島根県社会科教育研究大会中学校 研究構想
(出雲市社会科教育研究会)
1. 大会主題 地域に学び、未来を共に拓く生き方を問い続ける社会科学習
~互いに関わりながら、主体的に考え、追究する力の育成を目指して~
中学校研究主題
深い学びを実現する生徒の育成
~三分野特有の資質・能力を設定した授業づくりを通して~
2.研究構想
(1) はじめに
我が国の子供たちには、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べたり、説明したりすることに課題があると指摘されている。また、自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度、社会参画の意識等が国際的に見て相対的に低いという課題も指摘されている。
現在は、大規模な自然災害の発生、感染症の拡大、IT技術の急速な進化、少子高齢化やグローバル化の進展など、以前は想像できなかったことが、スピード感をもって次々と同時発生的に生じる時代であり、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字をとって、VUCA(ブーカ)といわれる、予測困難な時代でもある。
このような時代にあるからこそ、従前から言われてきた、生涯にわたって学び続け、他者と協働しながら正解のない問いに対応していくことが一層重要になると捉えている。
現行の学習指導要領においては、学校教育が長年その育成を目指してきた「生きる力」をより具体化し、教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力として、「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く『知識・技能』の習得)」、「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力等』の育成)」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする『学びに向かう力・人間性等』の涵養)」の三つの柱に整理された。各教科等の目標や内容についても、この三つの柱に基づいて再整理されている。
(2) 目指す生徒の姿
教育基本法には、教育の目標の一つとして、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うことがあげられている。現行の中学校学習指導要領では、社会科の目標として、小・中学校一貫して「公民としての資質・能力の基礎」を育成することが示されている。「公民としての資質・能力の基礎」は、社会科の究極のねらいを示しており、国家及び社会の形成者として必要な資質・能力を育成することの大切さを示している。
また、学習指導要領がこれまでのコンテンツ(内容)ベースからコンピテンシー(資質・能力)ベースへ、インプット志向からアウトカム※志向へと方向性を示していることを踏まえ、出雲市社会科教育研究会中学校社会科部では、社会的事象を自分事としてとらえながら、実生活や実社会に関わろうとする意欲や態度をもち、学習内容を深く理解し、資質・能力を身に付けた、生涯にわたって能動的(アクティブ)に問い続けることができる生徒の育成を目指すこととした。
※「アウトカム」は「インプット」したものを活用しながら表現すること、「アウトプット」は「インプット」したものをそのまま出すこと。
(3) 大会主題・研究主題との関わり
① 大会主題との関わり
大会主題は、全小社研と同様に、地域に学び、未来を共に拓く生き方を問い続ける社会科学習 ~互いに関わりながら、主体的に考え、追究する力の育成を目指して~ である。
・「地域に学び」について
学習指導要領に示されている「教えたい内容」と、子供たちが「知りたい」「考えたい」こととが合致しているとは限らない。「教えたい」ことを子供の「学びたい」に転換するものの一つが、地域の特殊性や一般性のある事象である。地域とは、校区や市町村、県などの行政区域だけを示すものではなく、子供と暮らしの中でつながっている場も地域と捉えている。校区や市町村、県などの行政区域も考慮しながら、子供の暮らしの場での学習活動を大切にすることを表している。このことによって、「何のために活動(学習)するのか」という目的意識をもった学習活動の成立を目指したい。
・「未来を共に拓く」について
社会科は長らく「内容教科」や「暗記教科」と言われてきた。それは、事実を教え、個別具体的な知識を問うことで評価することが多かったことによる。しかし、本来は戦後の教育改革の中で「現実社会の問題を、探究しながら解決していく」教科として新設されたものである。現行の学習指導要領のもとで、現実社会を生きていくうえで使える資質・能力を育成する教科と位置付けられたことは、社会にある課題に気づき、解決のために考える活動や、課題に関わる人々の願いや思いにふれ、仲間と話し合う活動や、考えをまとめ表出する活動までを含めて「未来を共に拓く」姿と捉えたい。
・「問い続ける」について
「問い続ける」とは、誰かに求められて行うものではなく、「自らの意欲に支えられた力」が自然に発揮されている状態である。予測不能な現代社会にあって、誰かが絶対的な知識や方法を与えてくれるものではなく、一度習得した知識や見方・考え方についても修正や変更が求められることがしばしば発生する。学習終了後もあつかった社会的事象に関心をもち、追究・検証し続ける態度を育てることは、育成を目指す資質・能力のひとつである、『学びに向かう力・人間性等』の涵養とも軌を一にするものと考えている。
② 研究主題との関わり
研究主題は、深い学びを実現する生徒の育成 ~三分野特有の資質・能力を設定した授業づくりを通して~ である。
「深い学び」とは、各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりする学習過程を重視した学びである。
「深い学び」を実現している生徒の姿として表出するのは、知識・技能を習得する姿、知識・技能を活用する姿、思考して問い続ける姿、自分の思いや考えと結びつける姿、自分の考えを形成する姿、知識や技能を概念化する姿等であると想定している。出雲市教育研究会中学校社会科部では、これらが表出するような授業改善に取り組みたいと考えた。
中学校社会科の各分野の目標は、社会科の目標構成と同様に、柱書として示された目標と、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱に沿った目標から成り立っている。
しかし、各分野の中項目においては、身に付けるべき知識や思考力、判断力、表現力等は明示されているものの、育成を目指す資質・能力の柱の一つである「学びに向かう力、人間性等」に関する記述はない。
私たちは、単元を構成する際、各分野の目標を達成するために記述されている、「学びに向かう力・人間性等」の柱に沿ったねらいも意識しながら、授業を構成していく必要がある。そこで、研究主題のサブタイトルに「三分野特有の資質・能力を設定した授業づくり」を掲げ、出雲市教育委員会が推奨し、市内の全小・中学校での定着を目指している「めあてと振り返りを意識した授業スタンダード」を活用して、単元を通して育成を目指す資質・能力とは何かを明確にし、単元の中の1単位時間である授業を考えていくこととした。
「めあてと振り返りを意識した授業スタンダード」とは、単元や授業を構想する時の手順を示した「構想シート(メモ)」である。指導者が、本時の学習課題が、どの既習事項と繋がっているかを事前に把握することや、目標を達成したときの生徒の姿をイメージすることを大切にしている。この考え方をこれまで研究で取り組まれてきた、「単元構造図」や「単元を貫く問い」づくりと結びつけることで、深い学びを実現する生徒の育成につなげていきたい。
資質・能力には、三分野に共通したものや、分野や単元に特有なものもあると考えているので、慎重に吟味したうえで単元を構想していきたい。その際、社会科学習の本質である「社会を知る」、「社会を理解する」、「社会に関わる」学習内容を取り扱うことから、教材の選定が大きな意味を持つこととなることも想定している。
また、学校では教員の大量退職時代を迎え、多くのベテランが授業の第一線から退くとともに、若手が増えている現状がある。新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの教育活動に制限が加えられたここ数年の間は、集合型の研修や、授業研究会の機会等が減少し、世代や学校、校種を超えて社会科の授業を改善していくという機運に陰りが見られたようにも感じている。日々の授業をどのように進めていくかが課題となっている状況も存在する中、授業づくりに「めあてと振り返りを意識した授業スタンダード」を活用することは有効であると考えている。
(4) 研究目標
社会科における三分野特有の資質・能力を育てるために、社会的事象を自分事として捉え、社会に関わる意欲と意識をもつ生徒を育成する。
「めあてと振り返りを意識した授業スタンダード」を活用して単元や授業を構成することで、深い学びを実現する生徒を育成する。
(5) 研究仮説
社会科における三分野特有の資質・能力を設定した授業づくりに、「めあてと振り返りを意識した授業スタンダード」を活用すれば、社会的事象を自分事と捉え、生涯にわたって能動的(アクティブ)に問い続ける生徒の育成が図れるであろう。
(6) 研究内容
① 「めあてと振り返りを意識した授業スタンダード」の活用
授業改善に活用したいと考えている、「めあてと振り返りを意識した授業スタンダード」は【図Ⅰ】のようなイメージである。学力向上を実現するためのひとつの方法として活用できると考えている。
出雲市内においては、これまでも各教科において授業実践は積み重ねられてきているが、教師側の「目標」と「まとめ(目指す
生徒の姿)」、生徒側の「めあて」と「振り返り」が『正対する(整合性がある)』部分の分析に力を入れた授業実践は少ない。
出雲市教育研究会中学校社会科部では、この『正対する』に着目して、授業改善に取り組んでいく。
その際、授業は単元の中の1単位時間であることを念頭に置き、「単元構造図」や「単元を貫く問い」づくりと結びつけることにも留意することとする。
② 三分野特有の資質・能力を踏まえ、単元を通して育成したい資質・能力を明確にした授業づくりを行う。
社会科の目標は、柱書として示された「社会的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して、広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に主体的に生きる
平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指す。」に加え、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱に沿った目標から成り立っている。目標に示された資質・能力を育成することが、「公民としての資質・能力の基礎」を育成することにつながる。
各分野においても三分野それぞれに特有の資質・能力を念頭に置いた単元や授業を構想し、小学校で育成された資質・能力を踏まえ、中学校の3年間取り組んでいくことで、社会科で目指す「公民としての資質・能力の基礎」が育成されると考える。
その際、社会科学習の本質である「社会を知る(事実認識)」、「社会を理解する(社会認識)」、「社会に関わる(社会参画)」学習内容を扱うことが重要であり、そのための教材の選定が重要である。【図Ⅱ】のように単元の中に3つの段階が入る場合もあれば、単元の学習内容や扱う教材によってはそうならない場合もある。
単元構想にあたり、まずは各分野で育成を目指す資質・能力を踏まえた、単元で育成したい資質・能力を明確にすることに取り組む。
なお、教材を選定する際、これまで島根県社会科教育研究会が取り組んできた、地域教材の活用にも留意したい。出雲市社会科教育研究会中学校社会科部では「地域」を出雲市内等のことと限定せず、資質・能力の育成に結びつく、子供の暮らしに関わる視点を大切にして教材開発に努めていきたい。
また、「令和の日本型学校教育」を実現するツールのひとつとして、ICTの活用についても留意していくこととする。
<参考文献>
宇都宮明子(2023)歴史授業における資質・能力に関するワークショップ 11月出雲市社研研修会
講師自作資料
宇都宮明子(2022)歴史 価値ある学習課題と分野に応じた授業デザイン 深い学びを通して歴史的分野特有の資質・能力を育成する 社会科教育3月号 p. 28-31 明治図書
宇都宮明子(2017)歴史意識研究の史的展開と今後の展望に関する考察-ドイツにおける歴史意識研究に基づいて-」『社会科教育研究』第130号
熱田 脩(2018)社会参画の資質・能力の基礎を培う授業づくり一社会科における振り返りやまとめの充実を通して一 琉球大学大学院教育学研究科課題研究中間報告
北 俊夫(2012)『なぜ子どもに社会科を学ばせるのか』文溪堂pp. 44-50
唐木清志•丙村公孝•藤原孝章(2010)『社会参両と社会科教育の創造』学文社,p 24
文部科学省(2022)主体的・対話的で深い学びの実現(「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善)について(イメージ図)