開水路における流れの分類は常流と射流に分けられます。詳しい内容は4.2 流れの分類を参照して下さい。常流時の水深は常流水深と呼ばれ、射流時の水深は射流水深と呼ばれます。また、常流と射流の変曲点を限界流と呼び、限界流における水深を限界水深といいます。式に表すと次のようになります。
このとき、hcは限界水深 [m] です。
限界水深と流量や比エネルギーには面白い関係性があります。比エネルギーとは、単位体積重量の流体が持つ全エネルギーのことです。まずは下図を見て下さい。
Q-H曲線 (E=一定)
E-H曲線 (Q=一定)
比エネルギーが一定で限界水深のとき、流量は最大となります。これをベランジュの定理といいます。また、流量が一定で限界水深のとき、比エネルギーは最小となります。これをベスの定理といいます。さらに限界水深のときに圧力水頭の差dh/dxが無限大になり、これをブレスの定理といいます。限界水深についてまとめると次のようになります。
①長波の伝搬速度に等しい流速を流しうるときの水深
②比エネルギーが一定のとき、流量が最大となるときの水深(ベランジュの定理)
③流量が一定のとき、比エネルギーが最小となるときの水深(ベスの定理)
④dh/dxが計算上無限大となるときの水深(ブレスの定理)
①長波の伝搬速度に等しい流速
まずは、ベルヌーイの定理を式変形します。
開水路は水路幅bの長方形断面であり、河床勾配がものすごく小さいと仮定します。また、上式を水深hで微分します。
dE/dhが0ということは傾きが0となる点を表しているので、このときの水深は限界水深であると分かります。よって、上式を水深の式に変形すると、限界水深を求める式ができます。また、エネルギー係数は1.0とします。
さらに、限界水深の式を連続の式に代入します。すると、長波の伝搬速度と同じ式が得られます。
②ベランジュの定理
続いて、ベランジュの定理です。ベランジュの定理を求めるためにベルヌーイの定理から再出発し、流量の式になるよう変形をします。また、エネルギー係数は1.0とします。
比エネルギーを一定値とし、上式のグラフを描くとQ-H曲線、ベランジュの定理が求まります。また、Q2の式を水深で微分します。
dQ/dhが0のため、このときの水深は限界水深といえます。上式を水深の式に変形すると、比エネルギーとの関係性がみえてきます。
上式から比エネルギーが一定のとき、限界水深は比エネルギーの2/3倍になることが分かります。
③ベスの定理
ベスの定理は非常に簡単です。流量が一定と仮定し、ベルヌーイの定理をグラフ化すると上図のE-H曲線、ベスの定理が求まります。
開水路は長方形断面だけではなく様々な形で存在しています。そこで、長方形以外の一様断面水路のフルード数の式を求めていきます。そのために、流積を以下のように置き換えます。
このとき、Dは水理水深 [m] です。
長方形断面における流積は水路幅に限界水深を掛ければ求めることができますが、長方形以外の断面は式がややこしくなります。そこで、限界水深を幾何学的な平均水深に置き換えることで流積の式を単純化します。この幾何学的な平均水深を水理水深といい、断面形状を長方形に置き換えたときの水深に相当します。この水理水深を使ってフルード数を求めます。
余談となりますが、長方形水路のフルード数は速度と水深によって決定されます。しかし、等流のときは速度が一定になるので、常流、射流の判断は水深のみでしないといけません。また、等流時の水深は一定の値をとり、このときの水深を等流水深といいます。フルード数は1より小さければ常流となるので、等流水深が限界水深より大きければ常流と判断することができます。等流水深の式の導出については7.5 開水路の等流を参照して下さい。それでは、例題を1問解いてみましょう。
例題:下図のように、両壁が1:0.5の三角形水路に流量Q=0.2 [m/s3] の水が流れたとき、常流か射流かを判定せよ。ただし、水深は0.4 [m]とする。
まずは、フルード数を求めるために必要な値(流積、水理水深、流速)を計算していきます。
必要な値がそろったので、フルード数を求めていきます。
まとめとして、限界水深は、4つの特徴を持っています。また、等流時の常流・射流の判断は限界水深と等流水深や水理水深を比較することで行えます。