まず、あなたにはスペースシューティングゲームをプレイしているシーンを想像してみてほしい。そこでは、自機が弾を発射する毎にピュンピュンと音が鳴り、エネミーに弾が当たるとドカーンと爆発音がする。 大きなボス敵が登場する際には、そのボスが発する機械的な音が聞こえ、自機が飛び去る際にはジェット音が聞こえているかもしれない。 しかし、大気のない宇宙シーンにおいて実際にそのような音が響いて聞こえてくるだろうか?Noである。 これらはすべて、ゲームでの戦闘シーンを盛り上げる演出による音なのである。
ここまでの記述は、ゲーム制作の経験のある方であれば「なんだ、そんな事知ってるよ」と思われるかも知れない。
しかし、ゲームやアニメコンテンツなどの音の演出は、とても奥深く創意工夫で様々にシーンを彩りうことが可能である。 本書では、筆者がこれまで実際のゲームサウンド制作の中で実践してきた音演出効果を中心に音楽や効果音それに声でゲームに彩を添える手法について記述する。
実際にゲームサウンドの作り手だけではなく、そのサウンドをゲームに組み込む演出家も活用できるよう配慮したつもりである。
ゲーム・アニメといったコンテンツに音を入れる際にただ適当に入っていればよいという浅い認識では非常に勿体ない。 音演出に注力することでコンテンツが彩られ俄然輝くことをこれを読んで理解してもらえれば幸いである。
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ゲームで使われる音楽や効果音は、ゲームの臨場感を高める機能の役割を担う。
まずは、ゲームサウンドにはどのようなものがあるでしょうか?分析してみる。
①BGM:必要な場面で、臨場感を出したり、シーンを盛り上げるために利用される音楽
②効果音(SE):プレーヤーや場面での出来事で起こったことを音で伝える
③テーマミュージック:オープニングやエンディングなどでゲームのイメージを印象付けるために使われる主題歌やインスト音楽
④主人公キャラクターやそれ以外のキャラクターが発するヴォイス
⑤シーンの切り替えやゲーム状況を伝えるのに利用されるジングル
①のBGMは、実際の場面で流れているように使われる使い方と実際の場面では流れておらずシーンの演出として差し込む使い方がある。
例えば、スキーのリフトに乗って移動している場合:リフトの支柱のスピーカーから実際に流れて聞こえてくるBGMは、実際の場面で流れているものにあたる。
もう一つ、実際にその場では聞こえておらず、シーンを盛り上げる演出としてはめ込む場合:いわば心の中に響いている音楽のようなもので、悲しいシーンでは短調のゆっくりしたBGMでより悲しい雰囲気に、楽しいシーンでは長調のアップテンポなBGMでよりウキウキ感が醸し出されるように流す使い方がある。 ホラーゲームでは、この心理的に恐怖心を煽るために効果的に利用されることが多い。
②の効果音も実際にシーンで発せられた音と実際のシーンでは鳴っていないイメージ音に大別される。
野球のゲームでピッチャーの投げた球がキャッチャーミットの収まる際に発せられる音やバットで打ち返した音は、そのシーンで実際に発せられた音と言えるが、シーン演出として実際に聞こえる音よりも過剰に鳴らしている。
真空では聞こえることのない音を敢えて迫力や臨場感を高めるために音を付ける手法が用いられる。スペースシューティングでの弾の発射音や敵の爆発音などがある。
また、実際のピストルの射撃音は、実際は乾いたパンパンと聞こえるが、迫力や臨場感高揚・発射された効果を認識させるために敢えてバキュ~ンという音をはめることがある。
ゲーム中で、弾が敵に命中したときに聞こえる音は、現実ではそんな音は聞こえるだろうか? エネミーに弾が命中した/外れたを音でプレーヤーに認識させる役を担っている。
ウサギやカエル・バッタが飛び跳ねる時に鳴ら動作演出音として「ぴょんぴょん」「びよーん」などはイメージ音とに分類される。
また、BGMを流さずにその場にいるときに聞こえてくる音響を入れる場合がある。森の中で周りの鳥のさえずりや虫の音、風で木の枝葉や草がそよいで発せられる音、川のせせらぎの音、雨音などをアンビエントとして流す手法がある。
カトゥーン的な表現でボールの上昇-下降時に笛の音色で音程をベンドアップ-ダウンさせて状況を説明演出することもある。
古典的な演出として幽霊の出現シーンでミュージックソーと笛と太鼓の音色でヒュードロドロと鳴る演出は誰しも耳にしたことがあるだろう。これも実際には聞こえることのない音での演出の例である。
単発で鳴る音に対して、連続して鳴り続ける効果音もある。例えば主人公の周りにバイクやヘリコプターが動いて画面に映っている場合は、バリバリというモーターや羽の動作音等が鳴り続けるが、これらはかなり耳障りな音なので、最初にヘリやバイクの動きを音で認識させた後、画面から消えるまでは音を絞って鳴らすような演出がされることがある。
演出的効果音のお手本としてみていたのが、TV番組『必殺仕置人』で演出されていた音である。 人を切る音、人を刺す音など実際のシーンで聞こえることはないのであるが、それらの音が入ることでより迫力や緊迫感が表現されている。
エンタメ作品ではロボットが動作する度に「ガシャ・ガシャーン」と派手な動作音が鳴るが、実際にはそんなノイズはなるたけ発しないように調整されるのでそのような音を耳にはしないはずである。
スポットライトが点灯するときにカシャとなるのは、明らかな演出音であり、点灯した感を音で表現したものである。 身近なところではスマホで写真を撮った際に発せられるカシャッ!は明らかな演出音である。昔の機械式カメラのシャッター音を発することで、撮影指示に反応したことを利用者に伝えたり盗撮防止の効果を狙ったものである。
近年電気自動車の走行音が静かすぎて歩行者が気づかないで危険なので、敢えてスピーカからエンジン走行音を発して周りの人に気づかせるというものがあった。
逆に工場や飛行機内など騒音があるところで使用されるヘッドホンでは、マイクで拾った音の逆相音をスピーカで鳴らして相殺させて騒音を低減させる機能をもった製品が話題になったりもした。
昔、音の制作現場でゴルフゲームでカップインした時の音を制作
ゴムが伸びる際の音では、シーンの雰囲気によって「ギュ~」や「びよーん」といった音の使い分けもなされる。ホッピングマシンで跳ね回っているシーンではどんな音だろう?ぴょんぴょんぴょんだろうか?びょーんびよーんだろか?カシャカシャカシャとイメージした人もいかも知れない。
こうした強調演出の制作法では、昔は音をシンセサイズしてこしらえていたが、近頃は実際に近い音を録音してその音を加工する方法が多く用いられる。
巨大な怪鳥の鳴きは、割と形状の近い実際の鳥の鳴き声の波形サンプルを加工して周波数を下げ、周りで鳴っている音との相対音量を調整して巨大生物から発せられる程度の大きさにし、さらにリバーブ処理をして大きな口から発せられて響くイメージを演出したりする。
筆者の経験では、巨大化したハブとマングース、鹿が巨大化してプレイヤーアバターと対峙して戦闘前に発する敵の声を作る際にこの手法を実践した。
早口でまくし立てる相手の語りを聞くシーンの演出として、昔からよく使われている手法が、録音テープの早回しで再生した音演出がある。これはコンテンツの聞き手が長い時間その語りを聞かされたのではイライラさせられるので、長い時間聞かされた事を認識させる手法である。 今ではキュルキュルと音が高くならない早送りもあるので、そうした演出でも伝えられるかもしれません。
実際の鳴る動作音や現象音を鳴らす場合も全てを再現すればよいというものではない。ここはバーチャルなコンテンツの世界である。
特に視聴者に聞かせる必要のない音はオミットして、伝えたい音はきっちりと出して演出するメリハリが肝心である。
多分周りの動作音全てを発すると音の洪水になってグチャッグチャに聞こえてしまう。
③のヴォイスで、観客の歓声は、実際にそのシーンで発せられる音といえるが、たいてい必要な時に鳴らして不必要な時には無音に制御するよう演出される。
端的な例としては、TVショッピング番組で「へぇ~」とか「わぉー」や拍手音などは明らかに音の演出処理がされている。
④ジングルの類
クイズが出題される前のショートメロディ、正解時・失敗時になる結果ジングル、表彰発表直前のドラムロール、ギャグの後のずっこけ演出時のジングル、ある画面から別の画面に切り替わる際の場面転換音にもジングルが使われたりする。ニュース番組で話題が変わる際にも流れることがある。
ゲーム中で、捜査を失敗して自分のアバターを失った際にもよく残念なイメージのジングルを流して演出する。
⑤ヴォイスの類
ひと昔ヴォイスに関しては、発せられているだけで満足という時代もあったが、ゲーム機の高機能化で話者との距離感や声が発せられている環境まで気を使う必要が出てきている。
近くにいる話者が発したセリフと遠くにいる話者が発したセリフの聞こえ方は実際に異なることを我々はわかっているが、普段それをあまり意識することはない。しかし、音の作り手としてはそこまで気を配る必要があると考える。単に音の大小だけの演出ではなく、聞き手と音源との距離で聞こえ方が異なる演出をするのである。例えば近くの話者のセリフは明瞭に聞こえるが、遠くにいる話者のセリフは周りに響いて聞こえて不明瞭になりアンビエントがかかるイメージだろうか?
また、聞き手から見て話者の位置についても音で演出する場合がある。これまでステレオ再生の場合は左右のスピーカから聞こえるPANで位置決めをしていたが、さらに左右の音の位相を操作することでよりリアリティが向上する。
例としては、ダミーヘッドの耳の位置に装着されたマイクに向かって声優に感情込めたセリフを発してもらいステレオ録音された音声をカナル型イヤホンで再生して視聴するとかなりの臨場感を得られる。
筆者が、ヒューゴ・ズッカレリのホロニクスCDを最初に視聴した時に走った衝撃は、未だに忘れられない。 そして、筆者もゲーム製品でのサウンドデザインに於いてダミーヘッドに取り付けたマイクで収録した音声演出したところ、ゲームプレイヤーから結構な反響があった。
先述のBGMについても、実際にそのシーンで鳴っている音で演出する場合は、アンビエントな音響効果で鳴らし、場面の雰囲気を盛り上げるBGMは、はっきりと聞こえるように鳴らす形で切り分けている。
例えば、ドアの閉まっている隣の部屋から音楽が漏れ聞こえてきている場面で突然ドアが開いたシーンでは、音の聞こえ方が変化する演出としてはどうする?
次にヴォイスが、当人の口から直接発せられたものが聞こえてきているのか、ほかの媒体を通して間接的に聞こえてきているのかの違いを演出する手法。
例えば、テレビやラジオから流れる音声-今どきは普通に目の前で発せられる音声と聞こえ方に大差はないのであるが、コンテンツの世界では大げさに昔のラジオから聞こえるような加工を施して聞こえ方の違いを強調している。
ケータイ電話から聞こえてくる音声というシチュエーションではどうだろうか?これもラジオ音声でかつ近くから聞こえている加工を強調するとそれっぽくなる。カラオケで歌っているシーンでは過剰にリバーブかけるなりして効果を強調して聞かせている。
歌といえば、主人公の前で唄い始めた相手の歌声に感銘を受けるシーンの音演出では、歌い始めはアカペラで聞かせ途中からフェードインで歌に伴奏が加わる演出で聞き手にもよりその感動が伝わるような手法を用いた。
コンテンツの中で表見されているビジュアルのイメージでも音の演出の仕方は大きく変わる。 2Dのカトゥーン的なビジュアルだと、音の演出もヴァーチャルな演出に大きく振ることになり、リアリティあるビジュアルだと音もリアルさに重きを置いた演出をすることになる。
ゲームシーンで発する音、発さない音の取捨選択もサウンドクリエーターのセンスが出るところである。 昔は、そもそもハードウェア音の発音数制限でミニマムで演出する方法を考えていたが、今は音の再生性能も上がって多くの音を同時に出せるので益々このセンスを問われる比重も上がっているように思える。
単純に主人公アバターから一定範囲内の音は鳴らして、範囲の外側の音はオミットするものから、鳴らすものとオミットするものをシーンごと都度都度調整するのか?
アニメのセリフ音声って実に現実とは異なるものである。登場するキャラクターは押しなべてみな活舌がよく、安定した音圧でよどみなく話す。現実ではそんな事はまず出くわさない。 けれど、アニメの音声を素人が吹き込むと聞いている側が何とも言えない気恥ずかしさのような残念な気持ちになるものである。
効果音のドップラー効果をどう演出するか?毎回同じシーンが再現されるのであれば、ドップラー効果が出ているサウンドを録音して再生すれば良いが、ゲームの進行によって様々な状況変化がある場合は、波形操作でドップラー効果を再現することも可能である。
昔ディグダグというゲームでは、プレイヤーアバターが穴を掘り進めるとBGMが進み、任意で止まるとBGMを止めるという演出をしていた。 先日、学生がDJがレコードを操作するように回転スピード操作、逆再生、スクラッチなどを駆使するゲームを提案してきたので、プレイヤー操作に応じてゲームで再生されるBGMが変化するよう考えてみてとアドバイスしたがどう仕上げてくるだろうか?
演出用のBGMは、サウンドクリエータが自分の作った曲をひけらかすために鳴らしているのではない。
映画『転校生』で、大林監督はBGMに既存のクラシック音楽を多用した例がある。実態は音に回す予算が無かったいうことだが、(「アンダンテ・カンタービレ」チャイコフスキー(演奏:ジョー・クァルテット)●「トロイメライ」シューマン●「天国と地獄 序曲」オッフェンバッハ●「タイスの瞑想曲」マスネー●「G線上のアリア」バッハ●「尾道さんさ」作詞・村田さち子、作曲・寺内タケシ)これが実に見事で印象的な効果を作品に与えており、どれも一度は聞いたことがあると思われるメロディーラインで、だからこそ余計に、これらの音楽は素晴しい映像とともに、観る者の心に深く刻み込まれることになるのだろうと評されている。このことからも、BGMにオリジナル曲を挿入する場合も、そのシーンに溶け込み、そのシーンで求められている音機能をBGMが全うするように細心の注意を払うべきである。 筆者も、商店街のアーケードで流れる音楽、スケート場で流れる音楽、遊園地で流れる音楽、体育祭競技流れる音楽をそれぞれいかにもその場で流れているだろうクラシックの著名曲にして、シーンの演出で流す音楽はエンディングテーマソングをアレンジしたBGMで統一して演出した製品があった。 発売当初はクラシックばかり使って手を抜いているなどの批評も出たが、演出の意図が分かってもらえると批判も収まっていった。
ここで使用したクラシックもただ鳴らすのではなく、その場で鳴り響いている雰囲気になる加工を施している。屋内アイススケートリンク内で流れている『スケーターズワルツ』は、施設の壁などに反響してウェットな響きにしているし、体育際の競技で流れている『クシコスポスト』は、ラッパスピーカーからラウドに発せられた音が割れ気味に聞こえる加工をしている。アーケード商店街では、使い込まれたチープなスピーカーから聞こえてくるように再生レンジを狭めて鳴らしている。
先に記述したシーン演出BGMをエンディングテーマをそれぞれのシーンに合わせたアレンジをして鳴らしているのにも狙いがあった。 ゲームを始めてプレイするプレイヤーは未だエンディングでどんな歌が流れるのかを知らない。 エンディングのシーンで初めてその歌を聴いてより感動が込み上げてくるようにゲーム内で何度もメロディーを聞かせて、プレイヤーの記憶に刷り込んでおいたわけである。
新譜発売に合わせて開催されたライブコンサートを盛り上げるために、事前に動画配信サイトでPVを配信するバンドのやっていることと同類の手法である。
音響マスタリングの際に是非確認調整しておくこともお勧めしたい。ひと昔前はテレビに装着されているスピーカーから流れることを想定して実際に鳴らして確認して必要があれば調整していた。 最近はモバイル機器にステレオイヤホンをつなげた環境で再生する場合も増えて、その環境で適切に聞こえているかをチェックする必要があると考える。
レコーディングスタジオで音楽をレコーディングする場合、備え付けのラージスピーカーと卓上のスモールスピーカーで聴き比べしながらバランスを調整していく。さらに細かい部分の音のチェックにはヘッドホンで聞き分けることもする。そして最後にラジカセのスピーカーで鳴らした音も確認して、リスナーが実際の生活環境での聴取に近い状況でもチェックを欠かさなかった。 (編集済み)
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『オトメディウスG』ゲーム内で再生されるBGMと原曲との比較。(※各タイトルクリックで新しいタブが開示され試聴できます)
【Arr.版】BATTLE SHIP『オトメディウスG』 【原曲】BATTLE SHIP (1st.Stage) 『スペースマンボウ』
【Arr.版】AQUARIUM『オトメディウスG』 【原曲】AQUARIUM (3st.Stage) 『スペースマンボウ』
【Arr.版】RED DIAMOND『オトメディウスG』 【原曲】RED DIAMOND(古代惑星)『グラディウス2』
ゲームBGMに限らずアレンジャーとして心に留めておきたいことは、『人の曲をアレンジする際は、原曲をリスペクトして決して自己顕示欲を出したり、独りよがりになる事無きよう』である。
編曲者たるもの謙虚であれ。リスナーが求めている形はどんなものか&原曲者に納得していただける形はどんなものかを熟考した上で制作・提供する必要がある。
例えば、RED DIAMONDでは、序盤『原曲のSCCサウンドイメージに出来る限り近づける(原作ファン:”にやにや”)』→中盤『ゲーム中のピラミッド遺跡の雰囲気にマッチするよう編曲(原作ファン:”オッ!?”』→終盤『オトメディウスの女の子だもんっ!感を出すべく曲追加(原作ファン:”おや?”』という構成でデザインしている。
ここでは、『単独聴取の音楽ではない、ゲーム画面に合わせた劇伴であることをしっかりと意識せよ』である。
あくまでも、場面をの雰囲気を醸し出して最大限盛り上げることがBGMの役割使命であることを強く意識し、単独での聴き映えで原曲と比較して評価しがちな一部の声の大きなリスナーに決して媚びることなく、しっかり目的意識を持って制作しなければならない。 そもそも原曲とはゲーム中で使用されるシーンが異なるため、そのBGMの役割用途も自ずと変わる。
実は、もう一曲ステージBGMをレコーディングしていたのであるが、諸般の事情でゲーム面自体の実装が出来なくなり、音源としてだけ残ったものがある。曲だけを聴いてどのようなステージだったかをイメージできるだろうか。(※左下項CDジャケット画像をクリックすると新しいタブが開示され試聴できます)
ここでは映像を伴う、いわゆる劇伴で音楽を再生させる場合についての記述となる。『単独聴取の音楽ではない、映像で同時になると想定される全ての音に気を配り、その状況で利用者が聴いて気持ちの良い音バランスをデザインするようにすべし』である。
『BGM』『Voice』『効果音』の”音量バランス””周波数配置バランス””音定位バランス”等に細心の注意を払い、実際に同時に再生させて何度も実際の耳で確認し納得できる結果が出ているかを検討する必要がある。
場合によっては其々の音要素を複数人で制作する場合もあるが、その場合でもレコーディングのTD-MASTERING作業と同等のバランス調整作業を怠ってはならない。またSTEREO/MONOどちらで再生してもバランス崩れない事。
1面~2面(STEREO)
2面~3面(MONO)
4面~5面
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ここでは複数の楽曲が連続再生される場合を考える。『自己主張するような音楽ばかりが連続で再生されると聞き手の耳が疲れてしまい、聞き手の脳は麻痺して飽きの感覚が出る→全体のバランスを考え曲同士でメリハリをつけよ』である。
下の例では、キャラクターが登場するようなトピックなイベントが発生していない『プレーヤーコマンド入力/実行』画面のBGMである。何度も長時間聴く曲なので、家具の音楽の様に”雰囲気”を醸し出しながらも”聴き疲れず”、”聴き飽きず”に受け止められ、イベント発生時に切り替わる音楽でインパクトある演出を行うべく備えるデザインを考慮する必要がある。
ときめきメモリアル~forever with you~
ときめきメモリアル2
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ここでは劇伴等で複数の音源が同時になる場合のサウンドデザインについての考察を記述する。『複数の音源のうち”どれが主役なのか”をしっかりと把握して”音量”や”周波数”、”定位”、”鳴らす/鳴らさない”等の音演出を定義せよ』である。
決していい加減に音バランス調整をするべからず。 また、アンビエントの概念も持っておくべきである。その場所で聞こえる音の響きはどんな感じかを把握して意識的にデザインする必要がある。
BGMの中には、実際にそのシーンで鳴っていて聞こえてくる音(ここでは正月の神社や動物園内等で流されているアンビエント音楽)とリアルでは聞こえることのない演出用BGMの作り方(アンビエントや音量)は意識して明確にを作り分けるべきである。
また、人物の登場シーンでキャラテーマが再生演出されるが、敢えてジングル的な長さでフェードアウトさせている。主役はキャラの音声であると明確に理解した上で、最大限キャラ音声が活かせる音デザインを行う必要がある。また、同じ音声でも電話越しの音と直接口から発せられて耳に届く音声の音質は異なる。
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ここでは、楽曲の制作目的について意識すべきことを記述する。『クライアント ファーストであれ。依頼者の声を深く傾聴し、”要求を満たす内容”になる事を第一に考えて制作すべし。』という考察である。
まずは第一に制作依頼者の声を聞き、その要求と目的をはっきりと認識したうえで、依頼者の意図に沿った形のものに仕上げて納品する必要がある。第二として、依頼者の先にエンドユーザー(リスナー)がいるわけであるから、その期待に応えられる品質にすべく心掛けるべきである。依頼者の要求を満たすことができなければ、商品化されてエンドユーザーの耳に音楽が届く機会も失われるわけである。商用音楽を制作する際は、”誰が金を出しているか?”を強く意識すべきである。
『鼓動を止められなくて』では、小比類巻氏をフィーチャーしたシングルCD企画でエンドユーザーの関心を高めるためにテーマソング提供者を利用する意図のもと、タイトル曲を引き立てるためのカップリング曲として敢えてメローな曲となっている。(※左項画像をクリックで新タブ開示され試聴できます)
『ゼルダの伝説メドレー』では、オムニバス アルバムのため他のクリエイター作品群の中で作家個性が求められていため、メタルユーキ節全開のベタなメタルアレンジに仕上げている。(※試聴は左項画像をクリック)
『藤崎詩織』と『陽ノ下光』でのキャラクターソング化した楽曲と原曲との比較。(※各タイトルクリックで新しいタブが開示され試聴できます)
【キャラソング版】藤崎詩織/金月真美『夕凪だより』 【原曲】藤崎詩織キャラクターテーマ『思い出の数だけ』
【キャラソング版】陽ノ光/野田順子『笑顔の決心』 【原曲】陽ノ下光キャラクターテーマ『真夏にダイブ』
キャラクターBGMなどイメージが固まってしまっているモノを歌唱曲にする際には、『むやみに変な手を入れずに”キャラクターのイメージ”や”原曲の演出意図”をしっかり把握して違和感無く素直に仕上げよ~その方がキャラファンの想いに寄り添える』である。
上の2つのキャラクターの曲とそれをキャラクターソングにしたモノを聴取比較すると、藤崎キャラBGMに馴染んでいる者が『夕凪だより』の歌を聞いてイントロ冒頭で『?』とならなかっただろうか。一方陽ノ下キャラBGMに馴染んだ者は『笑顔の決心』という歌で『おぉ!』となったのではないだろうか。
夕凪だよりは、私が関与せずに勝手に出来上がっていたものなので深く言及しないが、笑顔の決心ではその反省を踏まえ、編曲者の岩崎氏-レコーディングディレクターの斉藤(一美)氏とガッチリタッグを組んで制作に臨んだ結果、原曲のイメージを崩壊させることなく仕上げることに成功し、一定の評価を得られたものと考えている。
※まぁ、夕凪に関してはゲーム中の登場テーマの雰囲気に近づける気が毛頭無かったかもしれないが。。。
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ときめきメモリアル バッドエンディング曲集 - ニコニコ動画 (nicovideo.jp)
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ここではアルバムやゲームなど1つのコンテンツの中に相当数の曲を実装する場合の心得⇒『捨て曲を作るな』である。
左はときめきメモリアルシリーズの所謂”バッド(ビター)エンド”ソングメドレーである。((※左項タイトルをクリックすると新しいタブが開示され試聴できます)
このシーンはできればプレイヤーは巡り合いたくないシーンのため、クリエイターとしても極力手間を掛けたくない心情は分からなくもないが、実は偶然出してしまった際にプレイヤーが挫折するか?/もう一度やり直そうと思うか?を決定する重要なシーンなのである。 ここでの演出次第でプレイヤーがゲームプレイを投げ出さずに”ネタ”にできるくらいならしめたもの。なので、ここで再生される楽曲については真剣に拵えるべきである。 ミュージッククリエイターは、自分の作品の中に所謂”捨て曲”なんてものを作ってはならない。
後になって身に染みることになることなのかもしれないが、このネット社会に於いては捨て曲拵えて知らぬ存ぜぬを決め込んだとしても、後世ずっと晒されてしまうことになる可能性もあり、後悔の念に苛まれるのは避けたい。
クリエイターたる者、依頼された曲付り作業は常に精魂込めて作る姿勢を続けていく気持ちを持つようにしたい。
昔のゲームBGMは演奏データの格納容量が限定されており、大きく確保できない事情で短いループの曲が多かった。 そんなものであってもリスナーが飽きずに最後まで聞き続けさせるためのテクニックに”バックのリズムパターン、演奏パターンを1ループごとに変化させる”という1つのやりかたがある。
例1)『ジェミニウイング』3面の洞窟内シーンでは、BGM後半が延々と繰り返されるのだが、リズムパターンを変化させることで、曲を聞いた時に単純なループではない印象を与えている。(※視聴は左項タイトルをクリック)
例2)また、『サンダークロスⅡ』のエンディングでの後半部も同じメロディーが延々ループするが、演奏パターンやリズムパターンを1ループ毎に変化させることで、聴いていて単調さを感じる事の回避を図っている。(※視聴は左項タイトルをクリック)
筆者は、これらの方法を1971年発売の『対自核/ユーライアヒープ(Look At Yourself/ Uriah Heep)』後奏部からヒントを得て、アレンジテクニックとして活用するようになった。
余談だが、『スーパースターフォース』のエンディングは、曲のループ部分の回数でエンドロール時間に合わして画面と曲をきっちりシンクロさせて終わらす目論見であった。しかし、諸般の事情で映し出される予定であったスタッフテロップを流すことがで出来ずに、単純なBGMが延々ループするという間抜けな顛末となってしまった。 もし、映像を伴っていれば、この長さの視聴に耐えられていたのかもしれないが、何もない画面でこれだけの時間ループフレーズを繰り返し聴き続けさせられるのはどうしてもキツイ感覚を覚えざるを得ない。
(※試聴は左項それぞれの画像をクリック-その際新しいタブが開示される場合があります)
ここでは、生楽器のレコーディングではなく、打ち込みによるシーケンスの作成について記述する。 打ち込みで曲を入力する意図は、「①演奏できないようなフレーズでデジタルミュージックならではの特徴を狙う」「②既存の楽器演奏っぽく仕上げたいが、諸般の事情でレコーディング方式を取れない場合の対応」ということが考えられる。
この項では②の状況での楽曲制作について考察する。セガのHIRO氏も対談の中で述べていたが、例えばギターのフレーズを演出するのであればギター演奏についてしっかり理解してから臨むべし-出来ればそのフレーズを自分で演奏できることを確認してみるべきと考える。 もちろん、全ての楽器を手に取れるわけでもないし、演奏スキルを習得できるわけでもない事実がある。 しかし、『管弦楽法』などの書籍で主な楽器演奏の手法を理解することはできる。
1つ目の例として、『ときめきメモリアル2』季節のBGMをある程度の音量で注意深く試聴してみると、実際にギター1本で演奏可能なことを理解できるはずである。事実、このBGMの作曲時はTAB譜を作成していた。
また、実演奏では出来れば出したくないがどうしても出てしまうギター特有のフィンガーポジション移動時に入るノイズを敢えて入れている。レコーディングエンジニアによっては1つ1つこのノイズをトリミングする場合もあるほどのアノ「キュッ!」と入るノイズである。シーケンス打ち込みでは入るはずの無いコノ音を入れることで生演奏の本物感を醸し出すことを狙っている。
次に、ギター特有の奏法を理解しているのも重要となってくる。アルペジオで奏でることの出来る音配列の制限などが、理解できないとギターっぽいフレーズとはならない。 弦楽器の特徴的な奏法として季節のBGMでは、ハーモニックスを用いている。打ち込みでは手間のかかるこのような楽器のユニークな特徴音を入れることでギターのリアリティーを演出することが出来る。
FM音源のチップチューンでは、例えば『サンダークロスⅡ』の中のBGMに於いて、エレキギターで良く発生するハウリング音色をわざわざ作って再生している。生演奏では、敢えて鳴らす場合もあれば、不用意に出てしまうということもある。 打ち込みシーケンスの中で敢えて入れることで雰囲気醸し出しを狙った。 (※エレキギターの音色について、例えばピックングの際ピックと弦の擦れあう非常に大きなノイズを伴うが、このノイズをエレキギターの特徴と捉えるか否かはここでは言及しない)
(シンセ)キーボードパートは演奏上の特に制約はないが、シンセ特有の音鳴りというのもあり特徴付けに役立つ。『ジェミニウイング』の洞窟に突入するシーンでは、アナログシンセっぽいFeedBackの掛かった音色を超ロングトーン鳴らして雰囲気を演出した。
(※試聴は左項それぞれの画像をクリックーその際新しいタブが開示される場合があります)