高知編・京都編ともに終了いたしました。ご参加いただきありがとうございました。
目次
(長いので興味がない方は「例題」へ直接行くことをおすすめします)
本大会では、「短文基本」と呼ばれる既存の枠組みを少し自分なりにアレンジして出題します。短文基本(今回は特に「基本」)とは、クイズ大会abcが作った「日常生活に根差した知識や、学校・職場で学べることをもとに正解できるような問題」という方針です。(abc 公式サイトより)
これを踏まえて、私が今回の大会で「行うこと」と「行わないこと」を以下に述べます。
行うこと
「基本(的難易度)」の語義を意識した問題を作ること(abc的観点)
基点としての基本 : 「基本」の難易度からもう一歩進んだ内容として理解できる問題を作ること(Dots的観点)
「基本」として、その概念を知らない人間が、答えについてある程度想像が可能な問題群を作ること。わかる人だけが想像できる問題文を極力作らない。(理解としての基本)
70文字以内で問題を作ること
行わないこと
「題材・文構造」の点でabcらしさを追求すること
「基本(的難易度)」の語義を意識した問題を作ること(abc的観点)
この見方をする理由には、abcが追求してきた姿勢があります。abcのコンセプトの1つ「基本」は、もともと難問が中心となっていたこともあり、初心者の入り込みづらい環境となっていた時代の中で生まれたといいます。私はこの「クイズの初心者のため」という基本の姿勢を継承していきたいと考えています。
また、「基本」であるかを重要視するため、いわゆる「クイズの世界で既に手垢がついている(≒既出)か」を重要視しません。ある事柄が「基本」に該当すれば出題し、いわゆる出題ヒントの非常に高いような「ベタ」なフリになることも十分にありえます。
「基本」の難易度からもう一歩進んだ内容として理解できる問題を作ること(Dots的観点)
この見方は、特にこの大会独特の観点のため、特に詳しく説明します。abcの「基本」という見方はクイズの初心者が入り込みやすい余地を作り上げました。しかし、その一方で「基本という概念で広いクイズの世界が語ることができる」と誤解させてしまうものでもありました。これはabcが「悪い」のではなく、abcが目指した「基本」というものの性質上仕方ないと思っています。あらゆる分野で、「基本的な事柄」というものは、その世界のエッセンスがあるからこそ、それだけで世界が語れてしまうように感じさせてしまいます。しかしあたり前のことですが、クイズの世界、そして知の世界というものはとても広いものです。そういった世界の広さを知ることもクイズの楽しみの1つだと思います。そして、「基本クイズ」もまた、その歴史を踏まえれば、そういったもののためのあくまで「基」となる部分、すなわち「(何か学びへの)基点」でしかありません。だからこそ、私は「基点としての性質」を重視した問題を作ります。
話が抽象的になってしまったので、具体的に話していきます。具体的に言えば、基本で出題できる事柄を「基点」としたやや難しい概念も出題する、ということになります。例えば、「アリストテレス」という情報を軸に以下のような問題を作ることがあります。
Q. 編纂した作者の息子の名前が冠された、徳の本質を様々な要素同士の「中庸」の性質だと説いた、哲学者:アリストテレスの主著は何でしょう?
A. 『ニコマコス倫理学』
この問題は、基本問題としてしばしば出題される「アリストテレス」を基点として、アリストテレスを語る際に関連して語ることになるであろう「その著書」の内容を理解しているかを問う問題です。このように、私は「基本が様々な世界の「基」であることを意識させる問題群」も本大会では作ります。
ただし、もちろんこの前の部分で述べた「abc的観点」も重要視し、比較的シンプルな問題文の問題も作ります。例えば以下のような問題です。
Q. まとまったままだったかつての諸学問を体系的に整理・分類した功績から「万学の祖」と称される、古代ギリシャの哲学者は誰でしょう?
A. アリストテレス
また、下記の例題には今回書けていませんが、「Dots的観点」に基づく情報が前フリに来る形で出題することは十分にありえます。
「基本」として、その概念を知らない人間が、答えについてある程度想像が可能な問題群を作ること。わかる人だけが想像できる問題文を極力作らない。(理解としての基本)
突然ですが以下のようなネットミームをご存知でしょうか?
まずはテフをオフチョベットします
そしてオフチョベットしたテフをマブガッドしてリットを作るの
そして発酵させたリットにアブシィトを加えて混ぜます
これは『相席食堂』というバラエティ番組で出た「インジェラ」という料理の作り方です。詳しい文脈は番組を見てほしいのですが、あまりに意味がわからなすぎて面白いと話題になりました。このくだりの面白いところは、「言っていることの全てがわからない」というところにあります。「テフ」とは?「オフチョベット」とは?と、矢継ぎ早に固有名詞が登場するところが面白いとされています。以下のように、固有名詞をちゃんと説明するとこの文章の面白さは半減します(それでも意味分かんないので多少は面白いのですが)。
穀物の一種:テフをオフチョベット、すなわち粉末にします。そして、粉末にしたテフをマブガッド、つまり水と混ぜることでインジェラの元である「リット」を作ります。そして、発酵させたリットにアブシィトという酵母を加えて混ぜます。
こうすると、「文章が伝えている状況はよりわかりやすく(読みづらいですが)」なります。どうしてこのくだりを引用したかと言うと、abcはこのインジェラのくだりと「逆」のことをやっていると感じたからです。つまり、abcは「固有名詞」をしっかり噛み砕いて、十分な知識がない人でも、その問題文で理解がある程度完結するように努めているように感じられます。私の大会でもこれを意識していきたいと思います。
※もちろん、早押しクイズにおいて、説明のための修飾節が過度に長いことは、問うているもののミスリードに繋がりますので、これについては気をつけながら作っていきます。
70文字以内で問題を作ること
本大会では「短文」の定義をabcよりも少しだけ緩めます。具体的には「60文字程度→70文字以内」に変えます。
abcでは、「60文字程度」という文字制限が設けられており、これがabcにおける「短文」の定義となっています。ただ正直、僕の力では60文字に情報を十分に抑えられません。加えて、世界は60文字で再現するには情報量が多すぎます。早押しクイズの問題文を無限に続けるわけには行かないのはもちろんですが、そういった世界の記述をするにはあまりに多くの情報を捨てることは正直あまりしたくありません。個人的には、情報を過度に捨てることはその情報そのものにリスペクトがないとも思っていますので、極力そういうことはしたくないという思いもあります。
行わないこと
「文構造・題材面」の点でabcらしさを強く追求すること
「「基本(的難易度)」の語義を意識した問題を作ること(abc的観点)」という観点を掲げた私ですが、これはabcの当初の目的を改めて見つめ直してるに過ぎず、abcという大会の全てを神格化しているわけではありません。この意味で、私は「abcらしい問題文」を目指しません。例えば、形式面では近年のabcでは「文頭確定を避ける」などの特徴が見られますが、私は絶対にこれを目指すわけではありません。また題材面で言えば、ある程度日常の中で触れうると考えた場合、abcで出ないかもしれないような題材が出題されることも十分にあります。
ここでは、「例題&模範解答」「別解欄に記入している内容」「出題意図」を、ある程度一般的と思われるジャンルごとに1問ずつ掲載しています。またほとんどは「基本」の部分を強調した問題群を主に載せています。なお、大会で使っているジャンル分けはこれとは若干異なります。
クイズの問題文というものは様々なジャンルの情報が入り混じりやすく、単純なジャンル分けが難しいとなることも多いのですが、ひとまず便宜的に「本質的に関わりそうな情報」を中心にジャンル分けを行っています。
※原則「これ以外✕」は「読み間違いを含めて、この言い回しでない限り即✕」としています
例題 ~自然科学~
Q. 図形を分析する「幾何学」の中でも、それぞれ5つずつある公準と公理を出発点に古来より研究されてきた幾何学を特に「何幾何学」と言うでしょう?
A. ユークリッド幾何学
○:Euclidean geometry ✕:非ユークリッド幾何学
例題 ~社会科学~
Q. 社会科学の中では、その精神性が近代科学や資本主義の成立に貢献したと評価されてきた、カトリックと並ぶキリスト教の宗派は何でしょう?
A. プロテスタント
おまけで◯:プロテスタンティズム
例題 ~文学~
Q. 鑑真を日本に招くまでの経緯を唐への留学僧たちの目線から描いた、1957年に刊行された井上靖の小説は何でしょう?
A.『 天平の甍』(てんぴょうのいらか)
これ以外✕
例題 ~言葉~
Q. 長年使い続けた結果、中の綿が潰れてしまい、薄くなってしまった布団のことをある食べ物に例えて「何布団」と言うでしょう?
A. せんべい布団
○:「せんべい」のみで◯
例題 ~日本史~
Q. 相手の進行を食い止めつつ、大砲の数が特に多い側面からの攻撃が可能となる、先の日本海海戦で採用されたことで特に知られる作戦は何でしょう?
A. 丁字戦法(ていじ・せんぽう)
◯:丁字作戦/T字戦法, T字作戦/ Crossing the T
例題 ~世界史~
Q. 哲学者:ソクラテスを風刺した『雲』や、女性の権力の低さを背景にした『女の議会』で知られる、古代ギリシャの劇作家は誰でしょう?
A. アリストファネス
◯:Aristophanes アリストパネス/アリストファニス
例題 ~地理~
Q. 1990年代には日本の民間企業によって大規模な修復が行われた、チリのイースター島にある人の顔を模した像は何でしょう?
A. モアイ像
Moai ✕:アフ, プカオ/ イースター島, ラパ・ヌイ, パスクア島
例題 スポーツ
Q. 体が大きくなりやすい高校生頃から多用される、剣道で、竹刀を大きく振りかぶった状態を維持する攻撃的な構えは何でしょう?
A. 上段の構え
○:火の構え/天の構え
出題意図:「高校生頃から多用される」ことは「中高で剣道部などに入っていた人」などにとっては自然に聞いたことがある情報であると判断し、出題しました。
例題 ~マンガ・アニメ・ゲーム~
Q. 本来は覚えない「なみのり」などの技を覚えた個体が配布されることもあった、アニメでも馴染み深い、ゲーム「ポケットモンスター」シリーズのポケモンは何でしょう?
A. ピカチュウ
出題意図:「本来は~」の部分は、ゲーム「ポケモン」を慣れ親しんでいる人がより優位に立つことができ、早押しとして成立しうると考え前フリとして出題。(他の企画で利用したのもあって文字数多いです、すみません)
例題 ~公民~ 「基本から一歩先」枠
Q. 編纂した作者の息子の名前が冠された、徳の本質を様々な要素同士の「中庸」の性質だと説いた、哲学者:アリストテレスの主著は何でしょう?
A. 『ニコマコス倫理学』
出題意図:Dots的観点として、「基本から一歩先」を意識して作りました。