研究内容

主な研究テーマ

●   霊長類の成熟オス-未成熟個体(父子)の社会関係

●   ヒトの父親の進化的起源

●   霊長類の採食技術

●   霊長類の左右性

●   霊長類の行動獲得、伝播、学習

野生ニシローランドゴリラのシルバーバック

ゴリラの成熟したオスはシルバーバック (Silverback) と呼ばれます。ゴリラの群れは1頭のシルバーバックを中心とし、複数の成熟メスとその子供達で構成される「単雄複雌群」の形を取ります。群れを率いるシルバーバックは全ての子供の遺伝的父親であり、親和的な父子関係を築きます。こうした「優しいお父さん」的な典型的ゴリラ像は、主に野生マウンテンゴリラや飼育下のニシローランドゴリラの観察に基づいて作られてきました。しかし、ガボン共和国ムカラバ-ドゥドゥ国立公園に生息する野生ニシローランドゴリラの調査から、従来の認識とは異なるゴリラ社会が見えてきました。研究結果の詳細は論文発表まで少々お待ちください。

野生ニシローランドゴリラの手の選好性(利き手)

ヒトの約90%は右利きと言われています。集団レベルの右利きは通文化的なヒトの特徴のひとつです。右利きの発現は言語脳と関連していると考えられており、それゆえに右利きは言語を持つヒト特有の現象とされてきました。私は、ムカラバ国立公園の野生ニシローランドゴリラ21頭を対象に、アフリカショウガという草本植物の採食時に細かい操作を行う手を計4293例記録しました。その結果、21個体中15個体が顕著に右手を好んで使い、統計的にも有意に右手を好む個体が多いことが分かりました。この結果から、ヒトの右利きの進化的起源は言語獲得より前に遡る可能性が示唆されました(Tamura & Akomo-Okoue 2021)。現在は、他の行動でも共通した手の好みが見られるかを調べ、ヒトの利き手に匹敵する現象かどうかの調査を続けています。

野生ニホンザルのクルミ割り

宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルは、秋になるとオニグルミ(以下、クルミ)の種子を採食します。ニホンザルは種子に含まれる子葉を食べるために、子葉を覆う堅い外殻を歯で噛み割ります。この行動を詳細に観察したところ、クルミの割り方には4つのがあり、個体によって使うが異なることが分かりました。さらに、身体的に成熟しても上手く割れない個体がいることから、クルミを割には技術の獲得が必要であることが示唆されました(Tamura 2020)。クルミ割りのように、直接目に見えない食物を事前に処理して食べる行動は「取り出し採食 (Extractive foraging)」と呼ばれます。取り出し採食は個体に採食方法の工夫を促すことから、霊長類の知性の進化との関連が指摘されています。現在は、クルミ割り技術をどのように獲得するのか、その発達・学習過程に着目した調査を続けています。

© 田村大也 (Masaya Tamura) 2022. All rights reserved. 写真の利用等に関してはお問い合わせください。