研究の概要:今世紀に人類が直面している最大の潜在的脅威の一つが地球温暖化である。その中でも、世界的に深刻な影響をもたらす危険性がある“気候危機の真打”は温暖化そのものよりむしろ「気候の不安定化」にある。特に、「ティッピング・カスケード」として知られる急転直下の気候転換のグローバルな連鎖反応の発生が危惧されている。しかし、複雑な相互作用と非線型応答の典型例であるこれらの現象が将来の温暖気候下で発生するのかを従来のアプローチのみに頼って検証することは、非常に困難である。本研究では近未来に直面する+1.5から+2℃の温暖化世界(パリ協定目標値内)で「気候不安定化、ティッピング・カスケードという厄災の扉は開かれるのか?」という将来気候リスクに関する最も核心的な「問い」に“温暖気候データ駆動”のアプローチで挑む。すなわち、連鎖反応の鍵となる可能性のある世界各地域において、実際に将来直面すると考えられるような過去の温暖期(MIS5eおよびMIS11c)を対象に、高精度かつ高時間解像度の温暖気候データセットを生成し、人類の脅威となるような重大な異変が生じていなかったかどうかを検証する。