マンドリル (Mandrillus sphinx) はアフリカ大陸中部の熱帯林に生息する果実食性霊長類です。ライオンキングなどの映画や図鑑にもよく登場するなかなかの有名キャラですが、実は野生での生態はあまりよく知られていません。顔と臀部に鮮やかな赤と青の装飾をもつとても美しい彼らには、実はもう一つの特徴的な「顔」があります。それは、霊長類で最大の300-800頭の集団で暮らすということです。私は大学院修士の2009年以来、ガボン共和国のムカラバードゥドゥ国立公園で野生マンドリルの行動生態を研究しています。
大集団の社会構造とは?食物資源が季節的に変わる熱帯林でどうやって大集団を維持しているのか?そして、これほど大きな集団で暮らす適応的意義とは何か?知られざるマンドリルの基礎的な生態を明らかにしたうえで、これらの謎を解きたいと考えています。
マンドリルの大集団の社会構造について、一夫多妻の小グループがたくさん集まった「重層社会」であるという説と、そうではない「単層の複雄複雌社会」であるという説が対立していました。私は、マンドリル集団の行列をカウントして個体数と性年齢構成を調べることで、マンドリルは性比が大きくメスに偏った単層の複雄複雌社会をつくっていると結論しました。この研究は「Primates」誌に掲載されました。
マンドリルでは「多くのオスが季節的に集団を出入りする」という霊長類としては珍しい行動があることが知られていました。私たちは2年間のカメラトラップ調査で得られた映像を分析し、メスの繁殖とオスの流入の季節性について野生のマンドリルでは初めて定量的に明らかにしました。多くのメスは乾季に発情し、果実がたくさん実る雨季に出産していました。出産期の集団には成獣オスがわずかしかおらず、一方で発情期に成獣オスの数は約7倍、 亜成獣オスの数は約2倍に増えていました。さらに、流出入のタイミングと発情メスをメイト・ガードできるかどうかはオスの年齢によって異なっており、成獣オスが亜成獣オスに対して有利であることが示唆されました。この研究は「International Journal of Primatology」誌に掲載されました。
言わずと知れた、日本の固有種ニホンザル。日本人霊長類学者が50年以上研究してきた北限のサルです。私は学部の卒業研究で嵐山モンキーパークいわたやまのニホンザルを対象に、彼らの見回し行動を研究をしていました。
動物はその場の状況に適するように行動を調節します。嵐山のニホンザルが、おかれている状況によって見回し方を変えているかを調べました。その結果、彼らは状況に応じて移動中の一時停止の時間や頻度、見回す頻度や素早さを変えていました。ニホンザルは(私たちヒトもそうであるように)状況を判断して行動を変化させることができると考えられます。この研究は「霊長類研究」誌に掲載されました。