「今さら聞けない」ことを聞ける場所

僕は現在東京都立大学で数学者として働いており, 自身の研究室をもち, 日々研究教育に勤しんでいる. 前職は九州大学であり, 学部生から助教までトータル15年もお世話になった. 僕は D3 の秋に博士号を(ちょっと早めに)取得し, JST CREST の PD(ポスドク:任期付き研究員)に採用してもらった. このタイミングで結婚したのだが, 妻のご両親にはいつ無職になるかわからない状態でよく結婚を認めていただけたと思う.

その際, 僕の数学に対するターニングポイントと言える心情の変化が2つあった. 1つは上記の PD が, 僕のもともとの専門である計算機数論ではなく CG に関する研究のためのポジションだったことである. これまで代数系ばかりに傾倒していたのだが, これにより幅広い数学が必要になった=短期間で勉強せざるを得なくなったのである(とはいえ九大数理・IMI では異分野交流のイベントが多かったので自然と参加する機会があり, これは本当に自分の身を助けたと思っている). 隣の芝は青い, というが, 一般的に整数論の研究ではなかなか論文を量産できないことがままあり(これは僕の能力によるところも大きい), 年に何本も速報誌に出している他分野のことを羨ましく思ったことは少なくない. もう1つが「PD になってしまった以上, 下手に素人質問するのはよくないと思われるのでは?」という不安である. 高校生・学部生であれば全く問題はないし, 大学院生であっても(質問する恥ずかしさとの葛藤はあるかもしれないが)そんな初歩的な質問をするな, と言われる可能性はほぼない. ところが博士号をとった人間が学部生レベルの質問をしたら叱られるのではないか?という漠然とした恐怖感に突然苛まれ, 雇用のタイムリミットも手伝い「何か変わらないと」と決心したことをよく覚えている.

そこでいろいろ考えた結果, どうせなら「自分がそう思っているなら共感してくれる人もそれなりにいるだろうし, 人を巻き込んでみよう」という過激な(?)発想から, 内輪でこぢんまりとしたワークショップ(ミニ研究集会)をやることにした. タイトルは "Intersection of Pure Mathematics and Applied Mathematics"(純粋数学と応用数学との交流地)と名付け, 当たり前だが世話人は僕だけでやった. この WS のルールはただ1つであり

【どんなに馬鹿な質問だと思っても遠慮せず聞くこと】

である. 現に僕は講義でよく「どんなに簡単なことでも質問してほしい. いくら自分が『こんな簡単な質問をしたらダサいかなぁ』と思っていても大丈夫, それは周りのお友達もたぶん分かっていないし聞きたいと思っている」と話す. これは何も講義のスパイスとして話すものではなく, 僕の本心からくるアドバイスである. これに関することを別記事 ロマンティック数学ナイト にも書いた.

なおこの WS には裏テーマがあり「僕(横山)にとって面白い研究をしているなぁと思っている方に, 非専門家向けに, それなりに短めの講演(これは集中力を切らさないための工夫:講演者の方にはちょっと申し訳ないけれど)をしていただいて, 自分がアホな質問をしてもよい場所を作りたい」であった. つまり自分が楽しければそれでいいと思っていたのである. 講演・参加してくださった数多くの方にこの場で非礼を申し上げる.

・・・とは書いたが, この機会は僕以外の参加者にとっても大変有益な機会だったのではないかと(いろいろな方からの感想を聞いて)思っている. この WS は2013年の5月から3ヶ月おきに, 平均4〜5名に(教員・学生問わず)講演していただき, 最終的に2015年の2月まで計8回実施した(この直後から理学部棟移転があり, 僕は当時 LAN 管理者でサーバ移設の仕事に忙殺されたため自然消滅した). なお本 WS を略すと IPA になるが, これはビールの種類の1つである India Pale Ale とかけているのではないかと問い合わせがあった. それは気のせいである(情報処理推進機構だって IPA だし).

今さら聞けないこと, という感情を抱くのは, おそらく学生さんだけではないと思う. 現にこの7月で39歳を迎える(つまり来年は不惑の年だが惑ってばっかりの)僕がその代表例である. 教員になった今, こういう場所をたまには設けることも, 教育者としてのちょっとした貢献になるのではないかなと思った次第である。

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とてつもなく長い前置きだったが本題: これを復活させることにしました. 2024年12月6日(金), 1日限りの復活祭です.

Intersection of Pure Mathematics and Applied Mathematics Re:
https://sites.google.com/view/s-yokoyama/research/ipa-2024/

復活祭, すなわち祭りなので今回は大々的にやります. 講演者リストを見ていただけると(同業者なら)分かっていただけると思いますが, このメンバーに「たった1日で」しかも「非専門家向けに話してもらい」さらに「何でも質問してよい」機会は 2度とない と思います.

外部からの参加ももちろん大歓迎です. 皆様のご参加を心よりお待ちしております.

注1:講演者のうち岡本くん・落合さん・谷口さん・千葉さん・本多さんは九大時代の IPA-WS で講演いただいたことがあります.

注2:Re: は今年劇場公開の「劇場総集編 ぼっち・ざ・ろっく!Re:」とは無関係です(でもタイムリーではある).

注3:この懇親会のために, 行きつけの予約困難店(店主がワンオペでやっている日本酒と和食の銘店)を貸し切りました. 祭りだ!

Contact:  s-yokoyama [at] tmu.ac.jp