを述べている。35)近代ヨーロッパの「リアリズム演劇」の場合、寧ろある俳優がその物語の中の登場人物になり切り、物語の登場人物そのものを見せることが奨励されるであろう。しかし、歌舞伎では、観客は、ある役者を、物語の登場人物として見ると同時に、それを演じている役者、そしてその実人生をも、見るのである。このことを、歌舞伎の不純な性格、歌舞伎の非写実性として否定した歌舞伎俳優も存在したが(その代表者が明治時代の九代目市川團十郎 [Ichikawa Danjuro]36)であった)、歌舞伎はその後も完全にリアリズム演劇化されることはなかった(ただし、九代目團十郎らの影響により、現代の歌舞伎は江戸時代の歌舞伎と比べると、その「見世物性」(歌舞伎が演劇であると同時に一種の見世物でもあるという性格)[the characteristic of show, exhibition, or spectacle] はかなり減少していると言われている)。歌舞伎においては、役者が、観客の視点のあり方によって、物語の登場人物として見られる、実人生を生きる役者として見られる、という風に、その諸側面の中の個々の側面が選択に応じて切り換えられて見られるのではなく、常にそれらの混在として見られているのである。そのような多重性が歌舞伎における標準的な準拠枠なのである。本研究では、このような意味での多重性を歌舞伎における最も重要な特徴であると認識し、役者のみならず、ストーリーなどその他の要素についても、多重性を切り口として分析を行っている。
32) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E6%A2%85%E7%8E%89_(4%E4%BB%A3%E7%9B%AE)
33) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E6%AD%8C%E5%8F%B3%E8%A1%9B%E9%96%80_(6%E4%BB%A3%E7%9B%AE)
34) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%B4%8E%E6%AD%A3%E5%92%8C
35) https://style.nikkei.com/article/DGXKZO11048840U6A221C1BE0P01
36) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%82%E5%B7%9D%E5%9C%98%E5%8D%81%E9%83%8E_(9%E4%BB%A3%E7%9B%AE)
9. 芸能情報システム (Geino Information System)とは何か?
GISとは、当初は必ずしも歌舞伎に限らず、一種の芸能プロダクション [entertainment agency]のシステムモデルであった。しかし、日本における「芸能」という問題を追及して行く時、近代や現代における芸能(「娯楽 [entertainment]」に偏った意味での芸能)だけを検討対象とするだけでは駄目で、寧ろ近代以前の芸能現象―娯楽以外に、祭祀や伝統的なperforming artsとしての特徴を色濃く持った意味での芸能の現象―の中にこそ、現代の芸能にもつながる数多くの特徴が含まれていることに私は気付いた。特に、歌舞伎は古代から近世に至る日本の芸能―さらに文学や物語や芸術を含めた文化全般―をその中に取り込み、それを近代から現代に架橋して来た代表的な芸能であると考えた頃から、歌舞伎の知識・知見を中心にしてGISを構築することを目標とするようになった。
GISは、私(及び岩手県立大学の研究室の学生達)が開発して来た統合物語生成システム [Integrated Narrative Generation System: INGS]と呼ばれる物語生成システムを内蔵している。その意味で私は、両方を関係付けて、GIS with INGSないしGIS including INGSとも呼んでいる。これら両者の必要性は、GISの特徴である「物語の連鎖的・循環的生成」という点に関連している。まず、INGSは単一の物語を生成するモデルとしてデザインされている。それに対してGISは、単一の物語生成を複合させた連鎖的・循環的生成のモデルとしてデザインされている。すなわち、GISは単一の物語生成を有機的・組織的に連鎖させ、物語生成の一連の流れを作り出す循環的なシステムモデルであり、この一連の流れ自体もまた一種の(大きな)物語を成す(例えば特定の俳優の俳優としての物語)。これは、物語生成もまた、単一の生成というレベルと一連の生成というレベルとのmultiplicityとして構成されるということを意味する。このように、GISもまたmultiplicityという概念をベースにしてモデル化、システム化されている。
10. 歌舞伎の物語生成研究や歌舞伎そのものへのCOVID-19パンデミックの影響
2020年3月から私は、研究に関する打ち合わせや大学におけるゼミは全面的にオンラインによって行っており、それによって、時間と場所を自由・柔軟に設定した、また頻繁な頻度によるmeetingが可能となり、さらに資料の同時閲覧や共有などもonline toolsを用いて容易にできることにより、研究の効率はそれ以前より寧ろ向上している。また、私が参加する主要な日本国内の学会や国際会議の多くも、オンラインで行われ、あるいはオンラインでの開催が決定しており、それにより出張等に伴う費用的負担も減り、会議開催場所に拘わらず参加することが可能となった。
歌舞伎座をはじめとする主要な歌舞伎の劇場は3月から閉鎖されているため、歌舞伎のフィールドワークができない状況が続いており、これは本研究にとって痛手である。しかし直接的なフィールドワークに代わるものとして、歌舞伎の映像(ビデオ)を中心とした調査や分析を積極的に研究の中に取り入れ、特に前述(7)の歌舞伎舞踊『京鹿子娘道成寺』の分析を進めている。ビデオは舞台鑑賞では目の届かない細部を目視により調査することを可能とするが、しかし現在の多くのビデオは歌舞伎の鑑賞用として一つの(芸術的)作品を意図して作られているため、視点(カメラワーク)の制約があり、隠れて見えない部分が生じる。それに対しては、実際の舞台において確認せざるを得ず、フィールドワークができないことは不利に働く。この点に関して、技術的には、カメラワークを工夫(あるいは個性化)した芸術作品としての映像ではなく、調査向けに作られる歌舞伎映像作品が発展し、例えば全方位からの映写(鑑賞)が可能となるなどの、進歩が求められる。これまでも既に歌舞伎はCGや映像の導入は進めていたので、VR技術やAI技術などの先端技術を取り入れた映像制作の将来の発展が期待される。
なお、歌舞伎界そのものにおいては、zoomを使ったオンライン歌舞伎(『図夢歌舞伎』37))やオンライン日本舞踊(共に松本幸四郎 [Matsumoto Koshiro]38)が中心に進めている)、歌舞伎関連映像のyoutube配信など、通信技術と融合された非対面的な試みが、COVID-19の流行以来、多く出現し始めている。代表的な若手俳優の一人である中村七之助 [Nakamura Shichinosuke]39)は、今後の歌舞伎はリアルと非リアルが半々程度の割合になるのではないか、という予想を語っている。ここ数年、歌舞伎界では、CGや映画映像の導入、仮想キャラクター(初音ミク [Hatsune Miku]40))の導入、アニメの歌舞伎化(尾上菊之助 [Onoe Kikunosuke]41)、中村七之助らの『風の谷のナウシカ』42)の歌舞伎化43)など)など、新しい試行が、若手(中村隼人 [Nakamura Hayato]44)ら)、中堅(市川中車 [Ichikawa Chusha]45)ら)、大御所(坂東玉三郎 [Bando Tamasaburo]など)を問わず、出ていたという伏流的な流れがあったが、今回のコロナはこの動向を推し進め、歌舞伎における先端技術の利用、先端技術と融合された歌舞伎、という方向もさらに進展して行くであろう。これには、歌舞伎が江戸時代から、能のように国家に庇護され守られて存在して来た芸能ではなく、民間において、数々の工夫をしながら苦境をのり越え発展して来たジャンルである、というそのinnovativeな特質が、大きな影響を与えている。
37) https://www.kabuki-bito.jp/news/6229/
38) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E6%9C%AC%E5%B9%B8%E5%9B%9B%E9%83%8E_(10%E4%BB%A3%E7%9B%AE)
https://koshiro.jp/
39) https://en.wikipedia.org/wiki/Nakamura_Shichinosuke_II
40) https://en.wikipedia.org/wiki/Hatsune_Miku
https://blog.piapro.net/
41) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BE%E4%B8%8A%E8%8F%8A%E4%B9%8B%E5%8A%A9_(5%E4%BB%A3%E7%9B%AE)
http://otowaya.ne.jp/en/
42) https://en.wikipedia.org/wiki/Nausica%C3%A4_of_the_Valley_of_the_Wind_(manga)
43) https://www.nausicaa-kabuki.com/
44) https://en.wikipedia.org/wiki/Nakamura_Hayato
45) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%99%E5%B7%9D%E7%85%A7%E4%B9%8B
11. 歌舞伎の物語生成研究はどんな効果を持つか?
本研究を通じて、歌舞伎を新たに総合的な物語のシステムとして捉える視野を獲得することができた。それによって、歌舞伎の様々な構成要素を、より大きな概念としての物語の中に有機的に位置付けて、俯瞰的に把握することが可能となった。歌舞伎の中には、およそ物語論 [narratology]と関連するあらゆる要素が含まれているが、同時に、ヨーロッパ文化圏でもともと発案・開拓されてきた従来のnarratologyの枠を超える数々の特徴がその中に含まれていることも予想される。Multiplicityの概念もその一例として今後より深く探究して行けるかも知れない。私が計画しているのは、従来のnarratologyの枠組みに当てはめることで歌舞伎をはじめとした日本の物語や文学や文化を研究することではなく、日本の文化において独自なnarratologyの要素の探究から、日本独自の新しいnarratologyを構築することである。現在進めている歌舞伎の物語生成研究は、そのような方向への見通しを与えてくれる。また、本研究は、歌舞伎を観る楽しみをより豊かなものにしてくれるように思う。Multiplicityは、例えば、ある物語の背後にはある別の物語がある、といった物語に関わる知識にも支えられており、本研究は、歌舞伎に関する知識を体系的な視野において整理することにもつながる。歌舞伎の中に詰め込まれていた知識の多くは、江戸時代までの日本人にとっては、常識的に皆が知っているものであった。しかし明治時代以降、ヨーロッパ文化偏重の気風の中で、それらの知識は日本人の中から失われて行った。本研究は一面で、かつて我々が持っていた歌舞伎知識を総体的・包括的に復元することにつながる。それは歌舞伎を観る楽しみもより大きなものにしてくるだろう。さらにそれを超えて、文化や芸能の物語的な保存装置として機能していた歌舞伎の方法の側面を明らかにすることによって、明治時代以降の我々にとって身近な物語群を体系的・包括的に保存・利用する新たな方法に架橋できるのではないか。それは、歌舞伎の方法の新しい物語への適用という方向を示唆する。また、現在さかんに試みられているCGや仮想キャラクターなどの歌舞伎への導入とは異なる我々の物語生成技術を、未来の歌舞伎はその発展のために取り込むに至るのではないか、という期待も抱いている。
12. 共同研究者や共同作業を行っている機関
歌舞伎の物語生成研究のうち特に物語生成研究の部分に関して、今年4月から、青森大学ソフトウェア情報学部 [Department of Software and Information Technology, Aomori University]46)の小野淳平助教 [research assistant]47)との共同研究が進んでいる。青森大学の本部は日本の東北地方の青森県 [Aomori Prefecture]にあるが、小野助教の拠点は東京キャンパス48)である。東京キャンパスには、専属の学部として総合経営学部がある。その他青森本部には、薬学部と社会学部がある。小野助教は、大学において数学やcomputer science関連の科目を教え、また東京・青森のremote lectureを担当している。歌舞伎の物語生成研究との関わりでは、小野助教は主にsystem design and developmentを中心に活動しており、私の岩手県立大学のゼミにも参加し、学生とのコラボレーションも行っている。以上のように青森大学は、歌舞伎の物語生成研究におけるシステムのデザインと開発の面で、重要な役割を果たしている。
学会における研究会として、日本認知科学会49)の「文学と認知・コンピュータ研究分科会 [Research Group of Literature and Cognition/Computer]」(現在は中断中)と日本人工知能学会50)のことば工学研究会 [Research Group of Language Sense Engineering]51)も、歌舞伎の物語生成研究にとって重要な組織として位置付けられる。共に、AIや情報科学、認知科学を中核としながらも、文学、物語、芸術、組織、経営など、人文・社会科学との分野超越的な研究を推進することを趣旨に掲げた研究会である。これらの研究会を通じて、私は、自由な発想の下、現在の歌舞伎の物語生成研究の、またそれにつながる、多くのアイディアを議論し、提案して来た。これらの研究会は、歌舞伎の物語生成研究あるいはそれにつながる物語生成関連研究における多くの萌芽的アイディアを発案し議論する場として、重要な役割を果たした。
さらに、前述(6)のように、2017年9月から、日本における広告映像制作の最大手企業である株式会社AOI TYO Holdingsと、広告の物語分析及び物語生成を巡る共同研究プロジェクトを行って来た。その直接のテーマは歌舞伎ではないが、多量のテレビ広告の分析に当たって、私が代表者となっている岩手県立大学の研究グループでは、昔話 [folklore]や歌舞伎の知見を取り入れている。それを通じて、現代を代表する映像物語であるテレビ広告の中にも、我々の伝統的な物語が一種の種として利用されていることが明らかになっている。
46) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%92%E6%A3%AE%E5%A4%A7%E5%AD%A6
https://www.aomori-u.ac.jp/
47) https://www.aomori-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2019/01/015-%E5%B0%8F%E9%87%8E%E6%B7%B3%E5%B9%B3%EF%BC%882020%EF%BC%89.pdf
https://aomori-u-tokyo.jp/%e6%89%80%e5%b1%9e%e6%95%99%e5%93%a1%e4%b8%80%e8%a6%a7/
48) https://aomori-u-tokyo.jp/
49) https://www.jcss.gr.jp/
50) https://www.ai-gakkai.or.jp/en/
51) http://ultimavi.arc.net.my/banana/Workshop/
13. 歌舞伎の物語生成研究の将来展望
以下の(1)から(4)の4つの項目に分けて、本研究の次のステップを整理する((1)から(3)は、7で示した歌舞伎の物語生成研究の三つの主要構成要素に対応している)―
(1) フィールドワーク:今後、フィールドワークならではの成果を出して行きたい。例えば、歌舞伎作品の舞台の鑑賞に関する文章(記録やエッセイなど)を書き、その蓄積や分析結果を(2)の調査・分析につなげることや、歌舞伎に関するメディアその他の情報を収集し、それを(2)につなげることなどが考えられる。しかし、このフィールドワークは必ずしも次の調査・分析の前提としてのみ行われる作業であるわけではない。フィールドワークそのものの独立した価値について考察することも重要だろう。例えば、その結果や成果を、(2)の調査・分析の前提として使用するのではなく、記録や批評やエッセイそのものを、(3)のシステムの中に何らかの形で取り込み、表現につなげることが考えられる。あるいはそれら自体を作品と考え、Webや本などの形で公表するという可能性もある。それらは、フィールドワークそのものの楽しみや価値を認める考えに基づく。歌舞伎の物語生成研究におけるフィールドワークの位置付けは、以上からも少し示唆されたように多様であり得るので、今後様々な可能性を実践して行きたい。
(2) 調査・分析:歌舞伎の多重物語構造モデルと、関連する歌舞伎のレトリック体系とを、完成することが次の重要な目標の一である。従来の研究を踏まえて、歌舞伎の構成要素やレトリックの種類の精査、その内容の収集と整理、それらの記述の方式、などが今後検討するべき重要なサブテーマである。
(3) モデリング/システム化:(2)の結果を、GIS with INGSとして実現して行く。INGSは既に全体として稼働しているが(継続的に拡張・修正し続けている)、GISはまだ多くの部分がデザインの段階にあるので、次のステップではGISのプログラム開発が大きな課題である。さらにその先に、これらの成果を、歌舞伎を題材として使ったゲーム、物語作品などのコンテンツの生成・制作に架橋して行く。
(4) 出版計画:論文やエッセイや本の出版計画についても言及する。従来私は、主に学会発表や論文、著述における章の形で、研究成果を発表して来たが、今後は歌舞伎の物語生成の研究や批評やエッセイをまとめた本や、物語生成システムを利用して書かれた物語そのものの公表などの領域にも、出版計画を拡大して行く予定である。