静水とはその名の通り動いていない水のことであり、ダムや貯水池の水は静水として扱われます。また、海や湖も波を考えなければ静水となります。さらに、静水における水圧を静水圧といいます。
静水圧を表現する方法としてはゲージ圧と絶対圧の2つが挙げられます。ゲージ圧は大気圧を基準にしており、地表面の圧力を0気圧として扱います。そのため、ゲージ圧には負の圧力が存在します。一方、絶対圧は真空状態を基準としており、負の圧力が存在しません。水力学ではゲージ圧を使用することがほとんどであり、そのほうが色々と都合が良くなります。
また、面積全体にかかる静水圧を合計した力を全水圧といい、全水圧と静水圧は次式で求めることができます。
このとき、Pは全水圧 [N]、 Aは水圧が作用する面積 [m2]、pは静水圧 [N/m2]、hは水深 [m] です。
また、静水圧の式を変形すると水深(水の深さ)が求められるようになります。密度と重力加速度を定数とすると、水深と水圧は比例の関係にあることがわかります。また、圧力を単位体積重量で割ったものを水頭とも呼びます。
水深と水頭は少し意味が違いますので、説明しておきます。水深も水頭も同じ [m] の単位で扱われます。しかし、水深は単に水面からの距離を表しているのに対し、水頭は水の持つエネルギーの大きさを表しています。通常、エネルギーの量は [J] が使われるのですが、水力学ではエネルギー量を水頭で表現し、図示することにより簡単にエネルギー量を認識できるようにしています。では、水深に関する例題を2問解いてみましょう。
例題1:大気圧が水を押し上げることのできる限界高さを求めよ。ただし、大気圧の大きさは101.3 [kPa] とする。
静水圧の式から大気圧による水の押し上げ高さが求まります。
例題2:海水による水圧がちょうど1気圧となる水深を求めよ。ただし、海水の密度は1,030 [kg/m3] とする。
1気圧は大気圧と同じ大きさの圧力なので、例題1のときと同様の計算をすれば求まります。
次に、水圧計についてです。水圧計とは、測定したい部分に小さな穴(小孔)を開け、透明な管を通すことで水深を測定し、水圧を求める計測器のことです。水圧計には、マノメーター、傾斜マノメーター、水銀マノメーターの3種類があります。教科書によっては、マノメーターのことをピエゾメーターと書いているものもあります。ここでは、マノメーターで統一しておきます。
傾斜マノメーターは、管を傾斜させているために水が上昇するときの距離が長くなり、目盛りを細かく設定することができます。そのため、傾斜マノメーターは圧力が小さいときによく利用されます。逆に、水銀マノメーターは圧力が高いときに使われます。それは、水銀の密度が水の約13.5倍大きいために、水の上昇量を抑えることができるからです。傾斜マノメーターにおける圧力は次式で求められます。
また、水銀マノメーターはの圧力は次式で表わされます。
マノメーターの原理を用いて2点間の圧力差を求めることも出来ます。圧力差を求めるときに使用する器具を差圧計と呼び、圧力差の式は次のようになります。
では、差圧計を使った例題を一問解いてみましょう。
例題3:下図のような差圧計におけるの圧力差を求めよ。
n-n断面より上の圧力は、液体と高さが同じであるため圧力も等しくなります。n-n断面より上の圧力をpnとすると、次のような計算式が成り立ちます。
静水圧の原理の一つにパスカルの原理があります。前ページでも何回か出てきました。パスカルの原理とは密閉された流体に圧力を加えると、流体の各部分に同じだけの圧力が伝えられるという原理であり、1600年代にフランスの科学者ブレーズ・パスカルによって発見されました。図で表すと次のようになります。
このときに注意しなければいけないのが、圧力はどの面に対しても垂直に作用しているというところです。また、パスカルの原理を用いた道具として、水圧機や油圧ブレーキ(車のブレーキ)が挙げられます。水圧機を簡単な図として表すと次のようになります。
マノメーターを計算したときと同様に、n-n断面での圧力の釣り合いから式を立てることができます。
このとき、面積にかかる力がものすごく大きいとすると、水圧ρghが無視できるようになります。
まとめとして、静水圧は水力学において最も重要な物理量の一つです。水圧を測定する方法としては、マノメーター(ピエゾメーター)や差圧計などが挙げられます。また、圧力はパスカルの原理によって等方的に力が作用します。水圧機はこの原理を使って、小さな力で大きなものを動かしています。