<脱炭素農産物とウェルFar“M”の推進と発展>

平池:

それでは、私達ノースDXラボが推進している『ウェルFar“M”』プロジェクトと都筑様の推進されている脱炭素農産物の接点、あるいは将来的にこうしていくといいのではというようなご提案などをいただけたらいいなと思います。

都筑 代表理事(以降 都筑):

はい。視点としては新しいと思いますね。今、国が進めているいわゆる「農業DX化」は農作業を楽にしましょう、農作業を楽にして生産性を安定化しましょう、というのが主体なんですけれども、それはいわゆる外的データを集めて、機械に動いてもらうという、「人のお手伝いをしますよ」というようなものです。でも、そのデータは実は全て外部データですよね。でもウェルFar“M”の考え方は、その人のバイタル、脈を測ったりとか、体温を測ったり、その人が実際にどう思っているかということがある意味ベースになっていると伺っています。どんなに機械が発展して、どんなにAIが発展しても、こうやってください、ここで動きますよって言っても、その人自体が嫌だって言ったら、もうそれでおしまいなわけですよ。どんな自動化したってトラクターを畑まで動かすのは人ですから。その人が嫌だと思ったら行かない。

メンタルの話ではありませんが、その人のモチベーションを上げるとかメンタルを担保するDXは、実は今まで何もなくて、そういった意味での視点としては新しい考え方だと。気持ちと体の両方が健全である。そう考えると、その両方をちゃんと総括した上でのアプリケーションっていうのは、実は今までなかったわけですね。そういった意味では視点としては全く新しいし生産者目線でのスマート農業の新しい切り口ではないかと思います。

平池:

ありがとうございます。

都筑:

やっぱり一番大切なのは生産者さんのモチベーションだと思います。便利になってよかった俺何もやんなくていいんだ。トラクターを畑まで持っていって、あとは終わるまで待っていればいいんだ、というふうになったら、確かに便利なのかもしれないですけど、それで本当にいい農産物ができるのか、と思いますね。どうもトラクターちょっと動きがおかしいぞと思うくらいの人たちの方が、いい農産物ができてくると思います。同じ設備を使っても同じ環境だったとしても、作業に対するモチベーションを維持することが農家さんの幸せに直結していると思うんです。

 この果てしない仕事をやり切る、というようなメンタルを持つためにはね、どれだけ自動化しても、結局自分のモチベーションを保ち続けないといけないという部分で言ったら、ウェルFar“M”の考え方は斬新だと思います。

 身体をケアするためとなると、当然その中で効率というのが出てきます。より短時間に日中のハードな仕事を終わらせるためには、やはり効率が大事になってきます。経費をかけずに効率よくと考えると、脱炭素とすごく繋がってくるところがありますね。

平池:

そうですね。私たちノースDXラボの根幹として、「働く人達の幸福を追求する」という考えがあります。今お話しいただいたような 幸せの還元 というか、その為に活用できる仕組みを作り上げていきたい、そう考えています。

今後、推測型AIを用いた分析結果から活動の提案をするアプリを開発の予定ですが、都筑様から「こういう機能があれば」というようなアイデアがありましたらご参考に伺いたいのですが、いかがでしょう。

都筑:

センサー側の話にもなりますが、ライブカメラなどがついているとありがたいですね。

ドローンでカメラ撮影した情報が届くとか。ドローンはプログラム飛行ができるだろうし、電池が足りなくなったら自動で充電に戻るドローンも出てきている。電源は太陽光で賄えば脱炭素活動になるし。前職の圃場は道内いろんな所にあったので、圃場の確認もタイミングがずれると大変になる。圃場の確認だけで1年で35000kmも移動していました。

カメラでの撮影が可能になれば、CO₂排出も経費も削減出来て脱炭素活動に効果が出る。

今は衛星画像を使った圃場の確認システムもあるのだけど、どの衛星を使えばいいのか、それがいつの情報なのか、画像の結果をどう判断すればいいのか、専門的過ぎて分かりませんでした。リアルタイム映像は飛び地で圃場をお持ちの農家さんには喜ばれると思う。

あと、この話は露地だけの話ではなく、ハウス内の作物も同じ。場所によって状況が全く異なる。例えば、灌水チューブを設置していても何かしらの原因で部分的な詰まりが起きると水や肥料がいかない範囲が出てくる。画像で監視することで解決できることはかなりあると思う。

あと、引退した農家さんとかの協力をもらって、測定の結果と圃場の状態の関係性を調べて、その結果から作業を平準化させることができたりするかもしれない。やはり経験を判断の中に組み入れることも求められるのではないかと思う。

平池:

なるほど。今は圃場の環境データと作業者のバイタルデータという数値を主体とした検討ですが、画像などでの確認や実際に育成していた方々の過去の経験を判断に組み込んではどうか、ということですね。進化の余地はまだまだある、と。

都筑:

考え方のきっかけになったのは、農学部に入ったときに「日本の農業・農学の基本は飢餓への挑戦」と学んだことです。

現代日本農学は戦後の学問で、食べられない時代に国民を食べさせなきゃいけない学問として始まったと言って良いでしょう。日本が食べられるようになってからは、世界中で食料が不足して飢餓で苦しんでいる方々に対して、日本という国がどう貢献するか、というための学問として発展してきたっていうところがあります。だから、農学の基本っていうのは、「食えない人を食わせるための学問」だと。人を食わせなきゃいけないっていうのは、根本はどこにあるのだろうと考えると日本の戦中,戦後に至るのです。よく言われるのは、自分たちが一生懸命作った芋も、自分たちは蔦を食べ、芋は兵隊さんに食べさせるっていう話。兵隊さんに食べさせるということは、国のためという言い方に見えますが、実は「その兵隊さんって誰なの?」と考えたら、自分の旦那さんであり、自分の息子であり、自分のお父さんなわけです。ということは、結局、日本の農業・農学のスタートは「家族に対する愛」なんですよ。

家族を守るためには、隣の人たちも豊かにしなきゃいけない。隣の人たちが豊かなになるためには、地域が豊かでなくちゃいけない。地域が豊かになるためには国が豊かじゃなくちゃいけない。国が豊かになるためには、世界が豊かじゃなくちゃいけない。この考えが実は農学の基本なわけですよね。

最近、農学というのが日本ではちょっと変わってきていますよね。食料が輸出されてきたり輸入されてきたりとか、貧富の差が結構激しかったりとか。今でも実は日本は国際的に稲の育種とかで貢献しているのですが、日本の中で見ると、美味しい農作物を作ることが農業・農学の基本、みたいな感じになってきてしまっている。飢餓との戦いとかってあまりピンとこない。日本は今では飢えていなので、キーワードの「戦い」がピンとこないのかもしれないですけども、美味しいとかまずいというのは実は派生したものであって、根本は「飢えずに生きていくための学問」なわけです。今、実は危機的状況になっているのは、気象変動です。世界中で気候がおかしくなってきてしまって。例えばアマゾン川の一部が枯渇して砂漠化する、日本でもこの3月,4月で30度を超えるところが出てきたと思ったら、その次の週に雪が降るとか。明らかに気象変動が起きている。この気象変動の原因が学問的に唯一わかっているのが温室効果ガスの量です。他に、例えばアスファルト舗装輻射熱などが原因などとの説もありますが、北海道の片田舎で起きている気象温暖化が都会のアスファルトとどう関係しているのかというのは、関連付けることができなかったりしますが、唯一、二酸化炭素を初めとする温室効果ガスの量というものに関しては関連がわかっている。その部分が原因なのであれば取り除く必要があり、それは農業・農学の一つの義務だと思います。それが飢餓に対して貢献できる一つのきっかけであるのであれば、やらなくてはいけないというのが一つの考え方です。


それと、直近私の前職は北海道の会社で主に太陽光発電所と設計・施工・販売るす会社でした。北海道では土地はいっぱいありますが、発電所を建設できる用地は限られています。なぜかというと、そのほとんどが使われてない農地なのです。そうなると農地を転用して太陽光発電所を作るとなるのですが、転用すればどこでも作れるかというとそうではない。例えば、土地自体がものすごく地盤が柔らかく杭が打てないとか。活用しようがない土地って実はたくさんあって、北海道が元気になるためにはそういう土地も活用できるような産業がないといけない。太陽光を作ることでその地域の土地の資産価値を上げる。これはすごく重要なことだとは思います。ただ、そういう設備も建てられないとなると、やはり農業するか、農業に付随するものを何かやらなくてはいけないというのが、もう一つの理由ですね。その地域を良くするために使いづらい土地を活用するとなったとき、農業というのは活用しきれる可能性は非常に高い。耕作放棄地になっているところを開墾して新しく農業をすることによって地域の価値を高めようというのが前職の考え方でした。そういうと崇高なイメージがありますけれど、農産物としての価値は他所でのものと変わるところはない。地域にとっては産業が新しく出てきたことで若干喜ばしいことかもしれないけど、うまく成功せずにその会社が撤退してしまったら、地域のお荷物に逆になってしまう可能性だってある。


そんな経緯もありましたが、まずその地域で耕作放棄地を開墾して農産物を作ってという活動を一つ一つ紐解いていくと、まず、耕作放棄地の活性化、雑草だった場所を栽培植物に変えることで、光合成でCO₂をたくさん吸収してくれる。排出されるCO₂を吸収してくれるのです。それこそ適地適作というか、その土地で育つ農産物を栽培する、そして将来的には畑に営農型太陽光発電所を作り土地を活性化していきましょう、効率の良い農業をしましょう、と。これ全部脱炭素の取り組みになるんですね。そういう経緯から「脱炭素」というのをブランドにしていこうと進めました。それが2022年だったのですが、ちょうど2020年の初めくらいから「SDGs」という言葉が闊歩するようになり、SDGsの17項目のうちの一丁目一番地が気象変動なわけです。その気象変動に貢献するっていうことに対して今ESG投資が活発になっているこれは間違いないことです。脱炭素の農産物をESD投資の一つのアイテムにすることができるのではないか、それが可能なら社会貢献だけではなくてちゃんとしたビジネスになっていくっていうことで脱炭素をブランドにして、農作物を販売するっていうことでESG投資を使って、単なる慈善事業じゃなくてちゃんとビジネスになっていくんじゃないかというように考えたので、脱炭素農産物というのを始めることになったのです。そのためには自分たちが排出している排出量をどうにかして見える化しなければいけないと考えていました。

そんな中、2022年の頭ぐらいにいわゆるCO₂の数値化というのが一般的にできるようになってきたのです。温室効果ガスの排出量の見える化のサービスを行っている企業さんにいろいろアプローチをして、会社としてScopeの1,2,3を使った算定方法で、CO₂の見える化、温室効果ガスの見える化を始めました。2023年の5月くらいからかな。この「農業でCO₂の見える化」をしたのは、多分世界で初めてで、この算出で初めて自分たちがどこで余分なCO₂を出しているのか、この部分が削減できる、という場所と内容とがわかるようになってきたんです。例えば、燃料だったりとか電気だったりとか、経費の部分だったりとか。実はCO₂を削減する温室効果ガスを農業から削減するっていうのは、全部経費を削減するのと同じこと、農業経営の健全化と温室効果ガスの削減はイコールだ、ということも気づきました。ならば、これは制度にして、皆さんに使ってもらい農家さんの経営自体を助ける可能性がある。なので、2023年の12月に制度を作って、農水省にもその制度の説明に行ったのが『脱炭素農産物推進協議会』の始まりですね。

平池:

ありがとうございます。

私、地域の農業関係の報告会に出席した際、特別講演で「今、日本に作物が輸入されなくなったら、いったい何人の人を食べさせられることが出来るのか」というお話を聞いたことがあり、その時講演されていた方曰く 4000万人 が限界、とのお話でした。食料自給率が30%台ということから考えても、やはりそのくらいになってしまうのだろうな、と感じたことを思い出しました。まさに飢餓との闘いになるわけですね。

  

平池:

それでは、今度は農業という生産作業の喜びと、あと苦労というところお話を伺いたいのですが。

都筑:

はい。そうですね農作業の喜びと苦労、単純に言ってしまえば喜びは儲かったときですね(笑)。当然、美味しいものを作るとかそういった喜びってありますけども、何年もやっている農家さんだと、美味しいものは作れて当たり前っていうところも出てくるでしょうし、そこはプロとして外しちゃいけないところだと思います。ただ、さっきの話ではないですが、家族を幸せにするための生業だってことを考えると、やっぱり 稼いで子供たちや嫁さんとか、親族が幸せになってくれるのが喜びじゃないでしょうか。それはどんな仕事でもそうかもしれないですけども、それがもう何よりではないかと。独身の農家さんだって、恋人がいたりとかね従業員さんがいたりとかそういった人たちの幸せ。作業というか労働というか、裏にある苦労という部分が多いから、大きいから、喜びもさらに大きく感じるのだと思います。

例えば北海道ですと、平均の栽培面積が1戸当たり約30ヘクタールです。とんでもない面積ですよ。見渡す限りの面積を「耕さなくちゃいけないんだ」と。最初に畑の一番端にトラクターを置いた時点で、これからの7ヶ月8ヶ月の戦いに足を突っ込んじゃうわけです。そのときの緊張感とかその覚悟とか、ふと気づくと、とんでもないですよ。思っただけで嫌になっちゃうぐらい、つらいですよね。


朝から晩まで、しかも天気とにらめっこで、自分が思ったような計画通りにいかない。自然相手の仕事ですからね。自分の中で折り合いをつけて「何とかこれだったら」っていうところで作業をしていかなきゃいけない。毎年毎年状況は違うので毎回毎回同じ苦労をしなきゃいけない。ここまで完璧にやったのに、ここでこうなっちゃったとか、またここで病気が出ちゃったとか、ここで虫が発生しちゃったとか。本当はこんなつもりじゃなかったのにこうなっちゃったとかっていうのは必ず毎年あるんです。天気だけは変えることはできないですから。予想がどんなに精度が良くったって、結局予想された天気と、実際の天気が合わないときの方が多い。そうなると結局自分で考えなきゃいけないことは多いので、そこの部分はいつまでたっても苦労が多いですね。それだけ苦労しても、自分の満足いくような農作物ができる可能性はなかなか確度が高いわけでもないし、自分が辿り着きたいと思うような到着点にはなかなかいかないというのは、農業の苦しみでもあり、やりがいでもある。表裏一体です。30年以上農業携わっていますけど、自分の満足のいく農作物ができたことは1回もないかもしれないですけど、それでもやっぱり良し悪しの「でこぼこ」をどんどん小さくしていって、周りに人が増えていって、また来年もみんなで楽しく仕事ができるような環境を作れて、というところが喜びになって、何とか苦労の部分を吸収しているという感じですね。

平池:

私、先日、健康に関してトレーナーの方とお話する機会がありまして、その際に話に上がったことに「農業をされている方はメンタルの持ちようがものすごく強い」と。自然と向き合っている方っていうのは、非常にメンタルが強いと言われていました。

都筑:

強くならざるを得ないというか。毎年毎年のことなのですけども、例えばどうしても機械が入らなくて手でやらなきゃいけない仕事って絶対あるんです。畑の一番端に立ったとき、畑の反対側の端が見えないんですよ。もう200mとか300m先なので。そこの間に50センチ間隔ずつにサツマイモの苗を手で植えていかなきゃいけない。いつになったら終わるのかわからないわけですよ。だって、2個植えたって1mしか進まないですから。でもそこで「やっぱりそれでもやるんだ」というメンタルを持つっていうのは、強いのではなく、切り替えなのだとは思うのです。発想の切り替え。シーズン中に余計なことを考えているうちに、畑ではどんどん雑草が伸びていく。そうなるともう手に負えなくなってしまって、来年今年はもう収穫がありませんでした、となってしまう。何百万円という売り上げを、悩んでいる数日間で台無しにする可能性もあるわけです。そうなったらもう生きていけないわけですから。メンタルが強い、というよりも、前倒して判断をしていくということをどんどん習慣化してはいます。農家さんは段取り8割ってよく言うんですけれど、実際に畑に行く前の段取りを、その前の日とか、その前の年とか、シーズンに入る前とかに準備を8しっかりしておいて現場で2割補足する。そういう動きをしないと自分が思い描いていたような生産ができない。

平池:

私もこのプロジェクトを始めてから、各農家さん、自分が行っていることに対して、皆さんやり方は違うのですけど、自信というか自負というか、そういうのをしっかり持っていらっしゃって「去年はこうだったから今年はこう変える」ということをはっきり言われる方が多いですね。そういうのが段取り8割に当たるのかも、と今思いました。

4.脱炭素農産物の将来

平池:

それでは、脱炭素農産物の将来、として都筑様の思い描いている姿を教えていただきたいと思います。

都筑:

具体的な取り組みという形にはなりますが、まず農産物自体を生産するために排出された温室効果ガスの量が少ないのであれば、削減量というものを価値に変えていく必要があると思うんです。これはフットプリントっていう考え方で、その農産物を仕入れた側の人たちが、購入した製品やサービスが削減したCO₂量を活用することによって、CO₂の削減にも貢献できるという。いわゆるサプライチェーンの中の上流の人たちが下流の人たちのCO₂の削減のお手伝いができる農産物の場合は、作った人がいてそれを袋詰め箱詰めする人がいて、それは小売店さんに行ったりとか、仲卸店さんに行ったりとかして、最終的に消費者の手に渡る。この生産者が排出した量が少なければ、買う人たち、例えばスーパーマーケットさんの排出量の部分をオセットすることができるわけです。

Scope3のCategory1。「購入した製品やサービス」のCO₂を削減することができるわけです。それは会社自体のCO₂の削減に貢献できるわけです。一番わかりやすい価値の考え方です。今、いろんなところでアンケート調査や、農水省が行った世論調査なんかでも、「環境に貢献している農産物があったら買いたい」と思っている人たちが国の世論調査だけで80%ぐらいいるわけです。またうちが独自にやったアンケート調査でも75%ぐらいの人たちが環境貢献できる農産物を購入したいしたいという回答でした。前職で行った東南アジアでやったアンケートでもやはり75%ぐらいの人たちがそういう環境貢献するような農産物を買いたいと思ってらっしゃる。

でも今はその「環境貢献をしていますよ」という指標がないわけです。例えばそれは今は有機農産物だったりとかするわけです。有機だとイコール、なんか自然に優しいみたいなイメージがあるからそう考えるわけです。しかし、ヨーロッパでは農産物や食料品で削減した排出量を数値化して見せることを行っている。そう考えると、世界基準でやっていくことで今の消費者のニーズに応えることができている。消費者のニーズがあるにも関わらず店頭に並ばないのは何故かというと、そこにはまだ消費者のニーズを呼び起こせていない小売りの問題があったりする。小売りも冒険ができないですよね。本当に売れるのかどうかっていう確実性がないので。これから、小売店さんとも協力しながら、売れるためのその仕組みを作っていかねばならない。気象変動への貢献ということを世の中全てがちゃんと気にするようになってくれたらよいですね。

ちなみに単位時間あたりで一番排出量が多いのは何かというと実はフェスやスポーツイベントなどです。有名アーティストや有名選手が来たって言ってドームが満杯になって、試合が終わってみんな帰っていった。その間の交通費とか、そこで食べられた飲食代、プラスチック容器の他、空調の電気代ですね。それとあと捨てられたゴミの廃棄量ってこれがものすごい。あと容器に使ったプラスチックも単位時間当たりの排出量ってのはすごく多い。でも、「それならイベントやらなければいいのか」となると、それは人の幸せのためではないですよね。ならばここでCO₂を減らす努力をする。さっき言ったような、脱炭素農産物を使ったイベントであれば、CO₂削減がそういったスポーツイベントの中でもできる可能性がある。

別の例として、これも日本にとっては非常に重要なのですが、日本は観光立国していこうということでインバウンドのお客さんも含めて非常に多いわけです。旅行っていうのも実はCO₂排出源なんですよね。もうどこも吸収しないんですよ。電車なり飛行機なり船に乗ってやってきて、食べ物食べ、洗い物いっぱい出して移動して帰っていくだけなので、排出しかないんです。でも、その旅行の中に農家さんの手伝いを1日しますという、アグリツーリズムと言われますけども、それを入れることによって、その旅行者はその日一日だけ農家さんの従業員に変わるんです。理屈上、そうなると従業員さんがホテルから農家さんまでの移動したのは、旅行での排出ではなく、従業員の交通費になるわけです。その場合、その部分のCO₂の排出だけは農家さんが引き受けることができるわけです。もしその農家さんが脱炭素の取り組みをしているのであれば、旅行業者のその排出CO₂を引き受けることができるんです。

今、CO₂削減できない業態の会社は何をしているかというと、カーボンクレジットを買うもしくは非化石証書を買う。しかし、例に挙げたようなツアーを作ることで、相対的な排出量を減らすことができる。実は脱炭素活動というのは、みんなに幸せが届く。ちゃんと運用すれば、運用できれば、今挙げたような形でみんながハッピーになる。Scopeという考え方でそれぞれのCategoryがなす意味を考えると、いろんなビジネス展開ができる。それが脱炭素農産物をきっかけとし全産業での温室効果ガスの削減に繋がる。削減することが自分たちの製品サービスをより良いものにして、それがアイデアになって環境貢献することで、更に環境貢献が需要に繋がっていって、また新しいサービスを生み環境が良くなっていく。農業や農産物からの環境貢献を世界に提案したい。そう考えています。

平池:

ご説明とご意見、たいへんありがとうございました。合同会社ノースDXラボと脱炭素農産物協議会は連携して皆様に幸せを届けていきます。

一般社団法人 脱炭素農産物推進協議会
代表理事)都筑憲一氏

【略歴】

・現在 一般社団法人 脱炭素農産物推進協議会 代表理事

・株式会社H.Eファーム 取締役社長

  創業3年で認証輸出事業者に成長

  全国最多の垂直式営農型太陽光発電農地法3条許可取得

・長万部アグリ株式会社 取締役社長

  ミニトマトでデータプレミアムNo.1(日本一)獲得。

  ECサイト構築による企業価値創出

・宮崎大学大学院 農学工学総合研究科 博士課程中退

  冷涼地での台木を用いたブルーベリー養液栽培における機能性の検証)

・農学修士

・福島県立会津高等学校卒業