餌が固まって分注できない問題(2026年4月24日)
今年に入ってから、ショウジョウバエの餌がなぜか固まり、500 mL仕込むと100 mLがロスになるという事態が発生していた(通称:100 mLもったいない事件)。備忘録を兼ねて、同じ沼にハマる人が出ないようここに記しておく。
我々のストック維持用の餌レシピは、7.3% glucose (無水)、5.0% dry yeast、3.6% corn flour、0.6% wheat germ、1.0% agar である (University of Louisiana at Lafayetteの田守博士に秘伝レシピを教えていただいて、それをケチって少し改変している)。
当初、原因は砂糖ではないかと疑っていた。きっかけは、10 kg入りの砂糖袋を見たTくん(通称:Dくん)の一言、「これ、“含水”って書いてあるっす」。無水ブドウ糖 vs 含水ブドウ糖の比較検証も行ったが、結果はまさかの無関係。砂糖犯人説はあっさり否定された。
途方に暮れかけたそのとき、ふと思い出した。そういえば最近、酵母をサフ インスタントドライイースト (赤)から酵母アサヒビールHB-P02に変更していた。まさかと思いつつ酵母を元に戻してみると、なんと、100 mLもったいない事件はあっさり解決した。どうやら我々のレシピにはアサヒの酵母は相性が悪かったらしい。
結論:安さだけで原材料を変えると、悲劇が待っている、こともある。
Wayne A. Johnson and Justin W. Carder, Plos One 2012
だいぶ昔の論文であるが、ちゃんと読まないといけないと思っていた論文。
Iowa UnivesityのWayne A. Johnson博士からの論文 。
3年生のTさんによる初めての論文紹介であった。
論文の内容は比較的シンプルで、Take-home messageは蛹化場所の高さは、乾燥を検出するmdIV nociceptor neurons(mdIVニューロン)によって制御されているという点である。mdIVニューロンを抑制すると乾燥を感知できなくなり、本来であれば避ける乾燥した場所まで移動するため、より高い位置で蛹化する。一方、mdIVニューロンを過剰に活性化すると、幼虫はほとんど壁を登らず、低い位置で蛹化した。
率直な感想としては、結論は明確で分かりやすいものの、もう少しデータが欲しかった。特に、蛹化位置をIndexで示すのではなく、実際の蛹化位置の測定値で提示してほしかった。一方で、イントロダクションで引用されている先行研究は勉強になった。
2026年7月14日
Systemic coagulopathy promotes host lethality in a new Drosophila tumor model
Tsai-Ching Hsi et al., Current Biology 2023
またまたUC BerkeleyのDavid Bilder labからの論文 。
3年生のYくんによる初めての論文紹介であった。
説明不足の箇所が多くあったので、だいぶ厳しめに指摘させていただいた (そのためか、Yくんの発表中の写真を撮るの忘れたので、他の写真で代用)。
以前紹介されたParaneoplastic renal dysfunction in fly cancer models driven by inflammatory activation of stem cells.の前に出版された論文。この論文は私が理研在籍時にbioRxivに登録されていたので、その時に紹介したことを覚えている。
内容は、新規ショウジョウバエがんモデルを構築し、がんモデルにおける個体死が、腫瘍から分泌される血液凝固因子によって誘導されることを明らかにした論文。Dvorak, H.F.博士の有名な論文のTumors: wounds that do not heal N. Engl. J. Med. 1986 の一文から始まるオシャレなSummaryがよかった。メラニン化を調べるいくつかのアッセイは私達でも取り入れたい。
ただ、率直な感想は、着眼点は面白いが、もう少しデータが欲しいなと思った。特に、筆者らが同定した因子の一般性は、他のがんモデルでも検証してほしかった。
2026年7月7日
Early-adult methionine restriction reduces methionine sulfoxide and extends lifespan in Drosophila.
Hina Kosakamoto et al., Nature communications 2023
理研の小幡labと東京大学 三浦lab (現在 基生研)からの論文。
3年生のIさんによる初めての論文紹介であった。
忘れっぽい私であるが、この論文については、昨年JCで紹介されたことを覚えていた。
いつも思うが、小幡Labから発表される論文は、図が見やすく整理されており理解しやすい。論文の内容もわかりやすく、スーパーポスドクの小坂元さんらは、食餌制限、特にアミノ酸の一種であるメチオニン制限による寿命延長効果が、加齢によって低下することを明らかにした(Fig. 2)。さらに、その分子メカニズムを詳細に解析した結果、メチオニン制限によって抗酸化タンパク質である MsrA の働きが高まり、その結果として個体の寿命が延長することを示した。しかし、加齢に伴ってメチオニン制限をしても MsrAがあまり誘導されないため、高齢個体ではメチオニン制限による寿命延長効果が消失することを明らかにした。Fig. 5dの結果がかなり綺麗で説得力があった。またFig.7でシングルRNAseqまでやって、これでもかというほど多くの情報を盛り込んだ研究であった。
この発見をヒトに当てはめて考えると、健康を意識し始める中高年以降に食事制限を開始しても、その効果は限定的である可能性があり、少し残念な結果とも言える。しかし、きっと小幡さんはすでにそれに対する問題にも取り組んでそうだと思った。
2026年6月30日
Paraneoplastic renal dysfunction in fly cancer models driven by inflammatory activation of stem cells.
Sze Hang Kwoket al., PNAS 2024
UC BerkeleyのDavid Bilder lab とUniversity of Hong KongのJung KIM lab からの論文。
3年生のNくんによる初めての論文紹介であった。この論文は初めて読むと思っていたが、昨年のJCで紹介されていたことを知った。
内容は比較的シンプルで理解しやすかった。ショウジョウバエのがんモデルでは、腹部に体液が貯まって膨らむ「Bloating」という表現型が見られるが、その原因はこれまで十分に解明されていなかった。本論文で筆者らは、がん細胞から分泌されるIL-6様サイトカインが腎臓の細胞に異常を引き起こし、その異常を感知した腎幹細胞が過剰に増殖することを明らかにした。その結果、尿細管が詰まり、体液を排出できなくなり、体液が体内に蓄積するという仕組みを明らかにした。
全体としてストーリーは分かりやすく、内容も理解しやすかった。しかし、2種類の異なるがんモデルを実験ごとに都合よく使い分けている印象を受けた。そのため、「この結果はどちらのモデルで得られたものなのか」と混乱する場面があり、読者としては一つのモデルで一貫して話を進めるか、モデルを使い分ける理由をもっと明確に説明してほしかった。
2026年6月23日
Tumor-induced orexigenic imbalance lowers protein appetite and drives early organ wasting symptoms.
Afroditi Petsakou et al., Nature Communications 2026
Harvard大学Norbert Perrimon lab からの論文。
岡田研のJCでPerrimon labの論文を取り上げるのは2回目。3年生のDくんの初めての論文紹介であった。難しい日本語を使って頑張って説明していた。
内容は非常に分かりやすく、特に Fig. 5e に研究の全体像が簡潔にまとめられていた。筆者らは、腸にがんを誘導したショウジョウバエモデルを用いて、がんから分泌される因子(ImpL2とupd3)が脳内のNPF(Neuropeptide F)を減少させることを明らかにした。そして、このNPFの低下によってタンパク質(必須アミノ酸)に対する食欲不振が生じ、最終的には全身の消耗(がん悪液質)の進行につながることを示した。
著者らが、一つの結果だけで結論を導くのではなく、異なる実験手法を用いて検証し、発見した現象の妥当性を丁寧に確認していた点が印象的であった。一方で、脳内のNPF量を遺伝学的手法によって人為的に増加させても、担がん個体の生存率はわずかに改善する程度であり(Fig. 5c)、期待したほど大きな効果が得られなかった点はやや残念に感じた。
Shoko Mizutani et al., EMBO Reports 2025
以前から読んでみたかった京都大学上村 &服部研究室からの論文。
餌の条件に着目して研究をしている4年生のTくん(通称: Dくん)が、分かりやすく紹介してくれた。
内容は、幼虫に、オレイン酸・酢酸・バリンを過剰に摂取させると、成虫になった後に標準的な餌で飼育しても寿命が短縮することを発見したという論文。そして、上記の脂肪酸と分岐鎖アミノ酸の過剰摂取が、ヒストンアセチル基転移酵素Gcn5の機能低下を誘導することを明らかにしている。
研究自体に8年を費やしたと書いてあったが、苦労と執念が感じられる論文であった。餌の酵母自体に着目して、5153もの遺伝子欠損酵母ストレインを用いた解析は手法自体も面白いが、完遂されていて見事であった。以前に私のポスター発表へ上村先生が足を運んでくださった際、酢酸やアセチルCoAに関するデータについて非常に鋭い質問をいただいたことを思い出した。本論文ではその部分が重要な位置を占めており、先生の関心の所在が反映されていたように感じられ、どこか納得させられた。
本研究ではオレイン酸やバリンが寿命短縮候補として同定されたが、それ以外の候補となるべき脂肪酸やアミノ酸では効果がなかったのか、興味がある。また、nat3Δとは対照的に寿命延長効果を示した brp1Δ について、その後どのような研究展開がなされているのかも気になる点である。
2026年6月9日
YORU: Animal behavior detection with object-based approach for real-time closed-loop feedback.
Hayato M. Yamanouchi et al., Science Advances 2025
以前から読んでみたかった名古屋大学上川内研究室からの論文。
幼虫の行動解析の研究している4年生のAくんが、かなり分かりやすく紹介してくれた。
内容は、「見た目の変化」を手がかりに高速で動物の行動を自動検出するAI解析ツール『YORU』を開発したという論文。プレスリリースの動画が興味深い。
私達が行いたい研究の手法には使えなさそうであったが、AIを使った行動解析の最先端を知ることができた。特に、オプトジェネティクスを用いて、特定の行動を示す個体をピンポイントで狙ったリアルタイム介入操作は見事であった。
非常に勉強になる有意義なジャーナルクラブであった。
2026年5月26日
NF-κB-mediated developmental delay extends lifespan in Drosophila.
Ping Kang et al., PNAS 2025
Iowa State UniversityのDr. Hua Baiのlabからの論文。
恥ずかしながらHua Bai博士の名前を存じ上げなかったが、面白い論文を出されているので、これから色々読んでみたい。
4年生のKくんが、気合いを入れて準備して、紹介してくれた。
前胸腺刺激ホルモン(PTTH)の変異体は、発生タイミングの遅延と成体寿命の延長の表現型を示すが、その分子機構がわからないので、調べたという論文。
結論はシンプルで、
1.PTTH欠損はエクダイソンを介して発生期の自然免疫シグナルを抑制
2.その結果、発生タイミングの遅延と成体寿命の延長が引き起こされる
Figure自体は比較的理解しやすかったものの、議論がさまざまな方向へ展開されるため、全体を理解するのに苦労する論文であった。
2026年5月19日
A Drosophila holidic diet optimized for growth and development.
Sebastian Sorge et al., Developmental Cell 2025
The Francis Crick Institute のAlex P. Gould lab からの論文。
最近、様々な種類の食餌を作製している4年生のOくんが、ショウジョウバエ用の完全合成系培地(holidic medium)を改良した論文を紹介してくれた。内容自体がシンプルだったこともあり、今回は学生から鋭い質問が多く出て、良かった。
研究自体はシンプルで、従来のholidic mediumは発生速度や生存率に影響を与えてしまうという問題があった。そこで筆者らは培地組成を細かく調整し、最適化した新しい培地「HolFast」を作製した、という内容。色々ツッコミどころは多かったが、最終的には「よくここまでOptimizeしたな」という印象を受ける論文であった。この論文の趣旨とはあまり関係ないが、Figure 5Aで、ハエに抗生物質を食べさせればかなり発生速度が遅れる現象は、知らなかったので勉強になった。この現象の詳細なメカニズムは分かっているのだろうか、詳しく知りたい。この論文の引用数は11とまだ多くはないが、これから多くの人がこちらのレシピに変えるはずなので、我々も考えなければならない。
2026年5月12日
Mating-induced increase of kynurenine in Drosophila ovary enhances starvation resistance of progeny. Naoto Hikawa et al., JBC 2024
東京大学 三浦研からの論文。
最近、日本人研究者の論文の紹介が多いが、それは、私が日本のショウジョウバエ研究者を知ってもらいたいという思いから、あえて日本発の論文を多めに選び、学生に紹介してもらっている。
最近、Starvation Assayを行っている4年生のKさんが本論文を紹介してくれた。樫尾博士の論文は、前職の理研時代に岡田がJCで2度紹介したことがあり、「Kynurenine」という言葉を久しぶりに目にして懐かしさを覚えた。
本研究では、交尾によってメスの卵巣におけるKynurenine量が増加すること、さらにそのKynurenineが離れた組織である脂肪体から供給されることが明らかにされた。交尾が全身性に与える影響の複雑さと面白さを改めて感じた。
私の読み込みが不十分なだけかもしれないが、Fig. 5でLipidに着目した流れが少し唐突に感じられたため、数多くある他の候補の中でなぜそれを選んだのか、その着眼点についてぜひ伺ってみたい。また、最後のFig. 6では、ハエの色使いによってキイロショウジョウバエ感がしっかり強調されていて、とても良かった(笑)。
2026年4月28日
Stress-induced organismal death is genetically regulated by the mTOR–Zeste–Phae1 axis. Takashi Matsumura et al., PNAS 2025
また筑波大学 丹羽研からの論文。松村博士が筆頭&共同責任著者。
丹羽研もメンバー数を数えたら21人になっていた (写真では26人)。こちらもでかい。
前からしっかり読みたいと思っていた「熱ストレスによってどのように生体が死亡しているのか」を明らかにした論文。4年生のYさんが紹介。
自分が学生時代とポスドク前半でよく使っていたルシフェラーゼアッセイやゲルシフト、ChIP解析がFIgureになっていて内容にとても親近感を持った。特に興味深かったのは、Fig.1aの結果で、39℃で30分のヒートショックではほとんど死なないのに、40℃で同じ30分処理をすると生存率が一気に下がる点である。このたった1℃の差で結果が大きく変わる現象は興味深い。ただ、なぜ30分の熱処理にしたのか、お聞きしたい。
いくつか疑問も残った。Phae1の発現上昇が、なぜ神経の細胞死を引き起こすのか、その分子メカニズムをもう少し知りたい(論文中で説明されているのかもしれないが)。さらに、神経の細胞死が誘導されたあと、それがどのように個体レベルの死につながるのか、その過程に興味がある。
2026年4月21日
Hepatic gluconeogenesis and PDK3 upregulation drive cancer cachexia in flies and mice. Ying Liu et al., Nature metabolism 2025
Harvard大学Norbert Perrimon lab からのNature metabolism論文。
久しぶりにPerrimon labのHP見たが、メンバー数が34人になっていた、でかい。
シングルセル解析から始まる重めの論文。
大学院に進学したAさんが紹介。2時間以上かけて頑張って説明してくれた。
大量のデータで、Fig.5はFig.5aからFig.5vまであった。
Fig.6ではがん悪液質マウスモデルを用いて、ショウジョウバエでの発見の一般性の検証。
コンセプト的にはあまり新しさは感じず、担がん個体の生存率の回復が弱い印象 (Fig.5b)であった。ただし、解糖系で生じたピルビン酸がアセチルCoAへと変換される過程を抑制するPDK3(ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ3)を、がん悪液質の新たな治療標的として見出した点は興味深い。
2026年4月14日
Neuroendocrine control of calcium mobilization in the fruit fly.
Naoki Okamoto et al., Nature 2025
筑波大学丹羽研の岡本博士のNature論文。
大学院に進学したKさんが紹介。
実験手法に派手さはないが、データの取り方やストーリーの作り方が秀逸。
図4dの写真は話題になっていたが、岡田的には、図4gの実験結果が見事だと思った。
こんな論文が書けたら良いなと思える論文であった。