餌が固まって分注できない問題(2026年4月24日)
今年に入ってから、ショウジョウバエの餌がなぜか固まり、500 mL仕込むと100 mLがロスになるという事態が発生していた(通称:100 mLもったいない事件)。備忘録を兼ねて、同じ沼にハマる人が出ないようここに記しておく。
我々のストック維持用の餌レシピは、7.3% glucose (無水)、5.0% dry yeast、3.6% corn flour、0.6% wheat germ、1.0% agar である (University of Louisiana at Lafayetteの田守博士に秘伝レシピを教えていただいて、それをケチって少し改変している)。
当初、原因は砂糖ではないかと疑っていた。きっかけは、10 kg入りの砂糖袋を見たTくん(通称:Dくん)の一言、「これ、“含水”って書いてあるっす」。無水ブドウ糖 vs 含水ブドウ糖の比較検証も行ったが、結果はまさかの無関係。砂糖犯人説はあっさり否定された。
途方に暮れかけたそのとき、ふと思い出した。そういえば最近、酵母をサフ インスタントドライイースト (赤)から酵母アサヒビールHB-P02に変更していた。まさかと思いつつ酵母を元に戻してみると、なんと、100 mLもったいない事件はあっさり解決した。どうやら我々のレシピにはアサヒの酵母は相性が悪かったらしい。
結論:安さだけで原材料を変えると、悲劇が待っている、こともある。
2026年5月26日
NF-κB-mediated developmental delay extends lifespan in Drosophila.
Ping Kang et al., PNAS 2025
Iowa State UniversityのDr. Hua Baiのlabからの論文。
恥ずかしながらHua Bai博士の名前を存じ上げなかったが、面白い論文を出されているので、これから色々読んでみたい。
4年生のKくんが、気合いを入れて準備して、紹介してくれた。
前胸腺刺激ホルモン(PTTH)の変異体は、発生タイミングの遅延と成体寿命の延長の表現型を示すが、その分子機構がわからないので、調べたという論文。
結論はシンプルで、
1.PTTH欠損はエクダイソンを介して発生期の自然免疫シグナルを抑制
2.その結果、発生タイミングの遅延と成体寿命の延長が引き起こされる
Figure自体は比較的理解しやすかったものの、議論がさまざまな方向へ展開されるため、全体を理解するのに苦労する論文であった。
2026年5月19日
A Drosophila holidic diet optimized for growth and development.
Sebastian Sorge et al., Developmental Cell 2025
The Francis Crick Institute のAlex P. Gould lab からの論文。
最近、様々な種類の食餌を作製している4年生のOくんが、ショウジョウバエ用の完全合成系培地(holidic medium)を改良した論文を紹介してくれた。内容自体がシンプルだったこともあり、今回は学生から鋭い質問が多く出て、良かった。
研究自体はシンプルで、従来のholidic mediumは発生速度や生存率に影響を与えてしまうという問題があった。そこで筆者らは培地組成を細かく調整し、最適化した新しい培地「HolFast」を作製した、という内容。色々ツッコミどころは多かったが、最終的には「よくここまでOptimizeしたな」という印象を受ける論文であった。この論文の趣旨とはあまり関係ないが、Figure 5Aで、ハエに抗生物質を食べさせればかなり発生速度が遅れる現象は、知らなかったので勉強になった。この現象の詳細なメカニズムは分かっているのだろうか、詳しく知りたい。この論文の引用数は11とまだ多くはないが、これから多くの人がこちらのレシピに変えるはずなので、我々も考えなければならない。
2026年5月12日
Mating-induced increase of kynurenine in Drosophila ovary enhances starvation resistance of progeny. Naoto Hikawa et al., JBC 2024
東京大学 三浦研からの論文。
最近、日本人研究者の論文の紹介が多いが、それは、私が日本のショウジョウバエ研究者を知ってもらいたいという思いから、あえて日本発の論文を多めに選び、学生に紹介してもらっている。
最近、Starvation Assayを行っている4年生のKさんが本論文を紹介してくれた。樫尾博士の論文は、前職の理研時代に岡田がJCで2度紹介したことがあり、「Kynurenine」という言葉を久しぶりに目にして懐かしさを覚えた。
本研究では、交尾によってメスの卵巣におけるKynurenine量が増加すること、さらにそのKynurenineが離れた組織である脂肪体から供給されることが明らかにされた。交尾が全身性に与える影響の複雑さと面白さを改めて感じた。
私の読み込みが不十分なだけかもしれないが、Fig. 5でLipidに着目した流れが少し唐突に感じられたため、数多くある他の候補の中でなぜそれを選んだのか、その着眼点についてぜひ伺ってみたい。また、最後のFig. 6では、ハエの色使いによってキイロショウジョウバエ感がしっかり強調されていて、とても良かった(笑)。
2026年4月28日
Stress-induced organismal death is genetically regulated by the mTOR–Zeste–Phae1 axis. Takashi Matsumura et al., PNAS 2025
また筑波大学 丹羽研からの論文。松村博士が筆頭&共同責任著者。
丹羽研もメンバー数を数えたら21人になっていた (写真では26人)。こちらもでかい。
前からしっかり読みたいと思っていた「熱ストレスによってどのように生体が死亡しているのか」を明らかにした論文。4年生のYさんが紹介。
自分が学生時代とポスドク前半でよく使っていたルシフェラーゼアッセイやゲルシフト、ChIP解析がFIgureになっていて内容にとても親近感を持った。特に興味深かったのは、Fig.1aの結果で、39℃で30分のヒートショックではほとんど死なないのに、40℃で同じ30分処理をすると生存率が一気に下がる点である。このたった1℃の差で結果が大きく変わる現象は興味深い。ただ、なぜ30分の熱処理にしたのか、お聞きしたい。
いくつか疑問も残った。Phae1の発現上昇が、なぜ神経の細胞死を引き起こすのか、その分子メカニズムをもう少し知りたい(論文中で説明されているのかもしれないが)。さらに、神経の細胞死が誘導されたあと、それがどのように個体レベルの死につながるのか、その過程に興味がある。
2026年4月21日
Hepatic gluconeogenesis and PDK3 upregulation drive cancer cachexia in flies and mice. Ying Liu et al., Nature metabolism 2025
Harvard大学Norbert Perrimon lab からのNature metabolism論文。
久しぶりにPerrimon labのHP見たが、メンバー数が34人になっていた、でかい。
シングルセル解析から始まる重めの論文。
大学院に進学したAさんが紹介。2時間以上かけて頑張って説明してくれた。
大量のデータで、Fig.5はFig.5aからFig.5vまであった。
Fig.6ではがん悪液質マウスモデルを用いて、ショウジョウバエでの発見の一般性の検証。
コンセプト的にはあまり新しさは感じず、担がん個体の生存率の回復が弱い印象 (Fig.5b)であった。ただし、解糖系で生じたピルビン酸がアセチルCoAへと変換される過程を抑制するPDK3(ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ3)を、がん悪液質の新たな治療標的として見出した点は興味深い。
2026年4月14日
Neuroendocrine control of calcium mobilization in the fruit fly.
Naoki Okamoto et al., Nature 2025
筑波大学丹羽研の岡本博士のNature論文。
大学院に進学したKさんが紹介。
実験手法に派手さはないが、データの取り方やストーリーの作り方が秀逸。
図4dの写真は話題になっていたが、岡田的には、図4gの実験結果が見事だと思った。
こんな論文が書けたら良いなと思える論文であった。