断面形状、水路勾配、粗度係数が変化しない水路を一様断面水路といいます。一様断面水路は現実の河川に多く見られるものではないのですが、不等流を理解する上で非常に重要です。ここでは、不等流の水面の変化について書いていきます。まずは、ベルヌーイの式から水面形の微分方程式(水深がどのように変化するのかを表した式)を導いていきます。このとき、考える水路は幅広長方形水路とします。
ダルシー・ワイズバッハの式を上式に代入します。
ここで、開水路の水路幅をbとするとb=dA/dhと書けます。 この式を用いて速度水頭の微分式を変形します。
求めた式を元の式に代入し、限界水深の式を使って式変形を続けていきます。
上式は一旦置き、マニングの公式とダルシー・ワイズバッハの式から摩擦損失係数を求めていきます。
この摩擦損失係数を代入します。
今回考えている水路は幅広長方形水路ですので径深R≒hと置き換えることが出来ます。
よって、水面形の微分方程式が求まりました。この式から、水深、等流水深、限界水深の大小関係により、分母分子の正負が決定し、その場の水深の増減が決まります。今回は、マニングの公式から導出しましたが、ジェシーの公式からも導出することができます。
ジェシーの式から求めた摩擦損失係数を代入し、式変形します。
ここで、連続の式から等流水深を導出します。このとき、流れは同一流量の等流に遷移するので、等流水深の式は動水勾配を河床勾配と置き換えることができます。
この等流水深の式を元の式に代入します。すると、ジェシーの公式を使ったときの微分方程式が求まります。
2つの式の違いは乗数にあります。マニングの公式から導出したときのh0/hの乗数は10/3なのですが、ジェシーの公式から導出したときの乗数は3になります。速度を求めるときはマニングの公式がよく使われるのですが、水面形の微分方程式は見た目の美しさからジェシーの公式の方がよく教科書では説明されています。
式の導出を一度行えばわかるのですが、限界水深は河床勾配に無関係なのに対し、等流水深は河床勾配が影響してきます。また、等流水深が限界水深に等しくなるときの河床勾配を限界勾配 icといいます。ib<icとなる水路は緩勾配水路と呼ばれ、水深は常にh0>hcとなります。反対にib>icとなる水路は急勾配水路と呼ばれ、水深は常にh0<hcとなります。従って、水深が限界水深より大きければ常流、小さければ射流となります。緩勾配水路と急勾配水路を表にまとめ、水面形を図示すると次のようになります。
緩勾配水路
急勾配水路
緩勾配水路の水面形
急勾配水路の水面形
図を見ると常流の水面形(M1、M2、S1)は流れの変化が下流側から上流へと伝わっているのがわかります。これは、4.2 流れの分類でも説明したように、長波の伝搬速度が流速より速いために長波を上流側にも伝えることができるからです。一方、射流の水面形(M3、S2、S3)は上流側から下流へと流れが伝わっています。では、それぞれの曲線を簡単に解説していきます。
①M1曲線
M1曲線は背水曲線とも呼ばれ、ダムを超える流れや水門によって流れがせき上がるときに現れる水面形状です。
②M2曲線
M2曲線は低下背水曲線とも呼ばれ、勾配が緩勾配から急勾配に変化したときや段落が発生したときの上流側に現れる水面形状です。
③M3曲線
M3曲線は露出射流とも呼ばれ、水門の下流側などでは跳水がよく起きるのですが、この跳水が起きる前に現れる水面形状です。
④S1曲線
S1曲線はダムを超える流れや水門の前面に現れる水面形状であり、上流側は一般に跳水に連なります。
⑤S2曲線
S2曲線はダムを超えた後や勾配が緩勾配から急勾配に変化したときの下流側に現れる水面形状です。
⑥S3曲線
S3曲線は水門から流出するときの下流側から現れる水面形状です。
これら水面形状の実例を図にしたものが下図になります。
図(a)〜(f)の水面形状は、上で解説した①〜⑥を読めばある程度理解できると思います。図(g)はM3曲線とM2曲線がくっついていません。M3曲線とM2曲線に共役水深となるところがあれば跳水で結合することができるのですが、無い場合は図(g)のようになります。このような場合の跳水を潜り跳水といいます。潜り跳水は水門から段落までの距離が短いと起きやすくなると言われています。
図(h)、(i)は急勾配から緩勾配に変化したときの場合についてです。この場合は、射流水深h1を等流水深h01としたときの常流水深h2を共役水深の式から求める必要があります。共役水深の式については7.4 跳水を参考にして下さい。算出された常流水深h2が等流水深h02より小さいときは図(h)の水面形状となり、大きいときは図(i)の水面形状となります。
まとめとして、一様断面水路、広幅長方形水路の水面形状は水面形の微分方程式から求めることができます。また、水面形状を分類すると大きく6つ(M1曲線、M2曲線、M3曲線、S1曲線、S2曲線、S3曲線)に分けることができ、これら6つの曲線を組み合わせることで不等流における様々な水面形を描けられるようになります。