高橋研究室における2023年度卒業研究の題目と要旨です.
宮本 江里菜「J2リーグにおけるスタジアム観戦者数の決定要因:ベイジアン階層線形モデルによる解析」(2023年度卒業研究)
研究内容の要旨
この論文は、Jリーグにおける収益最大化を目指し、具体的にはスタジアム観戦者数の決定要因とダイナミック・プライシングに焦点を当てた研究である。将来的にJリーグにおける入場料収入の重要性が増していく中で、クラブ経営に役立つ知見に資する意義がある。
これまでの研究は、主にJ1リーグに焦点を当てており、J2リーグにおける観戦者数の分析が不足している点が挙げられた。また、近年観戦者に対する研究は、観戦者の心理的側面に焦点を当てた分析に移行している傾向があるが、具体的な感情と観戦者数の関係についての研究が不十分であると考えられる。
本研究の仮説は、「試合中に『楽しみ』の感情を経験するほど、観戦者数が多くなる」である。さらに「楽しみ」という感情を応援クラブのゴール、応援クラブの勝利、サッカー観戦自体と定義し、それぞれを数値化した6つの変数について仮説を立てた。この仮説を検証するため、Football LABなどから得た試合データを用い、Rを使用してベイジアン階層線形モデルによる分析を行い、楽しみの感情が観戦者数にどのように影響するかを検証した。
また、J2リーグにおけるダイナミック・プライシングの導入に関する調査では、社会調査法を用いて調査票を作成し、Googleフォームを使用したアンケートを実施した。ダイナミック・プライシングの導入に対する賛成・反対について調べ、PSM分析によりチケットの受容価格を明らかにした。
本研究においては、「楽しみ」の構成要素の中でも、応援クラブのゴールと勝利が観戦者数に対して正の影響を与えていることが明らかになった。また、J2リーグにおいてはダイナミック・プライシングの導入に対する賛成派の意見が多く、チケットの受容価格帯は約2000円~3413円であることが明らかになった。
これらの結論から、J2リーグにおいて試合中に応援クラブのゴールや勝利を経験するほど観戦者が多くなること、受容価格を考慮した上でダイナミック・プライシングの導入を前向きに検討することが有益であることが示唆される。
橋元 克樹「プロ野球の集客に対するスター選手の存在の影響:ベイジアン重回帰モデルによる解析」(2023年度卒業研究)
研究内容の要旨
パ・リーグの観客動員数はコロナ渦の影響を除いて、近年上昇傾向にある。スポーツビジネスにおいて、球団の経営に欠かせないものは観客動員数の増加である。その観客動員数の増加にスター選手がどれだけ影響を及ぼしているのかを調べることで、球団にとってスター選手の存在がどれだけ大事なことであるのか検討している。そこで本論文では、結果変数を球場ごとの集客率、処置変数をスター選手数として分析を行った。
先行研究より、結果変数と処置変数以外の共変量を複数追加した。DAGにより追加した共変量を中間変数、交絡因子、共変量として分類し、分類した交絡因子と共変量を用いて、仮説である「スター選手数は集客率に影響を及ぼす」をもとに処置変数の結果変数に対する効果量を測定した。
先行研究では、Jリーグにおけるスター効果が負となる確率は81.448%とされている。一方、本研究で頻度論による重回帰分析を行ったところ、パ・リーグにおけるスター効果が正となる確率は99.997%以上という分析結果になった。そこで、先行研究を事前分布として、頻度論による重回帰分析の結果を尤度として、ベイジアン重回帰分析を行い、日本のスポーツチームにおけるスター選手の観客動員数に対するスター効果を検証した。ベイジアン重回帰分析を行ったところ、日本のスポーツチームにおけるスター効果が正となる事後確率は94.912%以上であるということが分かった。これより、日本のスポーツチームにおけるスター効果は検証された。
今回の分析で使用した事前情報はJリーグのスター選手に関する論文であり、先行研究で言及されているように、リーグによってスター効果は変動しうるということを考慮に入れると、ベイジアン重回帰分析での効果量が頻度論による重回帰分析より低くなったと考えられる。ただし本論文の仮説は頻度論により5%の有意水準で立証され、ベイジアン重回帰分析により94.912%以上の確率で正の影響を及ぼしているということが分かり、球団にとって集客力の維持のためにスター選手は必要だということが分かった。
松垣 徳宏「社交性と異世界系コンテンツの関係」(2023年度卒業研究)
研究内容の要旨
本研究は、異世界系コンテンツに対する興味度を分析し、その要因を探求することを目的としている。アニメ、ゲーム、マンガ、ドラマなど、現実とは異なる世界観を持つこれらのコンテンツが、多くの人々、特に若年層に広く受け入れられている理由に焦点を当てる。
先行研究に対して合理的選択理論と方向付き非巡回グラフ(DAG)を適用して仮説を構築し、異世界系コンテンツへの興味度に影響する様々な変数を統計的に分析した。仮説は、先行研究に基づいて友人の数という変数と異世界系コンテンツの興味度という変数の因果効果を考えて構築した。研究方法として、調査票を通じたデータ収集とKaggleのAnime Recommendations Database 2020からの大規模アニメデータの分析を行った。
調査票から収集したデータによる重回帰分析では、社交性は興味度に対して5%の有意水準で統計的に有意な効果を与える証拠は見つからなかった。しかし、効果量が負となる確率は約70%あると推定された。点推定値は-0.067であったことから、少なくとも、今回調査した67人の中では、友人の数が増えると、異世界系コンテンツへの興味度は下がるという結果であった。
また、Anime Recommendations Database 2020の分析から、アニメのソースがマンガに由来するかどうか(「Source2」)、が興味度に重要な影響を与えていることが示された。
この研究は、異世界系コンテンツに対する興味を高めるための要因を明らかにし、制作、配信、マーケティング戦略の策定に貢献する意義がある。また、文化的理解の深化にも寄与することが期待される。今後の研究では、更なる要因の探求と質的研究方法の組み合わせが重要であると考えられる。