ジョン・ラター (John Rutter)とレクイエム(Requiem)
(曲目解説)
ジョン・ラター(John Rutter) は1945年ロンドン生まれの現代音楽作曲家です。
幼少期からプロの音楽家になることを志し、伝統的に音楽教育に定評のあるハイゲート校(Highgate School:ロンドンの私立学校)に進学、合唱経験を経て、ケンブリッジ大学のクレア・カレッジ(Clare College)で音楽を学び、その後、大学での音楽指導と同時に主に合唱曲の編曲、作曲に力を入れました。
1979年から作曲活動に専念するため独立し、1981年教え子を中心としたプロの合唱団ケンブリッジ・シンガーズ(The Cambridge Singers)を創設、1984年には演奏録音とその販売のためコレギウム・レコード(Collegium Records)社を設立しています。
ラターの音楽は聴きやすく、ポップスに近い要素が多いため、特にアマチュア合唱団の人気が高く、存命中の作曲家では最も演奏頻度の高い作曲家の一人です。
また、1996年には、長年の宗教音楽への寄与を讃え、カンタベリー大司教(英国国教会の最上席聖職者)からランベスター音楽博士号を授与されています。
レクイエムは、ミサ曲(カソリック教会の祭儀に伴う声楽曲)の中から、グローリア、クレドを除いた通常文(キリエ、アニュス・デイなど)と、固有文(イントロイトゥス、グラドゥアーレなど)で構成されます。(英国では独自の歌詞も含みます。)
レクイエム(Requiem)の名称は、イントロイトゥス(入祭唱)の “Requiem aeternam dona eis, Domine” の冒頭の言葉から採られたものです。
14世紀までにその骨格が完成され16世紀末までには約50曲、17世紀には数百ものレクイエムが作曲されています。カソリック圏の作曲家はほとんどすべてレクイエムを作曲していますが、ヴェルディ、モーツァルト、フォーレのレクイエムが特に有名で三大レクイエムと呼ばれています。
ラターのレクイエムは、特定の団体などから委嘱を受けて作られたものではなく、亡くなった父のために、ラターが1985年に作曲したもので、その全七曲が同年アメリカダラスで初演されました。静かで美しいレクイエムでドラマティックな大作というよりは、フォーレやデリュフレの書いた小規模で個人的なレクイエムの系列を受け継ぐ、「癒し系レクイエム」と言えます。
以下にレクイエムの各楽章の説明を行います。
第1楽章 Requiem aetenam(永遠の安息)
テキストは、ミサ曲のイントロイトゥス(入祭唱)とキリエから採られています。
ティンパニーの厳粛な響きと、神秘さと絶望に満ちた不協和音で始まり、合唱が"Requiem aeternam"を繰り返し歌い、そして、光が射し込んだような明るいメロディへと展開します。
第2楽章 Out of the deep(深い淵の底から)
テキストは詩編130から採られており、歌詞はすべて英文です。
ドラマチックなチェロのソロ演奏から始まり、合唱は黒人霊歌を思わせる物悲しい短調のメロディーで、「深い淵の底から、主よ、あなたを呼びます。主よ、この声を聞き取ってください」と絶望の淵から神に慈悲を乞います。
第3楽章 Pie Jesu(慈悲深いイエス)
フォーレと同様に、ラターはこの楽章をソプラノソロに与えました。長調に変わり、澄みきった静穏なメロディーを、合唱が静かに結びます。
第4楽章 Sanctus(聖なるかな)
クリスマスを思わせるような気持ちの良いクリスタルなサウンド「聖なるかな」で始まります。神を讃える賛歌、明るく華やかな合唱曲です。後半の「オザンナ」の部分は,大きく盛り上がり,曲全体のクライマックスを作ります。
第5楽章 Agnus Dei(神の子羊)
荘厳な雰囲気に戻り、ミサ曲のアニュス・デイ(Agnus Dei)の繰り返しの間に英国教会の公式の祈祷書(The book of Common Prayer,1662)の祈祷文が挟まれます。音楽は半音の不協和音等、陰鬱な感じの一曲です。
第6楽章 The Lord is my shepherd(主は我牧者)
テキストは、葬儀によく使われる詩篇23ですが、もっと希望に満ちた感じで、羊飼いをイメージさせる長調のオーボエのソロ演奏にハープの飾りで始まります。ピエ・イェズの響きを思い起こさせるような明るい旋律を女声、男声、そして全員でユニゾンで歌います。
第7楽章 Lux aeterna(永遠の光)
初めに祈祷書の文がソプラノソロから合唱に引き継がれ、転調後、最後に第1楽章のミサ「永遠の光」をさらにゆったりと、暖かく歌い、静かな結びに導きます。