力学では重力や摩擦力とともにばねの力を学びました。ばねの力は「伸縮する長さに比例し、向きが反転して作用する力」というフックの法則を基にしています。その記述には三角関数が使われます。そのため、初めて物理学を学ぶときには、ばねの力やその動きを表す「振動」はとっつきにくい感が否めないでしょう。
しかしながら、ばねの力は様々な物理現象を表現するときの大変便利な「モデル」としてあちこちに登場します。機械的なばねそのものの記述から分子の基本的な動き、果ては量子電磁力学やその拡張版まで、実に様々な場面に適用されているのです。その基本中の基本として、最初に単振動を学びます。
振動現象を表す運動方程式は、二階線形微分方程式の典型例となっています。微分方程式は「ある場面で〇〇であった量が、『すぐ』となりの場面では△△であった。この変位をずっと離れた場面に適用するには?」という、世の中の変化の具合を端的に表現する数学の分野であり、コンピュータシミュレーションなどで大活躍します。
単振動の様子。
左図は重力(水色の下向き一定のベクトル)とばねの力(オレンジ色の上下に変動するベクトル)の合力として、赤色表示されている単振動の力をアニメーション化させています。
振り子(特に単振り子)の様子。
物体が天井から伸縮しない糸で吊り下げられ、左右に揺れています。
このアニメーションでは、物体に作用する重力を水色点線のベクトルで、糸の張力をオレンジ色のベクトルで記述しています。ピンク色と赤色のベクトルは重力の分力を表します。
左右の運動は赤色ベクトルによる力、円弧の運動はオレンジ色のベクトルによる力にそれぞれ起因します。
2つの物体が互いにばねでつながっているときの振動。これを連成振動といいます。左図は単振動ではない振る舞いをしていますが、実は単純な振動の「重ね合わせ」で記述されます。
(「重ね合わせ」とは何だろうか?)
単振動を複数個繋げた連成振動を紹介しました。連成振動する物体を無限に多く繋げると、全体として波動現象が発現します。微分方程式としても、無限個の連立微分方程式が多変数二階線形微分方程式に格上げされます。冒頭で触れたように、波動は情報通信技術と密接に関係します。
三角関数 y = sin(ωt) は単振動を表す最も便利な関数です。これが、場所 x ごとに少しずつずれながら時間変化していく様子が、波動の基本です。例えば y = sin(kx-ωt) は次のようにアニメーション表現できます:
たった1つの波動を扱うだけであればこれで十分ですが、我々の周りでは非常に多くの波が飛び交っています。性質の同じ波を同時に観測する場合、我々の五感はそれらをきっちりと分離して認識するというよりは、まとめて1つのものとして認識することが多いです。それは次の図のような例です:
1段目:三角関数の進行波(時間の経過とともに山や谷の位置座標値が増加する)
2段目:三角関数の後退波(時間の経過とともに山や谷の位置座標値が減少する)
3段目:1段目と2段目の波を同時に認識する(加法定理)
4段目:すべての段の波動現象を1つの図に表す
この現象は、三角関数の「加法定理」で表現できます。加法定理は「人間や機械が複数の波を同時に認識するための式変形」と言えます。
このような「進行波」と「後退波」の同時認識を応用すると、波の反射が数学的にきれいに記述されます:
左から来る波(ピンクの二重線)の自由単反射は
仮想的に右から来る「同じ高さ」の波と重ね合わせることで
記述できる
左から来る波(ピンクの二重線)の固定端反射は
仮想的に右から来る「逆の高さ」の波と重ね合わせることで
記述できる
では、互いに同じ進行方向を向き、振動数や速さが若干異なる波が重ね合わさったらどうなるでしょうか?
互いに速度や振動数が少しずつ違う2つの進行波を重ねると、左図のように「うなり」と呼ばれる二重構造の波が発現します。水色・ピンク色の波の速度はそれぞれ「群速度」「位相速度」と呼ばれます。これも三角関数の加法定理で記述できます。
情報の伝達において、この構造は重要な役割を果たします。
波を記述する最も基本的で扱いやすい関数は周期関数の代表ともいえる三角関数です。三角関数は周期や振幅が明確に与えられる上、微分や積分を行う際に大変良い性質を持っています。しかしながら、日常では複雑な周期的信号が頻繁に見受けられます。通信技術では周期的に繰り返される「複雑な」形状を持つ信号を送受信します。例えば次のような関数で記述される楔形の情報を送信したいとしましょう:
(1)
このような「複雑で周期的な」信号を記述することは、三角関数を駆使すれば難なく達成されます。その際、「三角関数の直交性」という重要な性質を用いるのですが、この「直交性」は線形代数で培った「ベクトル」の発想が持ち込まれます。実際に関数 (1) を三角関数で表すと (2) のようになります:
(2)
この手法を「フーリエ級数展開」と呼びます。この級数は無限和ですが、有限和でも関数 (1) を適切な近似を実現できます。その様子をアニメーションで再現しましょう:
「何故、一次関数をわざわざ三角関数の無限和で表現するという面倒なことをしているのか?」と思うかもしれません。しかし単に通信技術的な視点から見ても、「同じ信号をずっと送り続ける」には、「一次関数を1回送る」を繰り返すよりも、最も単純な周期関数である三角関数を用いるほうが非常に効率的なのです。
フーリエ級数展開が必要となった経緯はまた別のところにあるかもしれませんが、「人類はどこかで獲得した知識を多方面に適用することで発展してきた」一例として認識することは、個々人の知見を深める意味で大事なことでしょう。
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