第1回 太極拳、形意拳、八卦掌
それではまず、何故上の三つの拳術を並べているのかということからはじめます。この三拳は「内家三拳」と呼ばれることもあり、中国のどちらかというと北の方で発達したもので、南部の拳法のように、上体の筋力を鍛えることはあまり無く、内を鍛えることにより、技をつくることに大きな特徴があります。また上体の大きな筋肉は鍛えないけれども、細かい筋肉を敏捷に動かせるように練習するし、この状態を支える下体はしっかりと作ります。「四両撥千斤」(千斤は500kg)という言葉で表わされるように、小さな力で大きな力に克つということが、この種の拳法における攻防の基本です。無力ではないが、力で相手をねじ伏せるのではないので、体力の弱い人でも強力な相手に克つこともできるのです。
しかし、闘い方にあっては、おのおの特徴があります。太極拳は「柔をもって剛に克つ」という拳法の代表であると思います。八卦掌もどちらかというとその系統にあると思います。1800年代、董海川(とうかいせん)という人によって創始されたと言われています。 その大きな特徴は、身体をねじって、円を描いて歩くということにあるようです。また、掌を主に使用して攻防を行うことも他の二拳と異なるところかも知れませんが、太極拳も掌は多用するので、やはり円を描いて歩くことが、最も他と区別するところでしょう。
はなぜ又「八卦」というのでしょう。当たるも八卦~のあの八卦と何か関係があると直感される方も多いでしょう。実は、そうなのです。八卦とは八つの方角を表わします。 東・西・南・北と東南・西南・東北・西北の八方です。よく風水術などで使われる乾(ケン)、巽(ソン)、坎(カン)、艮(ゴン)、坤(コン)、震(シン)、離(リ=の辺だけ)、兌(だ)が八卦で使う言い方です。又この方角を表わす記号は長い―― と短い--の二種の組み合わせです。いわば0,1で表わす二進数というわけです。そして、この八方の中心に陰陽魚が位置します。(陰陽のマーク)陰陽魚、太極図を白と黒の二匹の魚に見立ててこう称します。「太極は無極より生じ、太極は両儀を生じ、両儀三才を生じ、山才は四象を生じ、四象五行を生じ、五行は六合を生じ、六合は七星を、七星は八卦を生じる」ここにもこの三拳の共通点があります。(八卦掌の練習や表演は、この八方と中のS字を進みながら行われることが多いといわれます。
無極=無形無象、太極、純陰、両儀=陰陽、三才=天地人、四象=東西南北、五行=金木水火土、六合=東西南北上下、七星=金木水火土日月、八卦=乾、巽、坎、艮、坤、震、離(の辺だけ)、兌・・・・出典『遊身八卦連環掌』上記をその動作と符合させたと思われます。ということで八卦掌はこのくらいで形意拳に入ります。形意拳は1700年代にその原形が作られたといわれていますが、誰が創始者であるのか定説は無く、いくつかの説があるということです。しかし、そこに共通するのは槍の使い手が創始したということです。それ故、拳の握り方などにその特徴が現れています。
立ち方は三体式といって、太極拳の虚歩(シュイブ)に似た歩形で銃身(チゥォンシェン)は主に後ろの足に乗せます。歩き方は前進が主で、足を地面からあまり離さないで進みます。又太極拳のようにゆっくりと進むことはあまり無く、かなりのスピードがあります。しかし身体の各部に対する要求はかなり似ています。
形意拳はまた時代、地方により呼び名が違っていて「心意拳」「行意拳」「心意六合拳」「六合拳」等とも呼ばれています。このうちで「六合」とは心と意が合い、意と気が合い、気と力が合い(内三合)方と股が合い、肘と膝が会い、手と足が合う(外三合)ことを言うという記述があります。
基本的な一人で行う練習には「三体式」「五行拳」「十二(十六)形拳」があり、「五行拳」とは、先述の「金木水火土」に当てはめて「劈(ピー)」「崩(ポン)」「鑽(ズァン)」「炮(パオ)」「横(ホン)」の五動作であり、「十二(十六)形拳」とは、龍・虎・猿・馬・鶏・蛇・ect.の十二種類の動物の動作から形成されたもので、この基本動作の上に五行連環拳などの套路が作られています。五行拳は形が比較的簡単で入りやすいのですが、奥は深いので、私は、今はこれだけで充分だと思っています。以上まとまりなく書き連ねてきましたが、今回は一応こんなところで筆を置きたいと思います。
Copyright (C) Makoto Naruse All right reserved.