低炭素社会実現に不可欠な技術がパワーデバイスです。ハイブリッド自動車の直流交流変換や、家電や太陽光発電の電圧変換にパワーデバイスが用いられており、機器動作時にどうしても電力損失が発生します。現在使われている多くのパワーデバイスには、シリコン(Si)が使われていますが、ワイドギャップ半導体を使うことで、損失の低減(省エネ化)が可能となります。炭化ケイ素(SiC)を用いたパワーデバイスが、数k Vの中耐圧における高効率素子として実用化が進められていますが、10 kV程度の高耐圧デバイスは未確立です。
本プロジェクトの目的は、10 kVでの実用的な高耐圧デバイスを作製し、モジュール化まで実現することです。
パワー半導体の応用例
一般的に、バンドギャップエネルギ(Eg)が大きい材料程、絶縁破壊電界強度が大きくなり、大きな電圧をかけても壊れ難くなる傾向にあります。ベータ型酸化ガリウム(β-Ga2O3)は、Eg(=~4.7 eV)が大きく、溶液成長により低価格で大面積試料が入手可能な半導体材料です。また、窒化アルミニウム(AlN)は、現在、最もEg(= 6.1 eV)の大きい半導体の一つです。
10 kV領域では、β-Ga2O3やAlNを使うことで、SiCよりもオン損失を半分以下に抑えられます。また、SiCでは伝導度変調を利用したPNダイオード(PND)や絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を使う必要がありますが、β-Ga2O3やAlNを使えば、接合障壁ショットキー(JBS)ダイオードやFin型FETで対応できるため、スイッチング損失も低減できます。SiCと比べて、オン損失とスイッチング損失の両方を低減できるため、電力損失の大幅な低減が可能です。
オン抵抗と耐圧の関係
各電圧領域における半導体材料とデバイス
私たちは、SiCを凌駕する10 kV級の低損失デバイス実現を目指して、縦型β-Ga2O3 JBSダイオードや接合終端(JTE)構造を持つFinFETの作製を進めています。
ダイオード内蔵Ga2O3トランジスタ
また、(a) 2018年にAlNをチャネルとした電界効果トランジスタ(MESFET)を、2019年にN面AlNをベースとした分極トランジスタ(PolFET)を、(b) 2024年に完全な縦型AlNショットキ障壁ダイオード(SBD)を世界に先駆けて動作させることに成功しています。現在、AlNの物性解明に向けて、(c) 縦型AlN PiN構造の作製に取り組んでいます。
(a) AlN MESFET, (b) fully vertical AlN SBD, (c) fully vertical AlN PN diode
β-Ga2O3やAlNを使うことで、世界の温室効果ガス(CO2)排出量の3%程度を低減できます。冷却システムや直列接続の除去にも繋がるため、システムレベルで考えると10%以上の低減が期待できます。パワー半導体は、現在の経済活動を維持しながら、CO2排出量を減らすことのできる革新的な技術です。
2024/10 "Fully vertical AlN-on-SiC SBDs", JJAP 63, 100903 (2024).
2024/6 NEDO「β型酸化ガリウムの結晶成長」
2024/3/4 "High-temperature and high-power devices using AlN", ISPlasma2024, Mar. 2024. (招待講演)
2023/4/1 日本学術振興会/基盤研究(B) 「縦型窒化アルミニウム素子の作製技術の確立」
2023/2/2 "Mg implantation into AlN layers grown on sapphire substrates", JJAP 62, 020901 (2023).
2021/4/1 日本学術振興会/基盤研究(B) (分担)「III族窒化物半導体のイオン注入不純物活性化機構の解明と点欠陥制御」
2019/12/14 "AlN結晶へのイオン注入", 第162委員会 第116回研究会 (招待講演)
2019/7/19 "窒化アルミニウムおよび酸化ガリウムの結晶成長からトランジスタ作製まで", 第3回エネルギーマネージメント・材料デバイス技術分科会 (招待講演)
2019/10/21 "Dry and wet etching for β-Ga2O3 SBDs with mesa termination", JJAP 58, 120902 (2019).
2019/6/19 "N-polar PolFET based on AlGaN/AlN", IEEE EDL 40, 1245 (2019).
2019/4/1 日本学術振興会/基盤研究(B) 「超高耐圧素子実現に向けた窒化アルミニウム素子作製の技術基盤の構築 」
2018/3/6 "AlN MESFETs using Si implantation", JJAP 57, 04FR11 (2018).
2017/4/1 日本学術振興会/若手研究(B) 「窒素極性面AlNの接触抵抗低減と分極効果トランジスタの実現」