CLIMBフレームワークは、AIが急速に普及し社会が激変する現代において、個人やチームが未来を生き抜くために不可欠な5つの基礎力を体系化したものです。これは、かつて「読み・書き・そろばん」が社会生活の基礎スキルとされたように、現代版の「人生の基礎力」として提唱されています。
各要素は以下の頭文字で構成されています。
C (Communication & Presentation): 相手を理解し、信頼を築きながら、自分の考えを分かりやすく伝え、行動を促す力。(傾聴、対話、プレゼン、ストーリーテリングを含む)
L (Logical, System & Critical Thinking): 情報を論理的に整理し、全体構造を把握し、AIや他者の意見を批判的に評価する力。
I (Imagination & Lateral Thinking): 自由な発想や水平思考で、枠を超えた新しいアイデアや選択肢を生み出す力。
M (Mastery of Questions + 抽象化能力): 具体的な事柄から本質を抽象化し、解くべき問いを設定する力。
B (Bounce-back): 失敗や変化から立ち直り、学びを活かし続けるしなやかな回復力(レジリエンス)。
AIが「平均的な能力」を代替できるようになった現代において、人間は「独自性・創造性・適応力」で価値を発揮することが求められます。CLIMBは、この新たな役割分担に対応し、人間が強みを尖らせ、弱みを補強するための戦略的なスキルアップの指針となることを目的としています。
CLIMBフレームワークは、「読み・書き・そろばん」を現代にアップデートした構造として捉えられています。それぞれの要素は以下のプロセスにマッピングできます。
INPUT(情報を取り込む力):「読み」に対応
C(Communication & Presentation): 傾聴や観察を通して、相手や社会からの情報を効果的に受け取る力。
L(Logical, System & Critical Thinking): 情報を批判的に吟味し、正しく理解する力。
つまり、CLIMBのCとLがINPUTに大きく関与します。
PROCESSING(考える・処理する力):「そろばん」に対応
L(Logical, System & Critical Thinking): 取り込んだ情報を整理、構造化し、分析する力。
I(Imagination & Lateral Thinking): 自由な発想や水平思考で、新しいアイデアや選択肢を生み出す創造的な思考力。
M(Mastery of Questions + 抽象化能力): 具体的な事象から本質を抽象化し、解くべき問いを設定する力。
つまり、CLIMBのL、I、MがPROCESSINGの核となります。
OUTPUT(表現する・伝える力):「書き」に対応
C(Communication & Presentation): 自分の考えやアイデアを社会に伝え、合意形成を図る力。
I(Imagination): 生み出したアイデアを発信し、形にする力。
B(Bounce-back): 挑戦を継続し、失敗から立ち直って再挑戦する実行力。
つまり、CLIMBのC、I、BがOUTPUTを支えます。
このように、CLIMBはINPUT(受け取る)、PROCESSING(考える)、OUTPUT(表現・行動する)という一連のプロセスを体系的に整理し、現代社会で求められる基礎力を網羅していると言えます。
AI時代においては、「強みを尖らせること」が最も合理的なスキルアップ戦略であると提唱されています。
弱みを鍛えるメリット:
致命的な穴を塞ぐ(例:コミュニケーションが苦手だと他の強みを発揮しにくい)。
チームワークでの衝突を減らし、協働しやすくする。
「生存力」を確保する(特定のスキルに依存しすぎない保険)。
特にC(Communication)やB(Bounce-back)は、弱すぎると他の強みを殺してしまうため、最低限は鍛える必要があります。
強みを伸ばすメリット:
差別化と希少性を生み、自分ならではの武器になる。
得意領域は学習効率が高く、モチベーションが続きやすい。
市場価値が高まり、「この分野ならこの人」というポジションを確立できる。
特にI(Imagination)やL(Logic)に強みがある人は、専門家やクリエイターとして大きな価値を発揮できます。
AIは「平均的な能力」を代替できるため、人間は「独自性・創造性・適応力」で価値を発揮することが重要です。したがって、弱みは致命傷にならない程度に補強しつつ、強みを唯一無二の武器にまで磨き上げることが理想的な戦略とされています。AIが弱点補完の役割を担うことで、「弱みを埋めるコスト」が劇的に下がったため、より一層「強みを尖らせる」ことに注力すべきだという考え方です。
キャリア後半の世代において、CLIMBの5つの基礎力を効率的に鍛える順序として、M → I → C → B → L が提案されています。
M(Mastery of Questions + 抽象化能力): まずは「問いを立てる力」が最も重要です。どんなに情報があっても、AIが進化しても、「そもそも何を問うのか?」がなければ、努力の方向性を誤り、成果につながりません。自分にとって本当に大切な問いを見極めることがすべての出発点となります。
I(Imagination & Lateral Thinking): 問いを立てたら、次はアイデアを広げる力です。「今までの延長」ではなく、新しい可能性を描く想像力が、副業やセカンドキャリア、趣味の活動など、未来を拓きます。
C(Communication & Presentation): どんなに良い問いとアイデアを持っていても、人に伝わらなければ価値を発揮できません。キャリア後半では、特に「後進に伝える」「チームと協働する」場面が増えるため、伝える力を鍛えることが大きなレバレッジになります。
B(Bounce-back): 挑戦には失敗や挫折がつきものです。キャリア後半は、変化に直面する機会が増えるため、立ち直り、再挑戦し続けるレジリエンスが不可欠です。
L(Logical, System & Critical Thinking): 論理的に整理したり、批判的に吟味する力は重要ですが、AIが得意な領域でもあります。人間は「M → I → C → B」の基盤があって初めて、Lを生きた武器として活用し、AIの出力を検証・補完する役割を担うべきだとされています。
この順序は、「人間がAI時代に価値を発揮するプロセス」をそのまま表しており、限られた時間やリソースの中で効率的にスキルアップを図るための合理的な戦略とされています。
CLIMBフレームワークは、個人のスキルアップだけでなく、チームや組織の強み・弱みを見える化し、協働のための言語化ツールとしても活用できます。
自己認識とチーム構成の最適化:
自己評価シートやレーダーチャートを用いて、各メンバーのCLIMB要素における強みと弱みを視覚的に把握できます。
これにより、個人がどの能力を伸ばすべきか、どう補えばよいかが見えてきます。
チーム単位で各メンバーのCLIMBアーキタイプ(Analyst、Creator、Doer、All-rounderなど)を分析することで、チームとしての傾向や課題が一目で分かります。
例えば、論理型とクリエイティブ型の人材が組むことで、互いの弱みを補い合い、相乗効果を生み出すことが可能になります。
育成カリキュラムの設計:
チーム全体のCLIMBのバランスを把握することで、研修や育成カリキュラムの設計に役立てることができます。
AIが弱点補完の役割を担うことで、チームは多様な強みを組み合わせてシナジーを生み出すことに注力できます。
このようにCLIMBは、個人が自分を知り、チームがその特性を理解し、互いに補完し合うことで、組織全体の未来力を高めるための共通言語として機能します。
CLIMBの「M(Mastery of Questions + 抽象化能力)」は、AI時代において特に人間がリードすべき重要なスキルです。「良い問い」を立てることで、努力の方向性が定まり、AIの活用精度も高まります。Mを鍛えるためのミニ習慣として、以下の5つが提案されています。
5 Whys(なぜを5回): 何か現象が起きた際に「なぜ?」を5回繰り返して問い、根本原因を探る習慣です。表層的な言い換えに留まらず、因果関係の変化を確認することが重要です。
一文問題定義: 解決すべき問題を「誰の、何の目的で、いつまでに、どれだけ」という観測可能な指標を用いて、一文で明確に定義する習慣です。例:「営業チームが今期末までにオンライン商談の成約率を+5ptにする」。
抽象化レベル(上げる/下げる): 具体的な事柄から本質を一般化(抽象度を上げる)したり、抽象的な概念を具体的な事象に落とし込む(抽象度を下げる)練習をします。上下を往復することで「ちょうどよい抽象度」を見つける訓練になります。
矛盾文に変換(TRIZ): 課題を「Xを良くするとYが悪くなる」という形式の矛盾文に変換する習慣です。これにより、一見両立しない課題の構造を明確にし、TRIZのような発明理論の一般解に繋げやすくなります。
逆質問を1つ足す: 「そもそも、解かずに済む設計は?」や「制約を変えたら、問題自体を消せる?」など、既存の前提を覆すような問いを一つ加える習慣です。これにより、問題自体を再定義したり、ルールを再設計する思考が養われます。
これらの習慣を1日10〜15分程度で継続することで、「問いグセ」が身につき、Mの力が向上するとされています。また、AIを「発散の相棒」や「収束の補助」として活用し、自分の問いを磨くことも有効です。
CLIMBの「B(Bounce-back:レジリエンス力)」は、単に失敗や挫折から立ち直る「回復力」だけでなく、変化に応じて柔軟に自分を変えていく「適応力」も意味します。キャリア後半の世代にとってBが特に重要である理由は、心身の変化、役割の変化、社会環境の激変といった多くの変化に直面する機会が増えるためです。
キャリア後半でBが重要である理由:
心身の変化: 体力や気力が若い頃と同じではないため、無理のない回復方法や、新しい役割への適応が求められます。
役割の変化: 管理職や後進指導、あるいはリタイア後の新しい生活など、これまでとは異なる役割を担うことが増えます。
社会環境の変化: AIやDXの普及、働き方の変化、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代において、「昨日までの常識」が通用しなくなる中で、自分の立ち位置や役割を柔軟に変えるしなやかさが必要です。
Bを鍛える2つの側面:
回復力(Resilience as Recovery): 失敗や挫折から立ち直り、再挑戦する力。小さなリセットや感情の外化(書く・話す)で養えます。
適応力(Resilience as Adaptation): 変化に応じて自分のやり方や役割を変える力。「もう昔のやり方には戻れない」と受け入れ、新しい立場を作ることを指します。例えば、AIが仕事を代替するならAIを使いこなす役割に、管理職を降りたなら若手を支えるメンター役に転じる、といった変化への対応です。
AIは情報処理や効率化は得意ですが、環境の変化に合わせて自分をどう変えるかはできません。だからこそ、CLIMBのBはAI時代に人間が持ち続けるべき「生存戦略」であり、キャリア後半の人生を豊かに生き抜くための基盤となります。
CLIMBの「L(論理的思考、システム思考、批判的思考)」と「I(想像力、創造力、水平思考)」は、AIが高度な処理を担う時代において、人間がAIの出力を理解し、判断し、新しい価値を創造するために重要なスキルです。
L(Logical, System & Critical Thinking)を鍛えるミニ習慣:
論理的思考:「だから何?」で締める習慣: 会議や読書の後に「つまり、だから何が言えるのか?」と一言でまとめることで、論理を結論まで導く癖をつけます。
PREP法で話す練習: Point(結論)→ Reason(理由)→ Example(事例)→ Point(再結論)の順で30秒スピーチをすることで、論理の筋道を意識し、説明力を磨きます。
システム思考:「5分で因果ループ図」: 日常の困りごとを「原因→結果→さらに原因…」と矢印で紙に描くことで、問題の全体像や真因を把握する練習をします。
「俯瞰メモ」習慣: トラブルが起きたら、個人、チーム、組織、社会の4階層で要因を書き出すことで、問題を一段上の視点で捉える力を養います。
批判的思考:「逆を考える」トレーニング: 「これは正しい」と思ったら、あえて「もし間違っていたらどうなるか?」と逆の仮説を立てることで、思い込みに気づきやすくなります。
AIに突っ込む習慣: ChatGPTなどに質問したら、返ってきた答えに「その根拠は?」と追加で尋ねることで、批判的に吟味する癖をつけ、AIリテラシーを高めます。
I(Imagination & Lateral Thinking)を鍛えるミニ習慣:
「逆の前提」を1日1つ考える: 日常の課題で「もし予算ゼロなら?」や「あえて使わないなら?」など、真逆の発想を試すことで思考の柔軟性を鍛えます。
新しい体験を小さく取り入れる: 普段読まないジャンルの本を読んだり、行ったことのない店で食事をするなど、小さな「非日常」を日常に取り入れ、脳に新しい刺激を与えます。
アイデアを「3つ」出してみる: 会議での提案や日常の工夫でも、必ず3案考える癖をつけることで、新しい発想が生まれやすくなります。
小さな実験を実際にやってみる: 考えたアイデアをA4一枚の資料にまとめる、家族や同僚に話す、100円ショップの材料でプロトタイプを作るなど、実際に形にして試すことで想像力を実践的に伸ばします。
視点を変えてみる: 「もし相手の立場だったら?」「もし全く関係ない第三者だったら?」と視座を変えて物事を捉えることで、固定観念を外し、新しい発想を生み出します(これはMの抽象化能力にも関連します)。
これらの習慣を意識的に取り入れることで、キャリア後半の世代は「柔軟さを意識して鍛える」ことと「経験を武器にする」ことの両輪を回し、AI時代における「I」を大きな強みに変えることができます。