舞台は1960年代初頭のケニア。イギリス人の野生動物保護官の娘ジャッキーは、親代わりとなってブッシュベイビー(ショウガラゴ)の赤ん坊・マーフィを育てることになりました。やがて家族はイギリスに戻ることになりマーフィも一緒に連れて行くことにしましたが、いざ帰国の船に乗ったジャッキーは野生動物の持ち出しの許可証を無くしていることに気付きます。苦労して得た書類を無くしたことでジャッキーは故郷の自然にマーフィを帰そうと決心し、一人で船を降りると父のかつての部下テンボの力を借りて共にアフリカの大草原へ旅立ちました。密猟者や猛獣との闘い、マサイ族との出会い、山火事やサイクロンなどの旅の困難を切り抜けるジャッキーたち。冒険の果てにとうとうジャッキーとマーフィの別れの時がやってきます。
カナダの作家W・H・スティーブンソンの「カバの国への旅」(The Bushbabies)を元にした、世界名作劇場では数少ない第二次大戦後の時代を扱った作品です。「アフリカの時代(Year of Africa)」と呼ばれた1960年の、アフリカ各地が欧州列強の植民地から独立国家への道を歩み始めた激動の時代を背景に、現代も続く野生動物の密猟の問題を主題とし、多民族が共存する独立間際のケニアの空気感も捉える意欲作です。他の名作劇場作品に比べて異彩を放つ物語を支える劇伴音楽は、クラシック風の壮大な旋律とアフリカのリズムや曲調を取り入れた豊かな色彩の両面で作品世界を一層引き立てています。
本作の音楽を担当したのは宮川彬良(みやがわ・あきら)。彼の父は『宇宙戦艦ヤマト』の音楽や「恋のバカンス」(ザ・ピーナッツ)などの歌謡曲で知られる作曲家の宮川泰(ひろし)で、彬良も父と同じ道を進み、舞台やコンサート、テレビ番組、アニメ等の音楽で活躍しています。
宮川彬良の代表作のひとつが松平健が歌って大ヒットした「マツケンサンバII」。また、父のあとを継いで、21世紀に入って制作された『宇宙戦艦ヤマト』のリメイク版シリーズ『宇宙戦艦ヤマト2199』等の音楽を担当しています。
『大草原の小さな天使ブッシュベイビー』は宮川彬良の映像音楽(劇伴)の仕事としては初期のものになります。それまで父の仕事の手伝いで何曲かを提供したことはありましたが、1本まるまるひとりで音楽を担当したアニメ作品は本作が初でした。
そのためか、本作の音楽は非常に力が入っています。大編成のオーケストラを使い、シンセサイザーなどは極力使用せずに、壮大で躍動感あふれる音楽を作り上げています。冨田勲が作曲したアニメ『ジャングル大帝』の音楽を思わせるような、アフリカの大自然をイメージさせるスケール感豊かな音楽です。
本作の仕事を依頼されたとき、多忙だった宮川彬良は参加をためらいましたが、主人公ジャッキーのデザイン画を見るうちに、ジャッキーから直接お願いされたような気がして参加を決めたそうです(CD「大草原の小さな天使ブッシュベイビー 音楽集」解説書より)。最初に作曲したのが「ジャッキーのテーマ」でした。「ジャッキーのテーマ」は本作のメインテーマとなり、さまざまにアレンジされて劇中に使われています。宮川彬良はこの曲について、「大自然、営み、願い、現実、夢、そして天使、(中略)この上なく切なく美しいものへのテーマ曲である。いわばジャッキーを取りかこんでいる目に見えない優しさや厳しさが奏でたメロディーなのである。」とコメントしています。
アフリカの民族音楽を思わせるリズムを取り入れた曲も、本作の特徴のひとつです。民族打楽器が奏でる野性的なリズムが、アフリカの野生動物や広大な原野を描写します。「世界名作劇場」のほかの作品ではあまり聴かれない曲調であり、本作の個性が表れたサウンドになっています。
雄大で力強い音楽が、アフリカの大自然を生き生きと描写し、ジャッキーの冒険を彩りました。
本作の音楽は大きく3回に分けて録音されていますが、いずれも録音日・スタジオは不明です。第1回録音曲は約25曲。本編では第1話から使用されました。第2回録音曲は約30曲で、第6話から使用。第3回録音曲も約30曲で、第25話から使用されました。
本作の音楽は、放送当時CDアルバムとしてリリースされています。1992年5月21日に日本コロムビアから「大草原の小さな天使ブッシュベイビー 音楽集」のタイトルで発売。オープニング&エンディング主題歌のフルサイズと劇伴25曲(12トラックに構成)を収録した内容でした。劇伴は第1回録音と第2回録音からのみの収録となっています。
本音楽集は、第3録音曲も含む新たな構成でまとめました。全体としてはストーリーの流れをふまえつつ、音楽アルバムとしても楽しめる構成をめざしました。本編未使用曲もいくつか収録しています。
音楽集は前半01~29と後半30~63の大きく2つのブロックに分かれる構成にしました。前半はジャッキーがマーフィと出会い、さまざまな経験をしたのち家族とはぐれてしまうまで、後半はジャッキーがアフリカを旅し、家族と再会するまでをイメージした構成です。話数的には前半が第1~23話、後半が第24~40話にあたります(ちなみに第23話からオープニング主題歌が後期版に変わります)。以下、本作のストーリーに沿って、音楽の聴きどころを紹介します。
2026年1月20日 配信開始
Release date 01.20.2026
01は「世界名作劇場」とタイトルが出るときの音楽とサブタイトル用音楽のメドレー。
02「アフリカの大地」は、アフリカの情景をイメージさせる曲です。最初にジャッキーのテーマが短く提示され、続いて躍動的なリズムとともにどこまでも広がる大草原が描き出されます。
03「ジャッキー登場」はジャッキーのテーマの軽快なアレンジ曲。ジャッキーが自転車で学校に向かう場面や腕を大きく振って走る場面などに流れています。
ジャッキーの兄アンドルーが親をなくしたブッシュベイビーの子どもを家に連れ帰り、ジャッキーはその子を育てる決心をします。ジャッキーはブッシュベイビーの子を「マーフィ」と名付けました。
04「こんにちはマーフィ」、05「いたずらな天使」、06「子どもたちのマーチ」の3曲は、いたずら好きのマーフィやマーフィを目にした子どもたちの反応を楽しく描写する曲。弦楽器とエレピ(エレクトリック・ピアノ)がやさしく奏でる07「ケイトとジャッキー」は、ジャッキーと親友の同級生ケイトとの語らいの場面によく使用されました。
08~10の3曲は、サバンナに生きる動物と、その動物をねらう密猟者、そして動物を守ろうとする野生動物保護官の場面に流れた音楽。08「静かなる狩人」は人間が動物に忍び寄る場面に、09「野生の怒り」は興奮したサイや象が人間に向かって来る場面に流れています。
10「サバンナの追跡」は本作の音楽の中でもとりわけ印象深い曲のひとつ。アフリカ風のリズムに導かれ、アドリブを交えた軽快なブラスの演奏が始まります。ビッグバンドジャズの演奏を聴くようなグルーヴ感のある曲です。野生動物保護官がジープで密猟者を追跡する場面などに使用されました。
金管楽器の大らかな音色が耳に残る11「大渓谷」は雄大なスケールを感じさせる自然描写曲のひとつ。ジャッキーのテーマの変奏曲である12「アフリカはわが故郷」が、アフリカを愛するジャッキーの想いを表現します。
13「ミッキーは食いしん坊」は、ジャッキーの同級生で、いつもジャッキーをからかっているミッキーのテーマ。ユーモラスな曲調がミッキーのキャラクターにぴったりです。
軽快な14「走れマンダリン」は、第6話で自転車に乗ったミッキーと馬に乗ったジャッキーが競争する場面に流れていました。
15「気まぐれマーフィ」はマーフィの自由気ままな行動を描写するリズミカルな曲。
密猟者が町に侵入しているのではないかと疑いを持ったジャッキーは、ひそかに町のようすをさぐり始めます。16「あやしいぞ」、17「暗躍」、18「事件発生」の3曲は密猟者の動きを描写するサスペンスタッチの曲です。
19「探偵団結成!」と20「ジャッキーは名探偵」は、第13話でジャッキーとケイトとミッキーの3人が探偵団を結成して活動を始める場面に流れました。
21「草原にひそむ影」、22「密猟団あらわる」、23「せまる危機」の3曲は、サバンナで密猟者と接触したジャッキーがピンチに陥る第16~17話の展開をイメージして構成しました。
24「ジャッキーはりきる」は夢中になっているジャッキーの場面によく選曲されたジャッキーのテーマの変奏曲です。
25「サバンナの夜明け」、26「はるかなるキリマンジャロ」、27「夕暮れの地平線」の3曲は、アフリカの大自然を描写する曲。「サバンナの夜明け」は本編未使用曲ですが、夜明けの情景が目に浮かぶようです。「はるかなるキリマンジャロ」は第20話でジャッキーが家族とキリマンジャロ山に登る場面に、「夕暮れの地平線」は第21話でジャッキーが複葉機に乗せてもらい、ナイロビの上空を飛行する場面に流れています。
父の野生動物保護官としての任期が終わり、ジャッキー一家はイギリスに帰ることになりました。親しい人との別れを終え、一度はイギリスに向かう船に乗ったジャッキーですが、思わぬトラブルのために船を降り、戻れなくなってしまいます。家族を乗せた船が岸壁を離れ、去っていくのをジャッキーはなすすべもなく見送ります。
29「アフリカひとりぼっち」は、第23話のラストでジャッキーが呆然と波止場に立ちつくす場面に流れた、ピアノと管弦楽が奏でる悲哀曲です。
家族とはぐれ、アフリカにひとり取り残されたジャッキー。その失意と心細い想いを30「途方にくれて」と31「心細い夜」がメランコリックな曲調で描写します。
途方にくれるジャッキーを励ましてくれたのは、父の助手をしていたアフリカ生まれの青年・テンボでした。ジャッキーとテンボは、ジャッキーの家族と連絡をとるため、そしてマーフィを野生の仲間のもとに帰すために、モンバサまで旅をする決心をします。途中で偶然出会ったミッキーも仲間に加わり、3人の旅が始まりました。
32「聖者が街にやってくる」はジャッキーを安心させるためにテンボが吹くハーモニカの曲。33「旅立ち」はサバンナをゆくジャッキーたちの場面によく流れた、希望を感じさせる前進感のある曲です。
ジャッキーたちの旅は、ジャッキーたちを捕らえようとする密猟者や、テンボを誘拐犯と誤解して追跡する警察から逃れながら、道なき道をゆく厳しい旅でした。34「冒険者たち」と35「明日への前進」は、第3回録音で収録された冒険映画音楽風のダイナミックな曲です。
野生動物との遭遇や密猟者の襲撃をやりすごしながら、ジャッキーたちの旅は続きます。
36「がんばれマーフィ」は、第29話でマーフィがひとりでえさをとる練習をする場面に流れていた曲。
37~40はジャッキーが出会うさまざまな危機を描写する曲を集めました。勇壮なリズムとブラスの演奏による41「サバンナの勇士」は、第32話でテンボが密猟者と戦う場面に流れています。
しっとりとした曲想の42「ジャッキーの想い」、43「焚火を囲んで」、44「想いははるか」の3曲が、ジャッキーたちのひとときの休息をやさしく包み込みます。
45「ジャッキーはどこに」は、ジャッキーのゆくえを探すジャッキーの家族の気持ちを代弁する曲です。
乾燥したサバンナに火事が発生しました。ジャッキーたちは、燃え広がる炎に行く手をさえぎられ、逃げ場を失ってしまいます。ジャッキーたちは決死の覚悟で炎の中から脱出を図ります。第33~34話で描かれた、ジャッキーたちが燃える草原から脱出するまでの緊迫した展開を、46「危険な道」、47「燃える大草原」、48「決死の脱出」の3曲で再現しました。
ジャッキーたちは、マサイ族の兄妹・アトマニとサフィナに救われました(49「不安な出会い」)。
傷を負ったジャッキーは介抱してくれたサフィナと言葉を交わすようになり、ふたりのあいだに友情が芽生えます。
50「森を駆ける少女サフィナ」は第35話でサフィナがジャッキーのために川まで水を汲みに行く場面に流れた疾走感のある曲。52「雨の日の思い出」は第37話でジャッキーとサフィナが降り続く雨を見ながら語り合う印象的なシーンに流れていました。
元気になったジャッキーたちが兄妹と別れて旅立つ場面に53「さようなら草原の友だち」が流れ、サフィナとジャッキーの友情をしみじみと描写します。
雨季になり、大雨で水浸しになった大地をジャッキーたちは船で進みます。ようやくたどりついたモンバサでも、大きな試練が待っていました。
54「原野を越えて」、55「激流」、56「大災害」の3曲は、第37~40話の、ジャッキーたちが激流をのりきり、土手の決壊による大災害の危機を回避するまでのエピソードに使用された音楽。大編成オーケストラのサウンドを生かした「大災害」は、壮大な映画音楽を聴くような迫力のある曲です。
ジャッキーは、とうとう家族と再会することができました(57「運命のめぐりあい」)。けれど、よろこびのあとには、マーフィとの別れが待っています。59「さびしいジャッキー」はジャッキーの心情を伝える、ジャッキーのテーマの悲し気な変奏曲です。
60~62は第40話(最終回)で使用された曲をまとめました。
60「悲しい別れ」は、マーフィを野生に帰そうとするジャッキーとジャッキーのそばを離れようとしないマーフィの場面に流れた弦楽器とピアノによる別れの曲。61「大自然の呼び声」は、マーフィがジャッキーのもとを離れ、野生の仲間の中に入っていく場面に使用された雄大で美しい曲です。
ジャッキーがマーフィにさよならを言う場面からジャッキー一家が旅客機でイギリスに向けて飛び立つ場面までに62「元気でねマーフィ」が流れ、ラストシーンを飾りました。
締めくくりに本作のメインテーマである63「ジャッキーのテーマ」を収録して、ジャッキーとマーフィの物語の幕を下ろしましょう。
(ステレオ・48kHz/24bit)