環境問題の解決に貢献するため、以下の3つの主要な研究領域に取り組んでいます。まず1つ目は、有機-無機ハイブリッド材料や機能性炭素材料を基軸とした次世代材料の新規創製です。これにより、持続可能な社会に向けた革新的な材料を開発します。2つ目は、これらの材料を応用した次世代エネルギーデバイス(太陽電池や水電解)の開発です。これにより、効率的でコストパフォーマンスに優れたエネルギー技術を実現します。最後に3つ目は、In-situ分光分析による材料・デバイスの科学的理解と、材料設計に向けた指針の提示です。これにより、基礎科学と応用技術を橋渡しし、革新的なエネルギーデバイスの設計を促進します。
ペロブスカイト太陽電池 (Perovskite Solar Cells: PSCs) は、安価な塗布プロセスによって製造でき、既存のシリコン太陽電池と同等の高い光エネルギー変換効率を誇ることから、近年注目を集めています。広範な実用化を目指すためには、コスト削減と耐久性向上という課題を克服することが必要です。私たちは、一般的に使用される「有機-金属電極」を、非真空プロセスで印刷可能な「機能性炭素電極」に置き換えることで、価格の大幅削減と30年以上の耐久性向上を目指しています。以下の3つのトピックに焦点を当てて研究を進めています。
1. p型半導体ナノ粒子をドープした炭素電極の開発
高い電荷抽出能力を持つp型半導体ナノ粒子を炭素電極にドープすることで、太陽電池の効率を向上させる新規材料を開発しています。このアプローチにより、ペロブスカイト太陽電池の性能を大幅に向上させることを目指しています。
2. フレキシブル基板対応の低温電極材料の開発
120°C以下の低温プロセスで完結する電極材料を開発し、フレキシブル基板にも対応可能な太陽電池の実現を目指しています。この技術により、より柔軟性のあるデバイスへの応用が期待されます。
3. 新規材料の高度分析技術の開発
放射光分析をはじめとする高度な分析技術を駆使し、新規材料の構造や特性を詳細に解析しています。これにより、材料開発の効率を高め、学術的および産業的に価値ある成果を得ることを目指しています。
これらの研究を通じて、ペロブスカイト太陽電池のコストと耐久性の課題に取り組み、さらなる技術革新を目指しています。
水の電気分解 (Water Splitting) は、再生可能エネルギーから得られる電力を利用して水を水素と酸素に分解するプロセスであり、クリーンな水素エネルギーの生成手段として注目されています。水の電気分解においてもコスト削減と効率向上が重要な課題です。以下のアプローチで、これらの課題に対する研究を進めています。
1. 新規貴金属フリー高活性触媒の開発
貴金属を使用しない高活性触媒の開発により、コストを大幅に削減しつつ、従来の貴金属触媒と同等かそれ以上の性能を目指しています。特に、安価で豊富な遷移金属や炭素材料を基盤とした触媒の設計に注力しています。
2. 再生可能エネルギー由来の変動電源に対応可能な広範囲安定化
太陽光や風力発電といった変動する電源に対応できるよう、電解槽や触媒の安定性を向上させ、広範囲での運転条件に耐えうるシステムを開発しています。これにより、より信頼性の高い水素生産を可能にします。
3. 電気化学反応のIn-situ観察による触媒動作原理の解明
放射光などの高度分析技術を活用して、触媒表面での電気化学反応をリアルタイムで観察し、触媒の動作原理を明らかにしています。これにより、触媒の性能向上に向けた具体的な設計指針を得ることが可能となります。
これらのアプローチを通じて、水の電気分解技術の進展に寄与し、クリーンな水素社会の実現に向けて学術的および産業的に価値ある研究を展開しています。
太陽電池と水電解を組み合わせた究極の人工光合成(Artificial Photosynthesis)は、再生可能エネルギーの余剰電力を利用して水を水素に変換し、これを貯蔵して必要なときに燃料電池や水素ガスタービンを通じて電気として取り出すことができるシステムです。このシステムは、持続可能なエネルギー社会に向けた有望な技術です。以下の3つのトピックに焦点を当て、工学的アプローチから研究を進めています。
1. 低環境負荷材料のみで構築される人工光合成デバイスの創製
持続可能な材料を使用し、環境への影響を最小限に抑えた人工光合成デバイスの開発を目指しています。具体的には、貴金属を使用しない触媒や、リサイクル可能な構成材料を使用することで、環境に優しいシステムを実現します。
2. 太陽電池と水電解間のエネルギーレベルのマッチングの構築
太陽電池からの電力出力と水電解のエネルギー要求を最適にマッチングさせることが重要です。これにより、効率的なエネルギー変換を実現し、太陽光エネルギーを効率よく水素に変換する技術を確立します。
3. 出力変動に対応可能なエネルギーシステムの構築
再生可能エネルギーは出力が変動するため、その変動に対応できるエネルギーシステムを構築します。これにより、安定した水素生成および貯蔵が可能となり、燃料電池や水素ガスタービンを通じて、必要なときに再び電力を取り出すことができます。
これらの研究により、再生可能エネルギーを用いた持続可能なエネルギーシステムの実現を目指しています。