原民喜「夏の花」を「読む」―国語教育を視座として―
アジア・太平洋戦争の終結から80年弱が経過した今日において、「国語」の授業で「戦争文学」を読むことの意義は、奈辺に見出せるのか。本セミナーでは、原民喜の短篇「夏の花」(『三田文学』1947・6)を分析対象に据えて、如上の問題について検討する。
牛山恵「作品の力―「夏の花」の実践から―」(『日本文学』1991・3)は、「戦争を題材とした平和教材」を取り上げる際の困難として、生徒らがしばしば「一種のアレルギー反応のようなもの」を示す点や、「空襲の話、学童疎開の話、飢えの話、沖縄の話、原爆の話、どんな話でも、結局「二度と戦争を起こしてはならない」という感想でしめくくられてしまう」点を挙げている。これに鑑みるに、教室において「戦争文学」を扱う際には「二度と戦争を起こしてはならない」という生徒たちの「感想」それ自体を尊重しつつも、予定調和的な「鑑賞」を超える、「読む」という体験を実現・共有してゆくことが求められるといえよう。
以上のような問題意識のもと、本セミナーでは、論者自身の授業実践の紹介やフロアとの質疑応答も交えながら、「夏の花」のテクストしての読解可能性と教材的価値について分析する。ヒロシマを「表象」することの不可能性や、作中の微細な表現が発表当時の社会的状況と切り結んでいた関係性、戦争体験の安易な「物語」化を拒絶する「小説」の倫理について、「教室」という場で「読む」ことを前提に置いた上で考察したい。
※本発表については、東アジア言語文化学会第5回大会(2023年度夏季大会)での基調講演(オンライン開催、2023年8月5日)と内容の一部が重複することをお断りしておく。
県立広島大学広島キャンパス 教育研究棟2 マルチメディアラボ
2023年7月29日(土) 13:00-16:00
福田涼(県立広島大学 地域創生学部 講師)
草薙邦広(県立広島大学 地域創生学部 准教授)