全海洋区を対象とした生物ポンプに寄与するプランクトン種の解明

 

生物ポンプとは海洋表層で植物プランクトンによって固定された二酸化炭素が沈降粒子として深海に移送されるプロセスのことを指します。このプロセスは地球環境において、大気中の二酸化炭素量をコントロールする重要な役割を持っています。海洋に生息するプランクトン群集は数多存在しますが、その中でも特に生物ポンプに寄与するプランクトン種を知ることは環境変動に伴う海洋の二酸化炭素吸収能の予測に繋がります。この生物ポンプに寄与するプランクトン種については、これまで主に顕微鏡観察を中心とした研究が進んできました。そして、珪藻や円石藻のようなミネラルの殻を持つグループが深海までよく沈降しやすいというのが常識的な見解としてありました。しかし、近年の分子生物学的手法及び統計解析手法の発展によって、これまでの知見が刷新される可能性が出てきました。DNA配列情報によってプランクトン群集が極めて多様であり、これまで見過ごされていた生物が数多く存在することが明らかになったからです。

 

近年、DNA配列情報を用いて生物ポンプ(植物によって固定された炭素が深海に輸送されるプロセス)に関わるプランクトン種を網羅的に明らかにする試みが進んでいます。しかし、これまでの研究は主に生物ポンプ力の低い亜熱帯海域を対象としていて、また沈降する粒子ではなく海中に浮遊する懸濁態粒子をサンプルとして扱っていました。この従来のアプローチでは生物ポンプ力の高い高緯度域が抜けているだけでなく、生物ポンプに関わる生物種そのものを対象としておらず、本質に迫れていません。そこで我々は亜熱帯から北極、南極に至る全海洋区分においてマリンスノーキャッチャーによる沈降粒子の採取を広範囲に実施することにしました。また高緯度域ではセジメントトラップ観測で得られた沈降粒子の時系列サンプルを解析に供し、時間変化を補う予定です。これらのサンプルを対象に沈降粒子を形成するプランクトン群集を網羅的に調べ、さらに沈降粒子量との関係から生物ポンプに寄与するプランクトン種を明らかにします。