このたび、本学会の理事会のご推挙によって会長に就任することとなりました。歴代会長の方々に比して僧籍の無い浅学菲才の身ではございますが、可能な限り学会発展のために尽力させていただきたく存じますので、会員の皆様にはご支援ご指導の程何卒よろしくお願い申し上げます。
会長に就任した矢先の五月上旬に、先達であられる齋藤昭俊名誉会長のご遷化の報に接することとなり、そのご偉業を顧みながらまさに身の引き締る思いを致しております。
さて、仏教教育が社会との密接な関係をもつのは言を俟たないことですが、昨今では、マネー経済・IT産業の肥大化や、「市場原理」の広域的支配など、社会的状況の変質とそれに伴う人間形成観の混乱が進行しつつあり、そのなかで私たちは、心の荒廃とこれに対する無自覚という二重の危機に陥っております。
また余りにも長引いた世界的「コロナ禍」が漸く鎮まってきたとはいえ、経済不況・戦争・自然災害等のきわめて深刻な出来事が続くなかで、多くの人々が「居場所」――延いては人間性の喪失なる事態に直面している、ということも厳然とした事実です。
こうした現状を視野に収めるとき、今日の仏教教育学の課題の一つは、社会における自他の存在が共に創造的である「人間らしい人間」(ロムバッハ)の形成、その人間形成の可能性を布教教化の視点から模索・探究することに、しかも、そうした探究の成果を社会へ向けて発信することにあると存じます。これはまた仏教教育の「公共性」の確立と深く関わる課題でもあります。
こうした課題を遂行してゆくには、学術大会ならびに仏教教育学研究会の定期的開催は言うまでもなく、『日本仏教教育学研究』(本学会機関誌)「仏教教育ニュース」の刊行、学会ホームページの充実化を精力的に推し進めることが肝要であり、今後は理事・編集委員・事務局の方々のご協力を仰ぐことによって、これら学会関係の事業と積極的に取り組んで参る所存でございます。
また御多分に漏れず近年は会員(特に若手会員)の減少傾向が憂慮されることからも、皆様には、本学会の将来への忌憚なきご意見ご要望を賜りたく存じております。
笹田博通(東北大学名誉教授)
2024年7月