ある日のこと、方向音痴の天使マイゴエルは、天国からの使命を果たすために地上に降りてきました。しかし、天使の中でも彼女は少々特殊で、いつもどこかに迷ってしまう癖がありました。
マイゴエルは羽ばたいて地上を飛び回りながら、天使たちのガイドブックに書かれた通りの場所を探しました。しかし、どうしても道に迷ってしまい、気づくと立ち往生している地獄の門前に迷い込んでしまいました。
「えっと、ここは一体どこなんでしょうか?」
マイゴエルは当然のように迷子になってしまいましたが、やはりあまり怖がる様子はありませんでした。
閻魔大王と名乗る鬼が現れました。彼は普段ならば地獄に迷い込んだ天使を一蹴するのですが、マイゴエルの優しい笑顔になぜか心を動かされてしまいました。
「おい、天使。ここは地獄だぞ。天国に帰る方法なんてあるわけないから、さっさとここで暮らせ!」
閻魔大王は厳しい表情を装いつつも、実はマイゴエルに心を開いていくのでした。
マイゴエルはとても元気で明るい性格だったため、地獄の鬼たちともすぐに仲良くなりました。彼らの暗い心に少しずつ光を取り込んでいったのです。
数週間が過ぎ、マイゴエルはますます地獄での生活になじんでいきました。彼女は鬼たちと一緒に楽しい時間を過ごし、地獄の風景も悪くないと思えるようになっていました。
しかし、ある日、マイゴエルはふと気づきました。地獄に来てから天国へ帰る方法を全く探していないことに。そんなことを考える余裕もなく、楽しい日々に流されてしまったのです。
その夜、彼女は閻魔大王に会いに行きました。
「閻魔大王様、実は私、天国へ帰る方法を探していなかったんです。でも、地獄のみんなと仲良くなって、ここを離れるのが寂しいんです。」
閻魔大王は深い溜息をつきました。
「それはわかる。実は私がこの状況を仕組んだんだ。最近地獄に来る魂が減ってきたんだ。地上で善行を積む人が増えすぎて、地獄の存在が薄れつつある。だから、君のような天使を誘ってみたんだよ。」
マイゴエルは驚きましたが、やがて納得しました。彼女が地獄での生活を楽しんでいる間に、閻魔大王は地獄に新たなエネルギーを取り込もうとしていたのです。
しかし、マイゴエルは次第に閻魔大王の真意を見抜いていきました。彼の企みは、悪人を増やし、天国に帰ることのできる善人を減らし、地獄の力を強化することでした。
彼女は善と悪のバランスが重要だと理解し、地獄の鬼たちとの交流を通じて、善良な心を持つ存在が地獄にも意義をもたらすことに気づきました。
「閻魔大王様、地獄と天国の均衡を崩すことは良い結果をもたらしません。善と悪の両方が存在することで、全体が成り立つのです。私は天国に帰ることを望みますが、地獄での経験を忘れることはありません。あなたと地獄の仲間たちとの交流は、私にとって大切なものです」
とマイゴエルは言いました。
彼女の真摯な言葉に、閻魔大王は驚きと感銘を受けました。彼は自分の欲望に囚われていたことを自覚し、マイゴエルの助けを受けて善と悪の均衡を取り戻す道を選びました。
マイゴエルは天国に帰ることに成功しましたが、地獄での経験を胸に秘め、天国の仲間たちに善と悪の重要性を伝えることで、彼らの心に深い影響を与えました。
彼女の冒険は、天使としての役割を果たすだけでなく、異なる世界の理解と共感の大切さを示す重要な旅となったのです。そして、彼女の存在は地獄と天国の間に新たなバランスをもたらし、閻魔大王自身も心の成長を遂げるきっかけとなったのでした。