NASAの宇宙背景放射探査機COBEで惑星間塵を紐解く

DIRBEで観測された近赤外線の黄道光偏光を詳細解析

瀧本と共同研究者らは、NASAが1989年に打ち上げた初の宇宙背景放射観測衛星COBE(Cosmic Background Explorer)に搭載された拡散赤外背景放射実験装置DIRBE(Diffuse Infrared Background Experiment)の全41週分のデータを詳細に解析し、近赤外域3波長帯の黄道光※注1の偏光※注2マップの作成に成功しました。

太陽系内に漂う惑星間塵※注3物理的性質を調査するために、DIRBEで得られた大気上空からの夜空の偏光データを用い、世界で初めて近赤外線(波長1.25, 2.2, 3.5マイクロメートル)の黄道光偏光マップを作成しました。得られた偏光度は、CIBER※注4で観測された波長0.8~1.8マイクロメートルの観測とも矛盾なく、低黄緯※注5ではいずれの波長でも同等の偏光度を示す一方で、高黄緯では長い波長ほど偏光度が大きくなることを明らかにしました。

【研究成果の概要】

【今後の展開】

 本研究により、半径1 µm以上の吸収体粒子によるモデル計算で、観測した黄道光の偏光度を再現できることが明らかになりましたが、惑星間塵の詳細な形状や組成を調べるためには、より複雑なモデル計算と彗星や小惑星の更なる観測が必要です。CIBERプロジェクトの後継機である観測ロケット実験CIBER-2では、観測波長を可視光域まで拡張することで、より詳細な黄道光スペクトルの形状がその姿を現します。また、はやぶさ2による地球軌道外からの黄道光観測により、惑星間塵の太陽系内分布が緻密に調査されていきます。近赤外線で未だ観測例がない、太陽近傍や対日照の領域で偏光観測を行うことも、惑星間塵の性質を探るための鍵となるでしょう。


《用語解説》

注1)黄道光

天球上で太陽近傍を中心に黄道面に沿って観測される帯状の光。黄道面付近に漂う惑星間塵が太陽光を散乱した光。

注2)偏光

横波である光の電場成分は進行方向に対し垂直に振動し、その振動面が偏っている状態。太陽光は偏りのない光(自然光)であるが、塵に入射すると散乱光の電場の向きに偏りが生じる。

注3)惑星間塵 

太陽系空間に存在する様々な大きさの塵(ダスト)の総称。主な起源の候補として、小惑星と彗星が考えられている。

注4)CIBER(Cosmic Infrared Background ExpeRiment)

米国のホワイトサンズ・ミサイル実験場(ニューメキシコ州)から合計4回打ち上げられたNASA観測ロケット実験

注5)黄緯

黄道面を基準面と定義した天球の座標系における緯度。黄緯0が黄道面、黄緯90が黄道の極である。

【今後の展開】


<共同研究者>

九州工業大学:瀧本幸司、佐野圭

関西学院大学:松浦周二

カリフォルニア工科大学:Richard Feder