たのしい卒論

これまでにゼミ生が書いた卒論を少しだけ紹介しています。文章中の主語は、その時々にがんばった学生です。ただ、内容のディティールは省いていますし、少し脚色もあります。ふわっとしたイメージだけ感じとってください。

01 アパレル店員が声をかけると安心する

服屋に行くと、店員さんから声をかけられます。

「よかったらあわせてみてくださいね」とか「よくお似合いですよ」とか定番でしょうか。

もちろん、気持ちよく商品を買ってもらうために店員さんは声をかけているはずです。


さて、みなさんは店員さんから声をかけられたらどうしていますか?

「はぁーい」と適当に返事をしてみたり、「はぁ...」と気まずくなったり...。

声をかけられないように、相手の位置を把握して逃げ回る人もいるかもしれません(?)。


「いやいや、そんなことないでしょ」と、声かけの効果を調べた学生がいました。

アパレルショップでアルバイトをしていたこともあり、効果的な声かけを知りたかったのです。

「お客さんが安心して気持ちよく服選びができる声かけは何だろう?」

これが卒論のテーマでした。


難しいのはデータ収集の場面です。

実際のお店でいろんな声かけを試したり、お客さんを捕まえるのはなかなか難しい...。

それで、小汚い心理学実験室に飾りつけをし、疑似的なショップを作りました。

自分の服や鏡などをもちこんで、意外にもちょっとおしゃれな空間ができあがりました。

そして、アパレル店員のロールプレイング大会(というのがあるのです)を参考に実験をしました。

お客さん役の大学生に、実際に買うつもりで服を選んでもらいます。

その間に、人によって異なる3種類の声かけをしました。


すると、好意や社会的証明の言葉かけをすると、「似合うかな?」という心配が低くなりました。

「よくお似合いですよ」や「この服は評判がいいですよ」。

そんな声かけが、服選びでの心配を低めたという結果です。

もちろん実際の場面ではないという制約はあります。

でも、声かけによって買い物中の気持ちが、少し変わってきそうです。


店員さんもいろいろと考えながら声をかけてくれているようです。

店のなかで逃げ回ってばかりいるのも損かもしれません(多くの人はそうでないのか?)。

客側もコミュニケーションの1つとして楽しめるといいですね。

02 つながりを感じると寄付をする

街中やネット上には、さまざまな募金があります。

箱をもって実際に呼びかけていることもあれば、レジ横に箱がおいてあることもあります。

ウェブサイト上でのワンクリックは、時流にあったやり方かもしれません。

少し余裕がある状況なら、「ちょっとでも助けになれば」と思って寄付することもあるでしょう。


でも、「これ一体なんの募金なんだろう...」と思うことはありませんか?

誰のための募金なのか? 何に使うお金なのか?

多少なりとも自分のお小遣いが飛んでいくので、何の役に立つのかは知りたいですよね。


寄付を募る方の立場になってみましょう。

「どんなことを伝えたら、寄付してもらえるかな?」という問題になります。

これを卒論のテーマにした学生がいました。


コンビニの募金箱や、夏定番のなんとか時間テレビの募金箱を見に行って考えていました。

そこで思いついたのが、“使用目的と金額”、そして“心理的距離”でした。

「いくらあればこれこれが買える!」のような使用目的と金額がはっきりしている方がいい。

それと、寄付の相手に心理的なつながりを感じてもらえる情報があるともっといい。

どちらも「確かに」と思える気がしますが、ちゃんと調べた研究はなさそうです。

それで実験をすることにしました。


と言っても、実際にお金を集めてしまっても困ります。

架空の募金のチラシを作って、寄付の意志を尋ねます。

募金の設定は、貧しい国の子どもへの支援です。


実際に自作のチラシを見てもらって、寄付しようと思うかどうかを尋ねます。

チラシは「情報なし・金額あり・金額と目的あり」×「心理的距離が近い・遠い」の6種類。

「その国の子どもが作るものをあなたも食べている」という情報で、心理的距離を近づけました。

使用目的や金額を示しても、寄付の意志は変わりませんでした。

でも、心理的距離を近づける情報があると、寄付しようという意志が高くなる傾向がありました。


寄付を募るうえでは、「誰に」が大事なようです。

特に、「自分とつながりがある」という情報を伝えることで募金が増えるかもしれません。

もう一度立場を反転させてみます。

多くの人が「つながり」を想像できると、助け合える社会になるのかなと思った卒論でした。

03 マンガで読むとよくわかる

マンガから学んだことは、とても多いです。

バミューダトライアングルとか神隠しの事例とか、ドラえもんで知りました。

(子どもの頃、けっこう怖かったのを覚えています。)

すべて真に受けるわけではありませんが、確かにマンガは知識の窓口でした。


学習マンガというジャンルがあります。

典型的には、「マンガ○○の歴史」みたいなのがそうです。

でも、何が学習マンガに含まれるかはけっこうファジーなようです。

免疫細胞について教えてくれるあれとか、産科に関するあのお話も学習マンガに含まれます。

いずれにしても、読んでいていろんなことを知れるし、考えさせられます。

(もちろん脚色やデフォルメもあるでしょうが...。)


今思えば、単にマンガを描きたかったのかもしれません。

「マンガで学ぶとより心理学の知識が身に付くか」というテーマに取り組んだ学生がいました。

もともとマンガを描くのが趣味でした。

さらさらっと心理学のトピック(対人魅力の理論)を伝える短編マンガを描き上げました。

「後輩くんが心理学女子の先輩に対人魅力の理論について尋ねるけど、実は...」

みたいなお話でした。

比べる対象は、小説がいいだろうということで、同じストーリーの小説版も自作しました。

(さすがにこっちは友だちに書いてもらったようです。)


ところで、みなさんはマンガって何で読みますか?

「何ってどういうこと...」というリアクションをとると世代がばれます。

「電子書籍の市場が伸びているので」ということで、紙とスマホを比べました。


マンガor小説を読んでもらって、内容についてのテストを受けてもらいます。

結果は問題のタイプによって少し違いましたが、紙媒体のマンガを読むと成績が高くなりました。

マンガで読むと心理学の小難しい内容も、より理解してもらえそうです。


この卒論の結果を知ってしまうといろいろ考えます。

授業もマンガ版のオンデマンド教材を作った方がいいのかなとか。

ただそんなスキルはないので、いまだに実現していません。

04 子育ての楽しいことを話すと楽になる

子育ては大変です。

自分の時間なんてものはなくなるし、思うようにいかないことがほとんどです。

「ああ、仕事の時間が...」

「あれ、これ好きだったはずなのに、食べないの?」

「なんで、出がけにおもちゃを...」

「今日、これで着替え何回目?」

こんなことを思いながら、気づいたら一日が終わっていきます。


「母親はもっと大変でしょ。先生、話聞いてあげてます?」

とは言われませんでしたが、母親の自己開示に興味をもった学生がいました。

自己開示は、自分の思っていることや経験したことを誰かに話すことです。

この学生のテーマは、「母親はどんなことを話すといいのか?」でした。


「どんなことって?」となりますよね。

子育てで人に話すと言えば、グチや悩みのことだと思うかもしれません。

でも、子育てには楽しいこともあります(あたり前ですが...)。

否定的な気持ちと肯定的な気持ちの両方に注目することにしました。


小学校前の子どもをもつお母さん方にアンケートをお願いしました。

夫や親、友だちに対して、子育てに関してどんなことをどれぐらい話すか評定してもらいました。

併せて、子育ての疲労感も教えてもらいました。


子育ての疲労感と関係していたのは、何だと思いますか?

実は、夫に対する肯定的な話をすることでした。

子育ての「楽しいこと」や「感動したこと」を夫に話している人ほど、疲労感が低かったのです。


もちろん、子育てに関することはそれほど単純ではありません。

グチや否定的な気持ちをうまく出すことも必要です。

でも、確かに楽しいこともあるはずで、そこに目が向きにくくなることもあるなと思いました。

そんな気づきをもらった卒論でした。