2024年

【言語実証プロジェクト後援】第3回 2023年度「外国語習得論」講演会

参加者された方々に感謝の意を申し上げます。

テーマ:「コーパスを活用した言語習得研究 ZOOMでの開催

日時:2024年1月15日(月)19時ー22時(日本時間)

挨拶(19:00~19:05)

第一部(19:05~20:25)

テーマ:「どうすれば語彙学習負担を減らせるか―漢字学習と語彙学習の関連を中心に―」

講師:松下達彦(国立国語研究所/総合研究大学院大学・教授)

要旨:第二言語/外国語の語彙学習負担は膨大です。いわゆる上級に到達するのに1万数千語は必要です。1年に1,000語覚えても10年以上,2,000語覚えても数年かかります。一方で頻度上位1,500字程度の漢字にひらがな,カタカナ,記号,アルファベットを足せばテキストカバー率は98%を超えます。上位300字の漢字(と仮名)で,漢字語の延べ語数のほぼ半分をカバーできることもわかっています。これらのことは,少しの漢字が多くの語を構成していることを示しています。しかし,漢字がわかれば自動的に漢字語がわかるわけではありません。本講演では,漢字学習と語彙学習をどう関連づければ語彙学習負担を減らせるかを考えていきます。時間があれば,学術共通語彙リストや文芸語彙リストなどの活用など,目的に応じた語彙学習の重要性についてもコーパスデータを使って説明したいと思います。

第二部(20:30~21:50)

テーマ:「コーパス頻度データの3つの解析法:①カイ二乗検定,②対数変換,③分類木分析」

講師:玉岡賀津雄(名古屋大学・名誉教授)

要旨:多様なコーパスが整備され,頻度データを使った研究が頻繁に行われるようになってきました。しかし,算出した頻度をどう解析すればよいのかが分からない研究者が多いのではないかと思います。そこで,コーパス頻度を使って仮説を検証するための解析法を3つ紹介します。第1に,ノンパラメトリック・データである頻度をそのまま使った解析法です。これには,カイ二乗分布を利用した適合度および独立性の検定を使います。様態と結果副詞の研究(難波・玉岡, 2016)を例に解説します。第2に,頻度データを対数変換してt検定などのパラメトリック検定を行う解析法です。自他動詞の主語の有生性を検討した研究(玉岡・張・牧岡, 2019)を使って説明します。第3に,ある目的の変数を複数の説明変数で予測する分類木分析を紹介します。絵本における疑問詞の頻度の研究(Ito,

Tamaoka & Mansbridge, 2020)を使って説明します。なお,これら3つの論文は,http://tamaoka.org/scholarly/index.html からダウンロードすることができます。

質疑応答(21:50~22:00)

司会:張婧禕(宮崎大学) 

第7回 言語実証プロジェクト講演会ZOOMでの開催

参加者された方々に感謝の意を申し上げます。

日時:2024年3月30日(土)20時ー21時(日本時間)

テーマ:「漢字を知っている中国語母語話者にどういう知識があれば日本語理解が促進されるか?

講師:玉岡賀津雄(名古屋大学・名誉教授)

要旨:中国語母語話者は,日本語を理解するのに母語の漢字知識を活用することができます。そのため,日中の漢字使用が多少異なっていたとしても,漢字で表記された日本語語彙を容易に理解できるようです。それなら,中国語母語話者にはどんな日本語知識があれば日本文の理解が促進されるのでしょうか。この問いについて考えるために,人を表す接尾辞の派生語の理解(大和・玉岡・初,2015)と日中同形同義語を目的語とする和語動詞の連語習得(黄・玉岡・小森・毋,2019)の研究を紹介します。これら2つの研究は,いずれも『小出記念日本語教育研究会論文集』(https://koidekinen.net/から無料ダウンロード可)に掲載された研究です。決定木分析を使った研究ですが,『決定木分析による言語研究』(くろしお出版)には含まれていません。

 

[文献]大和祐子・玉岡賀津雄・初相娟(2015)「中国人日本語学習者の人を表す接尾辞の派生語習得に影響する要因」『小出記念日本語教育研究会論文集』23, 33-44.

黄叢叢・玉岡賀津雄・小森和子・毋育新(2019)「中国人日本語学習者による連語習得に関わる背景要因」『小出記念日本語教育研究会論文集』27, 53-67.

 

[決定木分析に関する参考文献] 2023年7月10日に,くろしお出版から『決定木分析による言語研究』というタイトルの本が出版されました。この本では,いろいろな決定木分析を使った言語研究を解説しています。ご購入いただければ幸いです。