粘性とは、流体(気体と液体)中を物体が動こうとするときに流体が抵抗する性質のことであり、動摩擦の一種といえます。粘性の例えとしては、空気中と水中での手の動かしやすさの違いがよく挙げられます。経験的に、空気中のほうが動かしやすいことは分かると思います。これは気体のほうが粘性が弱いからだといえます。
気体の粘性と液体の粘性は少し挙動が違います。気体の粘性は、気体中に存在する速度の大きい分子と小さい分子が衝突し、速度が平均化するのが原因だとされています。一方で、液体の粘性は、液体が形を変えようとするときに、隣の分子と離れないよう発生する分子間力が原因だといわれています。
水の粘性については水力学 1.5 水の粘性で詳しく述べていますのでこちらを参考にして下さい。ここでは、空気の粘性について述べていこうと思います。
空気の粘性として一番最初に挙げられるのは、空気抵抗力です。空気抵抗力を式で表すと次のようになります。
地球上の物理現象として、空気抵抗を受けているときの落下中の物体の速度は初めのうちは増加し続けるのですが、あるところで一定の値となってしまいます。この値を終端速度といい、上式で加速度を0とおけば求めることができます
このとき、vfは終端速度 [m/s] です。
また、質量は密度に体積を掛けることで求めることができます。密度と体積についてはこちらのページを参照して下さい。では、実際の雨粒の終端速度を導出してみましょう。雨粒は球体であり半径をrと仮定すると、体積は球の公式から求めることができます。また、比例定数はストークスの式より次のように定義されています。
このとき、ρは密度 [kg/m3]、Vは体積 [m3]、rは球の半径 [m]、μは粘性係数または粘度 [N/m2・s] です。
粘性係数は流体の粘りの度合いを表しており、流体によって値が異なってきます。例えば、30℃の空気だと粘性係数は1.869×10-5 [N/m2・s] 程度の値となります。また、雨粒の半径を0.005 [m]、雨粒の密度を1000 [kg/m3]、重量加速度を9.81 [m/s2]と仮定すると雨粒の終端速度が求まります。
計算してみると雨粒は秒速114 [m/s] の速度で進んでいることが分かりましたが、ちょっと待ってください。秒速114 [m/s] を時速に変換してみて下さい。すると、雨粒の時速は400 [km/h] 以上となります。そんな速度で降ってくると雨は殆ど見えなくなり、代わりに頭に大打撃を受けることになります。教科書では、この式を使えば終端速度が求まると書いてあるのですが、計算してみると実際の物理現象とは大きく異ることが分かりました。このように疑いの目を持つことは新しい発見に繋がります。
では、上式の何がダメだったのでしょうか。実は、速度が遅い場合は粘性抵抗が非常に効果的なのですが、ある程度速くなると速度の2乗で比例する慣性抵抗のほうが大きくなってきます。粘性抵抗と慣性抵抗を人で例えてみると、粘性抵抗は周りに人が多いために自分の歩くスピードが遅くなってしまう現象であり、慣性抵抗は周りに人が少ないために走ってしまい、周りの人とたくさん衝突してしまう現象とイメージすれば分かりやすいのではないでしょうか。従って、粘性抵抗で求める終端速度は水中などの場合に適しているといえます。では、慣性抵抗の運動方程式に移ります。
注目すべきは速度が2乗になっているところです。では、終端速度を求めていきます。
では、先程の雨粒の物理量を代入して、どのくらいの値になるのか確認してみましょう。このとき、雨粒の質量は4.0×10-6 [kg] とします。
どうでしょうか。時速にすると40km/h手前くらいなので、ある程度正しいのではないかなと思います。
話がややこしくなってきたのでまとめると、摩擦力には静止摩擦力と動摩擦力があります。その動摩擦力の中に粘性力があり、粘性力は粘性抵抗と慣性抵抗に分けられます。そして、空気中は慣性抵抗、水中は粘性抵抗が大きくなると覚えておいて下さい。
ここからは趣味の世界です。数学が嫌い人は見なくて大丈夫です。上述により粘性抵抗の終端速度の求め方は分かりましたが、実際に速度をグラフ化するとどのような軌道を描くのでしょうか。やってみましょう。そのためには、微分方程式という数学の知識が必要になります。まずは、運動方程式を微分表記に書き換えます。
さら微分表記のものを全て左辺に移行し、質量で割ります。
このとき、様々な物理量を記号を置き換えます。
これら記号を上の式に代入し、1階非線形常微分方程式として、一般解と特殊解を求めていきます。まずは、一般解からです。
次に、特殊解を求めていきます。
一般解と特殊解が求まったので、これらの式を合わせ、初期条件より積分定数を決定していきます。
よって、距離と速度に関する式は次のように求まりました。
これで、速度のグラフが描けるようになりましたので、エクセルで作図してみました。wは1.0としました。
これで、速度が一定値に収束することがわかったと思います。数学ってすごい。