マルレーベルについて
マルレーベルは、演劇作家加茂慶太郎によるプロジェクトです。
このプロジェクトでの思考の変遷をここに記録します。
マルレーベルについて
マルレーベルは、演劇作家加茂慶太郎によるプロジェクトです。
このプロジェクトでの思考の変遷をここに記録します。
マルレーベル
演劇をするための集まり方や力の合わせ方を探求するプロジェクト。
演劇の創作、および関連企画の実施母体を運営し、各事業において「集まる人びと皆が満足な納得感をもてる」協働を試みる。
ラインナップに「光景」「ニューイヤー演劇 日出企画」、作品に『万歳』『一等地』など。2022年発足。
(2024年10月最新)
リニューアル2(2024年10月)
加茂慶太郎
2024.10
前回ステイトメントを記してから約半年が経過しました。
引きつづき個人の演劇作家としての活動を整理していて、マルレーベルの扱いについて納得できる落としどころを見つけられない日々を過ごしていました。
先日、急にストンと腑に落ちた感覚があり、何日も経っても「これだ」という手応えが変わらないので、そのように再整理したいと思います。
今後マルレーベルは、演劇をするための集まり方や力の合わせ方を探求するプロジェクトとしたいと思います。
これまでの活動や理念の本質が変わるわけではありません。
すでにやってきたものは変えられないので・・・
少しづつ活動を続けるなかで、ブレずに続いた部分、あるいは変容していった部分がだんだんと見えてきました。
企画を実施したときの「これがこの企画の醍醐味だ!」というポイントが、いま振り返ってみれば「実はこっちのポイントのほうが芯だったんだ!」となったり。
あとからそうなってもいいように、と言うとなんとも言い訳がましい態度ですが、どう転んでもそれをしていると言える、包括的で本質的なコンセプトのキーワードを探していました。
これまでの取り組みを振り返り、そしてこれからやりたいことの想像をして、視野が広くなりそれが見つかった感覚です。
これまで同様、擬似的な演劇カンパニーとして活動します。
そして、関わる人の納得感のある協働という、大切にするもの、軸にするものは変わりません。
しかし今後は、「作品づくり」のみに絞ることはせず、演劇づくりの端緒に現れる協働全般を探求対象としていきます。
この部分は、前回ここに書いたことからかなり外れるものになりますね。
この背景には、すごく大きな考え方の変化があります。
これまでの加茂は、マルレーベルですること、すなわち協働の最適解の探求(これまでのコンセプトです)にはいつか終わりがあり、マルレーベルというプロジェクトもいつかは終える前提がありました。
つまり、演劇における協働・カンパニーという形態の最適解をいつかは見つけ出すんだ!という意欲を持っていました。
しかし、そんなものはおそらく無いな、不断の更新を続けていくのみなのだな、と思うようになりました。
演劇をするうえで、誰かと力を合わせることは避けられません。
これまで活動を続けていて、そして劇団に所属しながら日々メンバーとして過ごすなかで、その大変さ、困難さ、上手くいかなさ、途方のなさに、何度も何度も直面してきました。
直面し続けています。目の前にある。
力を合わせるうえでは、やはり納得感というのが大事だと今なお思う。
それを確保する、大切にするという前提のもと、こんな集まり方やあんな力の合わせ方で、あるいはその手前の段階の機会を持つことで、よい協働を目指し続けるヒントをここで得ていきたい。
この夏にはレパートリーライン『万歳』の2作目を発表し、また先日には「ハラスメント対策の悩みをシェアする会」の実施をお知らせしました。
前者については、ついに”何度もつくる”レパートリーラインの本領発揮といったところ、また後者についてはさっそくこれまで述べてきた新コンセプトに基づく企画です。
変わらない部分、元から生きている部分はそのままに、そしていつの間にかできていたような道に、う〜ん、どちらかというと花壇に、花を植えるように、今後もいろいろとやっていきます。
これからもやはり「やってみたけれどやっぱり違った」を存分に肯定しながら、引き続き探求してまいります。
リニューアル(2024年5月)
加茂慶太郎
2024.5
マルレーベルの活動を開始しておよそ2年半が経ち、また前回ステイトメントを記してから約半年が経過しました。
この間、個人の演劇作家としての活動方針を整理するなかで、マルレーベルの設定を更新する必要が生じたと考えています。
私は、生きることへの、生きるなかでの納得がとても大切であるように感じていて、今後はそれのために演劇をもちいていきたい。
これはマルレーベルを始めた頃から持っていた感覚で、ようやくそれに単語をあてることができました。
マルレーベルでやりたいことと、私が演劇作品をつくる、企画をするうえでやりたいことの共通点がとても多くなってしまっていることに気づきました。
きちんと線引きをして、マルレーベルが何のためのどんな場所なのか、改めてここで考えを整理し、今後はそれに基づいて運営をしてみます。
まず、これまでは加茂慶太郎という一人の人間とマルレーベルという擬似的なカンパニーは別個の存在と認識していましたが、これからは、「マルレーベルは加茂慶太郎によるプロジェクトの一つ」という風にして、あくまでも私の個人としての活動のほうが先、あるいは前にあり、マルレーベルはそれに紐づくという整理をします。
演劇作品を発表するうえで、3つの領域での協働が必要であると考えます。
①実施母体をもつ協働(カンパニーでの協働|劇団主宰・劇団員など)
②作品をつくる協働(稽古場での協働|演出家・俳優など)
③公演化する協働(劇場での協働|劇場職員・舞台監督など)
(注:②③のどちらに属するかはケースバイケースである職能もあります)
これまでは漠然と、これら全てを一つの“協働”と捉え、その全体を通じての納得感の獲得を目指していました。
しかしそれではあまりに領域が広く、関わる人間が多く、方策が一筋縄ではいきませんでした。
今後マルレーベルでは、引き続き全体の納得感を重視しつつも、②の「作品をつくる協働」に焦点を絞り、まずはここに注力して、創作方法・稽古場運営などの面で、全員の納得に至るやり方を検討します。
作品をつくる協働においてその参加者全員の納得を担保するためには、稽古場での合意形成などのほか、実施母体との連携が時おり必要となります。この際に、①の実施母体内での協働にもコストがかかる場合、②の進行に支障をきたす可能性がある。実施母体はできるだけ決断のフットワークが軽く、またその形態は可変であることが②の実現可能性を高めると考え、実施母体を私個人で運営し、この協働コストを無視できるものとしてみます。
“納得”については、協働の前提(始まり方)が大きく影響すると今のところ(これまで同様に)考えており、②では引き続き、活動機会ごとにコンセプトを明示し、関心ある参加者を募ります。一方それを公演にする③では、②のオーダーに応じるために必要となる技術や知識があり、募るばかりではどうにもならない場合がある。そのため、対価・ギャランティを支払い(もちろん出演者にもお支払いしますが)、それを納得材料の一部としてもらい、公演に参加していただく。
この線引きがこれまでずっと曖昧だったのですが、現時点ではこのように整理したいと思います。
将来的に、②での関係者全員の納得が達成され、またその方法が確立できた場合に、その焦点を③、あるいは①へ移していくと思われます。
生きているうちにどこまで達成できるでしょうか。。
これまで、私は、マルレーベルでしていることは、①での取り組み、すなわちカンパニーでの協働の、時代に合わせた最適解を見つけることなのだと考えていました。しかし、それはちょっと違ったようで、その手前にいくつもの段階があるみたいです。
あわせて、これまでマルレーベルの事業はプロジェクトの設定→プロジェクト内での公演・企画実施という順序を経ていましたが、これを必須としないことにします。より事業規模に差のある企画も実施できるよう、企画立案のフットワークを軽くし、試行回数を増やす狙いがあります。作品をつくる協働に焦点を絞るため、例えば今後公演化を予定しない企画も実施する場合があります。
「やってみたけれどやっぱり違った」を存分に肯定しながら、引き続き探求してまいります。
生きる を さぐる
代表企画者 加茂慶太郎
2023.10
マルレーベルは、プロジェクトの集合体でありながら、それ自体もまた一つのプロジェクトです。
一つひとつの作品・企画を通じて、またそれらを発表し実施する主体としての枠組みのあり方までをも含めて検討しながら、全体で「生きる」ことを探っています。
いまのところマルレーベルでは、作品の出演者に対してオファーをおこなっていません。
毎度プロジェクト・企画・作品の発足の段階でコンセプトを示し、そのつど参加者を募っています。
「やりたい」と思ってくださった方に自主的に参加していただくことから、作品づくりをはじめます。
これにはいくつかの理由がありますが、最も大きい理由は、創作の関係者一人ひとりに作品を"自分ごと"と捉えて、主体的に取り組んでいただきたいと考えているためです。
私は舞台芸術作品の作家であると同時に、ここでは企画者・プロデューサーの立場を兼ねます。
私が「やりたい」と思った企画・作品をやることができるので、それをします。
しかし私ひとりで実現できることは、舞台芸術においては少ないので、誰かの力を必要とします。
出演者を必要とする際、たとえば「あなたに出てほしいです」と出演オファーをおこなえば、出演していただけるかもしれません。
このとき、私は、出演オファーを受けていただくことによって、私の願いを叶える手助けをしてもらうことになります。
もちろん、オファーではなく参加者を募ったとて、願いを手助けしてもらうこと自体には変わりありません。
オファーをおこなっても「やりたくない」場合は受けていただけないだろうし、あるいはドンピシャで「やりたい」と思ってもらえる可能性もあります。
しかしながら、オファーという行為自体が、あたかも、私個人の願いを叶えてもらうための手続きであるかのように感じるようになってしまいました。
なので、ちょっと極端に、それを全くしないでみる、ということをしてみています。
少子化やAI社会が進行し、人間が生きているということ自体の意味が、特にこの国では大きくなりつつあるように感じています。
一人の力では変えることのできないようにも思える大きな流れのなかで、そのうえ限られた時間しかないなかで、なにを大切にするのか。
個人個人の価値の置きどころは多様であり、それぞれが尊重されるべきだと信じられるようになっていて、私自身もそう信じています。
自分の人生を自分の人生として舵を取り、私自身のサイズで納得して人生を送りたい。
そしてなにより、他者もまたそうして生きているのだということを、そのサイズで受け止めたい。
一人ひとりの人間の協同で大きな流れがつくられているということを私なりに把握し、新たな納得に至る循環を生きたい。
そんな願いから、このプロジェクトを立ち上げました。
舞台芸術、こと演劇作品は製作に複数の人間を必要とすることがほとんどで、それでいて企画や作品のたびに協同関係を結び直すことができます。
何度も循環を試すことができる。生きることを探るのに、とても適していると考えています。
その試しの一つに、オファーをしない、ということがあります。
創作にかかる一人ひとりが、それぞれのサイズで存在しているということが、私にとっては重要です。
作家の作品、ではなく、創作に関わる人々それぞれが「私の作品でもある」と言える作品を作っていきたい。
オファーを行わずに毎度参加者を募ることで、それが叶う入口になるのではないか? と、試している最中です。
きっと、試しては新たな方針を立ててまた試す、ということを繰り返していきます。
その過程で、色々な変化、あるいは更新を伴うはずです。オファーだって、いつかはしているかもしれません。
マルレーベルは、それら変容を受け入れながらも、一つの舞台芸術カンパニーとして存在できる枠組みであってほしい。
そのため、「生きるをさぐる」以外の部分については、特に定めていません。
固定の俳優や、作家を持ちません。
一つひとつのプロジェクトや作品は個別に目的を持って独立していて、それぞれのなかで完結しています。
カンパニーの運営と、作品を作るということ、そのモチベーションは必ずしも一致しないはずです。
それでも、他者と深く関わり合いながら何かに取り組むということができるためには、その目的だけで集うことが必要だと考えています。
(しかし、本当にそうなのかは、分かりません。私は個人として別の劇団に参加しながら、協同のあり方の検討も並行しておこなっています)
一つひとつの取り組みの目的をクリアにしながら、その部分の関心さえ一致すれば協同できる、ゆるやかな枠組みとして運営してみます。
これからも、いろいろなプロジェクトのなかで、作品や企画を生んでいくと思います。
「やりたい」と思えるものがあれば、ぜひ、参加いただきたいです。
もちろん、出演という関わりでなくとも大歓迎です。
「生きるをさぐる」は、私個人の願望を元に掲げたキーワードで、その捉え方もそれぞれかと思います。
探る方法や目的意識は人によりけりで、いまは企画者が私のみのため、私なりの探り方でプロジェクトを立て、一つずつの作品・企画単位でつど参加者を募集しています。
もし、プロジェクト単位で、継続してなにかを探ることに取り組みたい方がいらっしゃるならば、ぜひ、マルレーベルでそれをされませんか。
ここでは、作家だけでなくどんな立場の人もプロジェクトをおこなうことができます。
ほかに所属があっても、全く問題ありません。
マルレーベルに"所属"の概念はありません。
企画者がそれに取り組むための場として、世に出すための枠組みとして存在します。
個人名義での演劇作品発表・企画実施は、(いまは? いまだ? これからも?)様々な理由からハードルが高いと私は考えています。
特に俳優を主として活動される方は、企画レベルの「やりたい」を形にすることが難しい場合が多いと感じます。
ここでは一つひとつのプロジェクトは独立していて、かつ、カンパニーそのものの運営とは切り離されているので、自身のプロジェクトのみに取り組むことが可能です。
もし、なにか「生きるをさぐる」に通ずる探求に継続して取り組まれるつもりで、ここがそれにフィットしそうでしたら、ぜひぜひその場としてご活用ください。
そして、公演として開催したり、それを世に出す際には、レーベル運営者として私も協同させてください。
その協同のなかで、適するように枠組みの形が変わってゆくこともまた、とても望ましいことのように思います。
さらに、マルレーベルというカンパニー自体の運営に関心のある方がいらっしゃるならば、ぜひ、一緒にやりたいです。
言うなれば、マルレーベルは、「生きるをさぐる」に最適な枠組みのあり方を模索する一つのプロジェクトです。
そのプロジェクトの参加者を、いつでも募集しています。
以上、ホームページ開設時点でのステイトメントとして、記します。
運営に取り組むなかで変化することもあると思います。
その場合はまたここに付して記します。
マルレーベルという一つのプロジェクトの変容の過程をも、お楽しみいただければ幸いです。