概要
データとともに知識を構造化していく手法がデータ知識構造化です。構造化は、1つ1つのものごととそれらの関係を整理し、ものごとの全体像を明らかにしていく方法です。熟練者から暗黙知を取り出し、知識を構造化するために、様々な角度から熟練者に質問する、あるいはコミュニティにて議論します。そのようにして作られた構造化知識に対して、形式化できない知識はデータそのものとして付加していきます。データには実施記録や運動計測データ、活動データなどがあります。これらの収集と分析を行うことで熟練者やコミュニティといった関係者のメタ認知が進みます。また、データと知識を循環する中で、構造化知識が改良されていきます。例えば、これ以上構造化できないといった状況に陥ったとしても、新たに問いを立て、データを計測し、データ分析の結果から新たな知識を見つけることで、見つかった知識をもとに新たに形式化できる知識も増えていきます。
知識とデータ
知識には主に、作業手順知識、目的指向知識、因果関係知識があります。
作業手順では「サーブを打つときは、球をトスし、腕を振りかぶり、頭上でインパクトする」といった具合に、状態遷移が連なる行為に対して、行為を分解した上で体系的に記述します。目的指向知識では「甲子園に出るために明日の試合に勝つ」といった具合に、大きな目的を達成するために小さな目的に分解し、目的を体系的に記述します。因果関係知識では「風が吹けば桶屋が儲かる」のようなA→B→C→…といった因果関係の構造化知識を構築します。体系的に因果関係を理解することに役立ちます。
ところで、同じ言葉で表現したとしても、使う人や場面によって捉えられる意味が異なることがあります。例えばというリーダーという言葉は一般的には何かしらの組織の指導者を意味しますが、社交ダンスでは男性のことを意味します。このような誤解釈を防ぎ、1つ1つの言葉を共通語彙として正しく伝えるために、言葉を構造的に定義する必要があります。
言葉を構造的に定義する方法に、オントロジーと宣言的知識があります。当研究室では、特定の分野における用語を宣言的知識として定義しています。オントロジー構築は溝口先生の『オントロジー構築入門』[3]を参考にしています。
3つの知識と宣言的知識ならびにオントロジーを結びつけることで、各知識の意味を宣言知識やオントロジーで参照でき、知識を深く理解するのに役立ちます。具体的には図のようにリンクされます。様々な領域の知識はオントロジーで接続され、領域を超えた知識の体系化を実現します。現在は、目的指向知識と作業手順知識をリンクする取り組みを行っています[4]。
データには実施記録や運動計測データ、活動データなどがあります。
データ測定機材としては、モーションキャプチャ、床反力計、視線計測、ヘッドバンド型簡易脳波計などがあります。ヒアリングのための機材も完備しています。
データは熟練者自身も気づいていなかった新たな知識や感動を見つけることに役立てることができます。図6[5]は、国内ダンサーの男性13人の動作を世界チャンピオンの男性1人の理想の動きと比較したものです。例えばこの図の#6であれば、理想動作と比較して左ひじが高く、右ひじが低いことが分かり、このことから「左サイドを引き上げる」という知識を見つけることができます。また、データそのものを構造化知識に付加することも考えられます。そうすることにより言葉で表現できない知識をデータで表現することができます。
構造知識と知識構造化
当研究室では、CHARM(Convincing Human Action Rationalized Model)[6]と呼ばれるモデルに基づき、計算機理解可能かつ行為の目的や選択理由の明示化ができる構造化知識を記述します。図のような「歩く」の場合では、ノードが下に進むほど、作業手順が具体的になります。例えば、「上半身の高さを保つ」が分からない場合は、「後ろ足先を伸ばす」「前足を伸ばす」をした後に「かかとを地面に着ける」を実践します。
参考文献
[3]. 溝口理一郎, 古崎晃司, 來村徳信, 笹島宗彦. オントロジー構築入門. 1st ed. オーム社; 2021.
[4]. 伊集院幸輝, 小早川真衣子, 飯野なみ , 西村拓一. 作業手順内の行為の目的を表出し構造化する方法の提案――介護現場での目的指向知識構造化. 情報処理学会論文誌. 2022 Jan;63(1):104–115.
[5]. 西村拓一, 吉田康行, 押山千秋, 伊集院幸輝, 飯野なみ, 田脇裕太 , et al. 身体表現におけるメンタルと運動学習のデータ知識構造化の試み. 人工知能学会全国大会論文集. 2021;JSAI2021(35).
[6]. 西村悟史, 來村徳信, 笹嶋宗彦, ウイリアムソン彰子, 木下智香子, 服部兼敏, et al. 行動根拠の納得と実行を促進する人間行動モデルCHARM. 人工知能学会全国大会論文集. 2011;JSAI2011(25).