Pollen Analysis

湖や湿原の泥の中に残された花粉の化石から過去の森林の移り変わり明らかにする「花粉分析」を紹介します

花粉の化石が教えてくれる昔の森の姿

 化石の研究というと恐竜やゾウなどの大きな動物の骨の化石を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、顕微鏡をつかわないと見ることができない小さな化石もあります。は、植物がつくる小さな花粉の化石を泥の中から見つけ出し研究をしています。そのような花粉の化石を研究することで、昔の森の姿を知ることができるのです。今回は、花粉の化石の研究と、その魅力について紹介します。

花粉の化石ってどんなもの?

 花粉は、植物の花のおしべの中でつくられる小さな粒子です。風で飛ばされたり、虫に運んでもらったりして、めしべにたどりつき種をつくります。

 花粉の大きさは、髪の毛の太さよりも小さい1/50mmから1/10mmくらいです。植物の種類によって、いろいろな形をした花粉がつくられます。たとえば、マツの仲間の花粉には2つの丸い耳がついていますし、スギの花粉には1つのツノがついています。

 花粉はとても頑丈な殻をもっていて、水のたまる、湿った場所であれば、1万年でも数100万年でも分解されません。そのため、琵琶湖の底にたまっている泥や、湿原の泥などを採取してきて、顕微鏡で探すと花粉の化石を見つけることができます。ただし、乾燥した場所で紫外線をあびてしまうと頑丈な花粉も分解してしまうため、化石として残ることができません。

 花粉は湖や湿原のまわりの森から飛んできて、泥の中にたまります。そのため、花粉の化石を研究することで、泥がたまった時にまわりにどんな森が広がっていたのかが分かるのです。

 琵琶湖の底には40万年間の泥がたまっています。その間には、とても寒かった時期や暖かかった時期がくりかえされていたことが分かっていて、寒かったころの森や暖かかったころの森の姿を花粉の化石から明らかにすることができるのです。


スギ花粉の電子顕微鏡写真

琵琶湖の湖底の泥を採取している様子

昔の森はどんな姿?

 気候の変化や人間による伐採などによって、森の木の種類や森の景色は大きく変わっていくものです。私たちが見ているのは現在の森でしかなく、例えば縄文時代や弥生時代の人々が見てきた森の姿は違っていたことが分かっています。

 縄文時代の終わり頃から弥生時代にたまった琵琶湖の泥の中からは、ドングリをつくる木であるカシ類やスギの花粉が多く見つかります。このことから、当時はこれらの木が多い森が広がっていたことが分かります。昔の人びとは、カシ類のドングリを食べたり、スギをつかって丸木舟をつくったり、様々な形で森を利用してきたことも考古学の研究によって明らかになっています。

 琵琶湖博物館の屋外展示には、縄文弥生の森という展示があります。これはこの時期の森を再現したもので、昔の人びとが暮らしていた環境を見て、感じることができます。屋外展示の一角には、3000年前に生きていた大きなスギの根株も展示されていますよ。

 人間が暮らし始めるよりもずっと昔の時代には、琵琶湖のまわりにいろいろな種類のゾウがすんでいたことが骨の化石から分かっています。そのようなゾウたちや、縄文時代や弥生時代の人たちが、どのような森の中で生きていたのか想像するのはとてもワクワクすることです。また、昔の森の変化を調べることは、温暖化や人間による森林伐採などの影響を考えるためにも重要なことなのです。

スギで作られた丸木舟と縄文時代の生活

琵琶湖博物館の縄文弥生の森