鳥類の体色調節


◇体色パターンと羽色

鳥類の体色は羽の集合(羽装)として表現されます。羽装は個体成長や性に応じて変化する場合もありますが,その基本形は哺乳類の体色と同様に逆影です。獣脚類恐竜から分岐し,色彩に富む太陽光の下で進化を遂げた鳥類。そのほとんどは昼行性で,優れた4色型色覚能をもちます。環境からの情報収集や,同種異種間の識別・コミュニケーションも視覚情報が重要な役割を果たしており,その反映として,羽装も複雑で色彩に富みます。羽装の基礎となる羽の色模様は,色素による色と羽の微細構造がつくりだす構造色,およびこれらの組合せによって表現されます。

鳥類の羽の色素には,ユーメラニンとフェオメラニンに加え,ポルフィリン,プテリジン,psittacofulvin,spheniscin,及び食餌から摂取されるカロチノイド系色素があります。

◇羽の形成とメラニンによる着色

鳥類の羽もケラチノサイトの死細胞で構成されています。体表面を覆う羽は羽板と綿羽部とからなり,正羽とよばれます。羽板は羽軸と羽枝軸,小羽枝とからなる階層的な分岐構造をもちます。

このような羽は羽包とよばれるチューブ状構造の中で形成されます。羽包は真皮性組織の羽髄と羽の実質細胞となる表皮性組織とからなり,その基部には襟バルジとよばれる表皮性幹細胞や色素幹細胞が存在する領域があります。羽が形成されるときにはこれらの幹細胞が活性化し,襟とよばれる領域で盛んに増殖するTA細胞を供給します。増殖した細胞は順次,羽包先端方向に押し出され,枝形成域に到達すると羽軸隆起や羽枝隆起を構成する細胞へと分化します。羽形成の初期に色素幹細胞から供給されたメラノサイトは,羽枝隆起に沿って並び,細胞突起を長く伸ばしてメラノソームを1つ1つの細胞に移送します。このメラノソームの移送は,羽枝隆起の最外側の細胞に始まり,徐々に内側の細胞へと移行して最内側の羽枝軸細胞で終わります。この間に,メラノサイトは羽枝隆起と一緒に羽包上方に押し出され,やがてメラノソームの移送を終えると萎縮・消失します。

哺乳類の毛は,毛包の毛乳頭先端に位置するメラノサイト群が増殖したケラチノサイトに順次メラノソームを移送することで着色されますが,羽枝では,個々の細胞がその位置に応じて異なるメラノサイト群によって着色されます。まさに「点描」の彩色技法であり,これにより哺乳類の毛にはみられない精巧で複雑な二次元的色模様が作り出されるのです。



◇逆影と婚姻色パターンをつくるしくみ

ニワトリのヒナや成鳥メスが示す逆影の羽装色パターンも,成鳥オスの派手な婚姻色パターンも,Asip遺伝子の哺乳類の腹側特異的プロモーターに相当するクラス1プロモーターのはたらきでつくられることが,我々の研究で判明しました。クラス1プロモーターは,成長に伴って腹側特異的プロモーターから成鳥オス型羽装形成プロモーターに変化します。このプロモーターの活性は雌性ホルモンによる制御を受け,成鳥メスでは腹側特異的プロモーターとして機能し続けます。実際,成鳥オスにエストラジオール17β(E2)を投与すると,成鳥メスのような逆影の羽装色パターンに変化します。ニワトリは,Asip遺伝子の性ホルモン応答性を獲得することで,体色の雌雄差を獲得したと考えられます。


◇羽装多様化の分子機構

Mc1r遺伝子の変異による体色多様性は,ニワトリ,ウズラなどの家禽にみられ,マミジロミツドリ,ハクガン,トウゾクカモメをはじめとするさまざまな野鳥でも確認されています。一方,Asip遺伝子の変異による羽装多様性は,ウズラで報告されています。これらの事実は,Mc1r遺伝子とAsip遺伝子の変異が,哺乳類と同様に鳥類一般の体色バリエーション形成にも重要な役割を果たしていることを示唆します。


◇最後に

α-MSHは,ほとんどの脊椎動物では下垂体中葉から内分泌されます。しかし,鳥類には下垂体中葉が無く,α-MSHは羽包内で産生されることを我々は見出しました。体色はすべての生物の生存戦略の一つであり,現生生物は適応した体色を獲得した生物の末裔と考えられます。であるならば,羽色発現には,下垂体中葉による制御よりも羽包内の局所制御の方が適していたと考えることができます。鳥類と同様に発達した下垂体中葉をもたないヒトでは,体色は主に皮膚でつくられるα-MSHによって制御されています。ケラチノサイトによるα-MSHの産生・分泌は紫外線照射により高められ,α-MSHは傍分泌的にメラノサイトにはたらきかけてユーメラニン合成を促進します。紫外線があたった部位だけメラニン合成を促進するという効率的な制御は,下垂体中葉による制御では成し得ない事でしょう。α-MSHが羽包内で産生される意義の解明が待たれます。


◆ 鳥類の体色調節

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