● 霊長類の父子関係・父性行動・父親の進化的起源
● 霊長類の採食技術
● 霊長類の手の左右性
● 野生ニシゴリラのサバンナ利用
ゴリラの成熟したオスはシルバーバック (Silverback) と呼ばれます。ゴリラの群れは1頭のシルバーバックを中心とし、複数の成熟メスとその子供達で構成される「単雄複雌群」の形を取ります。群れを率いるシルバーバックは全ての子供の遺伝的父親であり、親和的な父子関係を築きます。こうした「優しいお父さん」的な典型的ゴリラ像は、主に野生マウンテンゴリラや飼育下のニシローランドゴリラの観察に基づいて作られてきました。しかし、ガボン共和国ムカラバ-ドゥドゥ国立公園に生息する野生ニシローランドゴリラの調査から、積極的な子育て行動をしないシルバーバックの姿が見えてきました。
現在は、子供の近くにただいるだけのシルバーバックが子育てにおいてどのような役割を果たしているのか、採食・休息・移動それぞれの場面での詳細な行動観察から明らかにしようと取り組んでいます(科研費・若手研究)。
2017~2019年に実施した調査から、野生ニシローランドゴリラがアフリカショウガという草本植物を採食する際に、使う手に強い偏り(≒利き手)が見られることが明らかになりました(Tamura & Akomo-Okoue 2021)。
現在は、恩賜上野動物園との共同研究により、飼育下のニシローランドゴリラが栽培ショウガを食べる際にも使う手の強い偏りが見られるかどうかを調べています。また、野生ニシローランドゴリラで手の左右性が出ることが報告されている『シロアリ塚採食』の行動を再現するフィーダーを作成し、複数の行動指標を用いた左右性の評価に取り組んでいます。
宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルには、オニグルミの堅い殻を歯で噛み割るための、採食技術があることが示唆されました(Tamura 2020)。
現在は、クルミ割り技術をどのように獲得するのか、その発達・学習過程に着目した調査を続けています。また、クルミを割るために使う歯に左右の好みはあるのか、つまり『利き顎』があるのかについても、分析を行っています。
人類は進化の過程で、生息環境を森林、疎開林、サバンナへと拡大させました。そして、サバンナ環境への適応が様々なヒトの特徴を作り出したと考えられています。ヒトに近縁な霊長類がサバンナをどのように利用するのかを調査することで、人類進化とサバンナの関係の理解が深まります。私は森林とサバンナが入り組むムカラバ国立公園のモザイク環境に着目して、野生ニシゴリラによるサバンナ利用の調査を行い、人類進化にアプローチしようと考えています(笹川研究助成)。