RESEARCH
水・土環境中での移動現象とコロイドの関係
図1 土壌中のコロイドの輸送動態と汚染物質の吸着の関係
降雨時に発生する濁水、土中を移動する間隙水中には、粘土鉱物や、有機物や微生物、金属酸化物といった数 nm から数 μm の微細なコロイドが多量に混在して います(図1)。これらのコロイド粒子の表面が帯電していて、汚染物質や栄養塩を吸着し、それらの輸送担体となることが指摘されています。
コロイドの移動は、コロイド同士が衝突・付着(凝集)し、その集合体である凝集体を形成していく凝集過程や、コロイドが土壌マトリクスに捕捉される沈着過程に強く依存します。
そこで私は、凝集や沈着について研究することで、水・土環境中での物質輸送への理解向上に貢献することを目指しています。
現在進行中のテーマ
・濃厚コロイド懸濁液系の実験とシミュレーションおよび関連する理論計算(共同研究,詳細準備中)
・マイクロ流路中における沈着および関連現象の直接観察(共同研究,詳細準備中)
・Well-characterized な流れ場中における凝集実験とシミュレーション
・多孔質体中におけるナノ粒子の輸送実験と解析
流れ場中の凝集への電気的相互作用力の影響
図2 流れ場での凝集と相互作用の影響
環境中では、一般に流れが存在しているにも関わらず、流れ場中での凝集速度に対する電気的な相互作用力の影響は、実験と理論の両面から十分な検証がなされていなかった(図2)。
そこで、帯電量を正確に評価できるコロイド粒子を用いた流れ場中の凝集速度を測定し、その理論解析を行った。
その結果、理論と実験値が定性的に一致することを示すことに成功した。
吸着性イオンの存在下での異符号に帯電した粒子間のヘテロ凝集
図3 対イオン吸着をともなう異符号に帯電したコロイドのヘテロ凝集
栄養塩であるリンや毒性の高いヒ素は、溶存態で陰イオンとして存在し、正に帯電した土中の粘土鉱物や金属酸化物に吸着することが知られている。
このような吸着性イオンが表面に過剰集積すると、コロイド元来の電荷を打ち消し、正味の電荷の符号が逆になる電荷反転が生じる。正に帯電したコロイドが電荷反転すると、その負電荷のために、混在している負に帯電した粘土コロイドとの間に電気斥力が生じ、反発的なヘテロ凝集が起きる。
この問題に対して、ブラウン運動により衝突が起こる場において測定を行い、理論解析をおこなった。
その結果、電荷反転が生じる塩濃度領域では、ヘテロ凝集が反発的になるという測定結果を標準的な理論モデルで説明することに成功した。
多孔質体中の沈着したコロイドがナノバブル輸送に与える影響
図4 沈着した固体コロイドがナノバブルを捕捉し、ナノバブル輸送を阻害する。
近年、数 μm 以下の微細な気泡であるナノバブルによる汚染土壌浄化作用が期待されている。
一方で、ナノバブルを土壌に注入する上で、共存する土中のコロイドの存在がナノバブルの輸送に与える影響が不明という問題があった(図4)。
そこで、粒子と流体の密度差から固体コロイドとナノバブルを区別して計数することの共振式質量分析計を用いてコロイドとナノバブルの共存下での模擬土壌を用いたカラム輸送実験をおこなった。
その結果、コロイドを先に通水した場合については、沈着したコロイドが物理化学的な相互作用によりナノバブルの新たな吸着サイトとして作用し、コロイドの沈着がない場合と比べてナノバブルの輸送が阻害されることを示した。