Merry rebirthdaY

(関連作品)

1・MarianS

2・Midnight;pooL

3・Merry rebirthdaY

4Missing/hanD

5・Mixing・desperadO


(登場人物)

・青年(メアリアン):♀

元傭兵。

マリアンに拾われ、組織のアジトへ案内される。


・マリアン:♂

情報屋の男性。


・オズ:♂

掃除屋、兼殺し屋の男性。

口が大きく裂けており、普段はマスクで隠している。


・ハーツ:♀

解体屋で多重人格の少女。

人格それぞれに名前があり、ハーツは総称。

※本作品において、ハーツとその人格は全て兼任です。


・(アン)

ハーツの人格の一つ。

色欲が異常に強く、マリアンとも肉体関係がある。


・(ドゥーエ)

ハーツの人格の一つ。

根暗な性格だが、捻じ曲がった性癖も持つ。


・(ドライ)

ハーツの人格の一つ。

口よりも手が先に出るタイプで、非常に口が悪い。


・(ゼロ)

ハーツの主人格。

物静かな性格で、滅多に出てこない。


・ジェーン=D(ドゥ):♀

上4人を統括する組織、DHMO(ドゥモウ)のボス格。

※性別変更可(変更する際は作中の名前を「ジョン=D」とすること)。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(役表)

青年:

マリアン:

オズ:

ハーツ:

ジェーン(ジョン):

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


青年:……ねぇ、マリアン。


マリアン:あん?


青年:アンタ、さっき何て言った?


マリアン:さっきってェのは、いつ頃の話だ?

     テメェが溝川に片足突っ込んで、地下歌劇場のバレリーナよろしく間抜けなトンベしてた時か?

     それとも、朝食ったチリドッグがゲロになりかけて、

     ファックされてるみてェに四つん這いキメてた時か?


青年:……さァ、どうだったかな、説明すンのもアホ臭ェ。

   どっかの胡散臭ェデクノボウが、「1時間もあれば着く」なんて大ぼらカマしてなきゃ、

   そもそもこんな糞と泥水を練り固めたような肥溜になんて、付いて来やしなかったってのに。


マリアン:仕方ねェだろ?

     お嬢様気取りのゲリラ崩れが、痩せっこけた野良犬でもハイキング出来るようなコースで、

     アンデスでも登ってるみてェに喘々うるせェからだろうが。

     最近のウォー・ドッグってのはなんだ、トイプードルよりインドア派になってんのか?


青年:余計なお世話だ、ボケナス。


マリアン:お陰でタイムリミットはとっくに大幅オーバーだ、この愚図め。

     目の前のマイ・スウィート・ホームの玄関がヘルゲートに見えらァ。


青年:そんな事、私の知ったことじゃないね。

   行先も目的も教えずに、こんなトコまでクソ暑い中無理矢理連れて来て、おまけに逆ギレ?

   AKでも持って来るべきだったぜ、NATO弾でお通じの良いケツ穴こさえてやるってのに。


マリアン:そいつァ結構なお気遣いだがな。

     此処がどんなトコなのか一目見りゃ、すぐにそんな減らず口も叩けなくなるだろうさ。


青年:ふゥん?

   それはそれは楽しみだね。

   夢の世界からスペシャルゲストで、フレディ・クルーガーでも飛び出してくるっての?

   それとも、綺麗な夜景を眺めながら、ハンニバル・レクターとの会食とか?


マリアン:その程度で済みゃァ、信心深い甲斐もあるってモンだろうな。

     だが、……まァ、いいか。

     Seeing is believing.

     そっちの方が手っ取り早くていい。


青年:何でも良いから、入るならさっさと入れよ。

   辛気臭ェスニッチのトンチキ野郎と二人仲良くローストチキンになるなんざ、

   100万ドル寄越されたって御免だ。


マリアン:ああ、全く以て同意見だよ。

     一通りくっちゃべってその下卑た口が満足したなら、

     俺が良いって言うまで、エポキシでも塗り付けてバカみてえに押し黙ってろ。

     今日この場所が愉快なパーティー会場になるかブラッド・バスになるかは、

     テメェ次第だってことを肝に銘じとけ。


青年:ハイハイ。


(間)


マリアン:あー、Hello, hello.

     マリアンだ、例のガキを連れて来た。


オズ:………………


マリアン:ああ、オズ。

     こいつがこないだ話してた……


オズ:The knowledge is a gun.


マリアン:The greed is a bullet.


オズ:……良シ。


マリアン:相変わらず真面目だなァ、オズ。

     俺らの場合だったら、顔で分かるだろうによ。


オズ:決まりは決まりダ。


マリアン:まァ、それもそうだがよ。


青年:……おいマリアン、何だ今の。


マリアン:合言葉みてェなモンだ。

     知らねェか、「Open, sesame.」ってやつだよ。

     イカレポンチの死にたがりか、死臭撒き散らしてる死に損ないか、

     生まれ付き頭のネジが足りてないヤツくらいしか、此処には来ねェがな。


青年:そンならなんで。


マリアン:知りたいか?

     知りたいなら、今度は一人で、何にも言わずに此処のドアを開けな。

     そうすりゃ、半時とかからずにチキンライスにしてもらえるだろうぜ。


青年:……要は、見境無しのクズの巣って事か、此処は。


マリアン:あァ、テメェと一緒でな。

     ホームに帰ってきたような懐かしさがあるだろ?


オズ:……子供、女。

   誘拐か、それとも客取りカ?


マリアン:そうじゃねェよオズ。

     前に話したろ、此処に新しく加入させたい奴がいるって。

     それに、よく見ろよ。

     こいつのこの乾草みてェな体で、客が取れると思うか?


オズ:……無理だナ。

   ああ、けど……ログ=ウェイとかなら、或いハ。


マリアン:ああ、あのアガルマトフィリア拗らせたド変態か?

     あいつァ駄目だ。

     ウィードのやり過ぎで、ドールと生身との区別がついてねェ。

     何度かあいつに売った事もあるが、

     この間、急に千切れかけのブツ引き摺って来たから何かと思ったら、

     「壊れて直そうとしても繋がらないから返品したい」とかぬかしやがった。

     流石に呆れたぜ、そろそろブラックリスト入りを考えてたトコだ。

     ……それより、ジェーンはどうした?


オズ:寝てるヨ。


マリアン:いつから?


オズ:昨日の朝かラ。


マリアン:ハァ……やっぱりか。

     起こしてきてくれ、これじゃ話が進まねェ。

     それに、ハーツに見付かったら、もっと面倒臭い事になりかねねェ。

     ちゃっちゃと終わらせて休みたい。


オズ:分かった、待ってロ。


青年:おい、ちょっとタンマ。


マリアン:なんだよ、小便か?

     パウダールームなんて贅沢なモンは此処には無ェぞ。

     出してすぐ飲み干すってンなら、今此処でシても良いけどよ。


青年:アンタじゃねェよ。

   その貧相な金玉カチ割るぞ、マザーファッカー。

   そっちの色男、アンタだ。


オズ:俺カ?


青年:こんなクソ暑いのに、何でそんなバカみたいにデケェ白マスクしてんだよ?

   見てるこっちが暑苦しい。

   流行先取りしたいビッチ共よろしく、ファッションのつもりで付けてるのか知らないけどさ、

   そうだとしてもクソだっせェから、取ったら?


オズ:………………


マリアン:だ、そうだぜ、オズ。

     良い機会だ、見せてやれよ。

     こいつはまだコッチの世界のお約束ってモンを、頭でしか理解してねェ。

     体で覚えさせてみても良いが、イカ臭ェチーズ・ガールになるのがオチだ。

     それじゃァ、此処に連れて来た意味が無い。


オズ:……その時は、一つ目のトンネルは俺が空けル。


マリアン:だとよ、おい。

     ヘソ曲げさせちまったな、知らねェぞ。

     オズはキレたら、シャルロット・コルデーだってケツ差し出しながらベソ垂れて謝るだろうからな。

     今のうちに股開いて、一緒にペンでも渡しとくか?


青年:ハ、そいつはいいお笑い話だ。

   黙って聞いてりゃァ、好き放題に言いたい放題しやがってよ。

   私はただ、純粋に気になったから訊いてみただけだろ?

   それが……

   ッ!?


オズ:……Speech is silver, silence is golden.

   好奇心は、言うなれば宝探しダ。

   己が求めるが儘に追い求めた先に到達するのは、必ずしも宝の山とは限らン。

   死に損ないの野良犬風情なりにでも長生きしたいんなラ、口の利き方には気を付けロ。

   此処では特に、ナ。

   うちのボスに同じような態度取ったら、今日の晩飯がまた生臭ェミネストローネになル。

   それが嫌なら、スケアクロウよろしく、暫く其処に黙って突っ立ってロ。


青年:………………


オズ:ジェーンを呼んでくる。

   マリアン、しっかり見張っておけヨ。


マリアン:はいよ。


青年:………………


マリアン:おい、今世紀最大のアホ面ぶら下げて何惚けてる。

     まさかもう漏らした後か。


青年:うるせェ。

   ……それよか、オズとかいったか。

   何なんだよアイツ、何したらああなる。

   口裂け女とランデブーする予定でもあンのか。


マリアン:知らねェ。

     フッカーの発情期よりどうでも良いこったな。


青年:……はァ?

   アンタのお仲間じゃねェのかよ?


マリアン:だからどうした。


青年:なに?


マリアン:何が悲しくて、たかが仕事仲間同士で、ケツの穴の奥まで覗き合わなきゃいけねェんだよ。

     オズの過去に何があろうが、それは俺にも仕事にも、クソほども関係無ェだろ。

     逆も然り、互いの墓穴を覗くべからず。

     それが此処での、唯一にして絶対のルールだ。


青年:墓穴だ?


マリアン:そうだ、墓穴だ。

     自分で掘った墓穴に、ゲロをぶち撒けようが、クソをひり出そうが、

     ゴミを捨てようが便器を埋めようが、最後にそこに入る、テメェの勝手だろ。

     蹴落とされて骨と一緒に埋められたいってンなら、

     覗きなり何なり、好きにすりゃァ良いが。

     最初に言ったろ。

     「知識は銃、欲は弾丸」。

     要するに、「知りたきゃ死ね」だ。


青年:よくそんなンでツレ商売やってんな。

   此処にアベックでも連れ込んだら、一晩明けたら全員と穴兄弟になってんじゃねェのか。


マリアン:違いねェ。

     ま、その場合、穴の意味は変わってくるがな。

     ウチは完全な紹介制だ。

     お前もそこン所履き違えてると、


ハーツ:(アン)

    ああぁ、マリアン!!!

    帰ってきたの!?


青年:……今度はなンだ。


マリアン:あー……起きてたのか。

     久し振りだな、ハーツ。

     今はどれだ、「アン」か?


ハーツ:そう、アン!

    ああ、本当に久し振りだわ!

    暫く留守にするなんて急に言い出した時は、私、気が狂ってしまうかと思ったもの!

    つくづく貴方は素敵で意地悪で、最高に愛しい人だわ、マリアン!

    いつまで経っても、ハーツなんて無粋な呼び方を直してくれないのも、

    焦らされてるみたいで堪らない!!


マリアン:……あァ、悪かったよ、アン。

     ちっとばかし、急な仕事が数件まとめて入っちまってな。

     此処を出入りするより、外の拠点を転々としてた方が効率が良かったんだ。

     寂しい思いをさせちまったかな?


ハーツ:ううん、良いの。

    貴方は界隈じゃ有名人だし、人気者だものね。

    私だけが貴方を独占していたら、怖い人達にマワされかねないわ。

    だから、貴方がその気になってくれるまで、良い子で待ってるの。

    偉いでしょ?


マリアン:あー……あァ。

     そうだな、お前は良い子だよ、アン。

     お前の存在がなんたら平和賞に未だに選ばれてないのは、世界屈指の大問題だぜ。


ハーツ:そう、そう思うでしょ?

    だから、今回も良い子で待っていたご褒美に、

    いつもの、頂戴?


マリアン:いや、それは……

     それはまた、今度にしてくれねェか、アン。

     それを今からヤリ始めちまうと、俺の向こう3日分のスケジュールが、

     「On the bed」で埋まっちまう。


ハーツ:大丈夫よ、今度はちゃんと私も手加減するから。


マリアン:毎回その台詞を聴いてるが、守られた覚えが無いんだよな。

     今度契約書を準備するから、キスマークでも良いからサインしといてくれねェか。


ハーツ:ねぇ、早くぅ。


青年:おい。


ハーツ:え?


マリアン:あ。


青年:別に私の前でテメェらが何をしようが、ナニをおっ始めようが心底どうでも良いがよ。

   ヤるならどっかのイカ臭ェ激安モーテルでも予約して、

   そこら辺のホームレス共数人引き連れて、愉快なパーティーでもしてこいよ。

   後でRPGブチ込んで、ささやかな祝砲あげてやるからよ。


マリアン:おいバカ、よせ。


青年:なんだよアリコン野郎。

   水臭ェじゃんかよ、そんなド変態な性癖隠してたなんてさ。

   まともぶったフリしてるヤツが一番イカれてるなんてのは、スラムの糞ガキでも知ってる事だけど、

   ここまでとは、流石の私も恐れ入ったぜ、マリアン。

   他人のネタ売って泡銭儲けてる情報屋が、ペドフィリアの趣味抱えてるなんざ、

   大統領暗殺も差し置いて、一面トップ飾れるだろうよ。


マリアン:おい、その辺で黙らねェと、


(ハーツ、青年の首を掴んで押し倒す)


青年:ぐっ!?


マリアン:はァ……言わんこっちゃねェ。

     ……あー、アン?

     そいつァまだ此処のルールをよく分かってねェんだ、

     だからその、


ハーツ:(ドライ)

    おい、誰がアンだ。

    俺とあの痴女を呼び間違えんなって何度言や覚える、クソボケ。


マリアン:……「ドライ」か。

     仕様が無ェだろ、こっちからすりゃ喋らなきゃ分からねェ上に、

     家賃1ドルのアパートのブレーカー並に、ポンポン切り替わるんだからよ。

     俺だって、好きでお前や「フィーラ」と同じ躰を抱いてるワケじゃ無ェよ。


ハーツ:相変わらずそのゲロ臭ェ口は、言い訳する時だけはよく回るな。

    今度そのご立派な舌半分くらい切り取って、ソーセージにして食わしてやるよ。

    そしたら丁度イイ塩梅になんだろ。

    ……ンで、だ。

    おい、クソアマ。


青年:……ッ!


ハーツ:よくもまあ人様のウチに土足で上がり込んで、

    マヌケ面晒してずけずけとバカみてェになんか喋ってたがよ、

    こんな売り物にもなんねェ、

    ゴキブリでも喰わねェような貧相なカラダ引っ提げて、何ピーピー吠えてんだ。

    ドル札どころか、そこらの雌豚がケツ拭いた後の紙の方が価値が付きそうなもんだぜ。

    ……オマケに、


青年:……ってめ、何処触って……!!


ハーツ:……ハ、案の定だ。

    挙句の果てには、特大のクソまで済ました中古品ときた。

    大方、金持ち共のクソ道楽に付き合わされたんだろうが、

    こちとら慈善事業でもボランティアでもねェのに、

    タダ以下の値段しか付かねェゴミを抱える趣味は無いんだよ。

    とっとと帰って、虫が集ったガキに小便でも飲ましてな。


青年:……ッ!

   こん、のッ!!


(青年、ハーツを蹴り剥がす)


ハーツ:っと。


青年:……ハァ……ハァ……!!


ハーツ:……クソ生意気な眼だな。

    俺が一番嫌いなタイプのヤツの眼だ。

    マリアン、なんでこんなの連れて来たんだよ。


マリアン:それを説明する暇も無く殺しにかかったのは何処のどいつだ、全くよ。

     お前らの色気の微塵も無ェキャットファイトなんて、誰も見たかねェよ。


ハーツ:フン。

    止めにも入らなかった粗チン野郎がよく言うぜ。


青年:……おいマリアン、そこ退け。


マリアン:あ?


青年:そいつ殺す。

   脳天に綺麗に一発穴開けて、手足切り落として下の口から食わしてやる。

   その後全身細かく切り刻んで、袋に詰めて養豚場に投げ込んでやる。

   そんくらいやっても全然飽き足らねェ。


ハーツ:出来もしねェ事をベラベラよく喋るな。

    ド素人のエテ公が、バラシだの下拵えだのを語るんじゃねェよ。

    何なら、それのやり方を、お前の躰を使って教えてやろうか。

    解体屋の俺らに任せとけば、一時間もすりゃお前をハンバーグにして、

    小洒落たソースも添えてテーブルに並べられるぜ。

    あァそうだ。

    ついでにガキもソテーにして、一緒に並べて旗でも刺して、

    文字通りのキッズプレートに仕立ててやるよ。

    シェフの小粋な気紛れディナーセットってな。

    Shall I give many, many, and many hurts for you, huh?


青年:テメェ!!


マリアン:おいお前ら、その辺で止めとけって、


(怒声を打ち消すように銃声が鳴り響く)


青年:っ!


マリアン:おっと。


ハーツ:あん?


ジェーン:喧しいね、自制の効かない仔犬共がピーチクパーチクと。

     おちおちゆっくり着替えも出来やしない。


オズ:大人しく待ってろと言っただろうガ。

   あとマリアン、止めるならもっと真面目に止めロ。

   止める気が無いなら、最初から中途半端に口を出すナ。


マリアン:バレてたか。


ハーツ:(アン)

    あっ、おはよう、ジェーン!

    珍しいじゃない、貴女がこんな時間に起きてくるだなんて!

    明日は雪でも降るのかしら?


オズ:ハーツ、面倒臭いから暫く「ドゥーエ」と変わレ。

   アンやドライが出てたら、まともに話も出来ン。


ハーツ:どうしてよ!

    あんまりだわ、折角マリアンと愛を育めるかと思ったのにそんなの!


ジェーン:ハーツ。


ハーツ:……っ、分かったわ。

    ドライ、私達は大人しくしておきましょう。

    私、痛いのは好きだけど、怖いのは嫌いだわ。

 

ハーツ:(ドライ)

    ハイハイ、勝手にやってろ。


ハーツ:………………


オズ:ドゥーエだナ?


ハーツ:(ドゥーエ)

    ……うん。

    ……ごめんなさい、騒がしくして……


マリアン:……やれやれ。


オズ:何が「やれやれ」ダ。


マリアン:コイツらがこんな簡単に本気でヤり合おうとする程、

     空気も微塵も読めねェようなポンコツ共だとまでは思ってなかったんだよ。

     最近は、ドライも大人しくしてたからな。


ジェーン:そういう問題じゃない。

     確かにハーツの腕は買ってるが、

     マリアンが責任を持って世話をすると言うから、此処に置いてやってるんだ。

     あんまり好き放題させるな、安眠妨害もいいところだ。


マリアン:はいはい、悪かったよ。


ジェーン:……で、えーっと。

     突然ウチの者が失礼をしたな。

     私はジェーン、ジェーン=Dと名乗ってる。

     一応、こいつらの統括を担っている者だ。

     お前の名前は?


青年:………………


ジェーン:だんまりか。

     じゃあ、質問を変えよう。

     何でわざわざ、こんな所に来ようと思った?

     死に損ないにしては随分と生臭いし、生き損ないにしては大分に青臭いぞ、お前。


青年:……私の勝手だろ。


ジェーン:……礼儀がなってないな。


(ジェーン、銃を青年の喉元に突き付ける)


青年:……ッ……


ジェーン:目上の者と話す時は敬語を使え。

     それと、私と話す時は、きちんと私の眼を見て話せ。

     長生きしたいのなら、それくらいは嘘でも身に付けておくべきだぞ。

     減らず口を遺言にしたくはないだろう。

     私とてこんな事で、貴重な弾丸を消費したくはない。

     服も汚れるしな。


オズ:ジェーン、寝起きで機嫌が悪いのは分かるが落ち着ケ。

   礼儀なんてモンを知ってる器用なガキを、マリアンがわざわざ連れてくる訳無いだロ。


ジェーン:……それもそうだな。

     こんな昏い穴蔵に好んでやって来るのは、大概が揃いも揃って、

     クズか、ゴミか、役立たずかのどれかだ。

     教養なんて大層なモノを抱えてたら、此処に来るまでに骨まで干からびて、

     神とバカンスでも謳歌してることだろうな。

     すまない、起き抜けに犬っころ同士の小競り合いを見せられたから、気が立っていたようだ。


ハーツ:(ドゥーエ)

    ……じゃあ、どうして連れて来たの……


マリアン:そんな政治家みてェに大それた理由なんざ無ェよ。

     何となくだ。


オズ:何となク?


マリアン:あァ。

     何となく、こいつからは、俺らと同じ匂いを感じたのさ。

     碌な生まれをしてねェから、誰かを騙くらかしてなきゃ生きてられねェ、

     碌な育ちをしてねェから、誰かから奪う事しか出来ねェ、

     碌な目に遭ってねェから、誰かを殺したくて堪らねェ。

     そんな、クソを飲んでゲロを吐く生き方しか知らねェ、ろくでなしの匂いだ。

     しかも一丁前に、ゲリラ上がりの傭兵くずれときてる。

     公衆便所にさせとくよりゃ、血と金と暴力の中で溺れさせた方が、

     世の為人の為ってヤツだろ。


ジェーン:……ふむ……


ハーツ:(ドゥーエ)

    ……ボク達を此処に連れて来た時も、同じような事言ってなかった……?


マリアン:そうだったっけかな、忘れちまった。


オズ:で、さっきドライが中古品がどうのとか言ってたが、それについてはどうするつもりダ?

   ウチは託児所なんてやってねェゾ。


青年:……魚のエサにでもなってンだろ、今頃。


オズ:なに?


青年:……私は、ガキは嫌いだ。

   それが例え、自分のケツから出てきたモンだろうがな。

   そもそも、何人目に私をヤッた、何処のどいつかも分からねェ野郎に付けられたガキになんざ、

   愛着も湧きようがねェだろ。

   だから、その辺の海に棄てた。

   あんなガキ、顔も思い出したくねェ。

   二度と訊くな。


ハーツ:(ドライ)

    ハッ、こりゃあ恐れ入った。

    俺らと負けず劣らずのクソ野郎じゃねェか。

    じゃねぇや、クソアマか。

    誰彼構わず上からも下からも血反吐吐きながら股開いて、終いがそのザマか。


ジェーン:………………


マリアン:誰彼構わず死体バラしながらオナッてるヤツには言われたかねェだろうよ。


ハーツ:それをやってンのはドゥーエだよ、間違えんな。

     

ハーツ:(アン)

    ちょっと、ドライ!


オズ:ドライ、出てくるなと言っただろウ。


ハーツ:(ドライ)

    ああー、悪ィ悪ィ。

    あんまりにも下種で滑稽な最高のジョークが聞こえたもんでよォ、つい。


ハーツ:(ドゥーエ)

    ……秘密にしてって、言ったのに……


ハーツ:(アン)

    いい加減にしてよ!

    私まで叱られるじゃない!!


マリアン:お前らなあ……


ジェーン:ハーツ。


ハーツ:!!


ジェーン:後で私の部屋に来い。

     少しばかり、お仕置きが必要みたいだからな。


ハーツ:(アン)

    っでも、今のはドライが勝手に!


ジェーン:良いな?


ハーツ:(ゼロ)

    …………はい。


ハーツ:(ドライ)

    おいコラ「ゼロ」!

    テメェどっから湧いて出やがった!


ハーツ:(ドゥーエ)

    ……またアレかぁ……嫌だな……


ハーツ:(アン)

    ドライのせいよ、もうサイテーだわ!!


オズ:ハーツ、うるさイ。


マリアン:……ンで、どうするよ、ジェーン。

     俺はコイツが何となく気に入ったから連れて来たが、此処のボスはジェーンだ。

     お前から見て不合格なら、煮るなり焼くなり好きにして良いぜ。

     どのみち、こいつはもう、死んだも同然の状態だからな。


青年:………………


マリアン:何だよ、その顔は。


青年:そン時は、最低でもアンタだけは道連れにしてやるからな。


マリアン:おいおい、そんな熱烈なプロポーズされてもお断りだぜ。

     俺は生涯独身で、自由を謳歌したいんでな。


青年:ンな話してねェだろうがよ。

   ディッキーがありもしねェ見栄張ってねェで、

   首吊った神父サマの前で、ベレッタと誓いのキスでもしてろよ。

   ブロウジョブにお誂え向きな肉穴空けてやるからよ。


ジェーン:合格だ。


青年:は?


マリアン:お。


ハーツ:えっ?


オズ:……正気カ?


ジェーン:なんだ、不満か?


オズ:ウチは誰でも入れる仲良しクラブじゃねェんだゾ。


ジェーン:勿論。

     仲良しこよしの馴れ合いなんてそんなモノ、私だってお断りだよ。

     こいつだってそうだろう。

     だが、確かにマリアンの言う通り、こいつはなかなか面白そうな眼をしてる。

     言葉を借りるなら、何となく、そう思ったまでの事だよ。

     たまたま数日前、ウチで雇ってた二ヴィルの馬鹿が金をちょろまかしてたから、

     今週分の残飯と一緒に、下水に流しちまったばかりでね。

     殺し屋の枠が空いた所だし、そういう意味でもちょうど良い。

     オズもそろそろ、本業に専念したいだろう?


オズ:……まあ、それもそうだガ。


ジェーン:それじゃあ決まりだ。

     試用期間は設けるが、お前を我々、

     「DHMO(ドゥモウ)」の一員として迎え入れよう。


青年:ドゥモウ?


ジェーン:そうだ。

     読みは私が適当に考えたモノだけどな。

     「ジェーン=D」の「D」、

     「ハーツ」の「H」、

     「マリアン」の「M」、

     「オズ」の「O」。

     それぞれの名前から一文字取って名付けた、我々の組織名だよ。


マリアン:お前、DHMOって何だか知ってるか?


青年:……知らねェよ、何かの略称か?


オズ:ダイハイドロジェン・モノキサイド(dihydrogen monoxide)。

   更に分かりやすく言えば、一酸化二水素。


ハーツ:(ゼロ)

    要するに、水だよ。


青年:水?


ジェーン:そう。

     我々の存在は言わば、裏の世界を陰から蝕む水なんだよ。

     水の存在に、誰も不信感など抱かないように、

     水の危険性など、誰も疑わないように、

     我々は水の如く、裏の世界に浸透し、静かに苛む。

     そして誰も知らぬ間に、我々が全てを掌握し、生殺与奪すらもを操るのさ。

     人間は、水無くして、悪意無くしては生きられもしない、

     この世で最も下劣で、脆弱極まった生き物だからな。

     だからこそ、我々のような存在もまた、必然にして必定、という訳だ。


青年:……ご大層な言い分だな。

   詰まるところ要約したら、世界征服とかいう、安っぽい夢物語じゃねェか。


ジェーン:お前が理解する必要は無い。

     誰もが理解出来ない、しようともしないから、こうして我々は存在し続けている。

     その現実さえ知っていれば、お前もめでたく、奪う側の人間だ。


青年:………………


ジェーン:ただまあ、私達に対する態度は今後躾をしていくとして、

     問題があるとすれば、ひとつだけ。


マリアン:問題?


オズ:名前だナ。


ハーツ:(ゼロ)

    元々、この4人でDHMOだからね。


ジェーン:私の質問に答えなかったのは、答えたくなかったからじゃなく、答えられなかったんだろう?

     大方、名前を知らない、若しくは覚えていないとか、そもそも、与えられていないとか。

     この世界じゃ良くある事だ。


青年:……さァ、どうだか。


ハーツ:(アン)

    そんなの、わざわざ考えてあげる必要無いわよ。

    良いじゃない、適当にマリアンとセットにでもしておけば。


マリアン:はァ?


ハーツ:(ドライ)

    あァ、それ良いな。

    どっちも半端者で半人前、二人で漸く一人前、だろ?

    上手いこと言うじゃねェかよ、アン。


ハーツ:(アン)

    ち、違うの!

    マリアンが半人前だなんて、そんな事!


オズ:……マリアン、名前の綴りハ?


マリアン:あ?

     なンだよ急に。


オズ:良いから、言ってみロ。


マリアン:……「Marian」だよ、それがどうした。


ジェーン:メアリアン、とも読めるな?


オズ:そういう事ダ。


マリアン:おいおい、まさか。


ハーツ:(ドゥーエ)

    ……決まり……だね。


ジェーン:ああ、決まりだ。

     マリアンと、メアリアン。

     お前達は今日から、「DHMO」の「M」として、

     二人一組の「Marian」として動いて貰う。

     暫くは二人で、我々とは別の場所で行動しろ。

     またハーツとの諍いを起こされては、私の休眠の邪魔になるからな。

     心配するな、私だって悪魔じゃない。

     最初の内は、多少はこっちからも仕事を斡旋してやるさ。


青年:ペア、私とコイツが?

   拷問か何かかよ。


マリアン:冗談だろ、何に対する罰だ、一体?


ハーツ:(ドライ)

    二人合わせて、マリアンズ、ってか。

    シャム双生児の方がいくらか傑作だな。


オズ:別に、嫌ならそれでも構わんだロ。

   今すぐ殺して、スープの鍋にぶち込んで、その辺の家畜共の餌にするだけダ。

   どのみち、部外者は殺す決まりだからナ。


マリアン:……ハァー……

     分かったよ……ッたく。

     死ぬほど嫌だが、元はと言やァ俺が撒いた種だ。

     此処であっさり死なれても寝覚めが悪ィ。

     せいぜい馬車馬みてェに働いて、俺の役に立ってくれ。

     なァ、メアリアン?


青年:……こっちの台詞だ、マヌケ。

   テメェらの都合だの理念だの、理想なんざクソ喰らえだ。

   殺せと言われりゃ、勝手に好きなように殺る。

   せいぜいアホみてェに仕事作って、バカみてェに働いてろよ。

   私の邪魔にならない程度にな、マリアン。


ハーツ:(ドゥーエ)

    ……相性は、悪くないように見えるけどな……


オズ:どうだかナ。


ジェーン:じゃあ、そろそろここらでお開きとしようか。

     我々の儀を以て、メアリアンを歓迎するとしよう。

     『哀れな羊に銃声を』。


ハーツ:(ゼロ)

    『尊き神に鉄槌を』。


マリアン:……『汝、救いを求めたらば』、


オズ:『即ち銀十字を踏み躙るべし』。


青年:今度は何だ、マリアン。


マリアン:俺達の仕事前の儀礼みたいなもんだよ。

     辞めるつもりが無ェなら覚えとけ。


青年:……つくづく、狂ってンだな、此処のヤツらは。


マリアン:あァそうだよ。

     どいつもこいつも、筋金入りの気狂いの巣窟さ。

     こうして此処に居る、テメェだってそうだろう。

     これでめでたく、俺達は同じ穴の狢ってワケだ、メアリアン。


青年:……ああ、全く。

   今更だよ、そんな事は。


ジェーン:『さすれば我らが天よりの使者、汝の魂に血染めの掟を与えたもう』。

     Good luck to you, Marian.


青年:……I have bad luck, Jane.


マリアン:Oh, my gosh, fuck.

     I'm with you, Marian.


ジェーン:Ha-haha.

     Merry rebirthday, Marians.


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━