生態学は「生物の分布と個体数を決める相互作用の科学である」(Krebs 1972)と言われて久しい。生態学は進化、群集、保全など様々な分野を包含した学際科学に発展しつつあるが、それでも「個体数の科学」に基盤があることに変わりはない。野外で生息する生物の個体数をどう推定するか、個体数のパターンから因果をどう推論するか、これは生態学の枠組みを超え、広範な環境科学における問いにもなってきている。むろん、その方法論も歩みを止めることなく、いまも発展を続けている。本学校では、個体群生態学の原点ともいうべき、個体数の推定法と、個体数変動をもとにした因果推論を題材に、基礎から先端までをわかりやすく紹介する。また、Rを用いた具体的な解析の手ほどきも予定しているので、パソコンを持参されるとよい。対象はおもに若手であるが、関連分野の進歩を垣間見たいというシニアの方の参加も歓迎する。
野生生物の個体群サイズ・密度は,生態学の最も基礎的な情報であるだけではなく,その保全・管理に不可欠なものである.しかし,とく視認性の限られた環境(例えば森林)では,対象個体群のすべてをカウントすることは困難であり,バイアスの少ない推定には,観測プロセスを適切に考慮した統計モデルが必要である.近年,計算機性能や推定アルゴリズムの進歩とともに,自らのデータに適した統計モデルを柔軟に構築することも容易になりつつある.本講演では,現在利用可能な統計学的な個体群サイズ・密度推定手法について概説したうえで,講演者らが開発した自動撮影カメラによる地上性哺乳類の密度推定モデル(REST model; Nakashima et al. 2018)を題材に,新たな統計モデルを構築するうえでの留意点についても述べたい.
生態学において、生物間の相互作用や生物と環境の関係性を明らかにすることは最も基礎的な興味のひとつである。これまで多くの研究で、相関分析による要素間の関係性が調べられてきた。しかしながら、相関では「因果の逆転」や「第三の共通要因」による疑似相関が生じるため、相関があったとしても決定的な結論を得ることは時として容易ではない。また反対に、重要要因が観測されていない場合には注目する要素間に有意な相関が検出されないこともある。近年、こうした問題に有効な手段として時系列解析が注目され始めている(e.g., Sugihara et al. 2012)。本講演では、近年急速に発展してきた時系列解析について概説し、そのひとつであるEmpirical Dynamic Modelingの使い方をフリーソフトRによる実践を通して説明する。