研究室について

     久留米大学経済学部西洋経済史研究室は、西洋経済史に関する研究教育を目的として設置され、平成29年4月1日付けで齊藤豪大が着任をしました。

     齊藤はヨーロッパにおける水産経済政策と水産資源利用の歴史について、17世紀~18世紀のスウェーデンを対象に研究活動を行ってきました。また、このほかにも西洋史や経済史に関する諸問題に関心をもち研究を進めております。

  教育活動については、「西洋経済史I・II」の講義を担当しております。ゼミでは、西洋経済史に関する内容はもちろんのこと、北欧研究、水産業や海洋政策に関する問題について関心をもつ学生を対象に研究指導を行っております。


現在のメンバーは以下の通りです。

准教授:齊藤豪大  Researchmap

学部生:24名(5期生10名、6期生6名、7期生8名)

研究テーマ

1:近世スウェーデンにおける塩供給政策研究

 A)スウェーデン重商主義者から見るスウェーデン塩生産・塩供給問題の検討

  塩を自国で生産することが困難なスウェーデンでは、安定的な塩供給体制の構築が重要な政策課題でした。そこで、スウェーデン重商主義者のアンデシュ・ノルデンクランツ (Anders Nordencrantz, 1697-1772) に注目し、18世紀前半におけるスウェーデン塩生産の状況、ならびに塩取引構造について同時期の経済思想家がどのように分析していたのかを検討しております。

  この分析を通じて、当該社会の食生活に関する経済活動の一端を明らかにし、歴史的な観点からヨーロッパにおける食生活文化に関する理解を深化させようと考えております。


 B)スウェーデン『領事報告書』から見るスウェーデン塩取引情報の分析 

  塩を輸入に依存していたスウェーデンは17世紀中葉から塩生産国を中心に各国に領事を派遣しました。現地に派遣された領事は、現地の塩生産や塩輸入の情報を『領事報告書』に記録し、必要に応じてスウェーデン本国に報告しておりました。特に、スウェーデンで好評とされた塩を生産するポルトガルは、スウェーデン領事の派遣先として最も重要な場所であったとされています。

  しかしながら、ポルトガルよりも近い他の生産地(フランスなど)がありながら、なぜスウェーデンはポルトガル産の塩を輸入しようとしたのでしょう?また、その輸入に際して、領事はどのような活動を行ってきたのでしょうか?この疑問を明らかにするために、 独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(平成27~28年度)の支援を受け、ポルトガルに派遣された領事の『領事報告書』の収集・分析活動を行ってきました。 

  この研究を通じて、スウェーデン領事から見たポルトガル塩生産・輸出制度やその状況を明らかにするだけではなく、ポルトガルから塩を輸入するために、スウェーデン領事はどのようなリスクを認識していたのか、現地でどのような活動をしていたのかを究明し、戦略的物資を供給する際の外交活動の役割について検討しております。本研究を通じて、食の安定供給に関わる問題について歴史的な観点から考察を深めることを目指します。


2:近世スウェーデン水産経済政策研究

A)スウェーデン水産経済政策の展開過程の分析

  17世紀中葉以降、スウェーデンでは王国政府主導のもとで、水産業に対する法的整備を進めていきました。同時期のスウェーデンは、海運や漁業に関する技術・システムが十分ではありませんでした。当時大規模なニシン漁を展開していたオランダに対抗する上で、自国における水産業の振興とオランダによる先進的な漁業システムを吸収することがスウェーデンにとって重要な課題とされてきました。しかしながら、17世紀~18世紀においてスウェーデンにおいてどのような水産政策が展開されてきたのか、またそのためにどのような法整備がすすめられていったのかについては未だ明らかにされていない点があります。

  そこで、同時期の法史料を分析し、漁業従事者に対する法的な問題、あるいは王国政府によって行われていた水産業に対する支援策の実態を明らかにし、スウェーデンでどのような水産経済政策が行われていたのかを解明したいと思います。特に、ニシンクジラ真珠などに焦点を充てて検討しております。


B)18世紀スウェーデンにおける水産業に対する管理や支援に関する研究

  18世紀中期、スウェーデン西岸にニシンの魚群が到来しました。この 魚群到来をきっかけに、スウェーデンの塩漬けニシンはバルト海諸国における水産物取引市場においてトップシェアを獲得し、スウェーデンは漁業国へと成長していきました。それまで水産業の振興を第一の課題としていたスウェーデンでは、この魚群到来以降、漁業から水産加工業や水産物輸出業者に対する支援へと大きくシフトしていきます。これとともに、それまで支援の対象ではなかった、捕鯨活動に対する支援なども本格的に展開していきます。

  そこで、2-A) と平行して、水産資源変動後にスウェーデンではどのような水産経済政策が展開されていったのか、そしてそのための法的な整備や水産業に対する支援のシステムがどのように変化していったのかを明らかにしようとしております。特に、水産業に対する財政支援の構造を究明し、18世紀における漁業振興施策の実態解明に努めております。

  これらの研究を通じて、歴史的に見て、人間が水産資源をどのように認識し、その元でいかなる政策を展開していったのか。そして、そのような政策や法体系が近現代ヨーロッパの水産政策に対してどのような影響を与えていったのかを考察しようと考えております。