Presentation Abstracts
発表詳細
Day 1 December 7, Saturday 12月7日(土)
9:40 - 10:10
Room C-363
松本 容子
(MATSUMOTO, Yoko)
日本人大学生におけるオンライン型国際交流の経験と異文化間能力の形成
本研究の目的は、日本人大学生のオンライン型国際交流(OIE)の経験を振り返り、現代の日本人大学生の考える異文化間能力の表象を明らかにし、OIE促進のための教育的示唆を得ることである。言語や文化が異なる人と適切で効果的なコミュニケーションを行うための能力を意味する異文化間能力は、グローバル人材育成を仰ぐ昨今のキーワードとなっている。従来の異文化間能力モデルは主に米国や欧州に依存し理論を借用してきた。本研究では日本の文脈において、日本人大学生が考える異文化間能力と既存モデルとの相違点を検討し、既存の研究に新たな視点の提供を目指す。昨今のインターネットの普及やグローバル化の進展により、現代の学生は異文化に対する認識が大きくなる変容している。例えば、SNSやオンライン学習の普及により、現代の学生は日常的に異文化との接触を経験し、国際的な視点を持つ機会が増えた。これにより、異文化間能力の捉え方や重要視する要素も変化していると考えられる。
4つの異なるOIEプログラムに参加した日本人大学生を対象にし、現代の日本人大学生が考える異文化間能力を考察した。主な研究手法は、文化的知性尺度 (CQS) と半構造化インタビューを用いた。CQSのデータはSPSS Statisticsを使用して処理し、対応のあるT検定またはウィルコクソン検定を適用した。半構造化インタビューから得られたデータはテーマ分析し、質的および量的データのクロス分析を行った。CQS結果から、ほぼ全てのプログラムにおいて有意差が確認された。またインタビューから本研究対象者の考える異文化間理解とは他者の心情理解を優先し、他者理解を重要視している結果となった。
本研究では、異文化間能力の視座を高めることを目的とし日本の国際教育現場における実践的なオンライン型国際交流(OIE)のカリキュラム開発に貢献し、時代の変化に対応した新しい国際教育を実現する重要な一歩となることを目指す。
Room C-364
Stephen M. RYAN
The Debrief
Experiential learning without reflection is just experience (Kolb, 1984). Thus, reflection before, during, and after an other-culture sojourn is essential if learning is to occur. This presentation will focus on encouraging post-experience reflection, otherwise known as debriefing.
The presenter will draw on personal experience of debriefing both accompanied, short-term Study Abroad students and longer-term, unaccompanied student sojourners to introduce a series of activities and caveats. These are designed to ensure that students continue to reflect on and learn from their overseas sojourn long after it has finished.
For accompanied, short-term students, the activities are conducted during daily “What did you learn about the local culture?” sessions. Here the facilitator needs to guide discussion of students’ experiences and suppositions about the local culture so that they are share and triangulate experiences without over-generalising them. Activities include: reviewing photos taken during the day; explaining differences and similarities noticed between home and host culture; looking for similarities and patterns from previous discussions; reflecting on home-culture parallels; developing hypotheses for further investigation on subsequent days; and discussing ways of testing those hypotheses.
For the unaccompanied, longer-terms Study Abroad students, there are two main activities, both designed to provoke, encourage, and support contextualisation of the abroad experience. The first is a written report in three sections: 1) What I learned about the host culture; 2) What I learned about my home culture; 3) What I learned about myself. The second involves assembling an annotated collection of 12-15 photos from the many hundreds taken while abroad on the theme of: Things I found unusual in my host culture. Both activities are set up during pre-departure orientation so participating students are aware of them throughout their sojourn, and they are to be submitted roughly two weeks after return, to allow time for considered reflection.
Feedback from returned students suggests that these activities are helpful in bringing meaning to their abroad experiences and in contextualising them within their ongoing lives and home-country readjustment process.
Room 365
浅井亜紀子 (ASAI, Akiko),
斎藤聖子(SAITO, Kiyoko), ファーマンブディアント(Firman BUDIANTO), 江場日菜子(EBA, Hinako)
国際労働移民の移動後の心的変化:アスピレーションとケイパビリティはどう変わったのか
先進国における労働者不足が深刻化する中、いかに国際的な労働者を受け入れるかは重要な課題となっている。日本が経済成長を維持するためには、2040年には現在の4倍にあたる674万人の外国人労働者が必要であり、その際42万人が不足すると推計されている(JICA, 2022)。在日外国人労働者の多くは中国やベトナム出身であるが、これらの国々では出生率の低下や経済成長に伴い、労働力供給の限界が見えている。その中で、世界で4番目に人口が多く、若年層の人口構成比が高いインドネシアは、将来的な労働者供給国として注目されている。本研究は、海外労働移動者の移動先での滞在から帰国までの意思決定プロセスを検証するプロジェクトの一環として、インドネシアから日本とマレーシアへの移動事例を報告するものである。
マレーシアはインドネシア人労働者が最も多く移動する国であるが、労働環境が悪いというイメージもある。一方、日本への移動は数としては少ないが、近年その増加率は高い。本研究では、マレーシアに移動した労働者のアスピレーション(より良い幸福への希求)とケイパビリティ(移動の自由度)およびその要因について、労働者の心理に焦点を当て、彼らを取り囲むミクロ(斡旋業者、受け入れ組織)およびマクロ(移民政策、移動先)の観点から理論化を試みる。
インドネシアでは2022年10月と2023年2月に、日本とマレーシアでは2025年5月から8月にかけて、インドネシア人労働者への聞き取り調査を実施し、さらに斡旋業者への半構造化インタビューや現地の労働環境に関するフィールドワークも行った。
調査によれば、インドネシア人労働者は移動前には経済的状況の改善を目指してアスピレーションが高まっていたが、移動先でのアスピレーションは労働環境の影響を受けて低下していた。特に賃金や労働時間といった労働環境、さらに生活環境が影響要因として挙げられる。労働環境の悪さに対しては、家族への貢献のための忍耐、インドネシアよりも良い環境であるという認識、さらには現在の移動国を第三国への移動の第一ステップと考える選択が見出された。しかし、一度移動すると、アスピレーションを高く保つために心理的な防衛反応が働き、これが労働環境の改善には繋がらず、むしろ悪環境を温存するリスクがあることが示唆された。アスピレーションを高く保つための心理が、結果としてケイパビリティを低下させる可能性がある。理論的示唆とともに、実践的な示唆についても論じる予定である。
Room 473
中野 遼子 (NAKANO, Ryoko), 三島 経一朗 (MISHIMA, Keiichirou), 菱田 伊駒 (HISHIDA, Ikomaz), 渡邉 泰久 (WATANABE, Yasuhisa)
地域と連携した国際共修プログラムの実践報告 ―小学校での留学生受け入れの取り組みを中心にー
1. はじめに
現在、文部科学省が「大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業」を開始し、「地域と連携した国際共修」(末松ら,2019; 島崎,2019)が注目されている。発表者らは、すでに2021年度より大阪大学周辺の石橋商店街や石橋南小学校と連携して、地域と連携した2つの国際共修授業を実施している。具体的には、(1)2021年度開始の大阪大学交換留学生を対象とした4ヶ月間のインターンシップ実習「インクルーシブな環境作りコース」(対面)と、(2)2023年度に開始したメルボルン大学学生対象の地域交流を通した日本語学習プログラム(対面・オンライン)である。
留学生と地域住民との取り組みに関しては、一過性で継続性に欠けているものが多い(島崎, 2019)が、石橋南小学校は、計画的・持続的な留学生受け入れを行い、様々な工夫を凝らした国際理解教育を実施している。
本発表では、この石橋南小学校の実践事例を報告し、学生へのインタビュー回答等から、その効果を検証する。
2. 石橋南小学校における留学生受け入れの取り組み概要
(1) 大阪大学の交換留学生を対象の地域インターンシップ実習(対面)
参加学生は、15回の授業のうち3回、石橋南小学校を訪問し、日本社会における地域のインクルーシブな環境作りを学習している。学習内容は、留学生の出身地紹介、児童による日本文化紹介、和太鼓授業への参加などがある。
(2) メルボルン大学学生対象の日本語学習プログラム(対面・オンライン)
メルボルン大学の学生は対面(日本語上級)とオンライン(日本語初級)で、石橋南小学校の児童と交流しながら、日本語や日本文化の学習を行っている。オンラインプログラムでは、有志の児童と日本語初級のメルボルン学生がオンラインで3日間の交流を行っている。
3. 結果
参加留学生からは、「子どもたちから折り紙や歌のプレゼントをもらい、この小さな交流が、子どもたちや私に一生影響を与えるかもしれないと思うと、本当に心が温かくなった」(オランダ)など、貴重な学びを得ていた。児童については、教員の観察から、①いろんな国のことを知ることができる、②実際に英語を話しコミュニケーションを取ることができる、③他の国のことも知りたいと思う、④宗教や食べ物など、日本と違う文化を知り、相手の気持ちになって行動することができる、という4つの学びがあった。
4. まとめ
本稿では、発表者らが担当する地域と連携した国際共修授業の概要と、留学生や児童の学びを提示した。発表では、留学生訪問を通じた持続的な国際理解教育の取り組み事例をより詳細に紹介する。この取り組みは、「石橋南メソッド」と呼べるほど先端的な国際理解教育の取り組みであるといえる。この教育的効果について、留学生や小学校教員へのアンケート回答からも解明を試みる
10:20-10:50
末田 清子
( SUEDA、 Kiyoko)
異文化コミュニケーションの専門家の内にある「異文化性」の変遷 Part 1
本研究の目的は、日本において異文化コミュニケーションという領域で活躍してきた専門家たち(教育機関または一般企業など)を対象に半構造化インタビューを行い、1) 研究協力者それぞれの異文化性(interculturality:何を異文化と考えるかの意識や気づき)(Ucok-Sayrak, 2016)がどのように変化してきたか、2) 研究協力者は、それぞれがもつ異文化性をどのように教育あるいは実践の現場で活かしてきたか、3) 研究協力者が教育現場等に持ち込む異文化性が、どのように異文化コミュニケーションという領域で社会関係資本(Social Capital)として循環しているかについて探究することである。
本研究の意義は次の2点である。まず、これまで異文化コミュニケーションの専門家自身が研究対象とされた研究はごく一部(Kawakami, 2009)を除いて希少であることである。二点目は、本研究においては、専門家たちが教育あるいは実践の現場に持ち込む異文化性を社会関係資本と捉え、個人というミクロな視点のみならず、マクロな視点で異文化性が教育現場等でどのように循環するかを捉えようとする試みであることである。
今回の発表では2023年8月から2024年4月までにインタビューを行った5名のデータを分析した結果を中間報告として提示する。その結果から、以下の5点が浮き彫りになった。
1) 個々の研究協力者の異文化性の変遷や、異文化コミュニケーションの捉え方は成育歴や大学・大学院で受けた教育や、就いた職業などに深く影響を受けている。
2) 異文化性に比較的普遍的なものを見出している研究協力者もいれば、経験を経て異文化性が広がり、また深化したりしているとする研究協力者もいる。
3) 個々の研究協力者は、時間や経験を経て、客観的に捉えられる異文化性のみならず個人の中に内在する異文化性に気づきを得ている。
4) 研究協力者たちは、異文化性をどのように捉えるかと同時に、個人が異文化性に「どのように対応したいか?」という意思の重要さを認識し、それを教育・トレーニングの現場で活かしている。
5) 研究協力者たちは、それぞれ別の方法で異文化コミュニケーションの理論と実践の合致あるいは統合を実現しようと注力している。
今後、さらに研究協力者を増やし、分析を深めていきたい。
Room 364
Ana Sofia HOFMEYR,
Fern Sakamoto
Exploring Challenges and Re-entry Support Factors among Study Abroad Returnees in Japan
In Japan, higher education institutions are expected to foster global human resources (GHR) - “Japanese or foreign talent who are able to take on the burden of globalizing Japanese companies’ business activities and take an active part in global business” (Keidanren, 2011). One long-standing approach to developing intercultural and global competencies in GHR is study abroad, and a wide body of research has focused on the impact of such programmes, particularly on student integration into the host society and on the development of foreign language skills. However, few studies have explored university students’ experiences post-study abroad, particularly as regards their re-integration into Japanese society culturally, academically, and professionally. This presentation will look at initial data from focus groups with 11 students from four universities across Japan. Findings suggest that opportunities to reflect on study abroad after re-entry are key in helping students to build on their experiences to consider their future career paths and goals. By exploring the personal, social, and organisational factors that have affected students’ re-entry experiences, we aim to answer the question: How can intercultural attitudes, knowledge, and skills developed through study abroad programmes continue to be successfully fostered in domestic settings post-study abroad?
Room 365
舘美月
(TATE, Mizuki)
葉山芸術祭における「葉山らしさ」-芸術祭に表れる地域のディスコースの分析-
地域密着型の葉山芸術祭において、どのように芸術祭関係者が「葉山らしさ」を認識し、芸術祭で表現されているのかを分析して、芸術祭における地域の特徴を構築するディスコースを明らかにすることを目的とする。地域に根差した芸術祭は地域性とアートの融合を通じて、様々な立場の人々の交流や新たなコミュニティの創出などの前向きな効果を生み出すことが確認できている(舘,2020,2022)。知っているつもりの地域性を見つめ直すことは、地域の新たな側面を発見のきっかけとなり、その魅力を次世代に伝える意義を再考する機会になりうる。管見の限り、芸術祭をディスコース分析した研究はみられず、芸術祭研究に新たな視点を加えられる可能性があり、新規性があるといえる。データ収集は、芸術祭関係者複数名への半構造化インタビュー、2022年から2024年の3年間の継続的なフィールドワーク、芸術祭主体で作成された資料調査を実施した。芸術関係者の語りやフィールドワークで観察した出来事、芸術祭のロゴマーク、展示内容などを対象として、繰り返し語られたり、行動で示されたり、表象されたりすることで強調されているキーワードや表現に着目してマルチモーダルディスコース分析(Kress & Van Leeuwen,2001)をおこなった。
インタビューで得られた地域と住民の特徴に関する語りを分析した結果、芸術祭関係者が認識している「葉山らしさ」は〈フラットな関係性〉〈地域に活性化をもたらしたカルチャー〉〈経済ベースでない価値観〉〈密なコミュニティ〉〈身近な自然〉のディスコースで構成されていることが確認できた。このような地域の特徴を構築するディスコースは芸術祭のさまざまな点においてもみられた。例えば、リーダーを置かない芸術祭の運営組織体制や生活芸術中心の展示内容、経済的利益ではなく満足感を重視するイベント、ワークショップを通して深まっていくアーティストと鑑賞者の関係性、自然をモチーフとしたロゴマークなどに表れており、結晶化されていた。これらには共通して、都会・経済至上主義・効率主義になくて、葉山にあるものに対して肯定的な評価をしており、葉山を心地良く魅力的な場所と位置付けていると解釈できた。都会・経済至上主義・効率主義を比較するための軸として用いて地域性を表現していた点から、大量生産大量消費社会や効率化を強いられる現代社会に対して疑問視していることがうかがえる。そこから、既存の価値観に囚われすぎることを良しとせず、現代社会の当たり前の価値観や概念が自らの価値観に合致しているかどうか考え、取捨選択をしている〈吟味するディスコース〉が立ち現れてきた。地域の特徴を構築するディスコースを体現する葉山芸術祭を定期的に親しみやすい祭りとして開催することは、そのディスコースを地域に浸透、定着させる効果があると考察する。
Room 473
山本 薫
(YAMAMOTO, Kaoru)
異文化コミュニケーション実践力(Intercultural Competence)を高めるEQ訓練の試みと学生フィードバック
非言語コミュニケーションの要素が異文化コミュニケーションに大きな影響を及ぼすことは、異文化コミュニケーション学の父と謳われるエドワードT.ホールが1959年に米国で出版された“Silent Language”で提唱してから今に至るまで広く受け入れられている。Hall (1959)は、コミュニケーションはほとんど無意識に、感覚的に行われていること、動作のシンクロニシティについても指摘しているが、授業や研修では、非言語コミュニケーションについての知的理解を深めることに限られていることが多い。非言語コミュニケーションの感性を磨き効果的に(相手と共に)からだを動かすことができるようにする訓練は異文化実践力を向上させる総合プログラムの一要素として必要不可欠であると考える。
本実践報告では、著者が桜美林大学2024年春学期に担当した「EQとビジネス」という授業で、上記の非言語コミュニケーションの力を向上させることを目標に「感じる」こと、EQ(感情知能)に焦点をあて、実際にからだを動かしながら自分で体感したことを学びとする身体知アプローチを用いた体験学習の試行について報告したい。
EQに関しては、Goleman(1995)がEQ力として提唱した次の5項目に焦点をあてた:1.自己認識 2. 自己抑制、3. 動機付け 4. 共感性5.ソーシャルスキル。自分の感じたことを感じとる練習として約5分のリラクセーションエクササイズ、1分瞑想、ボディイメージドローイング(グラバア、2008)、内省コメント、自己抑制と動機づけに関してはストレス対処法としての身体エクササイズ、ポジティブ心理学の手法を用いたゲーム、ソーシャルスキルとしては、相手の動きや呼吸に合わせて動くことによる共振感覚を体験するゲーム、人間関係で問題が起きた時のアクティブリスニング、アサーティブスキル、問題把握のための分析法などを内容に入れて行なった。
最終授業でアンケート(5件法:①とてもあてはまる ②ややあてはまる ③どちらともいえない ④あまりあてはまらない ⑤まったくあてはまらない)を行なったところ、①とてもあてはまると②ややあてはまるを選択した学生数を加えると、93.6%が「このクラスを通して自分のEQ力が以前よりは高まったと思う」、「授業履修前に比べて自分自身の理解が深まった」と答え、96.8%が「授業履修前に比べて他者への共感力が深まった。コミュニケーションがよりスムーズになった」と答えた。客観的な異文化コミュニケーション力に関する判断としては信頼できるデータではないと批判を受けるかもしれないが、コメントなどで自分は自信がないと言っていた学生が自分で自分が前に進めたと思えたのであれば、自己効力感の要素を考慮した上でのコミュニケーション力向上として評価できるのではないかと考える。
10:10-12:00
Room 472 WORKSHOP
齋藤聖子 (SAITO, Kiyoko), 浅井亜紀子 (ASAI Akiko)
海外労働希望者はどうやって国を選ぶのか: 移民ボードゲームの可能性を探る
近年、日本政府は技能実習制度から育成就労制度への移行を決定し、送り出し国側の日本への期待が高まっている。しかし、世界各国が外国人労働者の獲得競争を繰り広げる中、かつて「稼げて安全で、皆親切」という「憧れの国」だった日本の魅力が相対的に低下しつつある。本ワークショップでは、参加者が海外就労希望者の立場に立ち、送出プロセスを疑似体験することで、その複雑さと課題を理解し、外国人労働者の目から見た日本の労働環境について考える。さらに、外国人労働者のより良い生活(ウェルビーイング)につながる受け入れ方について意見を出し合う。
ワークショップでは、最初に企画者が、海外就労の現状と海外就労希望者が日本に来るまでの過程を具体的事例とともに説明する。続いて、参加者はボードゲーム形式で海外就労希望者の立場から日本に来るまでの過程を疑似体験し、言語習得、技能訓練、雇用主とのマッチングでの様々な課題に直面する。この体験型アプローチにより、参加者は外国人労働者が直面する困難をより深く理解し、共感する機会を得る。その後、グループでの話し合いを通じて体験を共有し、日本の特徴と課題、改善点について議論する。全体での共有と振り返りでは、各グループの気づきを共有し、理論的な補足説明を加えながら、日本の就労国としての優位性を議論する。最後に、ワークショップの学びを整理し、外国人労働者のより良い受け入れ方について全員でアイデアを出し合う。希望者は使ったボードゲームを持ち帰り授業等で試用することができる。
このワークショップを通じて、参加者は多角的な視点を獲得し、日本の労働環境や外国人受け入れ制度に関する複雑な課題を多面的に捉える能力を養う。同時に、実践的な問題解決スキルを向上させ、外国人労働者に関する政策の問題点や改善の方向性を具体的に理解し、効果的な政策提言を行う能力を身につける。
加えて、海外就労希望者の立場を疑似体験することで、参加者は自身の文化的背景や価値観を再認識し、無意識の偏見に気づくだけでなく、国境を越えた人の移動が持つ社会的、経済的、文化的意義を深く理解することができる。
さらに、体験型学習を取り入れた新しい研究アプローチに触れることで、自身の研究分野に応用可能な革新的な方法論を学ぶことができ、自身の所属組織や教育現場で応用可能な体験型の異文化理解プログラムを開発するスキルを獲得する。
最後に、このワークショップを通じて、外国人労働者の課題が社会全体の問題であることを認識し、自身が社会変革の担い手となる意識を高める。これらの成果は、より包括的で公正な社会の形成に寄与することが期待される。
10:10-12:10
Undergraduate Presentation Event ポスター発表
11:00-11:30
Room 363
宮崎新
(MIYAZAKI, Arata)
日常からの異文化理解:『広告の中の異文化』実践を通して
本発表は、日常からの異文化理解を目的として、筆者がコミュニケーション関連科目で行ってきた『広告の中の異文化』の実践報告である。ここでの「異文化」は外国性を伴うもののみを指していない。身の回りの広告の中でどのような文化表象(Ohri, 2016)やジェンダー表象(田中、2023)が行われているのか、日本社会の中でなにが「あたりまえ」に描かれているのかを批判的に考察し、「異」に対する内省を深めるための教育実践である。本実践は、広告観察と広告分析の二段階でデザインされている。
まず、学生はフィールドワークで広告観察を行い、分析対象の広告を選ぶ。その際、出口(2021)の特権性に関する議論を踏まえ、アイデンティティ要因(人種・民族、国籍、性別、性的指向性、性自認、学歴、社会的階級、身体・精神、居住地域など)を参照点に、どのようなマジョリティ性にもとづく表象が行われ、マイノリティ性が排除されているのかなどに着目する。特に、この段階では、これまで無意識のうちに通り過ぎていた広告メッセージに対して、敢えて「ノイズ」(違和感)を感じる体験が重要となる(小林、2023)。
次に、広告分析ではメッセージ(言語・準言語・非言語要素など)だけではなく、掲載場所や社会的文脈が意味生成にどう影響し、広告を成り立たせているのかについて考え、広告が効果的である点と問題になり得る点の両面から分析を行う。前者(広告製作者側の視点)と、後者(メディアリテラシーと批判的思考)を対比させることで、広告を下支えする社会規範を学生自身が浮き彫りにする過程である。その後、パワーポイントにまとめてグループ発表を行う。クラスメイトの広告分析も共に読み解きながら、協働での学びを促す仕組みを設けている。
これまでの実践から、学生の学びは大きいと言える。特に、「課題をやってから街中にある広告が気になってしまうようになった」という自分の視点の変化が実践効果を端的に表している。学生が行った分析の一例としては、美容化粧品広告の中で描かれる白人性至上主義、英語学習広告の中に描かれる人種主義、性別役割分業や多くのジェンダーステレオタイプ、異性愛にもとづく恋愛観や家族像などがある。また、学生が住む中部圏では、外国や多文化にルーツを持つ人々が多いにも関わらず、広告の中で「みんな」という言葉と共に描かれる人物像が「日本人的」になりがちであることや、都市部を中心にした描写、言語表記の偏りへの指摘など、身近にある「異」(池田・塙、2019)に対する気づきが学生の発表や振り返りに表れる結果となった。
本発表では、実際の広告分析の事例をもとに、より具体的に教育実践の効果的側面と、授業運用面で注意するべき点などの詳細を共有したい。また、学生の所属する学部や専攻が実践に影響する側面に関しても聴衆と共に議論していく。
Room 364
Lisa ROGERS
Appearance-based Discrimination Experienced by Young Women in Japan and Ibasho
Appearance bias is difficult to distinguish from other forms of discrimination. However, biases and discrimination based on appearances can cause great stress and trauma (Cavico & Mujtaba, 2012). According to Laham (2020) and others, appearance-based discrimination, or lookism, is as common and severe as racism and sexism. Human interactions can cause significant stress when a single incident or negative comment breaks down a person’s self-esteem and negatively affects their social functioning (Cho, et al., 2018). Ross (2014) and other researchers explain stereotypes regarding such traits as skin color, body size, and gender can lead to individuals feeling isolated as if there is something wrong with them. Women especially tend to experience multiple discriminations based on gender and factors related to appearance. Evidence shows overweight women experience more bias than men because they are women, and their body size does not fit the ideal shown in the media (Parker-Pope, 2008).
This study was an extension of a 2020 study of unconscious biases and attitudes of young Japanese people toward visibly different immigrant women in Japan in which university students were surveyed to see if they had biases towards visibly different residents in Japan. The study also included interviews with visibly different women who are residents of Japan. This research conducted secondary research to examine mainstream media reports and research from 2022 to 2023 to determine if unconscious biases towards visibly different women still continue and to what extent they influenced their feelings of belonging. Results show that many women still experience discrimination for being visibly different. However, they also show that not only do they experience prejudices because they are women, but also because they seem different from a typical woman from the country they live in, including Japan, because of their appearance or visible behavior. Their intersecting identities influence their experiences, making it difficult for them to find a place of belonging (ibasho). However, it is difficult to determine if experiences of discrimination based on visible differences continue to be commonplace or whether the increased use of a model of intersectionality model to examine visibly different female residents of a county has resulted in more media and research reports.
This research was supported by a support grant from Doshisha Women’s College from 2022-2023.
Room 365
李重
(LI, Zhong)
職場における在日中国人高学歴女性就労者の交差する文化的アイデンティティ
コロナパンデミック後の留学回復政策と中国社会の就職難などを背景に、日本で就職している高学歴の中国人女性はかなりの数に達している。以前までは、夫の随伴者や低賃金労働者のイメージであった日本定住中国人女性は、現在、高等教育を受けた外国人高度人材としての姿を現しつつある。一方、中国と日本の文化やジェンダー観などの差異がゆえに、彼女たちは、アイデンティティを再構築する課題に直面し、エスニシティ、ジェンダー、学歴、年齢などが交差する複雑な問題を抱えている。
近年、集団としての中国人アイデンティティの確立に関する研究 (永野,1994) のほか、新世代の中国人移民(坪谷, 2008)、華僑 (永井, 2015)、留学生 (一二三, 2008)、妻 (伊藤, 2010) などの在日中国人のアイデンティティ変容に関する論考は注目されてきた。しかしながら、中国人女性就労者のアイデンティティに関する研究は依然として少ない状況にある。特に、高学歴を有する中国人女性を対象とした調査はほとんど見受けられない。在日中国人高学歴女性は、外国人かつ女性であるため、中国人男性や日本人女性とは異なる経験をしている。また、彼女たちは高学歴者としてマジョリティ性を持ちながらも、男性優位の日本の職場において外国人女性としてマイノリティ性を持つという複数の属性を有している。このような背景から、彼女たちが就労場面においてどのように自己を認識し、他者によってどのように定義づけられているのかについて、さらなる研究が求められている。
文化的アイデンティティの形成は、自己認識と他者認識という2つの側面に関わっている (Collier,1998)。また、限定された他者認識は、女性就労者の活躍に影響をもたらしている(Collier,2012)。本研究は、文化的アイデンティティ理論を用いて、就労場面における在日中国人高学歴女性の自己認識および他者認識の分析を目的とする。また、国際労働移動に伴うアイデンティティ労働移動に伴うアイデンティティの変容は、エスニシティ、ジェンダー、階層が複雑に関連している(梶田, 2001)ことから、データ分析において交差的視点を取り入れる。
本研究では、日本で働く高学歴の中国人女性6名に対して半構造化インタビュー調査を実施し、そのデータを分析した。その結果、在日中国人高学歴女性就労者において、自己認識と他者認識の間に矛盾が多く見られる。また、就職、仕事、昇進の場合、エスニシティとジェンダーが交差し形成された他者認識に影響され、彼女たちが複合的な差別を受け、周縁化されたことが明らかになった。さらに、彼女たちのアイデンティティの再構築は、年齢、子供の有無、夫の国籍、日本語や英語の言語能力といった属性に影響を受けていることが示唆された。
Room 473
Aliise Eisho DONNERE
Teaching English as a universal language: English Communication as a university subject
Teaching English as a universal language: English Communication as a university subjectIn 2018, the presenter started working at Tohoku Gakuin University as an English teacher. The students often complained that they don’t see the necessity of studying English, as they have no plans of going abroad or working with English speaking countries. Others were eager to study, but constantly felt that their English ability is not high enough to speak out. To persuade the students that English should be studied as a Universal language, a tool to connect with the whole world, the presenter created a new course that allows students to use their English knowledge to explore their own culture and find out about other cultures. The course includes some elements of anthropological research, conducted in a casual way. Students interview each other, make surveys and create presentations on Japanese (and other) culture having no access to any sources, apart from their own experience and memories. This year, in collaboration with colleagues, the presenter is indulging in creating a textbook, based on this course, as well as our experiences of learning and teaching communicative English.
We are going to look at some of the elements of the course, and how they were reworked for the textbook. Some of the students’ works will be presented, to give an insight into the results of the workshops. The goal of this presentation is to share the experience of teaching and creating new material with those who are interested in teaching English and cross-cultural communication.
Room 363
羽田あずさ (HADA,Azusa),
樫原ふゆ (KASHIHARA,Fuyu)
田戸小学校の世界のとびらプロジェクト
田戸小学校は神奈川県横須賀市の公立小学校で,外国籍児童が在籍する国際教室が市内に6校ある内の1校である。在日年数や日本語レベル,ルーツとなる国が多様な国際教室児童は,学習への適応の困難さはあるものの,日本語や学校生活に次第に慣れてきている。田戸小児童(この発表では国際教室児童ではない児童とする)にとっては身近に外国とつながる人がいる状況ではあるが,あまり意識せずに学校生活を送っている。そこで,①田戸小児童にとっては,身近にある異言語・異文化に気づいたり,異言語・異文化の中で適応しようとしている身近な人をより理解するきっかけにしたりしてほしい,②国際教室の児童にとっては,自己有用感を味わってほしい,自身の言語や文化に誇りをもってほしい,という教師の願いから田戸小児童と国際教室児童の互恵的な学びになることを目的として,3つの活動で構成される「田戸小学校の世界のとびらプロジェクト」を実施した。
まず1つ目は,第3学年の外国語活動の教材として,国際教室児童が母語やルーツとなる言語で1~10までの数を紹介する動画を作成した。作成にあたり国際教室児童は,意欲的に取り組みたい子が多い一方で「恥ずかしい」という理由で取り組みたくないという子もいたため,本人の意思を尊重した。授業で動画を視聴した際,田戸小児童から同じクラスの国際教室児童への敬意や身近なところにある異言語・異文化への気づきがあった。
2つ目は,名前紹介のスライド動画作成である。第3学年の外国語活動で自己紹介を行った際,学校では長い名前を省略して通称名を使っている国際教室児童が,みんなに本当の名前を知ってもらいたいと思っていることが分かった。そこで,国際教室児童が本当の名前や由来を紹介するスライド動画を作成した。作成した動画は,給食時間に全校放送で視聴した。国際教室児童の自身の名前に対する想いはそれぞれ異なり,それを知った田戸小児童は国際教室児童への理解を深めた。また,自分の想いを知ってもらった国際教室児童の一人に変化が現れた。
3つ目は,国際教室児童が自らのルーツとなる国を田戸小児童へ紹介する目的で実施した,「国際教室開放週間」である。5か国に繋がる国際教室児童が,各グループで協力しながら紹介する内容を選び,発表の練習を重ねた。田戸小児童は休み時間に国際教室に来室し,国際教室児童の国の紹介に参加した。来室した田戸小児童及び教職員から200枚近いメッセージカードをもらい,国際教室児童の顔には喜びと満足感が見られた。
国際教室児童には,自己肯定感をもち,自身の言語や文化に誇りを感じてほしい,田戸小児童には身近な多様性への気づきから相違性だけでなく共通性にも目を向けてほしい。様々な背景を持つ児童が互いに理解し認め合いながら,共に学ぶ環境づくりを目指したい。
Room 364
Elisabeth Ann WILLIAMS
Navigating Maternity Care in Japan: Perspectives from Women with Non-Japanese Roots
Foreign women have increasingly been giving birth in Japan, with 3% of babies born to non-Japanese mothers in 2019 (Nagao, 2022). This trend underscores the need to address the unique challenges these women may face, including linguistic and cultural barriers, as well as discrimination from medical professionals (Nishimura et al., 2021). Conversely, some studies highlight positive maternity care experiences among non-Japanese women, particularly due to the continuous support, communication, and kindness from nurse-midwives (e.g., Gomi & Ota, 2023).
This presentation shares data from a survey on the maternity care experiences of 70 women with non-Japanese roots in Japan. The survey aimed to gain a general understanding of these women’s experiences as part of a larger narrative inquiry-based research project. This presentation focuses on data from the survey’s open-ended responses. Data were coded using Braun and Clarke’s (2006) framework for thematic analysis, which involved reading each response multiple times and creating codes based on a segment’s importance, alignment with existing literature, or unexpectedness. Codes were then grouped into themes related to both positive and problematic aspects of care.
Overall, 47.1% of respondents rated their maternity care experience in Japan as “excellent” or “very good,” and 41.4% as “somewhat good.” Positive aspects of care included the support and kindness of nurse-midwives, exceptional hospital facilities, the ability to rest adequately after birth, and the affordability of care. However, despite the notable satisfaction rate, several negative themes emerged, such as inflexible hospital rules, excessive concern from physicians over weight gain, and a lack of respect for cultural practices like pain management or breastfeeding. While language difficulties were not prominent, a reluctance from care teams to convey information was noted.
The themes derived from the survey data suggest the following findings: the need for culturally flexible hospital practices, a discrepancy between high-quality facilities and the cultural sensitivity of care staff, the importance of nurse-midwives during care, and the significant stress caused by strict weight restrictions during pregnancy. Although not all these findings are directly related to respondents’ 'non-Japaneseness,’ culturally informed expectations shape how women with foreign roots experience maternity care and influence their degree of satisfaction with that care.
Room 365
ロハス エスピノーサ ロレーナ ス
(ROJAS ESPINOZA, Lorena S.)
子ども期の言語仲介活動が人生に与える影響
-日本在住の南米出身女性へのインタビュー調査-
近年のグローバル化の影響により、親と共に日本に移住する「外国につながる子ども」の人口も増加している。ここでいう「外国につながる子ども」とは、国籍に関係なく、多文化・多言語環境の下で育った子どものことである。このような子どもたちは、日本の学校に入学し、教育を通じて日本語や日本の文化、振る舞い方、社会的ルールなどを身につけ、やがて、彼ら/彼女らは家族の中で最も上手に日本語を話すことになる。一方、成人は、言語と文化の違いによって日本での生活に困難を覚えるため、日本語を習得した子どもは、家族や周囲の大人を助けるために通訳しなければならない状況に直面する。こうした子どもは、一般の子どもと同じように通学し、普通の生活をしていると思われがちであるが、実際には外部から見えないところで家族と社会を結ぶ重要な役割を担っているのが現状だ。さらに、行政や医療など本来であれば専門知識が必要な分野においても、子どもが通訳活動を担わなければならない状況が存在する。
このような役割を担う子どもは、「言語仲介者」と呼ばれており、言語的および/または文化的に異なる二者以上のコミュニケーションを促進する役割を担う。だが、言語仲介が子どもにとってストレスとなる場合があると報告されている。例えば、言語仲介活動には高度な認知能力や言語能力が求められるが、これらの能力がまだ発達途上にある子どもにとっては、その遂行が困難である。そのため、情報を正確に伝える際に、子どもがストレスや不安を感じることがあると報告されている(Weisskirch & Alva, 2002, pp. 376-377)。一方、否定的な側面とは逆に、先行研究からは肯定的な影響も報告されており、言語仲介を担う子どもは、高い認知的・社会的責任を果たし、複雑な問題に対処し家族の経済生活に大きく貢献しているとも報告されている(Hall&Sham, 2007, p. 28) 。
本発表では、日本在住の南米につながる第2世代女性を対象に、子ども期に言語仲介を担った具体的な場面の詳細、その言語仲介活動の限界、およびその長期的影響を明らかにしたい。
本インタビュー調査は、日本語に通じた南米につながる第2世代の女性3名に対し2024年2月から7月の間に2回実施した。ここでの「南米につながる第2世代」とは、発表者の定義として、南米の国または日本で生まれ、どちらかの親または両方が南米につながりがあり、12歳までに親と共に日本に定住開始をした者としている。
調査結果から明らかになったのは、①子ども期に言語仲介を担った経験が彼女らに深い影響を与えたこと、②言語仲介活動は、彼女らの言語能力や社会的役割に重要な影響を与えたこと、③子ども期の言語仲介経験は、彼女らの成人後の生活やキャリアに対しても長期的な影響を及ぼしたことなどである。
Room 473
大澤麻里子
(OSAWA, Mariko)
タンデム学習における言語学習ログ活用の意義と課題
本発表では2021年と2022年に実施したローカル生と交換留学生のタンデム学習で使用した言語学習ログについて、その意義と課題について明らかにする。「タンデム」とは二人がペアとなり、互いの母語を目標言語として相互に学ぶ学習法であり、「互恵性」と「学習者オートノミー」が2つの主軸となっている(Brammerts, 2005)。言語学習ログとは学習活動を定期的に記録し、学びを振り返ることにより内省を促すためのツール(Murphy, 2008)である。自律的な学習のために言語学習の過程を記録することの有用性については、今までに多様な研究の蓄積がある。例えば、徳永(2015)は英語授業で用いたジャーナルやログの効果について検証し、桟敷(2019)は日本語学習での学習目標・学習計画と「学習記録レポート」の取り組みが、学習者のメタ認知力を高めたことを明らかにしている。しかし前述の研究は個人の学習記録を対象にする研究であり、相互に学び合う言語学習に関するものではない。タンデム学習においては、脇坂(2012)は日本語学習者と英語学習者の学習記録を分析し、互恵性が学習オートノミーを高めるプロセスを明らかにしO’Connor(2018)はフランスの公立大学におけるタンデム学習の学習記録を調査し、目標設定と目標の到達度合いを分析した。しかしながら、個々の言語学習記録に関する研究と比較すると圧倒的に数が少なく、タンデム学習でログを使用する意義や課題について解明されていない部分が多い。そこで本研究ではタンデム学習における言語学習ログの内容と終了後アンケートを分析することにより、言語学習ログ使用の意義と課題の解明を試みた。本研究で対象としたのは授業外のタンデムに参加した大学生27名分のアンケートと、25名分の言語学習ログのデータである。まず、アンケートからは、言語学習ログの意義、課題についての回答を分析した。その結果、有用な点として、学びの内容や改善すべき点の可視化や整理が挙げられ、今後の課題としては項目の分け方、項目数の多さ、フォーマットについての指摘があった。次に言語学習ログの内容を分析し、学び合いの中で、学習者がどのような「気づき」を得ているのかを検証した。分析には修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下、2007)を援用し、学習上の様々な「気づき」に関わる箇所を抽出し、類似箇所を1つの概念として分類し、関連した概念をまとめてカテゴリー化した。その結果「言語学習」、「学び方」、「学びのサポート」の3カテゴリーに分類された。「言語学習」と「学び方」の気づきは強く連関しており、学習者は双方の言語を比較しながら、自らの学びを分析し、うまくいかなかった点を踏まえ、学び方を工夫・調整していた。「学びのサポート」とは相手の学びへの配慮であり、タンデムの互恵性が顕出した結果となった。
12:10-13:35
ランチ休憩 (Brown Bag lunch & discussion)
SC Meeting in Room 132
13:30 - 15:20
Keynote 基調講演(English)
Room C-183
Welcome from Sietar Japan president Kaoru Yamamoto
Plenary: Intersectional Identities: Black Women, ELT, & Professional Identities
Dr. Avril Hayes Matsui (Aichi Prefectural University)
交差するアイデンティティ: 黒人女性、ELT、プロフェッショナル・アイデンティティ
松井 ヘイ アブリル (愛知県立大学)
15:10-17:00 Young SIETAR
15:20-15:50
Room 363
加藤 頌太
(KATO, Shota)
児童・幼児向け文化交流教育の実践
日本社会には異文化に対する抵抗感や偏見が根強く残る。異文化とコミュニケーションを取るという行為は、必ずしも容易なことではなく、時にネガティブな感情を引き起こす。その感情を乗り越える一つの可能性として、幼少期の「原体験」に着目する。幼少期に異文化に触れるポジティブな経験こそが、その後の人生において異文化に直面し自己否定に陥った際のレジリエンス(Bonanno et al. 2001)になり得るのではないだろうか。異文化間能力や異文化コミュニケーション能力については、Byram(1997)やDeardorff(2006)などを含め、活発に議論が行われている。また、これらの能力を高めるための要素として異文化感受性が着目されており、「異文化トレーニングや異文化コミュニケーション教育において、異文化感受性を高めたり、その発達を促すことが、重要視されている」(山本・丹野、2002)。この分野において、Bennett(1986, 2011, 2013)は、異文化感受性発達モデル(DMIS)を提唱する。
前述のとおり、異文化間能力や異文化コミュニケーション能力に関しての議論は活発であるが、その一方で、これらの分野における幼少期の実践についてデータは決して多くはないのが現状である。NPO法人ナタデココでは、幼少期の「原体験」作りを目的とし、異文化コミュニケーション学を基盤とした「文化交流教育」を推し進めており、計1,331人の幼児・児童にプログラムを提供した(2023年度実績)。より具体的には、主に日本人の幼児・児童を対象として、ポジティブな原体験を植え付けることを最大の目標に大きく2つの活動を展開。①「文化交流教室」では、幼児・児童(4-10才)と在住外国人(成人)との交流を促進する1-2時間程度の独自プログラムを提供。教育機関、公共施設等での単発イベントのほか、葛飾区立上千葉小学校をモデル校として、小学校向け年間プログラムの開発・研究も行う。②「文化交流キット」では、全国の教育機関に対して、授業用教材を配布。教員等を介する形で文化交流教育を展開する。
2023年10月、小学3年生122人を対象に実施した文化交流プログラム終了後に実施したアンケートでは、「外国の人と話してみてドキドキしたか」という質問に対して、「とてもドキドキした」「少しドキドキした」と回答した児童は全体の64.5%であり、また、「身の回りの困っている外国の人がいたら、声をかけたい」と答えた児童は71.3%に及ぶ。今回の報告においては、このような児童の反応を含め、文化交流教育推進の取組の現状に発表するとともに、先行研究を踏まえた今後の教育効果の分析の可能性について検討する。
Room 364
Ivan BROWN
Multiple Social Categories as Emergent in Intercultural Talk-in-Interaction: A Case Study with Ethnomethodological CA and MCA
This study explores the ways in which participants invoke and negotiate social categories in a single episode of intercultural talk-in-interaction, through ethnomethodological conversation analysis (EMCA, e.g., Sacks, 1995; Sidnell & Stivers, 2013) and membership categorisation analysis (MCA, e.g., Sacks, 1972; Fitzgerald & Housley, 2015). The interaction occurs between a first-time Japanese visitor to England and local English speakers during a social home visit, involving such topics as “first impressions of England”, “Japanese food”, “visiting each others’ homes” and “a cappella singing”. The presentation will include selected audio-visual clips and transcriptions from the data. The rigorous qualitative analysis prioritises the observable and hearable information from the interaction itself with a participant-centred emic perspective. The study also draws on relevant literature and comparable instances in other interactions.
The analysis reveals not only which social categories or aspects of cultural membership are made relevant, but also exactly how these are invoked and negotiated through various interactional practices, sequential structures and local contingencies, as well as how social actions are formed and (mis)understood among the participants (Mori, 2003, 2004). Furthermore, there are elaborate sequential-structural links between “topic” (Sacks, 1995), course of action, relevant social categories, the changing distribution of discursive roles (e.g., initiating first-pair-part turns versus response turns, Schegloff, 2007), practices for selecting next-speaker, epistemic and affective stance (Heritage, 2013; Goodwin, 2007), and alternating evaluative stances towards culture-related categories.
The presentation concludes by (1) highlighting the crucial tension between what seem to be pre-planned aspects of a participant’s courses of action and the locally emergent and contingent aspects of the interaction; and (2) reflecting on notions of “interactional competence” (Pekarek Doehler, 2019), “learning in the wild” (Hellermann et al., 2019), “interculturality” (e.g., Mori, 2003), and “intercultural language learning” (e.g., McConachy, 2019). Finally, multiple social categories are interactionally displayed in this data, and although this study is not directly related to intersectionality (Collins & Bilge, 2016; Romero, 2018), the presenter will offer some cautious and tentative suggestions for productive inter-disciplinary dialog between ethnomethodology (CA/MCA) and intersectionality.
Room 365
張 氷穎
(ZHANG, Bingying)
ソーシャル・サポートと差別経験が対人関係上の異文化適応に及ぼす影響―在日中国人への質問紙調査を通して―
本研究は、留学生と元留学生の在日中国人を対象に、日本人からのサポートと差別が、対人関係上の適応に及ぼす影響を検証しつつ、なぜそのような傾向があるかを解明することを目的としている。
本研究はまず、162 人の在日中国人を対象に質問紙調査を行い、因子分析によって対人関係適応に関わる質問項目を、「プライベートな人間関係」「対日本人感情」「パブリックな人間関係」という3因子に分けた。次に、滞日期間などを統制し、各因子の得点を従属変数とし、ソーシャル・サポートと差別経験を独立変数とした重回帰分析を行った。その結果、サポート経験頻度が、プライベートな人間関係での適応に正の影響を与えていることと、差別経験頻度がパブリックな人間関係と対日本人感情での適応に負の影響を与えていることが明らかになった。付随的な発見として、自国自文化肯定意識から対日本人感情への負の影響も見出された。
さらに、本研究は調査に参加した協力者に追加質問紙を配布し、「日本人にサポートされた経験とその時の感想」「日本人に差別された経験とその時の対処」について、自由記述形式で回答を求めた。回収した50人のテキスト・データを、3因子の因子得点によって高適応群と低適応群に分けて、適応群間の違いをテキストマイニングによって検討した。「日本人からのサポート」について、プライベートな人間関係の低適応群は「分かる」「親切」「初めて」との共起関係が強く、初めて日本に来た時の指導的サポートが多く言及された。高適応群は「たくさん」「大変」「暖かい」との共起関係が強く、サポートの頻度・質の高さが強調されたほか、低適応群に見られなかった情緒的サポートも言及されており、個人の人柄に対する評価が多かった。「日本人からの差別」について、パブリックな人間関係の低適応群は「態度」「学校」「辞める」との共起関係が強く、学校・職場での不平等な扱いについての言及が多く、差別について我慢することを選ぶ人も多かった。
結論として、ソーシャル・サポートからプライベートな人間関係への正の影響は、サポートの種類の多様性に由来し、低適応群に見られなかった情緒的サポートがより距離の縮めに繋がりやすく、関係の親密化を加速できると考えられる。差別経験がパブリックな人間関係と対日本人感情に負の影響があった理由としては、大きく①不平等な扱いが同じ学校・職場に所属するメンバーとの距離感を感じさせる、②パブリックな場面で(特に上司や先生に)差別された時に、差別に立ち向かうケースが少ない、という2つがあると考えられる。また、差別に関する自由記述では、全体として「中国人」「中国」の出現頻度が高く、中国・中国人について差別的な発言を受けた人が多い傾向がある。よってその場合、自国自文化肯定意識が高いほど傷付きやすく、対日本人感情もマイナスになりやすいと考えられる。
Room 473
籔田由己子 (YABUTA, Yukiko)
富永裕子 (TOMINAGA, Yuko)
バーチグレゴリー (BIRCH, Gregory), シャープ昭子 (SHARP, Akiko)
Collaborative Online International Learning (COIL)を活用した異文化コミュニケーション能力育成プログラムの構築
国際協働オンライン学習プログラムCOILは、近年のテクノロジーの発展やコミュニケーションツールの進化に伴い日本国内でも広がりを見せている。特にコロナ禍以降は教育手段の一つとして、外国語教育や異文化理解教育にも積極的に使用されている。Baroni他(2022)は、パンデミック中に実施されたCOILの取り組みを検討し、いかにグローバルな視野に立ち公平な異文化学習を促進できたかを主張している。また、Komatsu(2023)は、COILが学生の異文化能力を発展させる影響について強調しており、それを裏付けるにはより多くの実証的な研究が必要であると述べている。現在のCOIL研究のほとんどはケーススタディに基づいており実証に結びつける過程である。その過程で、教員側の綿密な準備のもと、学生が日本にいながら海外の学生と交流ができる魅力をまず実感させることがこのプログラムのねらいのひとつである。
本実践では、籔田・富永・バーチ・シャープ(2024)のパイロット実施の結果を踏まえて行ったCOILについて報告する。参加者は英語専攻の日本人学生20名、日本語専攻のカナダ人学生19名である。今回のCOILの目的は、それぞれの第二言語(L2)でのコミュニケーション意欲を高めること、異文化理解を進めることであった。本実践は春学期15週のうち9週間を使って行われ、準備等の対面授業5回、オンライン授業4回で構成された。対面授業では、オンライン授業で扱う3つのテーマについて、日本語と英語で参考文献を読み内容の理解を深めるとともに、オンライン授業で必要だと思われる語彙や言い回しを学習した。オンライン授業の内容は、①全体及びグループでの自己紹介・アイスブレーキング、②グループごとのインタビュー活動、③インタビュー結果の分析とまとめ、④ビデオ発表とディスカッションである。インタビュー活動では、University Life, Customs, Jobsの3つのテーマに関してL2を使って複数のグループに対してインタビューを行い、情報を収集した。その後、収集した情報をもとにグループで共通点や相違点を洗い出し、最終プレゼンテーションをL2で作成した。完成したものはクラウド上に投稿させたが、投稿前にはグループ内でお互いに言語をチェックしあい最終版を完成させた。今回は日本人学生に焦点をあて、COIL終了後に記入した振り返りコメントを中心に、SCAT(Steps for Coding and Theorization)の手法を用いて質的に検討した。その結果、本実践を通して参加学生の異文化に対する態度の変容が観察できた。また、2年目の取り組みとなった本実践からは、COILを成功裏に実施するためのフレームワークの構築にも示唆を与える結果を得ることができた。
16:00 - 16:30
Room 363
梁 筱嫻
(LIANG, Xiaoxian)
ネオリベラル的な「受入れ」における人種化とジェンダー化の交差:「高度外国人材」の表象をめぐって
1. 背景と目的
現代世界の各移民国家では、ネオリベラル化する社会的包摂策の推進と階層・人種・ジェンダー格差の拡大の同時進行という現象が広く共有されている。個人的能力を選別基準とするメリトクラシーという建前のもとで、経済的国益に寄与できる移民を受け入れる包摂規範は、一見「中立的」に見えるけれど、現実には、社会政治的文脈の中で人種化・ジェンダー化されてきた包摂と排除の境界線が強化されてしまう(Roberts & Mahtani, 2010; Thomas, 2011)。こうした社会的包摂のプロセスの裏側には、人種・ジェンダー差別が暗黙のうちに新たな形態で立ち現れ、存在し続けているのである。日本においては、「移民国家」という表現は政府レベルで避けられてきたが、事実上の外国移民を「人的資源」(human capital)として選別しながら受け入れる動きが、1990年入管法改正以降に顕著になりつつである。その一方、多文化共生と男女共同参画の実現に向けた取り組みが進んでいる中、人種や国籍、性別といった属性を理由とした差別が社会のあらゆる場においてあらゆる形で潜んでいることは、多くの文献で指摘・批判されてきた(岩渕, 2021; 河合, 2023)。そこで本研究は、日本の政治的言説空間における「受入れを促進すべき外国人材」の表象に焦点を当て、人種化とジェンダー化の交差による複合的差別言説を明らかにすることを目指す。
2. 方法と結果
本研究では、法務省公式サイトに掲載されている公表資料を分析対象として取り上げ、批判的ディスコース分析(CDA)の観点を中心に考察を試みる。特に、その中で用いられる外国人のイラストに着目し、それらと社会の実相と照らし合わせながら、「高度人材」などの受入れカテゴリーに振り分けられた外国人表象を分析する。
結果として、「高度人材」として描かれている外国人全員が男性であり、7割〜8割程度の人物が髪の色が薄いや鼻が高いといった西洋的特徴をもった人物であった。それに対して、外国人女性の表象が「配偶」や「家族」といった家庭的カテゴリーに固定される傾向が顕著に見受けられた。また、アジア系外国人は、実際の人口構成に比較して表出が著しく少なかった一方、「専門職らしさ」が強調されている西洋人表象と比べると、「生活者」として表象される傾向が示された。
3.考察と結論
以上より、法務省公式サイトに登場する「受け入れべき」外国人の表象は、日本社会に根強く潜む性別役割分業意識と、西洋人が日本人以外のアジア人より優秀であるという人種意識の影響の交差によって構築されたものであると考えられる。 能力主義に基づく包摂規範の下で、日本のアジア系外国人女性は常にジェンダー化と人種化が交差した位置に立たされ、言説的に或いは社会慣行的に排除・周縁化される可能性が示唆されている。
Room 364
Soyhan EGITIM
Aashlesha MARATHE
Exploring Cultural Disfluencies and Negotiation Strategies Adopted by
Minority-Group Members in Japanese Work Settings
The present study investigates the challenges minority group members experience during their interactions with their Japanese colleagues, and the negotiation strategies they develop to deal with perceived cultural differences to adapt to majority-group work environments. The number of immigrants in Japan has been rising steadily, creating more opportunities for interaction between minority and majority group members in Japanese work environments. However, the implications of these interactions on the integration of minority-group members are not fully understood. Expatriates and students in Japan often undergo cross-cultural training to ensure that they comprehend Japanese culture and workplace practices. While this training can improve workplace effectiveness, it does not always ensure a comfortable experience for minority-group members. Hence, in this study, we explore intercultural interactions through the framework of schemas—knowledge structures that underpin cognitive processes. In other words, when individuals lack the necessary understanding to interpret intercultural encounters, they may experience cultural disfluencies and manage stress through accommodative behaviors (Baldwin, 1994). For this study, we conducted semi-structured interviews with 18 minority-group members from various ethnic and cultural backgrounds. The interview questions sought to understand the cultural disfluencies that minority-group members experienced during their interactions with their Japanese colleagues, their perceptions of Japanese culture, and their negotiation strategies to deal with perceived cultural differences. We have identified four themes through the inductive analysis of the qualitative data: Organizational Culture and Communication, Gender Gap, Language and Personal Boundaries, and the negotiation strategies employed by minority-group members. The findings revealed that rigid workplace norms, a hierarchical yet ambiguous communication style, language barrier, and gender gap made it more challenging for the participants to communicate and build relationships with their Japanese colleagues. Furthermore, minority-group members resorted to negotiation strategies to respond to these challenges, such as direct communication and questioning, searching for opportunities to develop personal connections with Japanese people, and engaging in cultural exchange. We propose that cross-cultural training should emphasize adaptive strategies towards the integration process, rather than educating minority group members about the host culture characteristics.
Room 365
村松 直子
(MURAMATSU, Naoko)
「断り」のスピーチアクトにおける事態把握認知と対人配慮と日本語表現の相関関係に関する研究
語用論研究領域の先行研究では、各言語の母語話者および学習者が、相手との対人関係を円滑に保ちながらスピーチアクト(SA)―例えば、「依頼」、「誘い」、「断り」、「感謝」、「謝罪」等―を行う際、どのような配慮表現と談話スタイルが使用されるかが、主として量的分析により明らかにされてきた。
先行研究のアプローチは、基本的に、①母語話者語用論と学習者の中間言語語用論の比較研究、②ある言語と別の言語の文法や言語表現の比較研究、③目標言語母語話者の語用論、学習者の中間言語語用論及び学習者の母語語用論という3者の比較研究のいずれかである。談話収集方法には、多くの場合、談話完成テストとロールプレイが使用されている。談話分析方法としては、意味公式(発話を分析するために使用される機能単位)が採用されることが多く、各SAに使用される意味公式のパターンや定型表現の量的傾向が解明されている。
本研究で扱う「断り」SA研究においては、英語母語話者の英語「断り」発話では、「ポジティブな意見/気持ち+残念さ+理由(詳細)+感謝」という意味公式パターンが顕著に見られるのに対して(Takahashi & Beebe, 1987; Okura, 2003等)、日本語母語話者の日本語および英語中間言語による「断り」発話では、「謝罪+理由+不可能(+将来への言及)」あるいは「謝罪+不可能+理由(+将来への言及)」の意味公式パターンとなる傾向が強いこと等が確認されている(Takahashi & Beebe, 1987; 村松, 2022)。ただし、量的研究では談話の意味公式パターンや定型表現が解明されている一方で、個々の話者が談話場面や相手をどのように捉えているか、また配慮からいかに様々な言葉遣いや工夫をするかについて、調査解明が十分になされていない。
そこで、本研究では、以下の2つの命題について、質的に考究する。1.日本語「断り」SAにおいて日本語母語話者が配慮表現や談話スタイルを選択する際、いかなる事態把握認知および対人配慮をしているのか。換言すれば、日本語母語話者はいかなる心的態度をとるのか。2.日本語母語話者は英語中間言語によるコミュニケーションにおいて、日本(語)の社会文化に起因する語用論や心的態度をどのように転移するのか、また、学習した英語コミュニケーションに関する知識をいかに活用するのか。「断り」SAを取り上げるのは、様々な配慮表現やポライトネス・ストラテジー(Brown & Levinson, 1987 [1978])が要求されるためである。 研究調査協力者は14名、調査方法は質問紙とエスノグラフィックインタビューの談話分析である。
本研究は、発話者の認知や心的態度にも焦点を当てる数少ない語用論研究である。本研究が語用論と文化に関する研究に、微力ながら貢献できることを願う。
16:40-17:10
Room 363
加藤知子
(KATO, Tomoko)
日本人と基督教徒のアイデンティティ模索:日本における基督教の在り方二例の比較
日本における基督教受容は難しい。マリンズ(2005)が指摘する「神々の分業」が日本の伝統であり、また、皇室を戴く日本の歴史が世界宗教基督教より長いということが理由として挙げられよう。そこで、基督を信仰しながらも日本人アイデンティティを保つ試みが何度も起こっている。日本を自覚した基督教、すなわち日本的基督教の営みには幅があるが(日本的基督教の定義と類型は笠原(1974)が試みている)、本報告では、皇室を意識しつつ日本基督教徒のアイデンティティを模索した二例を比較、その違いを示す。それを通して、日本的基督教の多様性の一端を示し日本的基督教の研究価値を指摘することが本報告の目的である。比較一例目は雑誌『ハーザー』編集長で、マルコーシュ・パブリケーション社長の笹井大庸(故人)の信仰である。笹井の信仰の立ち位置は、笹井(2002)に詳細がある。二例目は雑誌『みくに』(1935~1943年発行)に見られる信仰の在り方である。研究手法は文献研究であり、笹井、『みくに』に関する文献を主な研究対象とする。『みくに』は、日中戦争勃発と第二次世界大戦開始の狭間で、『みくに』の信仰の根本が詳述されている1938年発行第4巻1~12号に焦点を当てる。
両者の共通点は日本を愛し皇室を重んずる態度である。笹井は笹井(2002)で皇室に好意的主張を展開し日本基督教界から強い批判を浴びている。しかしながら笹井は、天皇は人間であり尊敬はするが礼拝の対象とは考えていない。一方『みくに』では、天照大神子孫の天皇には神性があるとしている。笹井は皇室尊敬と基督教信仰は両立すると考えるが、信仰対象は『聖書』の神である。『みくに』は、文部省『國體の本義』(1937年)に見られる国体を信仰対象とし、その信仰理解の助けとして『聖書』を用いている。『みくに』関係者は自分達の信仰が真の基督教だと主張しているが、それを基督教枠内に位置付けるかは意見が分かれるだろう。
21世紀の日本基督教界では、皇室や日本への愛国心は基督教と相容れないとの主張が強い。それは、皇室・愛国と言えば『みくに』のような国体信仰そして戦争への道に繋がるというのが理由だろうか。しかしながら、笹井(2002)に見られるように皇室尊敬・日本愛国の態度が必ず国体信仰に結びつくとは限らない。また岩井(2017)は、基督教徒ではないが『國體の本義』に倣う国体観を持ちながら戦争に反対した者を紹介している。皇室尊敬・日本愛国は基督教界には相応しくないと言い切るなら、一通りではない日本的基督教の在り方から得られるかもしれない、日本での世界宗教基督教の立ち位置―そして他のグローバル的なものの受容―についてのヒントもまとめて捨象することになる。日本人基督教徒としてのアイデンティ模索の多様な営みの記録は、再度読み直され検証される価値があるだろう。
Room 364
Myles GROGAN
What do we teach when we teach "Intercultural Awareness"?: A teacher's report from the chalkface
While language learning is often required as part of higher education, university courses in intercultural awareness seem to be rarer. Particularly in the Japanese setting, examples of course formats or content that can be transferred from one setting to another are limited. This presentation begins to address that limitation by offering a case study of activities and teaching approaches used in three iterations of an intercultural awareness course in a multi-faculty setting.
The presenter, a native English speaker, was chosen to teach the course in Japanese. The first iteration of the course followed a previous institutional design. Gaps of knowledge and experience existed, and the current teacher introduced new material, as well as new instructional and assessment choices. The goal of these choices was to make intercultural awareness more present and personal, such that students could better incorporate it into daily experience.
Coursework from incoming students showed a tendency to equate “intercultural” with “international,” and the inherited course design placed a strong emphasis on comparing national cultures, as well as larger level structures, such as religion. This content, though rich, led to a teacher-fronted class. There was also a lack of theoretical frameworks for intercultural understanding. Another substantial challenge was finding Japanese resources for students, as the teacher is not a native Japanese speaker.
The latest iteration of the course aims to engage students in more discussion, personal research, and critical thinking. In the first half, students learn about national cultures while working on their own investigations. Discussion opportunities are presented as preparation for reflection. More theoretical frameworks, such as cultural intelligence and global dexterity, are presented in the second half of the course. This is accompanied by more discussion about non-national versions of culture such as regional, business, and age-related culture.
While development of the course is ongoing, it is hoped that this presentation may serve as a case study in creating a course with a more day-to-day understanding of intercultural awareness. In addition, the presenter aims to address issues arising, such as assessment as well as the balance of content given by the teacher and elicited from the student.
Room 365
王 宗成
(WANG, Zongcheng)
外国学位を有する中国大学教員の母国適応について
―日本留学経験者の事例を中心に―
1.研究の背景と目的
近年海外の大学で学位を取得し、母国に戻って大学教員になった中国人は増えている。しかし、外国学位を有する中国大学教員(以下「帰国教員」と略す)は、中国社会や教育システムに適応できない現象が頻繁に報道されている。「帰国教員」は留学を通して、どのような変化があり、その変化についてどのように評価しているか。また、彼等・彼女達が母国社会と中国の大学でどのような適応問題に直面しているか。
本研究は「帰国教員」をめぐる適応の実態を把握し、影響要因を追究し、その多様性を明らかにすることによって、彼等・彼女達が中国社会や教育システムにおいて、自分の可能性を最大限に発揮できる環境の構築につながることを目的とする。
2.先行研究と本研究の位置づけ
ホスト国適応と母国適応に関する研究はまず欧米で盛んに行われるようになった(Lysgaard 1955、Oberg 1960、Gullhorn 1963)。日本において1970年以降の海外渡航者の増加と「帰国子女」の問題といった社会変化に伴い、文化人類学者や社会学者は異文化接触に伴う問題点を研究するようになった(星野 1980)。一方、応用研究にも数多くの成果が出ている(箕浦 1994、髙濵・田中 2012、鈴木 2015)。また、異文化感受性の視点からアプローチする研究も多い(山本・丹野 2002、小野・前田・中村 2014、戸田・丸 2020)。
多くの研究成果が見られる一方、しかし、筆者が調べた範囲で、海外留学を経験し、母国適応の問題に遭遇する中国大学教員を研究対象とする研究はまだ少ない。そこで本研究は、「帰国教員」を対象にして、異文化感受性発達理論の視点に基づいて、「帰国教員」の異文化感受性発達レベルと母国適応の関係を分析することによって、彼等・彼女達が中国社会や教育システムへの適応の「道しるべ」を探すきっかけとなることを目指している。
3.研究方法
本研究は、主にライフストーリーの方法を採用する。具体的な方法としては、「帰国教員」10人に対して、留学経験が個人に与えた影響を「異文化感受性発達尺度」で測定した上、一人あたり40分から60分間での半構造化インタビューを行い、個人の語りを録音し、文字おこしで一つのまとまりをもった語りとして再構成する。
4.結論
この調査によって、①帰国後すぐに母国社会に適応できる「帰国教員」の中には、異文化感受性が進んでいない人もいること、②留学中に経験した外国の大学と、中国の大学の組織文化や教育システムが異なるため、帰国教員が高等教育システムに適応するには時間を要すること、という二つが明らかになった。異文化感受性発達理論では、各ステージにある人に対して異なる対策を取るように、帰国教員にもそれぞれの状況に応じた異なる支援を行う必要がある。
18:00-20:00 Networking Party
懇親会 Welcome/おもてなし
Hotel & Spa Suishun ホテル & スパ水春
Bus at 17:30
Day 2
December 8, Sunday 12月8日(日)
9:00 - 9:30
Room 363
金村優子
(KANEMURA, Yuko)
英語のカルタ大会@地域コミュニティ
本事例は、「Japanese Culture and Community」の授業の一環として、短期留学生たちが地域の人との交流を通して日本の社会や文化についての知見を広めるために、地域コミュニティ活動を取り入れた授業を実施した。
公共の図書館で開催された「英語でカルタ大会」は、留学生たちが作成した英語のカルタを利用して行われた。カルタのテーマは「自然」で、出身国の自然環境を英語で紹介する内容であった。留学生たちは大会の広報活動にも携わり、彼らの自己紹介、カルタの絵札と読み札を示すパネルとチラシの作成、さらに、カルタの読み札を音声化してネット上で公開した。競技の際のルール設定などにも取り組んだ。カルタ大会当日は、留学生たちが会場の設営、受付、司会進行、表彰式などを協働で行った。
【目 的】
1)留学生の文化学習と地域参加 :
文化学習における学術的な学びと実践的な活動を融合させる学びの場を地域コミュニティに創り出し、学習者の日本語と日本の文化理解を相乗的に高める。
2)地域の異文化理解の促進:
留学生が地域活動に参加することで、地域住民と留学生との交流の場を作り出す。そして、英語のカルタ大会を通して両者の自文化と異文化への理解を促進する。
【方法と実践】
1)英語のカルタ制作:カルタの制作は、授業の一環として学生間の協働で行う。留学生はカルタのテーマを決め、A~Zまでの読み札と絵札を制作する。出来上がったカルタは、カルタ大会用に2種類のサイズ(7×5cm、A4)に印刷し、競技用カルタとして仕上げる。
2)英語のカルタ大会:
カルタ大会の実施は、①会場視察 ②広報パネルの展示 ③カルタ大会のリハーサル ④カルタ大会の4つのプロセスで構成される。留学生は、①で会場を視察し、図書館の担当者とイベントを計画する。②は図書館内に留学生の自己紹介、カルタの絵札と読み札のパネルを展示する。③はイベント当日の進行表を作成し、学内でリハーサルをする。そして、④を成功へと導く。
上記の活動を通して、(1)チームワークの形成 (2)自文化の理解 (3)役割分担に対する責任感を育てる。
【活動の成果】
言語や文化への理解は、学術的な学習と実践的な活動を併せ持つことで深められる。本事例は、それを実証するものであった。
他方、地域活動の成果は、カルタ大会を通じて、留学生たちがカルタの出来栄えや日本語での会話力を他者(地域の人)からほめられた点である。個々の学生は、学内学習を評価されことや地域の人と日本語で会話できたことに、留学中の自身の成長を実感することができた。その経験は、学内外活動への満足感と達成感、地域活動のやりがいや自信感の形成につながった。参加者の反響も良く、カルタ大会は次年度も実施される。
Room C-344
Kristin RYGG
Can working for a foreign-affiliated company in Japan be considered “experiencing Japan”?
While many studies on ‘Japanese business culture’ (e.g., Hall and Hall, 1990; Gudykunst, 1993; Condon & Masumoto, 2011) are primarily based on data from large Japanese corporations, this study aims to enrich intercultural literature by examining the work culture of a foreign-affiliated company in Japan. According to JETRO (the Japan External Trade Organization), there are more than 6000 so-called gaishi (外資系企業) in Japan, and 90% of them say that they mainly recruit Japanese mid-career workers. This means that even though the headquarters are abroad, and the branch manager may be a foreigner, most of the staff is Japanese and have previous experience with domestic firms, which might influence the work environment.
By leveraging a three-week research stay at the Japanese branch of a Norwegian multinational corporation (MNC) and conducting interviews with the Norwegian president and the Japanese staff, this study offers a unique perspective on the work environment at a foreign-affiliated company in Japan. While traditional Japanese norms offer the framework for customer service, the office environment is a complex mix of the MNC culture, Japanese foreign company culture, traditional Japanese workplaces, and Norwegian workplace culture. This means that the work culture is more multicultural than how the culture in domestic firms is typically portrayed. Still, nevertheless, these companies are essential parts of Japanese working life and should not be excluded when Japanese work culture is portrayed.
This study has been accepted for publication in SIETAR Japan’s Journal of Intercultural Communication.
Room C-345
魏小花 (WEI Xiaohua)
地域の多文化共生推進における外国人留学生の多様性の活用―多文化間協働における異文化シナジーの創出に向けた能力の考察を通じて―
近年、留学生が日本の地域社会に参画することで、多文化共生が進む可能性があり、特に地域活性化やグローバル化において、留学生が提供する知見やノウハウが期待されている(総務省, 2020)。本研究では、これらの知見やノウハウを留学生の「多様性」として捉える。先行研究によれば、地域活性化やグローバル化の課題に対して、留学生の多様性は主に言語能力、文化理解力、国際的なイメージ、グローバル・ネットワーク、そして出身国の代弁者としての役割など、多国籍性に関連する能力に依拠していることが明らかにされている。しかし、留学生の多様性を単に多国籍性に限定して理解すると、彼らが「外国の情報源」としてのみ認識され、存在するだけで国際化を促進できると誤解される恐れがある。留学生は単なる「外国の情報源」や国際的イメージなどにとどまらず、彼らとの協働を通じて異なる視点が交わり、新たなアプローチを生み出す可能性もある。Adler(1980)はこの状態を「異文化シナジー」という概念で表している。本研究は、留学生が地域の活性化やグローバル化に向けた多文化間協働において、異文化シナジーを創出する能力を考察することを目的としている。
研究の対象は、A大学が2024年度前期に実施する国際共修授業「日本の発酵食品を知り、仙台味噌の海外展開について考える」である。この授業では、留学生と国内学生が協力して、仙台味噌を使用した海外料理のレシピを提案することを目標としている。本研究では、この授業の韓国人留学生1名を焦点観察者として設定し、グループがレシピを決定する過程での会話を録音し、焦点観察者の発話内容を分析する。これにより、異文化シナジーの創出能力を考察する。具体的には、異文化シナジーの創出能力と関連する「他者の視点と世界観を理解し認める能力」と「異なる文化を持つ人々と効果的に関わる能力」に焦点を当てて考察する。また、国内学生にもインタビューを実施し、焦点観察者の能力を評価する。
結果として、地域の活性化やグローバル化に向けた多文化間協働において、留学生の多様性に対する認識が依然として「外国の情報源」や国際的イメージにとどまっていることが示唆される。この背景には、会話分析の結果から明らかになった、留学生が自己認識や視点間の関係に対する深い考察、自他文化の背景に対する深い理解、コミュニケーションにおける観察力の強化、自己主張と積極的な関与のバランス、コミュニケーションの崩壊への詳細な対応などの能力を十分に発揮できていない可能性があると考えられる。言い換えれば、留学生がこれらの能力を向上させることで、異文化シナジーの創出能力がさらに高まり、留学生の多様性に対する認識も「外国の情報源」や国際的イメージを超え、より効果的な多文化間協働を実現する可能性が高まると考えられる。
9:00- 10:50 WORKSHOP
Room C-472
荒木 晶子 (ARAKI, Shoko)
このワークショップは、実際に異文化擬似体験(シミュレーション)に参加していただき「体験学習の有効性」と「効果的なファシリテーションの方法」について、体験学習の理論をひもときながら解説させていただきます。
9:40-10:10
Room 343
上西智 子 (KAMINISHI, Tomoko)
大久保美花 ( OKUBO Mika)
「やさしい日本語」を用いた中日オンライン国際交流の教育的効果-日本文学を教材にした授業実践から
多様な文化背景を持つ人々が所属する集団の中でリーダーシップを発揮できる人材を育成するために、学生が異文化アジリティを身につけることのできるような教育が大学では求められている。異文化アジリティとは異なる文化背景をもつ人々と協働できる能力を指し、その能力の育成には海外プログラムの実施が有効だと先行研究では指摘されてきた。例えば、上西(2024)は英語を用いた欧州大学とのオンライン海外留学が学生の異文化アジリティを育むと指摘した。また、日本のオンライン国際交流に関する先行研究は主に英語を母語とする人々および英語を学習する人々に対象者を限定しているため、日本語を母語とする人々および日本語を学習する人々を対象にした研究が不十分である。
一方、阪神淡路大震災において日本語が不自由な外国人が甚大な被害を受けたことに対する反省から、単語や文章の構造を平易にした「やさしい日本語」の実施が推奨されてきた。それに伴い「やさしい日本語」を用いた授業が多数報告されている。ただし、そこでは日本語母語話者が日本語学習者のために日常用語を「やさしい日本語」に書き換える授業が主流であるため、日本語母語話者と学習者の間で交わされる「話し言葉」に関する研究も必要である。
では、「やさしい日本語」で対話するオンライン国際交流には、どのような教育的効果があるのだろうか。本研究の目的はその教育的効果を具体的に検討するためにある。
本研究の調査対象は、中国東北部にある教育系総合大学大学院の日本文学科目と日本の首都圏社会科学系単科大学のキャリア教育科目を履修する学生である。中国側は日本語学習者9名、日本側は日本語母語話者9名である。「やさしい日本語」を用いたオンライン国際交流は2024年5月に2回実施した。1回目は中国側が日本文学を紹介し、2回目には両者がその解釈を発表した。分析方法は計量テキスト分析とする。2回目の交流後に学生が提出した振り返りレポートを中国側、日本側に分けて分析した。
分析の結果、頻出語と共起ネットワークが析出された。ここから中国の大学院生は本場の日本の「話し言葉」に触れることができたこと、また日本文学に対する解釈の違いを通して両文化の違いを学んだことが窺える。一方、日本の学生は当初、中国文化に配慮したコミュニケーションに不安があったが、「やさしい日本語」を用いて笑顔で対話することができた。また休日の過ごし方やアニメから互いの共通点を見出す一方で、日本文学の解釈を通して文化の違いを理解した。
以上、「やさしい日本語」を用いたオンライン国際交流には、学生が異文化アジリティを身につけることのできる教育的効果があることが窺える。また、日本文学の解釈の違いを通して学生の異文化理解が深まったと考えられる。なお、日本の学生に対する「やさしい日本語」の継続的な学習機会の提供が課題である。
Room C-344
Adam KOMISAROF
New Developments in Individualism-Collectivism: A Guide for Scholars, Educators/Trainers, and Other Practitioners
Introduced by Geert Hofstede around 1980, the cultural dimension Individualism-Collectivism (“I-C”) has dominated the cross-cultural research field and guided intercultural training practitioners to date. On October 16, 2023, The Culture Factor (formerly known as Hofstede Insights), the global cultural analytics and strategy advisor company associated with Hofstede’s framework, updated their I-C scores due to the concerns over the accuracy of the original scores. Their new scores are derived from the work of Hofstede’s former collaborator, Michael Minkov. These new scores include substantial differences from the past; for example, they depict Japan and the US as equally individualistic, causing confusion among cross-cultural scholars as well as intercultural trainers and educators who have traditionally considered Japan to be clearly more collectivist than the US.
This revision of country scores necessitates an analysis that can guide scholars and practitioners in how Hofstede’s concept of I-C can be used, particularly in light of how it is being defined, operationalized, and measured in newer research. To aid the audience to make sense of abundant, and often contradicting literature, the speaker will present a synthesized overview of the new developments in understanding and measuring I-C. The presentation will start with an explanation of the major sources of information about I-C and other Hofstede dimensions. This is especially necessary given the contradictory data available: if one searches for Hofstede’s country scores online, it becomes quickly evident that there are various webpages (most prominently Hofstede’s website and that of The Culture Factor) offering different scores for I-C (as well as some other Hofstede dimensions), and the dimensions themselves in some cases have completely different names. This immediately raises the questions of what are the most accurate country scores, and why do two sources that both use the Hofstede name (The Culture Factor still uses the name “Hofstede Insights” in their web address) showcase different information?
The next part of the presentation will include a discussion of the research that has catalyzed the scores revision as well as its suitability for intercultural training and education. The claims that America and Japan are almost equal in I-C will also be examined. Finally, the presenter will conclude with recommendations for how researchers, educators, trainers, and other practitioners in intercultural communication can move forward given the newest research (and controversies) related to I-C.
Room 365
Megumi YOSHIEDA
Five Whys: Supporting Japanese Students to Express in English
The number of non-Japanese residents in Japan has exceeded 3.4 million (ISA, 2024), yet a monolingual culture remains in the school system and society (Fukuda, 2016). This is evident among university students who rarely communicate with exchange students or show little interest in international issues. Japanese universities are promoting the development of students' global skills to empower changing societies. This research explores the use of the "Five Whys Analysis" (Faculty Focus, 2024) in language courses as a method to nurture global skills. I have used Instagram to expose students to real-world issues since 2018 (Yoshieda, 2022). An Instagram post consists of images, captions, and hashtags. The project begins with students identifying an issue, developing their opinions, and finally creating and posting images, captions, and hashtags in English as a group. The aim is for students to discuss in English as well as to express their messages to a global audience. The Five Whys Analysis (FWA) was implemented to support students to consider global issues by identifying root causes. To compare the effectiveness of FWA, two projects were conducted: the first without FWA, and the second with FWA. Data was collected from students (N-=33) in a liberal arts English course at a public university over a 16-week semester, attending a 90-minute lesson once a week. Project work, student surveys, and interviews were analyzed in mixed method. Students’ choices of the project topics resulted in global conscious themes. The first project topics included "the efficiency of a paper straw," and "python steak." The second project topics involved "endangered lesser panda," and "work style reform in Japan." According to student surveys, the major effect of FWA was its ability to help students stay logical on a topic and clarify the five causes of a problem. Finding suitable topics for this method led them to identify global issues. They also noted that sometimes the answers went wider and not deeper, but they eventually reached the root cause. A notable finding was that many groups proposed their original solutions for their topics. Overall, students suggested their development in global skills as they no longer skipped browsing global incidents on Instagram. Finally, the progress in students’ willingness to find non-Japanese speakers to communicate in English due to the confidence gained through weekly group discussion suggested a possible change on campus and in the society in near future.
10:10-12:10
ACADEMIC POSTER PRESENTATIONS ポスター発表
Learning Commons Event Area
10:20 - 10:50
Room C-343
山本志都(YAMAMOTO, SHIZU)
立石慎也(TATEISHI, Shinya)
発達理論が示すストレスと停滞の成長への役割: 異文化コミュニケーションと人材育成の視点から
発達理論の中で、異文化コミュニケーション教育でよく紹介されるものにBennett (1986)の異文化感受性発達モデルがある。個人が文化的差異を知覚し、それをどのように意味づけ、対応していくかの過程が、より複雑で洗練されたものへと発達するプロセスが描かれる。Kim (2008)の異文化的人格(Intercultural Personhood)論はアイデンティティと適応の側面から発達を説明し、異文化環境における自己変容の過程を示す。一方、人材育成の分野では、自己理解を深め、より高度な認識や成熟した人格に至るプロセスへの発達を説明するモデルとして、Kegan (1982) やラスキー (2014)の成人発達理論が広く活用されている。
これらの理論は、個人が異文化間での経験や自己認識の深化を通じ、より高次の意識状態や自己・他者理解に至る過程を示している。その中でストレスや葛藤が発達において重要な役割を果たすものとされている。本研究では、発達理論におけるストレスと葛藤の役割に焦点を当て、一見すると発達を妨げる「停滞」や「後退」とも思える現象が、実際には発達に不可欠なプロセスとして機能していることの意義を探る。
Kimの理論では、ストレスが自己の変容と成長を促進し、異文化的人格の形成に寄与するとされ、「ストレス-適応-成長のダイナミクス」が強調されている。Bennettのモデルでは、初期段階のストレスが「防衛」として現れ、その後、知覚・認知構造がより複雑に発展し、「統合」に至る際の葛藤と停滞は「リミナリティ」として経験される。Keganの理論では、成長過程で直面する複雑な要求や課題が内面的な変容を引き起こし、ストレスが新たな視点と行動を引き出す触媒となる。これは「均衡-不均衡-再均衡化」として説明される。ラスキーの理論でも、自己喪失の経験が重要視され、個人が自己の価値観やアイデンティティを手放すことで新たな成長への道が開かれるとされる。このときの一時的な停滞や混乱が発達の一環として機能する。
発達における停滞を山本(2023)は、オートポイエーシスにおける自己形成運動の再組織化やカウンセリングにおける自己受容の過程と関連付け、変容に不可欠なターニングポイントとして説明している。ストレスや葛藤の経験を肯定することは、その再解釈を促し、個人のレジリエンスを高める効果があると考えられる。しかし、支援者がこの発達過程を理解していない場合、学習者が不安定な状態にあることを支える代わりに、過度な安心感を与えたり、解決策を提供してしまったり、過去の低次の安定構造に戻らせたりして、発達を阻害する可能性がある。発達を急かす危険性も指摘されている(e.g. 鈴木, 2021)。教育・コーチングにおいては、ストレスや葛藤の意義を理解しつつ、そのリスクに十分配慮した支援が求められる。
Room C-344
Mahboubeh RAKHSHANDEHROO,
Ana Sofia HOFMEYR
Bridging Cultures, Expanding Horizons: The Impact of COIL on Japanese Students' Intercultural Competence
Higher Education (HE) is faced with the growing need to produce graduates equipped with global competencies (Deardorff, 2006), including in Japan, where the government has called for the development of global jinzai to meet the needs of the industry sector (Yoshida, 2017). A pedagogical approach to develop these competencies gaining traction is Collaborative Online International Learning (COIL), which encourages interaction among larger numbers of culturally diverse students. However, very few studies have focused on the impact of COIL on intercultural competence development (Hackett et al., 2023), particularly from a qualitative lens, and in the Japanese context. This study sought to explore the impact of COIL on the development of intercultural competence among Japanese university students. We employed a narrative case study method (Sonday et al., 2020) and Hofmeyr’s (2021) framework of interculturally competent global jinzai to analyze student reflections post-COIL and identify markers of intercultural competence in reflective reports collected from 53 undergraduate students belonging to three classes with a COIL component at a private university in Japan. Findings show that COIL had an impact on 20 out of 27 intercultural components of global jinzai. Specifically, reflective reports indicate that COIL facilitated learning (47%), cultural self-awareness (34%) and cooperativeness (32%), and that it helped students to recognize the value of cultural diversity (40%). Overall, results suggest that COIL may be a viable approach to developing interculturally competent global jinzai in domestic campuses.
Room C-345
叶尤奇
(YE-YUZAWA, Youqi)
日本で働く外国人材の職業的アイデンティティの縦断的変化:2年間の変化とその要因
2023年10月の時点で、日本で働く外国人労働者は200万以上に達しており(法務省, 2024)、職場のダイバーシティが加速化している。その背景の下に、高度な知識・技能を有する外国人材を対象とした研究が数多く行われており、彼・彼女らは日本で働く際に、文化・言語、職務内容、職場における人間関係、企業環境と制度という側面において様々な困難に直面していることが明らかになった(reviewed by 小松・黄・加賀美, 2017)。しかしながら、これらの研究では、日本で働く高度人材のキャリア発達のプロセスに着目する者が限られている。そこで、本研究では、中国にルーツをもつ高度人材の職業的アイデンティティ・ステイタスの経年的変化を明らかにし、その変化をもたらす要因を分析したい。
上記の目的を達成するために、2022年と2023年において、日本で働く中国にルーツをもつ高度人材を対象としたアンケート調査を実施し、2年間継続して協力した者は240名であった。対象者の内訳は、男性82名、女性155名、未回答者3名であった。2023年の調査の時点で、平均年齢は、32.02歳(SD=5.61)、日本での平均勤務年数は、4.89年(SD=3.81)であった。測定方法として、Porfeli他(2011) が開発した職業的アイデンティティ・ステイタスの評価モデルを用いて、調査協力者の職業的アイデンティティ・ステイタスを測定した。その結果、2022年の調査の時点の調査協力者の職業的アイデンティティ・ステイタスは、達成型、早期完了型、探索的モラトリアム型、モラトリアム型、無問題化拡散型、拡散型という6つのタイプに分類することができた。他方、2023年の調査の時点の調査協力者の職業的アイデンティティ・ステイタスは、達成型、探索的モラトリアム型、無問題化拡散型、拡散型のほか、探索型とコミットメントの同一化型という新しいタイプが存在することが判明した。さらに、2022年と比べて、2023年時点の達成型、探索的モラトリアム型に属する協力者数は増えていた一方、無問題化拡散型、拡散型に属している者の数は減少していた。と同時に、彼・彼女らの発達的ネットワークにおいても変化が見られた。以上の分析結果から、発達的ネットワークは職業的アイデンティティの変化に対して一定の影響を与えていることが考えられる。
11:00-11:30
Room C-343
勝又恵理子(Eriko Katsumata)、岡田麻唯(Mai OKADA)、栗田智子(Tomoko Kurita)
台湾の中学生と大学生ファシリテーターの国際協働学習を通じた平和教育の質的研究
A大学は、世界中の140カ国以上の教育者が参加する「International Education and Resource Network(iEARN)」に加盟しており、SDGsに関連するプロジェクトを通じて国際協働学習を推進している。iEARNの日本拠点であるNPO法人JEARNは、大学生向けに「JEARN Youth Project」を立ち上げ、大学生がファシリテーターとして国際協働学習に参加し、地球市民の育成を目指している。
本研究は、A大学の学生が「Machinto – Hiroshima/Nagasaki for Peace」プロジェクトの一環として、台湾の中学生を対象に実施したオンライン・ワークショップ「What is HEIWA?」に焦点を当てた。このワークショップでは、まず広島と長崎の原爆に関するビデオを視聴し、次に絵本『まちんと』を使って平和についてディスカッションを行った。ワークショップの最後には、参加者が戦争と平和をテーマにポスターを制作し、学んだ内容を視覚的に表現した。
先行研究として、村上(2009)の調査によると、中国、米国、日本の中学生の平和意識は、教育内容や国の状況によって異なるが、どの国の生徒も平和に貢献したいという意識が高いことがわかっている。このことから、国際協働学習を通じて平和について考え、意識を共有する場を提供することが、平和の実現に向けた重要なステップになると考えられる。
本研究の目的は、このワークショップを通じて台湾の中学生が戦争と平和をどのように認識したかを質的に分析し、平和教育の重要性を明らかにすることである。分析には、台湾の中学生が制作したポスターとその説明文をデータとして用い、質的研究手法を用いてMAXQDAでテキストデータ分析を行った。また、大学生ファシリテーターのポスターに対するコメントのデータ分析も実施した。分析は、ワークショップを通じて得た学びと、台湾の中学生の背景や経験がポスターにどのように反映されているかという二つの視点から行った。
台湾の中学生が描いたポスターには、戦争に対する否定的な認識と、平和を守りたいという強い意欲が表れていた。ポスターには、平和の象徴である「地球」や「ハト」、さらに「家族との団らん」といった日常生活の大切さが描かれていた。これらの結果から、台湾の中学生たちが自分たちの住む地域や家族、友人といった身近な生活と照らし合わせて、平和とは何かについて考える傾向が高いことがわかった。また、大学生ファシリテーターは、地球規模の課題として平和について考え、対象年齢に合わせたワークショップを企画し、ポスターへのコメントを行っていた。この研究により、大学生がユースファシリテーターとして平和教育のワークショップを行うことの意義と重要性が明らかになった。
Room C-344
Fern SAKAMOTO
“This event made me more open-minded and strengthened my humanity”:
A Human Library project
Students at a Japanese university organised a Human Library event as part of a seminar class focused on intercultural competence. At a Human Library event, participants (readers) borrow a human book (a speaker), and learn more about them through listening and conversation. Many of the speakers have experienced prejudice or stigma, and the aim of the event is to challenge stereotypes and “unjudge” through dialogue (see https://humanlibrary.org/).
The purpose of our student-led Human Library project was twofold: (a) to foster intercultural competence among students and the wider community; and (b) to cultivate in students other aspects of global competence deemed important to be “global human resources” in Japan. The project was conducted over an 8-week period, and students completed personal reflections each week and after the final Human Library event. The qualitative reflections were analysed using thematic content analysis based on Sakamoto’s global competence framework for Japan (Sakamoto, 2023). Results suggest that the project was effective in cultivating aspects of intercultural and global competence in all student participants. In this session, I will overview the project design and implementation and present the findings pertaining to student global and intercultural competence outcomes.
1:00-12:00
Living Within Diversity SIG
Raising Awareness of Diversity Identity Issues: Roundtable Materials Exchange Session
Language: Japanese & English
60 minutes.
One of the purposes of the Living Within Diversity SiG is to raise awareness of diversity issues. This year’s session will be a continuation of the 2024 LiDi Retreat in Biwako. Members will share activities they have used, and are interested in using, to raise awareness of diversity issues related to identity, nationality, ethnicity, ability and so on. We hope that participants will take away new ideas and share their own views of various diversity issues.
Living Within Diversity SiG(多様性研究会)の目的の一つは多様性の問題への意識を高めることです。今年度のセッションは琵琶湖で行われた2024年度のLiDiのリトリートから引き続き、アイデンティティ、国籍、民族性、能力等に関わる多様性への意識を高めるためにメンバーがこれまで使用してきた、または使用することに関心を示しているアクティビティを紹介します。参加者の皆さんが新しいアイデアを取り上げ、多様性に関する様々な問題に対するご意見を共有して頂ければ幸いです。
Presenting Members:
Associate Professor, Department of Global Studies, Nihon Fukushi University
カースティ祖父江 (日本福祉大学国際学部 (准教授)日本語教育センター (センター長)
冨岡 美知子Intercultural Communication & Diversity Trainer/consultant
Chisato Straumann, Corporate trainer/consultant (Culturally Speaking) & teacher (Kwansei Gakuin U.)
11:40-12:10
Room C-345
吉崎亜由美
(MUHAMMAD, Ayumi)
高等学校の地理総合における消滅危機言語に関する学びのデザインと生徒の変容
1.はじめに
参加型授業を通して、正しい情報に基づいて議論しながら、社会的な事象の地理的な見方・考え方を働かせ、市民的な美徳を育成することは、学習指導要領の地理総合の目標を達成すると同時に、文化背景を異にする人々との協力関係を育む異文化間教育の実践につながるのではないか。本研究では、地理総合における消滅危機言語に関する参加型授業を通して、生徒がどのように変容するのかを明らかにする。
2.研究方法
1)研究対象
2023年2月と2024年2月に、高校1年生対象の地理総合において実施した「消滅危機言語」をテーマとした参加型授業で使用したワークシート計113人分の内、【ワーク7】と【ワーク8】の問いを分析の対象とした。(吉崎、2024)
2)分析方法
本研究では、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下、M-GTAという)を用いて、「消滅危機言語に関する学びのプロセス」の分析を行う。M-GTAでは、人と人とが直接的にかかわり合う社会的相互作用の中で、複雑で常に変化しているプロセスを分析者の視点から明らかにする。(木下、2023)本研究では、M-GTAを用いて、消滅危機言語に関する学びを通した生徒の変容のプロセスを明らかにすることで、その結果を異文化間教育における社会の変容に向けた学びのデザインの改善に還元することを目指している。
3.結果と考察
M-GTAによる分析の結果、70概念、0サブカテゴリー、9カテゴリーが生成された。実践報告では、「消滅危機言語に関する学びを通して生徒が変容するプロセスの構造化」の表とその結果図を示し、「消滅危機言語に関する学びを通して生徒が変容するプロセス」について、カテゴリーを中心にストーリーラインとして示す。
4.変容のプロセスとその要因
本研究の結果から、消滅危機言語に関する参加型授業を通して、生徒の意識や行動が変容していくプロセスとそれに関わる要因が明らかになった。
授業で、「消滅危機言語」という言葉を知った生徒は、消滅危機言語の数に驚き、言語に関心を持つ。そして、教材で出会った消滅危機言語を話す少数民族が、植民地やグローバル化の中で、強制的に、あるいは、自ら言語や文化を失い、アイデンティティの危機に直面していることを知る。この厳しい現実を知り、「言語が消滅しても仕方がない」と考える生徒と「言語の消滅は差別や公正の問題」と考える生徒に分かれる。両者の違いは、少数民族への深い共感や共苦にあり、マジョリティである自分たちが変わらなければ、この現状を変えることができないことに気づく生徒も現れる。このように、教材で出会った見知らぬ他者への共感と共苦が、生徒の意識や行動を大きく変容させるのである。
Room C-343
藤岡美香子
(FUJIOKA, Mikako)
日本の多民族化 ― 変化する「日本人」観とミックスルーツを持つ日本人 ―
背景:国境を越えて移動し、新たな土地で生活基盤を築く人が増加している。長く「単一民族」の国という幻想のもとにあった日本でも、2022年6月末時点で外国籍住民が約300万人、これは全人口の約2.4%である。また、国際結婚も増加し、複数の国や地域にルーツを持つ「ミックスルーツ」の子どもは日本社会に現在50万人近くいるとされ(厚生労働省2017)、パリ五輪での「ミックスルーツ」の日本代表選手の活躍に「スポーツだけでなく、社会全体が日本人の定義を広げて理解するのが望ましい」との提言もある(石坂:熊本日日新聞2024年7月28日)。▼目的:多民族化が進行中の日本で、「日本人」であるために重要と考えられている要素を明らかにし、更に、現在の「日本人」像の中で生活する、ミックスルーツを持つ日本人の意識を理解することを通して、日本の多民族化の動きを考察する。現在の日本に暮らす人々が、「日本国籍を持ち、日本社会を構成し、日本語を話し、日本の文化を尊重、歴史を愛する人」と想定されてきた(佐竹:2021)「日本人」を、どのように捉え、どう認知しているのかを理解する試みは、多文化社会でのエンパワーメントにつながる有益なプロセスだと考える。▼先行研究:Pew Research Centerは2016年、14ヵ国を対象に「真の〇〇人であるために重要なこと」に関する意識調査を実施した(以後「PRC2016」)。日本では、成人約1000人を対象に、「日本語が話せる」「日本生まれである」「日本の習慣や伝統を理解している」の3要素が、日本人であるために、どの程度重要だと考えるかを尋ね、「日本語が話せる」「日本生まれである」が非常に重要という結果が出ている。一方、福岡(2024)は、多くの人が抱く日本人像は、「血統」「文化」「国籍」の3要素が揃った「純粋な日本人」であり、その中でも「血統」が重視されていると指摘したうえで、「日本人とは何か、定義不能で問題設定そのものが虚偽」としている。▼方法:(1)アンケート調査:PRC2016の3項目に「日本国籍を持つ」「人生で最も長く日本で生活している」「両親、または親の片方が日本国籍を持つ」「本人が『自分は日本人である』と考えている」の4項目を加えて実施、約200名から回答。(2)聞き取り調査:ミックスルーツを持つ日本人を対象に、「日本人」観や現在の日本で暮らすことについて尋ねた。▼結論:本研究のアンケート調査では、PRC2016と異なり、「日本人」であるために、1)日本という土地空間との繋がりは重要ではない 2)国籍の所有と本人の認識が重要だという傾向が明らかとなった。ミックスルーツの日本人への聞き取り調査では、「〇〇人」という分類にはこだわりが薄いという共通点が見られ、「日本人」観において本人の認識が重視される傾向の中、興味深い矛盾が浮き彫りとなった。
Room C-344
Hideko SHIMIZU,
Xianmin LIU
Cultural Practices: Uncovering Shared Values in Diversity
This presentation reports on a course "Cultural Practices of Tai Chi and Ikebana," offered in Spring and Fall 2024, exploring how these practices reveal shared values that transcend cultural differences. By integrating Tai Chi and Ikebana into the curriculum, we aimed to foster a deeper understanding of universal principles among students, cultivating global citizenship and intercultural competence. Tai Chi and Ikebana, despite their distinct cultural origins, share remarkable parallels in their philosophies, emphasizing harmony, balance, mindfulness, and the interconnectedness of humans with nature. These core principles are fundamental to personal well-being and societal cohesion. Through hands-on practice, theoretical exploration, and reflective assessment, students immersed themselves in the intricacies of these cultural forms. Our pedagogical approach involved a comprehensive examination of Tai Chi and Ikebana, including historical and cultural contexts, philosophical underpinnings, cross-cultural comparisons, contemporary applications, and intercultural communication. By engaging students in both physical practice and critical discourse, we cultivated a nuanced understanding of how these cultural practices embody shared human values. To assess our approach, we collected data through student performance observations, presentations, reflective essays and interviews. Preliminary findings suggest that students developed a profound appreciation for the aesthetic and philosophical dimensions of both practices and an increased capacity to identify and articulate shared values across cultures. By uncovering the common ground between seemingly disparate traditions, we aim to challenge stereotypes and foster a more inclusive and interconnected world. Through Tai Chi and Ikebana, students gained a deeper understanding of interplay between individual and collective identities, and importance of respecting and diverse perspectives. We anticipate that our findings will contribute to innovative pedagogical approaches promoting cultural understanding and global citizenship. By sharing our experiences and insights, we hope to inspire educators to explore similar interdisciplinary approaches. Ultimately, our goal is to cultivate a generation of students who are equipped to thrive in an increasingly interconnected and diverse world with empathy, wisdom, and open-mindedness.
Room C-345
田中真奈美 (TANAKA, Manami)
金子 龍司 (KANEKO, Ryoji)
前田啓介 (MAEDA, Keisuke)
パラオにつながる人々の特徴 ― 沖縄パラオ友の会を事例として
1.はじめに
第一次世界大戦後のパリ講和会議により、パラオは日本の委任統治領になった。パラオの開発が進行すると、多くの日本人が新天地を求めて移住した。日本人が集まり集落を作り、生活していたので、現地の人々との交流もほとんどなかったが、現地生まれの2世たちはパラオとの繋がりを現在でも大切にしている。
本研究は、「パラオ出身の日本人のアイデンティティ」の特徴を明らかにすることを目的とし、沖縄のパラオ友の会の人々に聞き取り調査を実施した。
2.研究方法
2022年12月と2023年12月にパラオ友の会の月例会を中心に視察し、聞き取り調査をした。調査できなかった会員には、会長にビデオ撮影をしてもらった。調査対象者は、パラオ友の会の会員である。
視察から得られた情報と動画を含む聞き取り調査の結果から、パラオ友の会に所属するパラオで育った人々の特徴を検証し、分析・考察した。
1) パラオ友の会
パラオ友の会の前身は、1983年5月10日に設立された沖縄パラオ会である。設立当初は1,000人の会員がいたが、2007年には、会員が4分の1に減少したため、解散した。しかし、解散後、元会員の多くから、集まる場所が必要という希望があり、「パラオ友の会」が設立された。現在では、パラオだけでなく南洋諸島出身者も参加している。
3.結果
パラオ友の会は、毎月8日を月例会の日とし、集まりを継続している。月例会以外の行事として、毎年6月23日に開催される南洋諸島慰霊の日の他、4年に1度パラオ、2年に1度日本の各県で慰霊祭を実施している。しかし、会員の高齢化により、継続できるかどうかは、難しいとのことであった。
パラオでの生活は、戦争が始まるまでは、日本と遜色がなかった。学校も日本人村の中にあった。沖縄人に対する差別の厳しい時代だったが、小学校では、クラスの約3分の2が沖縄人で、級長も副級長も沖縄人だったので、差別はできなかった。
開戦により、生活は一変した。一番大変だったのは、食料がなかったことである。女性と青年は、芋作りをしたが、芋は兵士用に没収され、芋の蔓や蝸牛を煮て食べた。餓死した子どもや兵士も多くいたそうである。
終戦後、沖縄に戻り、生活を再建した。会長は、「色々な経験があって今があるので、互いを思いやるためにも定期的な集まりは、大切であるため、今後も続けていきたい」と話してくれた。
4.考察・まとめ
本研究から、戦前、戦中、戦後と激闘の時代を共にした人々には、「戦友」の意識があり、共通の経験を語り合うことが大切であることがわかった。また、会員のつながりの深さには、沖縄独特の「もあい」の文化が影響しているのではないかと推測できる。パラオ友の会でも、「もあい」が行われている。沖縄の特徴を明らかにするため、他地域での聞き取りを含め、調査を継続していきたい。
10:45-12:35
Special Interest Group - CCM Contrast Culture Method
Room 331
(60 min.) Language: English
Learning to deal with student diversity
As our society changes and develops, acceptance of diverse identities and ways of thinking is becoming more commonplace. One environment where this is evident is in the classroom, a place where learners interact and multiple identities co-exist alongside each other. However, this leads to the issue of whether all educators are prepared to embrace students with a broad range of identities and whether this is reflected in their pedagogy and classroom management techniques.
This Contrast Culture Method workshop examines these issues by highlighting contrasting values among educators through a live performance. Participants are welcome to join CCM practitioners in watching the live scenario and interviews, then engage in discussion about the relevant issues that were raised and their reflections of them.
生徒の多様性への対処法を学ぶ
社会が変化し発展するにつれ、多様なアイデンティティや考え方を受け入れることがより一般的になっています。これが顕著に表れる環境の 1 つが教室です。教室は学習者が交流し、複数のアイデンティティが共存する場所です。しかし、これはすべての教育者が幅広いアイデンティティを持つ生徒を受け入れる準備ができているかどうか、そして、それが教育法や教室管理手法に反映されているかどうかという問題につながります。
このコントラスト カルチャー メソッド ワークショップでは、ライブ パフォーマンスを通じて教育者間の対照的な価値観を浮き彫りにすることで、これらの問題を検討します。参加者は、CCM プラクティショナーと一緒にライブ シナリオとインタビューを視聴し、提起された関連する問題とそれに対する考察についてディスカッションを行います。
LUNCH BREAK
12:10-13:20
14:00 - 15:30 基講演 Keynote (Japanese) Room C-183
共に生きる社会をめざして 〜 NPO法人エルファの活動から〜
南 珣賢 (ナムスンヒョン)
NPO法人京都コリアン生活センターエルファ事務局長
Striving for A Society in which We Can Live Together: From the Activities of Elfa
Nam Sunhyon (Director of Kyoto Korean Activies Center LFA)
15:40 - 16:10
Room 363
鈴木有香 (SUZUKI, Yuka), 岸田典子 (KISHIDA, Noriko)
オンライン版エコトノスの学習効果測定:『異文化意識開発プロファイル』を使って
1.背景と目的
異文化シミュレーション「エコトノス」は架空の異文化接触を体験し、将来起こる状況に対処する能力を伸ばす学習活動としてD. H. Saphiereによって開発された。その後、1990年代後半に八代と異文化コミュニケーション学会のメンバーによって「エコトノス(日本語短縮版)」(八代 2019)が開発され、2021年には「エコトノス(オンライン版)」が開発され試行された(鈴木2022)。
これまでオンライン版の学習効果については以下の検証がされた。①研修前後で異文化感受性発達モデル(6段階)の簡略化した質問への回答分布の変化から、自文化中心主義段階から文化相対主義段階への意識変容が有意に確認された。②異文化接触直後に作成されたプロセスマップの分析から、異文化に対する好ましい意識変容が確認された(鈴木・岸田,2022)。③研修後の質問紙調査の自由記述の内容分析及び、受講後海外赴任した5名への半構造インタビューの内容分析から、研修転移の可能性が示された。(鈴木・岸田,2024)。
今回は「異文化感受性発達尺度」(山本, 2022)を基に山本が開発した『異文化意識開発プロファイル(DPIC)』を研修前後に実施し、受講生の異文化感受性の変化と学習効果を検証することを目的とする。DPICは、日本の文脈から「知覚対象としての差異を情報処理する構造発達に注目しながら」異文化感受性発達モデルを再定義したものである(山本, 2022)。この尺度は、自文化中心主義段階(無関心、防衛、最小化)と文化相対主義段階(相対化、共創)の計5つの発達レベルを設置している。自文化中心主義の各レベルの得点は低いほどよく、文化相対主義の各レベルは高いほどよいことを示している。
2.方法
調査対象者は2023年5月から2024年2月にオンライン版を受講した海外赴任予定者196名で、研修の前後にITと質問紙調査を実施した。受講生の研修前後のITの変化にはWilcoxonの順位検定、また学習効果と属性の関係についてはχ2検定とケンドールの順位相関係数で検定した。
3.結果
①全体での事前と事後のピークの分布を見ると、ピークが自文化中心主義段階の人が減少し、文化相対主義段階の人が上昇したことが有意に確認された。またピークのレベルが上昇したのは、計75名(38.3%)である。ピークが事前で自文化中心主義だった人で、事後が文化相対主義に上昇する段階の変化を起こした人は、40名(20.4%)である。
②事前事後比較では、自文化中心主義の平均点の減少が138名(70.4%)、文化相対主義の平均点の上昇が140名(71.4%)に学習効果が確認された。
③異文化感受性レベルの上昇に有意な属性としては、赴任国、業務上のオンライン頻度、赴任在住経験などが散見されたが、業種、職位、年齢などは無関係であった。
Room 364
Katharine OKUMURA
Evolving intercultural relations in Japan: An investigation of the desire to interact with foreign residents
What drives people to interact with those of different cultural backgrounds? Allport’s (1954) contact hypothesis, positing that intergroup contact may reduce prejudice under certain conditions, has been extensively supported (Pettigrew & Tropp, 2006) and extended (Vezzali & Stathi, 2017). However, while the results of intergroup contact have received continued scholarly attention, the factors that may promote positive intergroup interaction are still under-researched (Meleady, 2021). This is a particularly pertinent issue for Japan. Once known as a country closed to immigration (Komine, 2018), Japan is now entering a new era of accepting foreign workers and residents. Japan’s foreign population is still small compared with nations with official immigration policies and as a result contact with foreign residents is relatively rare (ILO, 2019). However, in recent years the Japanese government is moving to accept larger numbers of foreign workers and extend their period of stay (Benoza, 2024). By 2023, the total number of foreign residents reached a record high 3.41 million people (Immigration Services Agency, 2024). As the Japanese working-age population continues to decline and labor shortages become more serious, this number is projected to increase (Ministry of Land Infrastructure Transport and Tourism, 2019). Inevitably, the potential for contact with foreign workers and residents will become greater in Japan. The current research has two aims: (1) to understand the current state of interaction between Japanese and foreign residents (2) to explore conditions and factors that may influence the desire for Japanese residents to interact with foreign residents. In fieldwork in the Tohoku and Kansai regions from 2021 – 2024, in-depth semi-structured interviews were conducted with five groups: Japanese employers of foreign workers; Japanese workers sharing a workplace with foreign workers; officials from local organizations supporting foreign residents; Japanese residents in a multicultural community; and foreign workers from Vietnam, Indonesia, China, and Myanmar. This research has found that while foreign workers display an expectation of developing friendships with Japanese people, a number of factors and conditions on the part of Japanese workers and residents may be precluding meaningful interaction with foreign residents, including patriarchal relationships in the workplace, apprehension about language difficulties, cultural differences in recreational customs, and significant age gaps.
Room 365
岡田麻唯 (OKADA, Mai)
国際協働学習のファシリテーター実践を通した大学生のファシリテーション能力育成
本研究の目的は、大学生が小中高生の国際協働学習を促進するファシリテーターになる実践経験を通して、その役割をどのように捉え、ファシリテーション能力を伸ばしていくのかについて調査するものである。
先行研究では、授業内のグループ学習におけるファシリテーションの学習効果(白井・鷲尾・下村,2013)やファシリテーター研修を受けたTAを対象に、ファシリテーター育成プログラムのスキル評価開発を検討したもの(武田,2017)などがあるが、授業や研修外で実践的にファシリテーターを行った研究は見当たらず、今後の大学生のファシリテーター育成に活かすためには、本研究は意義があると考える。
研究対象者は、2023年にA大学の国際協働学習クラスにて、JEARNのYouth Projectに参加し、ファシリテーターを行った25名の大学生である。JEARNは、オンラインネットワークを介して世界中の子供たちの協働学習を運営する非営利団体iEARN(International Education and Resource Network)の日本センターであり、大学生が小中高生のファシリテーターとなり、国際協働学習を促進するYouth Projectを行っている。今回は、自国の文化を紹介できるものを送りあうCultural Package Exchangeプログラムに参加し、台湾の中学生・日本の小学生と高校生を対象に大学生が台湾と日本の学校をつなぐファシリテーターを担った。主に、文化紹介の動画作成や英語のサポートを行った。事前準備では大学生同士、グループワークを通してファシリテーターの学びを深めた。事前準備から本番までの実践を通して、ファシリテーターの役割をどう捉え、学びを深めたのかに着目した。分析には、学生が毎回の授業後に提出したリフレクションシートを用いてMAXQDAにて質的データ分析を行った。分析の結果、ファシリテーターは、①参加者に寄り添うこと、②目的達成に向けて話しあいを調整することが重要な役割として捉えられていることがわかった。①では、単に進行役に徹したり、自分の意見を押し付けたりするのではなく、場の雰囲気作りに配慮し、メンバー全員が発言できるよう意見を引き出すこと、②は、目的達成に向けて時間やスケジュール管理など、進行を適切にコントロールし、柔軟に対応することが求められると考えていた。これらの学びは、事前準備のグループワークと小中高生のファシリテーターとなる経験を重ねることで得られており、ファシリテーション能力の育成には実践経験が重要であることが明らかとなった。
Contrast Culture Method Special Interest Group - CCM
15:40-16:40 (60 minutes, English)
Learning to deal with student diversity
As our society changes and develops, acceptance of diverse identities and ways of thinking is becoming more commonplace. One environment where this is evident is in the classroom, a place where learners interact and multiple identities co-exist alongside each other. However, this leads to the issue of whether all educators are prepared to embrace students with a broad range of identities and whether this is reflected in their pedagogy and classroom management techniques.
This Contrast Culture Method workshop examines these issues by highlighting contrasting values among educators through a live performance. Participants are welcome to join CCM practitioners in watching the live scenario and interviews, then engage in discussion about the relevant issues that were raised and their reflections of them.
生徒の多様性への対処法を学ぶ
社会が変化し発展するにつれ、多様なアイデンティティや考え方を受け入れることがより一般的になっています。これが顕著に表れる環境の 1 つが教室です。教室は学習者が交流し、複数のアイデンティティが共存する場所です。しかし、これはすべての教育者が幅広いアイデンティティを持つ生徒を受け入れる準備ができているかどうか、そして、それが教育法や教室管理手法に反映されているかどうかという問題につながります。
このコントラスト カルチャー メソッド ワークショップでは、ライブ パフォーマンスを通じて教育者間の対照的な価値観を浮き彫りにすることで、これらの問題を検討します。参加者は、CCM プラクティショナーと一緒にライブ シナリオとインタビューを視聴し、提起された関連する問題とそれに対する考察についてディスカッションを行います。
16:20 - 16:50
Room 363
中川典子
(NAKAGAWA, Noriko)
加害者と被害者の視点からマイクロアグレッションを考えるー大学生を対象にした質問紙調査の結果からー
本発表の目的は大学生を対象に実施したマイクロアグレッションに関する質問紙調査の結果をもとに、日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッションを彼・彼女らがどのように捉えているかについて、加害者と被害者の視点から検討することである。デラルド・ウィン・スー(2020)の議論を踏襲しながらも、本調査ではマイクロアグレッションを「無意識の偏見や思い込みが言葉や態度に現れ、否定的なメッセージとなって伝わり意図せず誰かを傷つけてしまう日常の中の些細な言動」と定義する。調査対象者は発表者が担当した「異文化間コミュニケーション論」を受講したA大学の学生88名である。まず、9割近くの学生が授業で学習するまで「マイクロアグレッション」について知らなかったと回答した。
本調査では4つの調査質問を設定した。以下にその結果を記す。RQ1「過去にコミュニケーションの相手から言われて嫌だった内容と当時、どのような対応をしたか」について、対象者中、マイクロアグレッションの経験があると回答した約6割の学生から回答を得た。その内容として「個人の所属や出自に対するステレオタイプ」「個人に対する勝手な思い込みや偏見」「容姿や外見」「個人の言動や価値観の否定」「ジェンダー」といったテーマが浮かび上がった。その際取った対応は「受け流した」「事実を伝えた」「何も言えなかった」「冗談や皮肉で返した」等であった。RQ2「悪気はなかったもののコミュニケーションの相手を嫌な気持ちにさせてしまった経験はあるか。ある場合、どのような内容だったか」については、6割を超える学生が「ある」と回答した。その内容は「個人の状況や事情に対する無配慮」「個人の所属や出自に対するステレオタイプ」「自身の言動や価値観の押し付け」「個人の容姿や外見に対するコメント」「個人の言動や価値観の否定」「個人に対する勝手な思い込みや偏見」「マイクロアグレッションをした記憶」であった。RQ3「今後、自身がマイクロアグレッションをしないためには、どうすれば良いと考えるか」については「相手に寄り添う」「コミュニケーション」「ステレオタイプ化やカテゴリー化からの脱却」「マイクロアグレッションの意識化」「幅広い視野と知識の獲得」「失敗後の相手に対するケア」に関する回答があった。最後にRQ4「今後、自身がマイクロアグレッションを受けた場合、どのように対応したいか」については「積極的対応」「消極的対応」「状況に応じた対応」「自身の体験を反面教師とする」「第三者に話したり相談したりする」等の回答があった。
今回の調査結果から、このテーマに対する学生の意識が加害者と被害者の立場から考えることで高まったことが示唆された。紙幅の関係上、上記では対象者の回答から浮上したテーマの名称のみを記載したが、発表では対象者の回答とともにその詳細について報告する。
Room 364
Samuel NFOR
Integrating Intercultural Awareness Activities in the EFL Classroom: Why is it Important?
Although communicative language teaching is contextualized and linguistically adjusted so that learners may attain communicative competence, communication may be inadequate unless accompanied by facets of culture that could help learners gain intercultural awareness. Intercultural awareness is summarized as understanding how different cultures express meanings and values (Hofstede 2005: 1-37). The assumption that communication may be inadequate unless accompanied by facets of culture can be explained partly by increased contact with people from various cultural backgrounds. In addition, advances in technology have shrunk national international borders, and have successively been bringing together people from different cultural and linguistic backgrounds, thus have created universal interconnectedness. Intercultural communication scholars advocate intercultural awareness be a core component of English language teaching in preparing learners for intercultural communicative competence, defined as “the ability to interact with people from another country and culture in a foreign language” (Byram, 2021, p. 5). Based on Byram’s model of intercultural communicative competence, this presentation discusses activities often integrated in the presenter’s English as foreign language (EFL) instruction that could promote intercultural awareness among Japanese EFL learners. The presentation concludes that integrating intercultural awareness activities in the EFL classroom is more that simple exchanges intended to help learners survive in a foreign culture. Rather intercultural awareness activities involve building relationships in the EFL classroom to enable learners thrive in a foreign culture.
Room 365
古村由美子
(FURUMURA, Yumiko)
アンガーマネジメントを取り入れたコミュニケーション教育実践について
本発表では、2023年度秋学期において4年生対象(15名)に実施した、コミュニケーション教育についての実践報告を行う。
本研究にて実践したコミュニケーション教育は、人間関係上のトラブルが発生した際の怒り感情コントロールに焦点をあて、異なる考え方を持つ人と対立した際に、どのように怒り感情をコントロールし、その葛藤場面で相手とどのように適切にコミュニケーションすればよいかを考え、体験することを目的とした。
本プログラムは、「自己との対話」及び「他者との対話」という2軸から構成される。自己との対話では、価値観の異なる相手との葛藤場面で生じる認知に焦点をあて、それへの気づきと変容を通した感情のコントロール力を身につける。他者との対話では、同様の葛藤場面において傾聴とアサーションによるコミュニケーション力を養い、葛藤を抱えながら相手との建設的な相互作用を作り出すことを目指す。前述した各項目に関連する異文化コミュニケーション学の理論の理解を図った後に、具体的事例を用いて対話に必要な実践的トレーニングを実施する。本研究は、令和2022年度科学研究助成金研究C(課題番号:22K02267)の助成を受けており、その研究結果の一部を下記に示す。
学生が書いた6回分のReflectionの概略は、1)自分の感情への向き合い方について:同じ怒りの感情でも、年齢や性別、過去の経験によって度合いや感じ方、表現の仕方が異なると分かった。また、初めて自分の感情を意識化した。2)ストレスについて:自分のストレッサーとそれに対する反応を分析し、どう対処していくかを知ることができた。普段無意識のうちにストレス反応を起こしているのだと気付いた。3)コミュニケーションスタイル:日本がどれほど高文脈文化であるのかを実感した。ワークをして気づいたが、特にアルバイトをしている時、無意識に「Hi Context」と「Low Context」を使い分けていた。英語では直接的だと考えられがちだが、外国人に対して何事もはっきり言えば良いというわけではなく、相手に対する配慮が必要であることを学んだ。4)対立のある状況での解決案を演じるロールプレイ:日本人の特徴でもある、ものごとを曖昧にしてしまう言動に気を付け、特に仕事などの場面でははっきりさせる必要がある。相手のことばかり優先するのではなく、しっかりと思いを伝え、問題を解決していく必要がある。
以上の概略により、対立が起きた際に、問題解決を阻む原因に日本人特有のコミュニケーション方法があることがわかり、柔らかい言葉でどのように解決するかについて、自ら考え実践することができたようである。
11:00-12:00
Special Interest Group - LiDi Living in Diversity
Room 472, 60 minutes
Language: Japanese & English
Raising Awareness of Diversity Identity Issues: Roundtable Materials Exchange Session
One of the purposes of the Living Within Diversity SiG is to raise awareness of diversity issues. This year’s session will be a continuation of the 2024 LiDi Retreat in Biwako. Members will share activities they have used, and are interested in using, to raise awareness of diversity issues related to identity, nationality, ethnicity, ability and so on. We hope that participants will take away new ideas and share their own views of various diversity issues.
Living Within Diversity SiG(多様性研究会)の目的の一つは多様性の問題への意識を高めることです。今年度のセッションは琵琶湖で行われた2024年度のLiDiのリトリートから引き続き、アイデンティティ、国籍、民族性、能力等に関わる多様性への意識を高めるためにメンバーがこれまで使用してきた、または使用することに関心を示しているアクティビティを紹介します。参加者の皆さんが新しいアイデアを取り上げ、多様性に関する様々な問題に対するご意見を共有して頂ければ幸いです。
Presenting Members:
Associate Professor, Department of Global Studies, Nihon Fukushi University
カースティ祖父江 (日本福祉大学国際学部 (准教授)日本語教育センター (センター長)
冨岡 美知子Intercultural Communication & Diversity Trainer/consultant
Chisato Straumann, Corporate trainer/consultant (Culturally Speaking) & teacher (Kwansei Gakuin U.)