● 2023年度 審査委員講評
● 2023年度 審査委員講評
審査委員長
筬島 修三(一般社団法人九州経済連合会 産業振興部長)
今回は「高齢化問題」はじめ将来の課題解決に対してどうする、客観的に見れば厳しい時代ともいえるのに、それに対し心根の「優しい」皆さんがソリューションを考えたプレゼンだったと思いました。
全体通して大差がつくものではなく接戦ながら、でも順位は審査委員の皆さんのほぼ審査通りだったという大会でした。
審査委員
田中 久生(福岡市科学館 サイエンスコミュニケーター)
今年のコンペでは、テーマに対して課題を考え、その課題の要因や背景分析、その根拠となるデータの調査など、課題の設定理由が年々しっかりとしてきていると思います。 それらをもとに、様々な課題を解決するためにロボットを考え、提案されており、実現まで見据えたしっかりとしたプレゼンテーションを感じました。
しかしながら、解決できるロボットを考えるだけでなく、『夢』を語ってもいいと思います。もちろん、実現できるレベルのロボットを考えることは基本ですが、そのうえで、ロボットによってもたらされる社会の『夢』やロボットに詰め込みたい機能をゆくゆくはなど想定の形でもよいので『夢』を見てもいいのではないでしょうか。
『現実』と『夢』。どちらかだけでも足りず、両方をバランスよく考え、提案できることが、この『フューチャードリーム!ロボメカデザインコンペ』の素晴らしいところだと考えています。 これからも、いろいろな夢を持ったロボットや提案を楽しみにしています。
加藤 優(元自動車会社デザイナー)
今回は、少し先の未来ではなく現在の身近な問題・課題をテーマとし、かつ機能性・実用性の検証、及び実現性に向けての機械工学的に着実な解析を行なった提案が目立ったように思います。皆さんが正しい解を求めるために真面目に取り組まれたことが良く理解できる提案ばかりでした。
ただ同時に、提案されたデザインや一部の学生の方と話をして元カーデザイナーとして感じられたのは、やはりデザインというのはなかなか理解されていないようだなという少し残念な思いでした。芸術学部などでプロダクトデザインを学ばないと難しいでしょうから、今回はそのような学生の参画がなかったからかも知れません。
デザインとは単なる形(スタイリング)や色を考えることなどではありません。最も重要なのはそれを使う人や周りの人・環境との関係性を考えて、その製品は「魅力的か?(所有したくなるか?、使ってみたくなるか?)」「実際に使いやすいか?」「使ってどんな気持ちになるか?」などなど人の側・感情の側面からのアプローチも重視しながら「人とモノとの最善の関係性」を見つけてゆく事なのです。
独創的な掃除機や扇風機などの製品で有名なD社の創始者は、単に形だけ格好良いデザインは中身の無い「殻のデザイン」だと言っています。D社では「よく機能する製品は美しい=機能主義」の考えに基づいて製品開発を行なっていますが、特徴的なのはスタイリングのためだけのデザイナーなどは居なくて、デザインエンジニアと呼ばれる人々が設計・試作からデザインまでを担っている事です。
もちろん製品側からの視点の「上手く機能すること」が第一義ですが、同時に使う人側 からの視点の「使いやすいか」「見栄えは良いか」「所有する事に満足するか」などの観点においても(デザイン)エンジニアが検討して設計し、創造して(スタイリングも含めた)デザインにするのです。
(私のような)デザイナーに設計は出来ません。でも皆さんのようなエンジニアはデザインエンジニアになれます。皆さんの今回の提案にさらに使う人、周りの人の視点からの考慮・検討がもっとあったなら、もっと素晴らしいものになると断言できます。来年はデザインエンジニアを目指してさらに頑張ってみましょう。
永里 壮一(メカトラックス株式会社 代表取締役)
皆さん興味深い内容で非常に楽しく審査をさせてもらい、私自身の勉強にもなりました。ありがとうございました。
廃用症候群予防電動リクライニング車椅子「C-PARL」(チーム名:まとらぼ)は、理論的な解析なども実施され、これまでのロボメカデザインコンペの審査の中で最も実現可能性を感じさせるものでした。最優秀作品賞おめでとうございます。 他の作品も高い評価を得ていましたが、特にボール収集/運搬ロボット「CAT」(チーム名:HY)は地域に根差した具体的な内容でとても好印象でした。 また、メカトラックス賞のHakon-dy(チーム名:マウンテンズ)は、観光案内をすること自体で混雑緩和に繋がるというコンセプトがとても面白かったです。
全般的に、いろんな役に立つ面白そうなアイデアを詰め込みすぎて、その結果、実現可能性や具体的な役に立つアイデアの説得力が低くなった印象があります。 中核となるコンセプトに自信をもって、そのコンセプトを軸に検討を重ねるとより良い作品やプレゼンになったのではと感じます。
審査員として好き勝手なことを申しましたが、この経験を今後の学生生活や社会人生活に活用いただければ幸いです。 これからのご活躍、祈念しております。
田名部 徹朗(株式会社 三松 代表取締役)
本コンペは、毎回高齢化から観光文化的な要素まで多岐にわたったテーマが取り上げられ、私の知らない九州各地の課題を教えていただいていますが、その中でも今回は、コロナ禍が明け、以前から提唱されながらなかなか解決がすすんでいないテーマにフォーカスされたチームが多かったと思います。 優劣を分けたところは何だったかと言いますと、テーマの分析・選定はもちろんのこと、ロボメカ開発にあたって大切な要素試験や検証も行ったうえで設計・デザインを行うこと。 それが実現性への近道であることをより訴えれたかどうかの差であったと思います。 このコンペを経験し体験されたことを通じて、参加された1人1人が今後社会に出てもきっと役に立つ手法を学べたことと思います。 今回の審査は各チームとも優劣つけがたく僅差での表彰は審査員泣かせのものとなってしまいましたが、また来年どこのチームに三松賞を授与できるか楽しみにしています。