Magnificatとはラテン語で「崇める、たたえ奉る」と言う意味です。ルカによる福音書の第1章第47節
「マリアの賛歌」に「Maria magnificat anima mea Dominum 私(マリア)の魂は主を崇める。 My soul doth magnify the Lord.」とあることから、マリアの賛歌の聖歌をMagnificatとよぶようになったものです。
デュファイ、ペルゴレージのMagnificat、特にバッハのMagnificatが有名です。
今回演奏するMagnificatの作曲者ジョン・ラター(John Rutter)は1945年生まれの英国の作曲家であり指揮者です。ケンブリッジ大学のクレア・カレッジで音楽を学び主に合唱の分野で活躍しています。
作風は20世紀後半の作曲家としては保守的で前衛的要素は少ないのですが、反面ジャズやラテン音楽の要素を取り入れて現代性を加え、またグレゴリオ聖歌を引用したり民謡を取り入れる等により親し
みやすい作曲を行っており、ポップな旋律のゆえに多くのアマチュア合唱団に人気を博しています。
ラターのMagnificatは1990年に作曲されたもので、1985年に作曲したレクイエムに続く大きな作品でした。ラターは「これまでとは全く異なった新しいものにしたい。全く新しい音楽、例えばサンバのような雰囲気をもつものにしたい」と述べています。
また、カーネギーホールで初演される喜び(Joi)の感覚を、乙女マリアがイエスをみごもり、産む喜び祈りに重ねています。したがってマリア信仰が最も盛んなスペイン、メキシコ、プエルトリコといったカソリック国を思い浮かべ、そのような国々に日差しが終始降り注いでいるような曲にしたいと述べています。
ラター自身のMagnificatの解説を基に本曲のご説明を致します。
第1楽章 Magnificat anima mea
第1楽章はMagnificat anima mea Dominum「私の魂は主を崇め」で始まります。ラターは大きく口を開けてラテン的感覚、特に「Magnificat」はスペイン・メキシコ的感覚で歌って欲しいと述べています。
in deo salutary, in deo salutari「救い主神によって」の部分はバーンスタインのウェストサイドストーリの感覚を意識しており、et exsultavit spiritus meus in Deo「私の霊は喜び踊る」の部分のトロンボーンの演奏パートにはグレゴリオ聖歌が引用されています。
Quia respexit humilitatem ancillae suae「なぜなら、主はこのいやしいはしため(私マリア)にも目を留めて下さったから」はマリアが自分のことを深く顧みている内容です。
そして、最後は Magnificat! Magnificat! Magnificat! と喜びの声で終わります。
第2楽章 Of a Rose, a lovely Rose
第2楽章の「Of a Rose, a lovely Rose」は原典のラテン語のテキスト(ルカによる福音書の第1章第46節から第55節及び頌栄)にはない、作者不詳の15世紀の英語のテキストです。
第1楽章がオーケストラの大規模な編成であったのに較べ、第2楽章は弦楽器、木管楽器とハープだけの小規模な編成です。 Of a Rose, a lovely Rose, of a Rose, is all my song 「バラ、愛らしいバラ、バラ、私の歌の全て」のリフレインと語りで構成されています。
歌の大意は5本のバラの枝の、一番目の枝は祝福されたマリアの偉大な栄誉、二番目の枝はクリスマスの夜に生まれる偉大な力、三番目の枝は聖地ベツレヘムへと延び、四番目の枝は悪魔の力を貶めるため地獄へと延び、五番目の枝は天国へと延びる。
そして Shield us from the fiendes bond 「どうか悪魔から守って下さい。」という祈りで終わります。
第3楽章 Quia fecit mihi magna
第3楽章はQuia fecit mihi magnaから始まります。Quia fecit mihi magna qui potens est 「力ある人(神)が私(マリア)に偉大なことをして下さったから」と神のすばらしさを讃え、神がマリアに成したことを賛美しています。
後半のEt sanctum nomen eius「そして神聖な神の御名」は神の神聖さを讃えるものであり、その後ソプラノとテナーの合唱による祈りと語りで終わっています。
第4楽章 Et misericordia
第4楽章ではソリスト(ソプラノ)が導入されています。
Et misericordia et Misericordia eius a progenie in progenie は「神の慈悲が子々孫々にわたって満たされ拡がってゆく」という意味です。
そしてそれがtimentibus eum「神を怖れ敬うものたちへ」と終わっています。
第5楽章 Fecit potentiam
第5楽章は Fecit potentiam fecit potentiam fecit potentiam 「主は力を振って」で始まります。
ジャズのような旋律で、全能の神がその力を発揮する様子を表現しています。
Deposuit potentes de sede「権力ある者をその座から引き降ろし」、et exaltavit humiles「身分の低い者を高く引き上げ」と続きます。
「et exaltavit humiles」から曲調が変わりこの章は終わります。
第6楽章 Esurientes
再びソリストが登場します。ここで表現されるのは、飢えた人たちへの神の救済です。
Esurientes「飢えた人を」、implevit bonis「良いもので満たす」とマリアが神について強く感じたことを歌います。
そしてSicut locutus est ad patres nostros「神が私たちの先祖に言われたとおり」、Abraham et semini eius in saecura「アブラハムとその子孫にとこしえに」と続きます。
神のみわざは永遠に続くというマリアの素晴らしい信念をあらわしています。
第7楽章 Gloria Patri
最終楽章Gloria Patri(主に栄光あれ)はこれまで出てきた音楽の反復により構成されています。
最初はファンファーレで、次に第3楽章で出ていたテーマが続きます。
その後マリアの祈りとしてのソロがマリアのことを Sancta Maria, succurre miseris iuva pusillanimes, refove flebiles「聖なるマリアは不幸な人に手をかし、泣いている人々を力づける」と歌います。
次に Sicut erat in principio, et nunc, et semper「始めそうであったように、今も、永遠に」と第1楽章のタンゴのリズムに乗って最後のAmen(アーメン)に繋がっていきます。
この最後のAmenの言葉は一点の曇りもない偉大な喜びの表現です。
本文はジョン・ラターのyoutubeでの解説を楢本友子氏が翻訳された「J.Rutter作曲『Magnificat(マニフィカート)』解説」を参照しました。