Sociolinguistics for Nursing Studies
ー看護研究のための社会言語学

令和5年度期・看護学科3年生のみなさんへ
以下の卒研ゼミ紹介をお読みいただき、令和6年度の入ゼミ(令和5年9月 7頃に希望調査予定(6月中旬に希望調査が開始されました[7/28締め切り])をご検討ください。心理的、体力的に何か不安な点がある学生は、別途ご相談ください。内容に応じて配慮させていただきます。その他、何でも相談や説明をさせていただきます。宜しくお願いします。なお、受け入れ人数の上限は4名です。

連絡先:sekine★fhw.oka-pu.ac.jp ※★をアットマークにかえて送信してください。
※令和5年度生の募集は終了しました
※令和6年度生の募集は終了しました・・・入ゼミ生4名が確定しました!

【卒研ゼミ紹介】
・関根ゼミでは、看護学の学際性(実践を主とする看護において、その理論的参照枠としてさまざまな学問領域が援用可能であるということ)、特に社会言語学との学術的親和性(学問的に違和感なく調和するということ)に着目し、研究をすすめます。
コーパスと呼ばれる言語データベースを活用した量的分析とディスコースという「社会文化的意味をもった言葉のまとまり」を捉える質的考察により、言葉に置き換えられたさまざまな看護とそれが関連する<世界>を丁寧且つ優しく明らかにしていきます。
・本学大学院(博士前期課程)科目「国際コミュニケーション特論」で扱っている内容を、卒研ゼミ用にかみくだいて平易明解に解説、指導します。
・関根ゼミ学術ネットワークを活用して、研究内容の細部について考察を深めることができます。
※関根ゼミ学術ネットワークとは、学内および学外の大学教員から構成される研究アドバイザー組織であり、適宜研究アドバイスをゼミ担当教員以外にも求めることができます。
卒研ゼミは、日本語でおこないます。どうぞご安心ください。なお、希望があれば、英語でも可能です。

研究テーマ例:
痩身願望、セルフネグレクト、高齢者ストレングス、アドバンスケアプランニング、育児困難、エンパワーメント、ソーシャル・キャピタル、メディアの中の看護師像、看護コミュニケーション、日英看護比較、看護のホスピタリティとhospitality、終末期患者に対する意思決定支援のジレンマなど(上掲の「国際コミュニケーション特論」における過去の研究テーマ)
※令和3年度の卒研テーマは「コロナ禍における新人看護師の困難感について」に決まりました!
※令和4年度の卒研テーマは「日英の大衆メディアに​投影される看護師像​に関する考察」および「コロナ禍における看護系大学生の実習ストレスに関する考察」に決まりました!
※令和5年度の卒研テーマは「近代の育児困難における自己効力感との関連性 」および「NICUにおける父親の心理的変化」となります。
※令和6年度の卒研テーマは「日米の医療メディアにおける看護師像の分析と印象評価」および「親のストレスと小児の発達に関する学際的研究」に決まりました!
特に、言葉を扱いながら、看護の<世界>を紐解くことに関心のある学生にはおすすめ!新しい視点やさまざまな視点から看護の<世界>をのぞいてみたい人、日本と海外との言葉の捉え方の違いから看護の<世界>をのぞいてみたい人、お待ちしております!

研究スケジュール:(予定)
第1期(4月~5月):ガイダンス、コーパスおよびディスコース分析について・・ゼミ形式によるディスカッション(臨地実習を考慮)
※ご要望に応じて、就職用各種書類の作成サポート模擬面接対応他大学院進学指導等あり
第2期(6月~7月):研究フレームワークの作成、コーパスの構築・・・・・各自の研究および教員との研究ゼミ臨地実習を考慮)
第3期(8月~9月):コーパスに基づくディスコース分析・・・・・各自の研究と分析(適宜教員との研究ゼミ※卒研中間発表(基礎看護学領域)
第4期(10月~11月):まとめと考察・・・・・卒業研究論文の作成(12月中旬論文完成予定)
※コロナ禍においては、適宜Teams、zoomによるリモート演習を実施予定

ゼミ開講日時(予定):月曜、火曜、(木曜)の午後~夕方のいずれか(ゼミ生と相談の上、決定)※変更等は柔軟に対応します。
進路状況:
令和3年度ゼミ生の入職先:倉敷成人病センター、大阪医科歯科大学病院
令和4年度ゼミ生の入職先:岡山大学病院、川崎医科大学総合医療センター、兵庫県立こども病院
令和5年度ゼミ生の入職先:しげい病院、(岡山大学病院(内定)→大学院進学)
令和5年度ゼミ生の進学先:岡山大学大学院(合格)、香川大学大学院(合格)、宮崎大学大学院(合格)
令和6年度ゼミ生の入職先:聖路加国際病院(内定)、国立国際医療センター病院(内定)、順天堂大学医学部附属医院(内定)、倉敷成人病センター(内定)

研究関連活動】現在活動の一部を自粛 段階的に活動を再開
・茶道有資格者(裏千家)のゼミ担当教員による作法講習(本学茶室での茶道体験)・・・おもてなし(日本的ホスピタリティ)の精神を深め、心を整えます
・池田理恵ゼミ(和歌山県立医科大学)との合同研究会・・・お互いの研究内容について意見交換をし、ランチやカフェをしながら交流を深めます
堀智子ゼミ(順天堂大学スポーツ健康科学部)との学術交流会・・・zoom等のオンライン会議システムを活用しながら学術交流を行います
香港理工大学看護学科との国際交流・・・本学と提携大学である香港理工大学看護学科生と病院施設等を一緒に見学し、交流を深めます(中止の場合あり)
・岡山アウトリーチプログラム(地域観光推進事業)へのサポート活動・・・関根研究室と岡山県産業労働部観光課との協働プロジェクトを通じて、地域創生に資するグローバル活動に参加する機会があります(但し、看護実習等を最優先します)

コーパスとは

コーパスとは、言葉のデータベースと言えます。私たちは、さまざまな言葉や言葉と同じような働きをもつものを用いて生活しています。そうした連続する言葉や言葉らしきもののやりとりがコミュニケーションです。そして、無数のコミュニケーションがこの社会を形成しているとも言えます。看護ケアにおいても、そうした(社会的)コミュニケーションなくして、(例えば)採血による患者さんの血液の物質的、科学的検査はきわめて困難と言えるでしょう。すなわち、私たちは、日々の社会的営みを言葉や言葉らしきものに置き換え、それを活用しながら生活していると考えられます。したがって、言葉をできる限りたくさん集めてできたデータベースであるコーパスは、言葉に置き換えられた私たちのコミュニケーションの集積であり、社会(や後述する<世界>)の一端と言えます。

ディスコースとは

ディスコースとは、単に辞書的ではなく、社会文化的な意味をもった言葉のまとまりと言えます。私たちが日々の生活で用いるコミュニケーションの手段には言葉だけではなく、記号、数字、色、音、匂いなどもあります。これらすべてを含めてテクスト(text)と呼びます。そして、テクストが用いられる状況や社会的背景にあるものがコンテクスト(context)となります。こうしたコンテクストに影響されながら、その場に特有の意味が生み出されたテクストのまとまりがディスコースと言えます。したがって、ある特定の場面(例えば、病院の診察室や待合室など)でテクストとしての言葉のコミュニケーション(やりとり)はディスコースであり、そのディスコースを捉えることは、ある場面に特有の(コミュニケーションの)意味を明らかにすることと言えます。

<世界>とは

<世界>とは、私たちを取り巻くさまざまな物理的現象や社会的事象から成る(途方もなく大きく、無限とも言える)現実の「世界」が、言葉、記号、数字などに置き換えられたものと言えます。現実の「世界」を<世界>とすることで、情報として伝達したり、分析対象として、調査・検証などをしたりすることができます。本ゼミでは、そうした言葉、記号、数字などに置き換えられた現実の「世界」を研究対象の<世界>として扱います。したがって、言葉のデータベースであるコーパスも<世界>として見立てることができます。このように考えると、関心のあるテーマの論文や記事、興味のあるコミュニケーション場面、アンケートの自由記述などを集めてコーパスを作成し、それを分析することで、言葉に置き換えられた看護の<世界>を明らかにすることができると言えます。

第31回日本医学看護学教育学会学術学会(ウェブ開催)におきまして、大学院看護学専攻2名と共同でオンデマンド発表いたしました。

こちらよりご視聴ください。

【看護研究の学際性】※ちょっと難しい表現を含みます。

まず、看護研究は次の通り大別できるでしょう。
①実験研究(Experimental Research):実験研究は、特定の介入や処置の効果や効果を評価するために、研究者が操作変数をコントロールし、結果を比較する方法です。実験グループと対照グループを比較し、因果関係を探求することが特徴です。例えば、新しい治療法の有効性を評価するために、治療群とプラセボ群を比較するなどがあります。
②理論研究(Theoretical Research):理論研究は、既存の理論や概念の検証、解釈、発展に焦点を当てた研究です。看護の理論や概念を探求し、看護実践や看護学の基礎を深めることを目的としています。理論研究は文献のレビューやコンセプト分析、概念モデルの構築などの方法を用いて行われます。卒研でしばしば扱われる文献検討もこちらになります。特定のリサーチクエスションに対して、過去の研究や理論的なアプローチに関する情報を収集・分析するプロセスです。文献検討によって、既存の知識や理論の欠落や矛盾点を特定し、研究の基礎となる理論的な枠組みを構築することができます。
そのほか、次のような研究手法もあります。
③調査研究(Survey Research):調査研究は、質問紙やアンケートを使用してデータを収集し、特定のテーマや現象についての情報や意見を把握することを目的とした研究です。看護の実践や患者の経験に関する調査研究が行われることがあります。
④質的研究(Qualitative Research):質的研究は、個別の参加者やグループの経験や意見を理解するために、インタビューや観察などを通じて主観的なデータを収集し分析する研究手法です。個別のケースや文脈を深く探求し、理論構築や実践改善に役立てられます。
⑤開発研究(Developmental Research):開発研究は、新しい介入や教育プログラム、ツール、ガイドラインなどを開発し、その有効性や効果を評価するための研究です。看護実践の改善やケアの品質向上を目指します。
⑥実践研究(Practice-based Research):実践研究は、臨床現場での問題や課題に対処し、現実の看護実践に関する知識や証拠を生成するための研究です。実際のケア環境での実践の評価や改善を目指します。
⑦ 量的研究(Quantitative Research): 量的研究は、特定の現象や関係性を数値的に分析し、客観的なデータを収集して解釈する手法です。このアプローチは主に、実験研究や調査研究などの形で用いられます。量的研究は、看護の実践や理論の発展、臨床環境での改善など、さまざまな観点から看護の領域を探求し、進化させるために重要な役割を果たしています。

このように、看護学の基盤となる教科は、生理学、解剖学、薬学のような医学関連科目だけではなく、人間の健康と疾患に関する知識や技術を統合し、人間のケアを行う学問としての心理学、社会学、社会言語学、倫理学、統計学、コミュニケーション学、公衆衛生学など、多岐にわたる教科が看護学の基盤となっております。こうした多様な学問領域から形成されている学問の特性を指して学際性と言います。つまり、看護学は学際性のある学問と言えます。具体的には、生理学や解剖学は、人間の身体構造や機能を理解するために役立つ基礎的な知識を提供します。本ゼミで扱う社会言語学は、言語行動が社会的にどのような意味を持つかを研究する学問であり、患者とその家族(または看護師、医師等の医療従事者)とのコミュニケーション、看護師(看護系学生)の心の揺れや、(看護に関する)社会的・文化的背景を理解するための知識を提供します。本ゼミでは、看護研究のために社会言語学のさまざまな手法を活用し、特に上掲の③調査研究と④質的研究および⑦量的研究を取り入れた研究アプローチをとります。