これまで酸化物半導体は主にディスプレイ分野で透明導電膜 (Ex. ITO) や薄膜トランジスタのチャネル材料 (Ex. IGZO)として研究されてきました。最近では酸化物半導体は低温プロセス (~400℃) でも高い性能が得られ、漏れ電流が極めて小さい特長を有しているため、次世代半導体デバイスの有力材料として注目されています。半導体分野の国際会議 (VLSIやIEDM) では酸化物半導体のセッションが編成されており、集積回路の後工程 (BEOL) 向けトランジスタ、三次元モノリシック集積、半導体メモリ (DRAMや強誘電体メモリ)などの研究が活発化しています。ここでは現在取り組んでいる代表的な4つの研究トピックを簡単に紹介します。
酸化物半導体は構成される元素の種類やその比率、非晶質か結晶であるかによっても物性が大きく変化します。応用先の電子デバイスが求める特性要求を満足できるように酸化物半導体の組成や構造、合成方法を工夫して研究を行っています。
例えば、強誘電体メモリに酸化物半導体を用いる場合を考えます。酸化物半導体は高温熱処理に曝される可能性があるため、熱に対する構造とキャリア密度の安定性が高い必要があります。さらに、酸化物半導体を三次元構造物の上に成膜する必要があり、原子層堆積法で薄膜合成を行必要があります。従って、よりシンプルな組成で熱的に安定な酸化物半導体が要求されていることが予想できます。右の図の酸化インジウムに異種元素を添加した三元系材料の探索を行った結果です。In-Ga-O (IGO) がバランスの良い材料であることを見出しました。本知見を活かして共同研究者が実績的な集積デバイスも開発しています。(参照 : doi: 10.1109/TED.2024.3370534, doi: 10.1109/TED.2024.3473888)
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T. Takahashi et al., APL Mater. 13, 051101 (2025).
ディスプレイ分野では酸化物半導体薄膜 (IGZO半導体やITO透明導電膜) はスパッタリング法で成膜されてきました。スパッタリング法は物理的に薄膜を合成する方法であり、成膜速度は速く、大面積均一性に優れる特徴があります。一方で、集積デバイス分野では極めて薄い酸化物半導体を任意のデバイス構造上に成膜する必要があり、従来のスパッタ法では技術的な限界があります。近年、表面での化学反応を用いて薄膜を合成する原子層堆積 (atomic layer deposition :ALD) 法が注目されています。
スパッタ法の場合は成膜したい酸化物半導体のセラミックを準備すればよいのですが、ALD法の場合は構成元素ごとに前駆体原料 (液体や固体) を準備する必要があります。例えば、右の図のように、In-Ga-Zn-Oを成膜したい場合はIn、Ga、Znそれぞれの前駆体原料を用意して、ALDウインドウの調整やALDサイクルの制御を精密に行う必要があります。集積デバイスの要求を満たす酸化物半導体をどのようにALD法で成膜していくかをよく考えて研究しています。酸化物半導体のALDを上手く使いこなすことで、最先端の半導体デバイスや材料を開発することができます。
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トランジスタ向けの酸化物半導体と言えば、非晶質構造の材料 (IGZOなど) が注目されてきました。非晶質の酸化物半導体材料は均一性に優れ、容易に良い特性が得られるためディスプレイの画素のスイッチである薄膜トランジスタのチャネル材料として実用化されています。一方で集積デバイス向けの材料には、更なる電子移動度の向上や信頼性の向上、接触抵抗の低減などが高いレベルで要求されています。前述の要求を満足するため、In₂O₃を主骨格とする結晶構造を有する酸化物半導体に注目しています。国内の共同研究先と連携することで世界最高水準の多結晶酸化物半導体とデバイスを開発することに成功しています。
In₂O₃系の多結晶酸化物半導体は従来の多結晶シリコン半導体とは全くことなる特性を持っており、各種メカニズムの解明が求められています。その他に結晶性酸化物半導体材料の開発、原子層堆積プロセスの開発などにも取り組んでいます。
最新の研究成果の詳細は以下のプレスリリースをご覧ください。
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酸化物半導体材料の移動度は年々上昇し、業界の標準材料のIn-Ga-Zn-O (IGZO) の移動度は10~20 cm²/Vs程度ですが、最近は50-100 cm²/Vsを超える高移動度材料が登場しています。さらに、集積回路分野では酸化物半導体を用いたトランジスタのチャネル長はnm台まで微細化されます。トランジスタにはチャネル材料自身の電気抵抗成分に加えて、ソース・ドレイン電極領域での抵抗成分、チャネル/電極界面での抵抗成分が必ず存在してしまいます。これらのチャネル抵抗以外を寄生抵抗や接触抵抗と呼びます。寄生抵抗や接触抵抗は印加電圧を損失させてしまい、FETの性能を十分に引き出すことが困難になります。また、FETの電気的特性からチャネル材料の移動度を抽出する際に、寄生抵抗成分を十分に考慮しない場合に移動度の値を過大評価/過小評価してしまいます。本研究では、前述の問題を解決するため、チャネル材料の移動度を電気的に補正する方法、接触抵抗を低減できる各種プロセスや電極材料等の開発を行っています。
右の図は多結晶In₂O₃ナノシートチャネルFETの真性電界効果移動度や寄生抵抗を抽出した結果です。高移動度なIn₂O₃はチャネル抵抗が低くなりますので、寄生抵抗の影響が強く現れてしまいますが、伝送線モデル/伝送長法 (通称TLM) を用いて解析することで、寄生抵抗などを補正した真性電界効果移動度を抽出することができます。この論文では移動度の過大評価を抑制する素子構造についても言及しています。(参照 doi:10.35848/1882-0786/ada19e)
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T. Takahashi and Y. Uraoka, Appl. Phys. Express 18, 014001 (2025). doi:10.35848/1882-0786/ada19e
酸化物半導体の関連技術 (材料、薄膜トランジスタ、信頼性解析、作製/成膜プロセス) や原子層堆積法に関して共同研究の実績があります。ご質問やご相談がございましたら,お気軽にお問い合わせください。以下は2023年度以降の実績です。
・2023年度~現在 A社 (分担 → 代表)
・2023年度~現在 B社 (分担)
・2023年度~現在 C社 (分担 → 代表)
・2023年度~現在 D社 (分担 → 代表)
※社名とアルファベットには一切関係がありません。
弊学の共同研究に関する参考情報 :https://www.naist.jp/sankan/content/ja/service/index.html#sv05