本ページは、上智大学名誉教授・石井紀子(Noriko Kawamura Ishii)が長年取り組んできた、アメリカ人女性宣教師シャーロット・バーギオ・デフォレスト(Charlotte Burgio DeForest, 1879–1973)に関する研究成果を、学術的観点からまとめたものである。デフォレストは、神戸女学院最後の宣教師院長として日本の女子教育に深く関わると同時に、20世紀前半のキリスト教国際主義と女性の越境的ネットワークを体現した人物であった。石井の研究は、デフォレスト個人の生涯を描くにとどまらず、環太平洋地域における女性宣教師、日本人女性、キリスト教青年運動の交錯を解明する試みとして位置づけられる。
C. B. デフォレストは、明治末期から昭和初期にかけて来日し、神戸女学院の教育と運営に深く関与したアメリカ人女性宣教師である。彼女は単なる教育者ではなく、日米双方の女性ネットワークを結ぶ媒介者として、女子教育、社会改革、国際交流に関与した。石井は、デフォレストを「帝国と国際主義のはざまで活動した女性知識人」として捉え、従来の宣教師研究が十分に扱ってこなかったジェンダー、国際主義、文化的仲介という側面に光を当てている。
石井紀子のデフォレスト研究は、トランスナショナル・ヒストリーおよびジェンダー史の方法論に基づいている。主な問いは以下の点に集約される。
デフォレストは、アメリカ的キリスト教理念と日本社会の文脈をいかに調停し、女子教育と社会改革を構想したのか。
彼女が関与した国際的キリスト教ネットワーク(YWCA、WSCF 等)は、ナショナリズムの高揚と戦争の時代において、どのように機能し、変容したのか。
デフォレストと日本人女性(卒業生を含む)との協働は、日本人女性の国際的主体性形成にいかなる影響を与えたのか。
石井は、デフォレストと神戸女学院をめぐる史料(書簡、機関誌、会議記録など)を精査し、いくつかの重要な知見を提示している。第一に、1920年代以降、女性宣教師の自治が衰退したとする従来の通説に対し、日本の神戸女学院では女性主導の運営と国際ネットワークが維持・再編されていたことを明らかにした。第二に、デフォレストと卒業生一柳滿喜子との関係を分析し、結婚観や女性の社会的役割をめぐる思想が、日米間の対話の中で形成されていたことを示した。第三に、戦時下にアメリカへ帰国したデフォレストの活動を検討し、彼女が日米の文化的仲介者として、反人種主義的・多文化主義的な視点を模索していた点を指摘した。
デフォレスト研究は、石井紀子の研究全体――すなわち、19世紀末から20世紀前半にかけてのアメリカ女性宣教師、日本人女性、キリスト教青年運動を軸とするトランスナショナル研究――の中核をなす。神戸女学院という具体的場を通じて、女性宣教師と日本人女性の協働、国際主義とナショナリズムの緊張関係、戦争と宗教の問題を立体的に描き出す点で、本研究は石井の理論的・実証的関心を集約した研究といえる。