群れの他個体に対する見回し行動は、社会的警戒と周囲個体の行動モニタリングの二つの機能があるとされる。個体は、資源や他個体の数などといった状況によって、この二つの機能を使い分けているだろう。状況によって見回し行動のパターンに違いがみられるかを調べるため、わたしは嵐山の餌付け群ニホンザル (Macaca fuscata) を対象に、移動中の一時停止および見回し行動を調べた。
ビデオカメラを用いて個体の移動を記録し、「餌撒き前」「送り」「自由遊動」の3つの場面間で、停止と見まわし行動を比較した。3つの状況間では、資源の量と質に加え周囲個体数が異なっていた。
他個体が多く集まる餌場へ向かって移動する「餌撒き前」の場面では、移動中の個体は停止したり見回したりすることがほとんどなかった。社会的警戒の必要性が高まると考えられる「送り」の場面では、移動中の個体は短時間の停止を行い、比較的狭い範囲を素早く見回していた。それに対し、他個体の行動モニタリングが必要とされるであろう「自然遊動」の場面では、移動中の個体はより長い時間停止し、比較的広い範囲をゆっくりと見回していた。
これらの結果から、状況の違いによって見回し行動のパターンが変化することが明らかになった。ニホンザルは場面に応じて、見回し行動のパターンを調節していると考えられる。