粘性とは、流体(気体と液体の総称)が持つ性質であり、物体が速く動こうとするときに流体が抵抗する性質のことです。気体の粘性と液体の粘性は少し挙動が違います。気体の粘性は、気体中に存在する速度の遅い分子と速い分子が衝突し、速度が平均化するのが原因だとされています。一方で、液体の粘性は、液体が形を変えようとするときに、隣の分子と離れないよう発生する分子間力が原因だといわれています。このページでは、水の粘性についてのみ解説していきます。空気の粘性については物理学 1.7 粘性力を参照して下さい。
粘性によって生じた応力を摩擦応力または粘性応力といいます。応力とは単位面積あたりに作用する力のことであり、単位は圧力と同じ [N/m2] または [Pa] を使います。しかし、圧力とは考え方や力の作用位置が異なります。圧力はある面に対して垂直に作用するのですが、摩擦応力は面に対して平行に作用します。下図で確認して下さい。
圧力との違いはもう一つあります。それは、圧力は水が静止した状態でも作用するのに対し、摩擦応力は水が流れていないと作用しません。より詳しくいえば、流れ場(水が流れている空間)において速度差があれば摩擦応力が発生します。壁は静止していますので、水が流れているとき壁面では必ず摩擦応力が作用しています。また、速度差がある水同士の距離が近いほど摩擦応力は強くなります。この法則をニュートンの粘性法則といい、式にすると次のようになります。ちなみに、ニュートンの粘性法則に従う流体をニュートン流体と呼びます。水はニュートン流体です。
このとき、τは摩擦応力 [Pa]、μは粘性係数 or 粘度 [Pa・s]、uは速度 [m/s]、zは距離 [m] です。また、du/dzを速度勾配といいます。
粘性係数は流体の粘りの度合いを表しているのですが、[Pa・s] という非常に複雑な単位を持っています。そこで、昔の人はこの粘性係数を密度で割りました。その物理量を動粘性係数または動粘度といいます。
このとき、νは動粘性係数 or 動粘度 [m^2/s] です。
動粘性係数は流体の流れの乱れやすさの指標にもなります。詳しい内容については4.2 流れの分類を参照して下さい。また、下に粘性係数または動粘性係数と温度の関係性について示しておきます。
水の粘性係数/動粘性係数
空気の粘性係数/動粘性係数
水の粘性係数(動粘性係数)は温度が上がると減少していきます。これは水分子が温度上昇により振動をし始め、その結果、水分子同士の結合力が弱くなり、流動性が高まるためです。一方、空気の粘性係数(動粘性係数)は温度が上がると増加していきます。これは、温度が上昇したことにより分子同士の衝突回数が多くなり、速度の平均化が起きたためです。また、空気の動粘性係数は、水の動粘性係数より10倍ほど大きいことがわかります。そのため、空気の方が流れは乱れやすいといえます。
例題を1問解いて終わりましょう。
例題:角度θの斜面上に微小厚さaの油が塗られている。斜面に置かれた物体の重さはW、底面積はA、油の粘度はμとする。このとき、物体が滑り落ちる速度を求めよ。ただし、摩擦力は考えないものとする。
ニュートンの粘性法則から速度を求めていきます。
まとめとして、粘性とは物体が動いているときに流体が抵抗する性質のことであり、そのときに作用する力を粘性力といいます。摩擦応力は速度勾配と比例の関係にあり、係数には粘性係数が使われています。その粘性係数を密度で割った値を動粘性係数と呼び、動粘性係数は流れの乱れやすさの指標として用いられています。
ここからは、ニュートン流体以外の流体について述べます。水力学とはあまり関係がないので、飛ばしても大丈夫です。
粘性流体には、様々な種類が存在します。上でも述べましたが、摩擦応力と速度勾配が比例の関係にある流体をニュートン流体と呼びます。ニュートン流体以外の流体は、非ニュートン流体と呼ばれ、ビンガム流体、ダイラタント流体、擬塑性流体などがあります。非ニュートン流体を図および式で表すと次のようになります。
このとき、τ0は降伏強度 [N/m2]、ηは非ニュートン流体の粘性係数 [Pa・s]、nは次数 [単位なし] です。
ビンガム流体はτ0>0でn=1、ダイラタント流体はτ0=0でn>1、擬塑性流体はτ0=0でn<1となります。式だけではわかりにくいと思いますので、身近にあるものを例にして説明してみます。
ビンガム流体の例としては、歯磨き粉があります。歯磨き粉の入ったチューブは逆さにしても出てきません。しかし、1度チューブに力を加えると止まることなく歯磨き粉が出てくると思います。このように、力を加えると流動するような流体をビンガム流体といいます。上図を見ると粘性力と速度勾配は比例(1次関数)の関係にあります。しかし、切片が0点にはなく上の方に存在します。この切片を降伏強度といい、降伏強度以下だとビンガム流体は流動しないことがわかります。歯磨き粉以外だと、ケチャップや塗料などが例として挙げられます。
次に、ダイラタント流体です。ダイラタント流体は、生クリームやミルクチョコレート、波打ち際の砂などがあてはまります。生クリームを例にしてみましょう。かき混ぜる前の生クリームは、泡立て器ですくってもするすると落ちていきます。しかし、混ぜ続けると徐々に粘性が大きくなってきます。このように、速度勾配が大きくなれば2次関数的に粘性力が大きくなる流体をダイラタント流体といいます。
最後は、擬塑性流体です。擬塑性流体は今までの流体とは少し挙動が異なります。ニュートン流体やビンガム流体、ダイラタント流体は速度勾配が大きくなれば、粘性力も大きくなります。しかし、擬塑性流体は、速度勾配が大きくなれば、粘性力は小さくなります。例としては、ボールペンのインクが挙げられます。ボールペンは芯を出した状態で逆さにしてもインクが漏れることはありません。動いていないときはインクの粘性力が大きいからです。しかし、紙に文字を書き始めるとインクは簡単に出てきます。これは速度勾配が増加し、粘性力が小さくなったためです。このような流体が擬塑性流体です。他の例としては、マヨネーズがや濃縮ジュースなどが挙げられます。