Missing/hanD

(関連作品)

1・MarianS

2・Midnight;pooL

3・Merry rebirthdaY

4・Missing/hanD

5Mixing・desperadO


(登場人物)

・マリアン:♂

情報屋の男性。


・メアリアン:♀

元傭兵、現殺し屋の女性。

一度望まぬ形で子どもを産み、依頼でそれを殺している。


・トリシュ:♀

情報屋他、数多の犯罪のエキスパート。


・シャルル=コンコルド:♂

コンコルド家当主の富豪。

社会の表裏問わず顔が広いが、黒い噂の絶えない活動家。


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(役表)

マリアン:

メアリアン:

トリシュ:

シャルル:

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メアリアン:4、Q、5の19。


マリアン:ほォ、今回は引きが良いじゃねェか、メアリアン。

     連続バストの世界新記録でも目指してンのかと思ったのによ。


メアリアン:……ショットシェルが似合いそうな、景気の良いクソ面だな、マリアン。

      私の奢りで、一発ブチ込んでやろうか?


マリアン:そりゃァ良いな。

     その太っ腹に甘えて、是非お願いしたい所だ。

     もっとも、お前のなけなしの残りチップは、俺が全部喰っちまうから、

     まずはケツにブチ込んでくれる、小汚ねェパトロンを探すんだな。

     10、A、Jのナチュラルだ。


メアリアン:はァ!?


マリアン:悪ィな、ド素人の涙ぐましい努力を、あっさり踏み潰しちまってよ。

     運だけじゃねェ、ヘルメースはお前の事が、心底嫌いなんだとよ。


メアリアン:テメェ、さっきからどんな汚ェ手使ってやがる。

      初手で10とAだったンなら、テメェは引く意味なんざ無ェだろうがよ。


マリアン:そいつァ企業秘密ってヤツだな。

     タマぶっ放すしか能が無ェトンチキ野郎に教えるだけ、時間の無駄だろ。

     そこらのルンペンと野良犬のファックでも観てた方が、まだ有意義ってモンだ。

     大体、俺にディーラーやらせてる時点で論外、お話にもなりゃしねェんだよ。


メアリアン:……つくづくクソくだらねェペテン野郎だな。

      チップ1枚稼ぐ為に、小便被って、フッカーのケツ穴舐めるような真似して、

      惨めとも何とも思わねェあたり、救いようの無ェイカレっぷりだ。

      百手千手と血の滲む小細工弄しようが、

      1ドルにも満たねェトカレフの気紛れ一発で、あっさりバストだろ。


マリアン:そんなンだからお前は、騙され放題のアホだっつうんだ。


メアリアン:なンだと。


マリアン:銃も弾丸も、魔法でも神でもなんでもねェ、力を行使する為の、只の道具だ。

     それも、吹けば飛ぶ程度の、ゴミクズみてェにちっぽけな力をな。

     All things are obedient to money.

     世の中を回してンのは、表も裏も関係無ェ、

     血塗れの札束と、それを操るクソ塗れの権力だろうが。

     金で暴力を買えンのも、暴力を金に変えられンのも等しく、

     金の使い方が毛の一本、血の一滴までべったり染み付いたヤツだけだ。

     何でもかんでもタマ一発で大団円って本気で思ってンなら、

     今日此処にわざわざワガママ聞いて、連れて来てやった意味がまるでねェ。

     今のうちに帰れ。


メアリアン:……チッ。

      オーライ、ファッカー。

      全くご立派で、クソ喰らえな講釈だ。

      テメェが死んだら、墓石に刻んで、上から小便引っ掛けておいてやるよ。


マリアン:そンなら、今からキリストに祈っとけよ、ちゃんと3日後には復活出来るようによ。

     ……全く、おちおちゲームも満足に出来ねェな。

     暇潰しの小競り合いにまで銃抜かれてたら、商談が始まる頃には、壁も天井も無くなっちまうぜ。


メアリアン:だったら始めッから、テメェがフザけた真似しなきゃ良いだけの話だろ。

      そもそも、こちとらこんなクソ面白くもねェ遊びに付き合うつもりは無ェってのに。

      こんなゴミ溜めの方が万倍マシなキッズルームにウチら押し込めて、何処ほっつき歩いてンだ?

      テメェのお得意サマとやらはよ。


マリアン:ンな事、俺が知るか。

     ノストラダムスじゃあるまいし、何でもかんでも知ってたら苦労しねェよ。

     けど確かに、無法者の貴重な時間をドブに棄てるのは、なんともいただけねェな。

     今度からクライアントには、漏れなく発信機でも付けとくか?


トリシュ:相変わらず、仲睦まじいわね、お二人さん。


メアリアン:あ?


トリシュ:ハロウ。


マリアン:……何でお前が此処に居る、トリシュ。


トリシュ:あら、言ってなかった?

     私、少し前から此処に雇われてるのよ。

     情報屋兼、助っ人のディーラー、その他諸々としてね。


マリアン:ンな事ァ聞いてねェ。

     お前は今回は、サポートに回るプランだった筈だろうが。

     頭ッから予定と全く違う、どういうつもりだ。


トリシュ:大丈夫、心配しなくても予定通りよ。

     貴方が準備したシナリオは、ここまでは滞りなく進行してるわ。

     ただ、あんまりにも順調過ぎてつまらないから、ちょっとスパイスを加えてみたくなっただけ。


マリアン:……お前なぁ……


トリシュ:けど、不測のモノと言うなら、お互い様じゃない?

     メアリアンが此処に居るって知ってたら、ちゃんとフラッグジャケットを着込んでから来たのに。

     スリルが欲しいにしたって、クレイモアを持ってくるまでするかしら、普通。

     ねえ、マリアン?


マリアン:仕方無ェだろ。

     何があンのか知らねェが、今日会う相手の名前を出した途端、

     同席させろって聞かなくなっちまったんだ。

     文句はメアリアンに言え。

     俺は可能な限り、面倒事を最小限に抑えただけだ。


トリシュ:あら、そうなの。

     珍しいじゃない、メアリアン。

     普段なら自分からは、鉄火場か屠殺場にしか出向かないのにね。


メアリアン:うるせェな。

      いくら貰って何回ヤッてるのか知らねェが、

      股のユルい拝金主義のコウモリ女が、他人の都合をあれこれ詮索するんじゃねェよ。

      要は、お互いに邪魔をしなけりゃ良いんだろ。

      私は確認したい事があったから来ただけだ。

      テメェらが此処でナニをどうする予定なのかなんざ、芥子粒程も興味は無ェ。


トリシュ:あら、そう?

     貴女らしくもない、可笑しなことを言うのね。

     私達みたいな、裏を営む情報屋は、他人の都合を根掘り葉掘り調べ漁って、

     小石にダイヤモンドの値札を付けて売り捌くのが仕事よ。

     貴女がどう思うかなんて関係無く、ね。

     ……とは言えまあ、邪魔さえしなければ、から先は、私も同意見。

     何が目的かは知らないけど、足を引っ張り合って、ちぎれてしまわないように気を付けなきゃね。


メアリアン:フン。


シャルル:……ご歓談中に失礼。

     君達が、情報屋かね?


マリアン:あァ、噂をすれば、だ。


トリシュ:御機嫌よう、Mr.シャルル=コンコルド。


メアリアン:………………


シャルル:お待たせして申し訳無い。

     少しばかり、取引相手とトラブルがあってね。

     首を縦に振らせるのに手こずってしまった。


マリアン:別に構わねェよ。

     遅れた分だけ、さっさとやる事やっちまえば良いだけの話だ。

     まァ、その分も色をきっちり付けてくれるッてンなら、こっちとしちゃ何も文句は無ェんだがな?


シャルル:はは、何とも。

     流石と言うべきか、抜かりが無いな。

     なかなかどうして、私に食って掛かるような眼を外さない。


トリシュ:仕方無いですわ、職業病みたいなモノだから。

     ほら、良く言いますでしょ。

     Time is money.

     1秒後に命があるかどうかすらも、疑わしい世界だもの。

     石の橋は叩かない、渡らない、迂回してその行く末のみを見よ。

     それくらいで丁度良いんですのよ。


シャルル:成程、参考にしておこう。

     ……しかし、彼らがトリシュの顔馴染み、というのは初耳だが。

     それは前もって、私にも知らせて置くべき情報ではないのかね?


トリシュ:それを知らせる事で、今日此処で話す事に、何か影響がありまして?


シャルル:それは……

     まあ、確かに、特に無いが。


トリシュ:では、お気になさらず。


メアリアン:………………


シャルル:……ところで、そちらは?

     何やらずっと、刺すような視線を感じるんだが。

     ご気分が優れないのかな?


マリアン:あァ、あー……こいつァ、あれだ。

     見習いだよ。


メアリアン:は?


シャルル:見習い?

     情報屋のかね?


マリアン:そうだ。

     まだ右も左も知らねェ、ヘソの緒が繋がったまんまの、ヒヨっ子のド素人だ。

     けど、どうしても俺の仕事振りを目に焼き付けたいって、

     額が焦げちまうくらい熱心に、地ベタに頭擦り付けて頼み込まれたモンでよ。

     この場では一切口出ししないって条件で、同行させてンだ。

     居ないモンとして扱ってくれて構わねェよ。

     壁の絵だとでも思っといてくれ。

     えーと、……アノニマス、挨拶しとけよ。

     お前の顧客にもなる可能性があるんだからな。


メアリアン:……よろしくお願い、シマス。


シャルル:……そ、そうか。


トリシュ:(含み笑い)


メアリアン:(小声)

      おい、誰がアノニマスだ。

      良い趣味してんじゃねェかよマリアン、ぇえ?

      このくっだらねェトークが終わったら覚えとけよ、テメェ。

      バールで顔面場外ホームランして、一生レアステーキも噛めねェような口にしてやるからよ。


マリアン:(小声)

     あーそうかい、そりゃァ素晴らしい申し出だベイビー、涙が出ちまうぜ。

     ンなくっだらねェ事しか喋れねェなら、

     その下品な口を小一時間、ポリウレタンでも使って縫い合わせとけ。


トリシュ:……で、えーっと。

     早速だけど、仕事の話をしましょうか。

     私はこの後、ラスタ・イリューゼのディナーショウの予約もあるから。

     Mr.シャルル、依頼は何だったかしら。


シャルル:ああ、そうだな。

     だがその前に、ひとつ私から、提案があるのだが。


メアリアン:あん?


マリアン:提案?


トリシュ:一応、聴きましょうか?


シャルル:ただ淡々と仕事の話をするだけでは、些か芸が無い。

     折角カジノの一室を貸し切ったんだ。

     ここはひとつ、ゲームでもしながら、パラディソのクルージングのように、

     優雅で刺激的な商談をしようじゃないか、と思ってね。


トリシュ:……それは、それは。

     まさか、その為にわざわざ、私にも同席するよう言ったんですか?


シャルル:ご名答だ、ミッドナイト・ウィドウ。


メアリアン:(小声)

      おい、マリアン。

      コイツは自分が、ケリー=パッカーの生まれ変わりだとでも思い込んでんのか。

      トリシュにゲームの相手を提案するなんざ、寝起きのドン=キホーテでもやらねェぞ。


マリアン:(小声)

     知らねェよ。

     だが、一応此処は、コイツが牛耳ってる裏カジノって調べはついてる。

     スティーブ=コングも真っ青な、薄汚ェ小細工があったとしても、何ら不思議じゃァねェだろうな。

     むしろそうでなきゃ、国宝級のマヌケ者だ。


シャルル:どうかな?


トリシュ:私は、構いませんわ。


マリアン:俺も良いぜ。

     まァ、アンタらが相手じゃ、俺達みてェなド素人は、軽く捻られちまうだろうがな。


トリシュ:メア……じゃなかったわね。

     Ms.アノニマスは、どう?


メアリアン:……良い、デスヨ。


トリシュ:オーケイ。

     それじゃ、ディーラーは私が務めさせてもらうわね。


シャルル:うむ。


マリアン:おいおいおい、待て。

     そりゃァ不公平ってヤツじゃねェか、レディ。


トリシュ:なぁに、ご不満かしら、チート・ボーイ?

     この中じゃ、私が一番適任だと思うのだけれど?


マリアン:適任だ?


トリシュ:片や、昔馴染みのビジネスパートナー。

     片や、他ならぬ私のクライアント。

     両陣営と少なからず接点があり、言い換えれば、

     If I run after two hares, I will catch neither.

     どちらの敵にも、味方にもなれない、とってもナーバスなサンドウィッチよ。

     尚且つ、ディーラーとして相応の技術と、相応の知識が有る。

     最初に言った通り、此処で雇われてる以上、此処の勝手も、当然知ってるしね。

     少なくとも、ジャンクショップで売ってるようなマジックグッズで、

     ヴァージンの女の子から小銭をくすねてたさっきの貴方よりかは、信頼に値すると思うわ。

     違う?


マリアン:……あー、分かった分かった。

     ごもっともだよ、Ms.ミッドナイト。

     んじゃ、恙無いゲームの進行を頼むぜ。

     くれぐれも、フェアにな。


トリシュ:Aha, you bet.


メアリアン:ヘイ、ヘイ。

      勝手にポンポン話進めてるとこ悪いけどさ、こっちは、チップが無いんだけど?


トリシュ:あら、そうなの?

     でも、さっき貴方達、チップを使ってたじゃない?


マリアン:俺らは原則、他に何を賭けても良いが、仲間内では金だけは賭けちゃいけねェ決まりでな。

     さっきのだって暇潰しだ、特に何にも賭けちゃいねェよ。

     そもそも、ケツからドル札チラつかせながら、裏カジノのホールを彷徨くアホが居るかっての。


トリシュ:それもそうね。

     でも、だからと言って、そちらだけ何も賭けないというのも……


シャルル:では、この場は言い出しの私が担保しようか。

     2人合わせて……そうだな、60万ドル分のチップを準備しよう。

     お誂え向きに、此処で取り扱っているチップの最高額が、1枚1万ドルだ。

     よって、1人当たり30枚。

     まあ、長々と会談をする訳でもなし、それくらいが丁度いいだろうと思うのだが。


メアリアン:随分と太っ腹デスネ、流石は裏カジノのオーナー。


マリアン:1人30万ドル……ねェ。

     そういう事か。

     見掛けによらず、良い趣味してるぜ。

     当然、こっちがチップを全部ロスしちまった場合は、

     その分の金は、きっちり返さなきゃいけねェんだろ?

     どんな方法を使ってでも。


シャルル:それはそうだとも。

     何を売ってでも、だ。

     表だ裏だは関係無く、借りた物はきちんと返すのが、

     大人として当然のマナーというものだろう。


マリアン:ハ、言ってくれるぜ。

     要は上手くやりゃ、元手ゼロで大金が入るってワケだろ。

     やらない理由は無ェな、アノニマス?


メアリアン:……知らねェよ、好きにしたら良いだろ。


トリシュ:それじゃ、あまり込んだゲームをしても仕方が無いし、

     シンプルに、ドローポーカーでもしましょうか。

     あくまでも、この会合の主目的はビジネスだからね。

     ……ああ、そうそう。

     どうせ、余興程度のゲームなのだし、ジョーカーも1枚、入れておく事にするわ。

     1人30万ドル分、30枚の手持ちチップが無くなった時点で、問答無用でリタイア。

     失った分の金額は、何があっても支払わなければならない、と。

     オーケイ?

     ……All right.

     Good luck to you.


(間)


マリアン:……それで、改めて訊くが、今回は何が要望だ、ミスター?

     今ン所、アンタにプラスになるようなネタは、俺らは扱ってねェと思うが。


シャルル:なに、大した依頼ではない、

     ……という言い方もどうかと思うが、今回は少しばかり、人探しをお願いしたくてね。

     ビッド、2枚追加。


メアリアン:……コール。


マリアン:人探し……ねェ。

     そりゃァまた、アンタにしちゃ珍しいな。

     バスケット抱えた愛人に逃げられでもしたか?

     コールだ。


トリシュ:それを訊くのはナンセンスよ、マリアン。

     例え本当にそうだとしても、依頼の裏は探らないのが、私達の不文律でしょ。

     コール。


マリアン:まァ、それも一理あるがよ。


シャルル:愛人などとは、そんな大層な物ではないよ。

     ただ、それは少しばかり、事情が込み入っていてね。

     行方知れずとなって10年以上は経つが、未だに魚のディナーになったという話も聞かない。

     もしもの事があっては困るのさ。

     トリシュ、2枚交換だ。


トリシュ:どうぞ。


シャルル:……ふむ。

     レイズ、3枚追加。


メアリアン:仮にそれが裏の人間だとするなら、人知れず消されていたとしてもおかしくはないし、

      何なら、10年も経ってるなら、そう考える方が妥当では?

      3枚交換。

      ……コール。


マリアン:だからこその、念の為、なんだろ。

     だが、流石に10年前ともなると、なかなかに骨だな。

     鼻水もヨダレも拭けねェようなガリガリのガキが、

     10年もすりゃ、大統領になっててもおかしくねェような世の中だしな。

     俺は1枚交換だ。

     レイズ、8枚まで追加するぜ。


トリシュ:あら、1ゲーム目から強気ね。

     ……でも、「それ」なんて呼び方をする辺り、

     少なからず、良からぬ都合である事には違い無いのでしょう?

     そうでなければ、わざわざ10年越しに、情報屋を雇ってまで探そうとしたりしませんものね。


シャルル:ああ、その通りだ。


トリシュ:それくらいは言わなくても分かるものだとばかり思ってたけれど、

     そういえば、まだこの場にはベビーが居たのよね、ちゃんと説明しておかなきゃ。


メアリアン:……チッ。


トリシュ:私は3枚交換するわ。

     ……あら、残念。

     今回は駄目ね、ドロップ。


シャルル:私はこのままコールだ。


メアリアン:……ドロップ。


マリアン:7のワンペア。


シャルル:3とAのツーペア。

     大方、強気のレイズで、全員のドロップ狙いだったかね?

     啖呵を切るのは結構だが、少しばかり粗が目立ったな。

     私の勝ちだ。


マリアン:フン。

     まだ1ゲーム目だ、ただの様子見だよ。

     こんな見え見えのエサにも喰い付いちまうようじゃ、むしろ拍子抜けってモンだからな。


シャルル:そうかね。

     それが、ただのカウボーイの負け惜しみでない事を願うよ。

     続けよう。


メアリアン:(小声)

      ……一言一句いけ好かねェな。

      その鉄臭ェ口、溶接してやろうか。


トリシュ:(小声)

     Shhh……

     Whoa, wayward girl.

     あくまでもビジネスよ、メアリアン。

     スマートに、そしてクールに、ね。


メアリアン:(小声)

      ……クソったれ。


トリシュ:それじゃ、今度はアノニマスから回していきましょうか。

     Bid, or pass ?


メアリアン:パス。


マリアン:同じく、パス。


トリシュ:それじゃ、私はビッド。

     2枚追加ね。


シャルル:では、私はコールしよう。


メアリアン:コール。


マリアン:俺もコールだ。


トリシュ:ふふ、あらあら。

     見た所、あんまりハンドが宜しくなさそうね、御三方。

     1枚交換して……そうね。

     レイズ、チップ5枚追加して、8枚。


シャルル:おっと。

     私は3枚交換だ、トリシュ。


トリシュ:ええ、どうぞ。


シャルル:……ほう、今日の私はツイているかも知れんな。

     レイズ、10枚だ。


メアリアン:4枚ドロー。

      ……チッ、クソが。

      ドロップだよ、勝手に続けてろ。


マリアン:牙がチラついてンぞ、ステイだ、アノニマス。

     カモになるのは勝手だが、小姑みてェに癇癪起こして暴れたりだけはすんなよ。

     後始末がめんどくせェからな。


メアリアン:ハ、心配すんな。

      そんときゃァこのカジノ丸ごと、バーベキューの燃えカスだ。

      清掃業者でも呼んどけよ。


マリアン:はいはい、そのマヌケなビッグマウスが動いてるうちは安泰だな。

     その調子で頼むぜ、ラット・ガール。

     ンで、だ。

     俺はこのままで良いぜ。

     レイズ、5枚追加だ。


トリシュ:今日は随分と気の早いギャンブラーね、マリアン。

     お腹でも下してるのかしら?

     コール。


シャルル:コール。


マリアン:掻ッ攫えるモンは、少しでもスキが見えたら持ち逃げしねェとな。

     いちいち穴から愛人とのファックを覗き見てたら、

     そのままカムショット決められてゴールインがオチだ、たまったモンじゃねェ。

     オープン、Kのスリーカードだ。


シャルル:Jのスリーカードだ、惜しかったな。

     この手なら押し切れるかと思ったんだが。


トリシュ:まるで、その眼で見て来たかのような言い方ね。

     ……でも、Mr.シャルルの仰る通り、

     今日の貴方は少し抜けてるというか、付け入る穴が多いわね。

     やっぱり、弩級のボムを抱えてるからかしら。


メアリアン:クソうぜェ眼でこっち見ンな、淫売。

      誰のコト言ってんだ。


トリシュ:ふふ、生娘みたいに盛っちゃって。

     今にも暴発しそうだもの。

     今のうちに、爆弾処理班を呼んでおいた方が良いんじゃない?

     5から9のストレート。

     美味しく掻っ攫わせてもらうわ。


メアリアン:………………


マリアン:おい、あんまり無駄に煽ンなよ。

     後でケツの穴繋げられても、俺は責任取れねェぞ。


トリシュ:はいはい、気を付けるわよ。

     次のゲームね、マリアンからどうぞ。


マリアン:ッたく。

     ドラ猫だけならまだしも、チェシャ猫まで混じってたんじゃ、心労が絶えねェな。

     ……ンで、話をブッた切って悪かったな、ミスター。


シャルル:いやなに、構わんよ。

     君達のトークに仲間入り出来ないのは、少しばかり寂しい物はあるがね。


マリアン:そりゃァ申し訳無かったな、商談に戻すぜ。

     ビッド、チップは2枚からだ。

     ……ただ、少しばかり、先に確認しておきてェ事があってな。

     アンタにとって都合の悪ィ話となると、俺の記憶違いでなきゃ、

     思い当たるネタは、2つくらいしか無ェんだが。


シャルル:ほう、目星があるのかね。

     ちなみに、それは?


マリアン:焦らしても仕方ねェ、単刀直入に訊くぜ。

     パーティーか、それとも、トラフィックか?


シャルル:………………


トリシュ:あら、そこでだんまりなされては、

     恰も身に覚えがあるかのように見えてしまいますわよ、ミスター?

     彼とて私と同じ、情報屋の端くれとはいえ、

     根も葉も無いネタを仕入れてしまうのも、また常ですから、

     思い違いだと仰るなら、すぐに否定しませんと。

     1枚交換して、レイズ。

     そうね……5枚増やして、7枚。


シャルル:裏は探らないのが不文律、ではなかったのかね?


マリアン:勿論。

     今のはただのカマ掛けだよ。

     富豪サマってェのはどうしても、妬みや嫉みから、

     色んなヤツから、色んなネタを擦り付けられちまうからな。

     それがガセだったりしたら、情報屋としての信用問題、

     ヘタすりゃそのまま、ケツのクレイモアに着火して、

     ネブラスカあたりまでフッ飛ばされかねねェ。

     ……けどアンタ、こんなチープな揺さぶりでも動じちまうあたり、

     良くも悪くも、隠し事は出来ねェタイプみたいだな。

     分かり易くて助かるぜ。


シャルル:……さあ、どうかな。

     逆に、根も葉も無い疑いを掛けられた時でも、

     人は等しく、動揺くらいするものだろう。

     もしそのネタとやらが、只の君達の勘違いともあれば、


メアリアン:おい。


シャルル:うん?


メアリアン:いい歳したジャーク野郎が、いつまでも見苦しく喚いてんじゃねェよ、鬱陶しい。

      パクリがバレたクソガキみてェにピーピー鳴いてねェで、

      さっさとコールなり、ドロップなりしやがれ、ピッグ。


シャルル:……ほう。


マリアン:おい、アノニマス。

     せっかく穏便に進んでる話を、わざわざ掻き回すな。


メアリアン:だァれがアノニマスだ、クソボケ共がよ。

      ちんたらちんたらイカ臭ェ腹の探り合いしてねェで、さっさとゲロしちまえよ。

      「Time is money.」なんだろ?

      こんなお遊びちまちま挟みながら、欠伸も腐るような話をこれ以上続けてみろ。

      みんな仲良くアホ面並べて、モーニングトーストでもいかがかしらッてか?

      冗談じゃねェ、私はゴメンだぜ。


マリアン:(溜息)


トリシュ:やっぱり、メアリアンに「我慢しろ」なんて、

     期待する方が無理な話だったわね。


シャルル:メアリアン……

     それが君の、本当の名前かね。


メアリアン:それがどうした。


シャルル:いや、なに。

     アノニマスなどという、あからさまな偽名を使うものだから、

     逆に気になって仕方が無くてね。

     大変失礼をした、Ms.メアリアン。

     確かに君の言う通り、このゲームを提案したのは私だ。

     その進行を、私が妨げてしまっては世話がないな。

     すまなかった。


メアリアン:クソ成金の富豪サマにしちゃ、えらく聞き分けが良いじゃねェかよ。

      その調子で頼むぜ。

      で?


シャルル:レイズだ。

     13枚追加して、チップは20枚。


トリシュ:あらあら……


マリアン:おいおいなんだ、焼きが回ったか?


シャルル:そう思うかね。

     私はまだ、残りのチップに余裕があるのでね。

     少しばかり、私からもカマを掛けてみようと思ったまでさ。

     さあ、どうぞ、メアリアン。


メアリアン:ハッ、良いぜ、乗ってやるよ。

      コールだ。


マリアン:えらく意地の悪いカマ掛けもあったもんだ。

     俺にとっちゃ、コールもオールインも大差無ェ。

     まァ、隠すまでもなく、それが狙いなんだろうがよ。

     流石に、ここは降りさせてもらうぜ。

     そこのアホなイノシシ女みてェに、自分からわざわざ見え透いたトラップにハマって、

     シチューにされる趣味は持ち合わせてねェからな。


トリシュ:今の貴方が言うと、臆病風にしか聞こえないわよ、マリアン。


マリアン:うるせェな、お前はどっちの味方なんだよ。


トリシュ:あら、ゲームの最初に言ったじゃない。

     私はこの場に於いては、公平でクリーンなディーラー。

     そうでなくとも、私は私にしか味方はしない主義よ。

     私はコールね。


マリアン:ああそうかい、そりゃァ失礼。

     ……それで、シャルルさんよ。

     結局俺はまだ、質問の答えを聞けてねェんだが?


シャルル:パーティーだよ、君の見通し通りね。


マリアン:随分あっさり答えるんだな。


シャルル:既に見抜かれている事を、わざわざ誤魔化そうとしても時間の無駄だろう。

     中途半端にはぐらかしては、そこの狂犬に文字通り、取って喰われそうだ。


マリアン:ごもっとも。


メアリアン:おい、トリシュ。


トリシュ:なに?


メアリアン:こいつらはパーティーだのトラフィックだの、何の話をしてンだ。


トリシュ:あら、言葉の意味も分かってないのに、踏ん反り返って聴いてたの?


メアリアン:おちょくってんのかテメェは。

      その御自慢の舌切り落として、ケツから喰わせるぞ。

      ンな事、私が知る必要のねェ話だろうが。

      クソ情報屋共しか使わねェような、くだらねェ淫語なんざよ。


トリシュ:それはどうかしらね。


メアリアン:あ?


トリシュ:教えてあげるわ。

     トラフィックは、臓器や人身売買の取引。

     パーティーは、要は大人数での乱交、セックスの祭典のことよ。

     ただし、仲睦まじいカップルのするそれと違って、愛も情も微塵も伴わない、

     醜い欲と、汚い金に支配されたモノだけど、ね。

     元々、それを確認したかったから、貴女は此処にいるんじゃないの、メアリアン?


メアリアン:……おい、テメェ……どこまで知ってやがる。


トリシュ:さあね。


マリアン:大方、会場から逃げおおせたネズミを探してくれ、ってトコか?

     アンタがそんな、素人みてェなヘマをするタマだとは、思ってなかったが。


シャルル:その通り、恥ずかしい話だ。

     私も油断していたのさ。

     十分に調教し、身も心も余す所無く、飼い慣らし、服従させていたつもりだった。

     それに加えて、件の商品は身重だったのでね。

     まさかそんな状態で、自力で逃げ出すなどという暴挙は犯すまいと、高を括っていた。


マリアン:身重?

     ガキを孕んでたヤツも参加してたのか?


シャルル:そうだ。

     プレグナントもそれはそれで、その手の者には需要がある。

     産もうが堕ろそうが、どちらにせよ、ちょうど良いオプションになるのでな。

     顧客を愉しませる商品として、価値が落ちるわけではないのさ。

     ……あれの名は、何といったかな。

     確か、トー……


メアリアン:ツーペア。


シャルル:ん?


メアリアン:なにが「ん?」だ、すっとぼけてンじゃねェよ。

      グダグダ長話する度にゲームを止めるな、めんどくせェ。

      もうコールは出揃ってンだろ。

      私は2と6のツーペアだ。

      口と手を同時に動かせって言ってんだよ、サラミ野郎。


シャルル:……随分と、口が達者な事だ。

     裏の世を掻き乱す情報屋といえど、新人の育成は不得手と見えるな。

     暴力だけで、世は並べて事も無し、とは行かない事を知らないらしい。

     そうは思わないかね、ミスター?


マリアン:おいメアリアン、いい加減にしろ。

     何をそんなにイラ立ってる。

     ガキじゃあるまいし、ハンドが悪いからって誰彼構わず当たり散らすな。

     時と場所を弁えろって、口を酸っぱくして聞かせてンだろうが。


メアリアン:うるせェんだよマリアン。

      ンな事でダダ捏ねるビッチと私を一緒くたにしてギャンギャン吠えるな。

      耳が腐る。


マリアン:あ?


メアリアン:これでも私にとっちゃ、十二分に堪えてンだよ。

      こちとら、コイツの顔面を蓮の花にしてやりてェのを我慢し続けてんだ。

      テメェらの事情は知ったこっちゃねェが、少なくとも私の腹は決まった。

      この豚はクロだ。

      便秘明けにひり出したクソみてェな、反吐を出す価値もねェクソッタレだ。

      これ以上、意味も無く私を止めてみろ。

      まずはテメェからジョーカーを引かせるぞ。


シャルル:ははは。

     全くもって、とんでもない暴れ馬を抱えているな、君達は。

     ……だが、Ms.メアリアン。

     君がどれだけ凄もうが、この場に於いては、ダダを捏ねる娼婦と何ら変わらん。

     君達が居るのはアウェイの地雷原、そして私のホームだ。

     君の牙が私の命を脅かす頃には、その首は横から喰い千切られる羽目になる。

     あまり調子に乗り過ぎない方が長生き出来るぞ。


メアリアン:……テメェ……


シャルル:私もツーペアだ。

     ただし、君よりも上のカードでの、な。

     何を宣っても、言葉よりも、暴力よりも、

     こんなちっぽけなチップが、今は何よりも物を言うのだ。

     これで君の残りチップは、10枚にも満たない。

     いっその事、空いた穴は君の体で埋め直すのも良いかもしれないな。


メアリアン:………………


(メアリアン、忍ばせた銃に手を伸ばす)


マリアン:メアリアン、その手をテーブルに戻せ。


メアリアン:なんだよマリアン、この期に及んでまだテメェは、


マリアン:メアリアン。


メアリアン:……分かったよ、クソが。


トリシュ:手懐け方が様になってきたわね、頼もしいわ。


マリアン:トリシュ、頼むからこれ以上余計な口を叩くな。

     お前ら寄って集って、俺を過労死させる気かよ。


トリシュ:ふふっ、冗談よ、冗談。

     でも、メアリアンをこの場で買い叩こうとなさっても、

     そう上手く事は運びませんわよ、Mr.シャルル。


シャルル:なに?


トリシュ:残念ながら、私は貴方より更に上のカードでのツーペアだから。

     貴方も一手間違えたら、狩られてしまう側である事を自覚して頂かないと。


シャルル:ああ、……君は、そうか。

     今の君は私の飼い犬ではなく、公平なディーラーだったな。


トリシュ:ええ。

     なので、うっかり手を噛んでしまうかもしれません、用心なさって。

     まあ、もっとも。

     私は貴方の飼い犬になった覚えも、一度もありませんけれど。


シャルル:……そうかね、それは失礼。


マリアン:おいトリシュ、お前まで何を。


トリシュ:マリアン、まさかこの場に及んで、穏便且つ平和的な商談が出来るとでも?

     誰の所為とまでは言わないけれど、クリーンなお話の時間はおしまいよ。

     ここからは、ニトログリセリンを取り扱うみたく慎重に、

     若しくは、ヴァージンナイトの愛撫みたく、繊細にならないと、


(トリシュの携帯が鳴る)


トリシュ:……あら、ちょっと失礼。

     Hello ?


マリアン:……全く、どの口が言うんだかな。

     あーっと、シャルルさん。

     ひとまず、仕事の話は保留にして、先にゲームを終わらせちまおう。

     ピクニックが待ちきれねェバカ犬にこれ以上ステイをさせてたら、

     俺達が一足先にサブマリンにされちまう。

     こいつらには後で、キツく灸を据えておくからよ。

     非礼の詫びと言っちゃなんだが、依頼料は3割引きで良い。


シャルル:そうか、それは有難い。

     ……ところで、だ。

     それはそれとして、別の仕事も頼みたいと思っているんだが。


マリアン:ほう。

     嬉しいね、仕事は多いに越した事は無いからな。

     ンで、まずはその内容だけ聞こうか?


トリシュ:……Aha, okay, thanks.

     bye.

     (咳払い)

     Attention please, everyone.

     少しばかり、事情が変わったわ。

     急で申し訳無いんだけれど、次でラストゲームにさせてもらえる?


メアリアン:はァ?


シャルル:どうしたね、トリシュ。


トリシュ:ごめんなさいね、Mr.シャルル。

     ちょっと込み入った状況、としか言えないわ。

     説明するより、こっちの話を進めた方が早そうなの。


マリアン:つってもよ、トリシュ。

     テーブルのチップの大半は今、お前の所にあンだぜ。

     このタイミングでラストゲームって言われても、体の良い勝ち逃げにしか見えねェんだが?


トリシュ:ええ。

     だから、次のゲームは全員、オールベットよ。

     レイズも、コールも、ドロップも無し。

     一人何度でも、何枚でもチェンジして良いけど、山札が無くなったらそれでおしまい。

     その時点でのハンドが一番強い者が総取りってわけ。

     文字通りの「All or Nothing」よ。

     どう?


シャルル:私は構わんが。


マリアン:……まァ、風情もへったくれもねェとは思うが。

     別に却下する理由も無ェ、俺もそれで良い。


トリシュ:メアリアンは?


メアリアン:どっちでも良い、何ならどうでも良い。

      このクソみてェなゲームが、一刻も早く終わるってンなら万々歳だ。

      それよか、わざとらしく惚けてねェで、先にその事情とやらを説明しろよ。

      テメェの事だ、どうせロクでもねェ事企んでんだろうが。


トリシュ:あら、心外ね。

     ロクでもない事を企んでるのは正解だけど、今回に関しては、それは私じゃないわよ。

     ……ああ、私だけじゃない、って言った方が正しいかしら。


メアリアン:ンだよ、そりゃァ。


トリシュ:もうじきよ、すぐに分かるわ。



(カジノの入口から爆発音が響き渡る)



マリアン:ッと。


シャルル:………………


メアリアン:おいおいなんだ、向こうでもパーティーが始まってンのか。


トリシュ:違うわよ。

     団体さんの目的は、此処に居る私達3人。


メアリアン:なに?


マリアン:ま、そうだろうな。

     そんなこったろうと思ったぜ。

     アリ地獄の中で、まんまと時間稼ぎされたッてこった。


トリシュ:そうでしょう?

     ならず者達のクライアントの、シャルル=コンコルド。


シャルル:……何の話かね?


トリシュ:知らないフリしたってダメよ。

     ここまでお膳立てした張本人でもないなら、自分のカジノでこんな騒動が起きていて、

     そこまでクレバーに徹しているのは逆に、不自然極まりないわ。

     私達に仕事を依頼する名目で、ご自慢の自分の城に閉じ込めて、

     適当に時間を潰し、タイミングを見計らって、この逃げ場の無いVIPルームで始末する。

     何ともシンプルで、分かりやすい作戦だわ。

     その程度なら、脳ミソが下半身に付いてるようなおバカさんの群れでも、

     忠実にこなしてくれるものね。


シャルル:………………


マリアン:ただ、アンタは少しばかり……

     いや、致命的なくらいに、見積もりを誤ったな。

     「始末される事が仕事」みたいな感じの、

     ガキを虜にしちまうスーパーヒーローみてェな台詞が言いたかったんだろうが、

     生憎と、俺らはガキでもなきゃ、

     そんな夢みてェなシナリオに付き合うほど、寝惚けてもいねェんだ。


シャルル:……負け惜しみのつもりかね、それは。

     随分とくだらない能書きには、よく回る舌だな、情報屋。

     言っておくが、此処は隠し扉もトリックも無い、完全な袋小路に位置する部屋だ。

     どう足掻いても、そこの出入口から出て、殺し屋共と鉢合わせする以外にルートは無い。

     大人しく、死神達の迎えを待ちたまえ。


マリアン:あーあー、そういうのは結構だ。

     言ったろ、ゲームを先に終わらせちまおうってよ。

     あっちの相手は、俺でもトリシュでもねェ。

     残念ながら、アンタのお抱えの下っ端共より、

     よっぽどタチの悪い死神が、こっちにはいるんでな。


シャルル:なに?


マリアン:おいメアリアン、仕事だ。

     お待ちかねのメインディッシュの時間だぜ。


メアリアン:……ようやくかよ。

      テメェらのしょうもねェ小競り合いを、いつまで聞かされんのかと思ってたぜ。

      ンで?


トリシュ:北と東の通路から3人ずつ、裏口から4人、

     正面から9人、合計19人ね。

     30人近く居るって報告だったけど、悪戯程度に仕掛けたトラップの刺激が強過ぎたみたい。

     というか、まさかあんな見え見えのセンサーに引っ掛かるなんて、逆に驚きだわ。


シャルル:なっ……!


メアリアン:ハッ、そんだけか?

      何がメインディッシュだ、笑かすなよ。

      オードブルにもなりゃしねェ。

      せいぜい、犬のエサが良いとこだ。


マリアン:そりゃァ良いな。

     テメェみてェなウォー・ドッグにはお誂え向きじゃねェかよ。

     好きなだけ喰い散らしてきて良いぜ。

     どんだけ喰おうが、全部Mr.シャルルの奢りらしいからな。


メアリアン:Oh, yeah.

      All right, mother fuckers.

      エテ公共に、お帰りのキスをくれてやンなきゃな。

      おいマリアン、そっちは分かってンだろうな。


マリアン:あァ、下拵えはデザートまでしっかりと、だろ?

     わざわざテメェに言われなくても分かってるッての。


メアリアン:Good boy.

      分かってンなら良い、宜しく頼むぜ。

      それじゃァな、すぐ戻るからよ。


(間)


マリアン:……さて、これで邪魔者は、しばらくは居なくなった。

     改めて、腹を割って話そうじゃねェか、シャルルさん。

     アンタが最初に提案した通り、ゲームでもしながら、優雅に、刺激的によ。

     メアリアンは席を離れちまったから、賭け金は俺と共同にさせてもらうぜ。

     構わねえな、トリシュ?


トリシュ:ええ、問題無いわ。


シャルル:………………


トリシュ:どうされました?

     ルールは先程説明しましたでしょう、どうぞ、お好きな枚数を交換して下さい。

     早く済ませないと、あの血に飢えた狂犬が、貴方の喉笛にも噛み付きに来ますわよ。


シャルル:……お前……お前達は……


マリアン:あん?


シャルル:何故、今更になって、私を裏切るのだ……?

     これまでお前達に、どれだけの大金を注ぎ込んできてやったと……


マリアン:バカ言っちゃいけねェ、人聞きの悪い事抜かすなよ。

     裏切りなんかじゃねェよ、始めからアンタとは仲間じゃねェだけだ。

     心配すんな、アンタ程度のクライアントなら、他にもいくらでもいる。

     俺らはこう見えて、引っ張りだこの人気者なンでな。


トリシュ:それに、裏切りと言うのなら、先に裏切ったのは、貴方の方でしょう?


シャルル:…………っ!


マリアン:パーティーにせよトラフィックにせよ、

     アンタが商品として売り捌いていたヤツらの大半は、

     元々はこっちが愛玩用、若しくは労働力として譲ってやっていたモンの筈だ。

     共用の便所として使う、なんて申告はされてねェし、

     そもそもこっちも、そんなつもりで貴重な人材を派遣してるワケでもねェ。

     売り渡した後の商品をどうするかまで、いちいち口出しする義理は本来はねェが、

     予定と違う使われ方をしてるだけならまだしも、

     何処のどいつとも知れねェアホ野郎共に横流ししていた、となりゃァ話は別だ。

     アンタ、俺らを、ウチの大事な商品を一体全体、何だと思ってんだ?


シャルル:……そんな、事……私はしていない……!

     何を証拠に、そんな世迷言を……!


トリシュ:証拠、だなんて。

     情報屋を相手にして、それは愚問極まりないわね。

     一から十まで証拠が出揃っちゃってるから、今この状況があるのでしょう?

     なかなかのやり手かと思って期待していたのに、余裕を無くすと脆いものね、拍子抜けだわ。

     何ならご希望とあらば、貴方の顧客リスト、上から順に読み上げて差し上げましょうか?

     所属組織やフルネームはもちろん、生年月日、家族構成にペットの名前、

     スリーサイズから虫歯の数まで、本人さえも知らないような情報が、

     こっちのデータベースにはタップリよ。


シャルル:くッ……!

     ………………

     ……分かった、認めよう。

     確かに君達の言う通り、私は商品を不正に横流ししていた……

     今回君達を此処に誘い込んだのも、それを勘付かれたと踏んで、

     まとめて処分してしまおうと思ったからだ。


マリアン:ほう、潔いな。

     俺達が裏で探りを入れていた事は、アンタでも流石に気付いてたか。

     そんでその処分計画も、偶然居合わせた、何処の馬の骨とも知れねェ殺し屋の女の所為で台無しだ。

     そンなら、アンタはここからどうする?


シャルル:……しかし、事実を知っているのは、今この場に居る3人だけだ。

     ならば、このゲームの勝敗で、その行末の如何を決めようじゃないか。

     私が勝ったら、此処であった事は、全て不問……

     他言無用の物として処理し、今後私に関わる事も、詮索する事も止めてもらう。

     それでどうだね?


マリアン:後ろ盾が居るわけでも無ェ独り身の状態で、よくもまァそこまで強く出て来れるモンだ。

     虚勢だとしても、素直に感心するぜ。


トリシュ:若しくは、一見無茶な取引を持ち掛けられるくらいに、余程良いハンドが来てるのかしらね。

     マリアン、どうするの?

     そもそもが多勢に無勢、敢えて受ける必要も無いと思うけれど?


マリアン:良いんじゃねェか。

     その肝ッ玉と運が本物かどうか、見極めてやろうぜ。

     何ならハンドによっちゃ、特別価格で今後の取引を続けてやっても良い。


トリシュ:マリアン、忘れたの?

     私はともかく、貴方達2人は負けたら、1人3000万ドルの借金よ。

     そんな事言ってる余裕無いんじゃない?


マリアン:さあ、どうだか。

     ……んじゃ、俺からオープンするぜ。

     5が3枚、7が2枚のフルハウスだ。


シャルル:……ふふっ、はは、ハハハハハ。


マリアン:ん?


トリシュ:あら。


シャルル:……スペードの9、10、J、Q、K……

     私のハンドは、ストレートフラッシュだよ……!

     これに勝つ役は、ひとつしか無い……が、

     君はそれを出せたかね、トリシュ?


トリシュ:いいえ、残念ながら。

     私はロイヤル・ストレート・フラッシュは、作れませんでしたわね。

     この逆境の土壇場で、何ともお見事。


シャルル:私の、勝ちだ……!!

     幸運の女神は、薄汚いドブネズミよりも、私に微笑んだのだ!

     最後に勝つのはやはり、私ということだな!

     お前達のような裏で這いずり回るゴキブリ風情が、私を陥れようなど烏滸がましい!

     身の程を弁えろ!!

     ハハハ、ハハハハハハ!!


マリアン:成程、そっちが本性か。

     胡散臭ェ富豪ごっこの時よりも、数段イキイキしてるじゃねェか。


シャルル:さあ、約束通り。

     事が済んだら私はのんびりと、正面玄関から帰らせてもらおうかな。

     銃声も止んだことだ、あのメスガキも片付いた頃合いだろう。

     パーティーの常連客には、ネクロフィリアも数多く居るのでね、

     まだまだ、商品価値は見劣りしない。

     死体は、こちらで引き取らせてもらうよ。

     使い物にならなくなったらきちんと返却する、心配しないでくれたまえ。

     ああ、あと、約束の2人分の60万ドル……

     いや、こうなってしまっては、トリシュも合わせて90万ドルか。

     その取り立てについてだが、


トリシュ:Mr.シャルル。


シャルル:なんだね、トリシュ。

     私はこれからの大事な……はなし、を、して……

     ……は?

     え、Aが……4枚と、……ジョーカー……!?


トリシュ:そう、ファイブカードなのよね、私。

     ジョーカーも1枚入れるって、最初にちゃんと言ったのだけれど、お忘れかしら。

     「ロイヤル・ストレート・フラッシュは」作れなかった、としか言ってないでしょ?

     ごめんなさいね、存分にぬか喜びしてるところに水を差しちゃって。

     貴方の負けよ、モーラン。


シャルル:……おま、お前……は、

     クリーンで、公平なディーラー、じゃなかったのか!?


トリシュ:ええ、確かにそんな事も言ったわね。

     でも、だからって、イカサマをしない、なんて一言も言ってないし、

     イカサマ禁止、なんてルールも、この場では設けていないからね。

     本当に運だけでストレートフラッシュを引いたのは、素直に凄いと思うわ。

     だけど、その程度の運だけで、「ミッドナイト・ウィドウ」に勝負を挑んじゃダメよ。

     私が居る賭場では、どう足掻いても私には、絶対に勝てないように出来てるのよ。

     ご愁傷様。


シャルル:……な、何を……

     こ、こんな勝負は無効だ!!

     汚い手段ばかり使いやがって!!

     これだから、これだからお前達のような、裏に屯するゴミ共のやる事は!!


メアリアン:……なんだ、結局またトリシュが一人勝ちしてンのかよ、つまんねェな。

      せっかくテメェの吠え面が拝めるかと思ったのによ。


シャルル:ッ!!?


トリシュ:あら、おかえりなさい、メアリアン。

     お早いお戻りね。


メアリアン:だから言ったろ、オードブルにもなんねェってよ。

      歯応えも何もあったモンじゃねェ、こちとら消化不良だっつの。


マリアン:デザートならここにあるぜ、メアリアン。

     まァ、腐りかけのゲテモノだけどな。

     要望通り、まだ俺らは手は出してねェ。

     喰い足りないってンなら好きにしな。


シャルル:ひッ!?


メアリアン:あぁー、そうかそうか、そうだったな。

      まだテメェが生きてたなぁ。


シャルル:な、なに……なんだ、寄るな……

     来るな、来るんじゃない、来るな!!


メアリアン:Shut up, son of a bitch.


(メアリアン、シャルルの足を撃ち抜く)


シャルル:ぎゃぁああ!!

シャルル:あ、足、私の足がァあ!!


メアリアン:Pardon me, monsieur un salop. 

      I did not mean to do it.

      一発で楽にしてやるつもりが、うっかり足を撃っちまった。

      悪い悪い、次はちゃんと脳天ブチ抜いてやるからよ。


(メアリアン、シャルルの二の腕を撃ち抜く)


シャルル:ぐがぁァあああ!!!


メアリアン:おッかしいな、今日はどうも、上手く頭に当たらねェ。

      このままじゃ、地獄みてェに痛いだけだよなァ?

      テメェも早く、楽になりてェよな?

      ああ、返事が聞こえねェから、まだ良いか。


(メアリアン、シャルルの脇腹を撃ち抜く)


シャルル:いぎィいいィい!!?


メアリアン:……おい、トリシュ。


トリシュ:なに?


メアリアン:お前は出てけ。


トリシュ:あら、どうして?


(メアリアン、トリシュの頬を掠めるように撃つ)


メアリアン:3度目は無ェ。

      出てけ。


トリシュ:……はいはい、分かったわよ。

     それじゃマリアン、私は外の可哀想な飼い犬さん達を見てくるわね。


マリアン:ああ。


シャルル:……ぐゥううう……!

     何故、なんでお前が、私をこんな目に……ッ、


(メアリアン、シャルルに銃口を咥えさせる)


シャルル:あがッ!?


メアリアン:……なァ、おい。

      テメェは自分がヤッた事のひとつひとつなんざ、

      毎日クソするのと大差無ェ、取るに足らねェモンだと思ってるンだろうがよ。

      こちとらテメェのその、クソみてェな趣味だかナニだかの所為で、

      生きるのも死ぬのも嫌になるくれェの、生きてるのか死んでるのかも分からなくなるような場所で、

      神やら運命やらを一生恨みながら、生きていかなきゃならなくなってンだよ。

      テメェがマヌケ面ぶら下げて、パンを齧って、スープを啜ってる間に、

      私はクソを齧って、ゲロを啜って這いずり回る日々を過ごす羽目になってンだ。

      ……まァ、けど。

      今日ばかりは恨みっぱなしだったそいつらにも、感謝しようかと思えたぜ。

      ずゥっと、ずっとずっとずゥうっと探して、探し倦ねて憎み焦がれてきたテメェを、

      巡り巡って私の手で、私自身のこの手で、

      思う存分、ヤりたい放題ヤッた上で、きっちり殺せるんだからよ。


シャルル:……ッ!!

     お、お前……まさか……!?


メアリアン:安心しな。

      死んで地獄に落ちたとしても、閻魔サマのケツにキスのひとつでもすりゃ、

      もしかしたらテメェの息子にも、逢わせてもらえるかもしれねェからよ。

      もっとも、タマ無しのテメェの血が入ってるかどうかは、怪しいトコだけどな。


シャルル:……な、おま、お前は……自分の、子供まで……殺したと言うのか……!?

     死神、なんて、生易しいものじゃない……!!

     ……お前、お前は……

     お前、はぁ……!!


(メアリアン、銃口を咥えさせたまま撃ち抜く)


シャルル:…………あ、

     ……ア…………ク、マ……

     (息絶える)


メアリアン:I have seen all, 

      I have heard all, 

      I have forgotten all.

      私はもう、母親になる筈だった私は棄てた。

      誰かに手を伸ばしても、蹴り飛ばされて、踏み潰されるのがオチだ。

      ロクなモンじゃねェよ、テメェが私を墜とした、この世界は。

      此処に棲んでる今の私は、……ただの殺し屋でしかねェ。

      血を血で拭う事しか知らない、ただのメアリアンだ。

      メアリアン、なんだよ、今の私は。


マリアン:………………


メアリアン:……なンだよ、その顔は。


マリアン:気が済んだかよ、メアリアン。


メアリアン:……そう見えるンなら、テメェの眼は節穴だ。


マリアン:そうか。

     じゃァ、過去の亡霊に取り憑かれたアホ女が泣いてるように見えるのも、

     くだらねェモン見過ぎて、俺の眼が腐り始めてるからだな。

     参ったな、腕利きの医者を見繕わなきゃ、失明しちまうかもしれねェ。

     まだ俺は、こんなに眩しい世界とおさらばすンのは、御免被るぜ。


メアリアン:何が眩しい世界だ、どこぞの教祖みてェな寝言ほざきやがって。

      心にも無いことウダウダ抜かしてると、テメェの喉もブチ抜くぞ。


マリアン:はいはい。


トリシュ:あら、お食事はもう終わったの?


マリアン:あァ。

     結局このバカ、有無を言わせずヤッちまったよ。

     どのみちそうする予定だったから、それ自体は別に良いんだが、

     しかしまァ、いつにも増して、派手に散らかしてくれたな。

     ジャック・ザ・リッパーも裸足で逃げ出すブラッド・バスだ、こりゃァ後始末が面倒臭ェぞ。

     取り敢えず、オズに依頼飛ばしとくか。


トリシュ:大丈夫よ、私がやっておくから。


マリアン:あ?

     どういう風の吹き回しだよ。


トリシュ:私、しばらくこのカジノを根城にしようと思ってたのよね。

     あちこち転々とするのも、飽きてきてた所だし。


マリアン:根城って、此処の所有権は、書類上はまだシャルルにある筈だろ。


トリシュ:無いわよ。


マリアン:は?


トリシュ:一昨日の時点で、売り上げ全部巻き上げて、書類も書き換えたから、

     名実共に所有者は、もう私になってるの。

     だから、そもそもアウェイの地雷原に自分から飛び込んで来てたのは、

     私達じゃなく、彼の方だったってわけ。


メアリアン:……だったら最初ッから、今回の件はテメェ一人で済んだ話じゃねェのかよ。


トリシュ:そうかも知れないけど、そうしたらきっと、貴女の目的は果たせなかったでしょ。

     偶然とはいえ、お互いにとって、最良の結果になったんじゃない?

     私は自分の手を汚さずに、元所有者を追放出来て、

     貴女は、過去の因縁のひとつを清算出来た。

     綺麗にハッピーエンドに収まったじゃない。

     ねえ、メアリアン。

     いいえ、Ms.トーニア?


(メアリアン、トリシュの額に銃口を当てる)


メアリアン:トリシュ、テメェ、踏み入っちゃいけねェラインを弁えろよ。

      次そう呼んだら、そのニヤケ面を横に引き裂いて、溶鉱炉に投げ込んでやるからな。

      許すのは今回限りだ、守銭奴のクソビッチ。


トリシュ:ふふ、怖い怖い。

     あ、そうそう、マリアン?


マリアン:あん?


トリシュ:私の勝ち分の、2人合わせて60万ドル、宜しくね。


マリアン:結局払う事になんのかよ。

     そんな大金、持ってるワケねェだろ。


トリシュ:あら、嘘ばっかり。

     別に払わなくても良いけど、その場合は60万ドル分、私の下でタダ働きしてもらうわよ。

     果たして、どっちがマシかしらね?


マリアン:……分かったよ、ッたく。

     例の口座で良いな?


トリシュ:ええ、お願いね。

     また何かあったら連絡するわね。

     此処の片付けが済んだら、またカジノとしての運営も視野に入れてるから。

     たまには遊びに来てくれても良いわよ。

     それじゃ、御機嫌よう。

     Good night.


マリアン:ケツの毛まで毟られる事が決まりきってるクモの巣に、好んで掛かるバカが居るかよ。

     何言ってんだアイツは。

     ……さて、と。

     んじゃ、俺らも帰るか、メアリアン。


メアリアン:……マリアン。


マリアン:なんだよ。


メアリアン:「トーニア=スリッド」だ、覚えとけ。

      ンで、覚えとくだけだ、絶対にその名前で私を呼ぶな。

      もし呼んだら、テメェは1回目で殺す。


マリアン:……そうかい。

     まァ、呼ぶ事も無ェ名前とはいえ、嫌でも一生付き纏うモンだからな。

     棄てたつもりでも、簡単に消える訳じゃねェのが厄介なモンだ。

     ひとまずは、こっちで預かっといてやるよ。

     もし要らなくなったら、最初に俺に言え。

     そいつの戸籍を探し出した上で、完全に消してやる。


メアリアン:ああ、そンときゃ頼むぜ。


マリアン:全く、今日一日でとんでもねェ大赤字だ。

     しばらく寝る暇も無ェぞ。

     睡眠不足は、良い仕事の最大の敵だってのに。


メアリアン:良いじゃねェかよ、私はむしろ大歓迎だぜ。

      I am terrified of being bored.

      今日一日の事なんざ、一刻も早く、忘れたくて仕方がねェ。


マリアン:……フン。

     やっぱりテメェは、つくづくイカれてんな。

     誰に似たんだか。


メアリアン:お互い様だろ、同じ名前のクセして何抜かしてんだ。


マリアン:I'll be right here, Marian.


メアリアン:I'll be there with you, Marian.


マリアン:オーライ。

     そうでなくちゃな。


メアリアン:あァ、全く。

      どうせ、こんなモンだよ、私達は。


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