柔粘性結晶とは結晶と液体の中間相の一つであり、構成要素が位置秩序を保ちながら配向秩序を失った状態を指します。ちなみに、液晶も結晶と液体の中間相ですが、構成要素の位置秩序と配向秩序の関係性が柔粘性結晶とは対を成す形(液晶:配向秩序を保ちながら、位置秩序は失っている)となっています。構成要素が有機イオン種(分子性のイオン)からなる柔粘性結晶は、特に有機イオン柔粘性結晶と呼ばれています。
有機イオン柔粘性結晶は、構成要素である有機イオンが「結晶のように規則的に配列」したまま「回転運動に代表される動的挙動」を示している状態とあらわすことができます(例えるなら、大勢の人が(構成要素)が整列しながらラジオ体操(動的挙動)をしている様子)。この「規則的な配列」と「動的挙動」をイオンの駆動力とすることにより、固体電解質としての機能を発現させることが可能です。また、一般に有機イオン柔粘性結晶は、難燃性や不揮発性、広い電位窓を持ち、伝導種となる金属塩を高濃度で溶解させることが可能といった特徴を持つことからも、固体電解質の新しい母材として期待されています。
私たちは、構成要素として用いる有機イオン種の電子的特長と立体的特長を整理しながら分子設計を行うことにより、-30 ℃ から270℃という非常に広範な温度域で柔粘性結晶として振舞う試料を得ることに成功しています。このように幅広い温度域で利用可能な有機イオン柔粘性結晶の開発例はきわめて稀です。この結果を基礎に、有機イオン種の構成要素が持つの立体的・電子的特長が物性に与える影響ついて精査し、より特性に優れる有機イオン柔粘性結晶の開発に取り組むとともに、二次電池・燃料電池用固体電解質としての展開を進めています。